45:騎士と女冒険者。
最近全然時間がありません。そして、小説を書く気力が前より低下しているため、全然進まないであります。
受付嬢さんからの説明を受け終わり、晴れて冒険者になった俺は、受付嬢さんに一礼して早速クエスト掲示板の方に向かった。クエスト掲示板にいた女性たちは、俺を見てクエスト掲示板から散って行った。俺的には周りに誰もいなくなったから良いのだが、俺に何かあるのだろうかと心配な気持ちになる。だけど嫌そうな顔をしていないのだから、大丈夫なのだろう。
「最初はどのクエストにするの? アユムくん」
「最初だから小手調べに簡単なものにしますが、サンダさんには関係のないことです」
クエスト掲示板に向かってもなお、俺にくっついてくるサンダさん。正直に言えば、ものすごく邪魔に感じる。美人で薄着で柔らかい身体だから、男としては嬉しいのだろうが、俺としてはフローラさまがいるから邪魔にしか感じない。これが、大人の男と言うものか。
「そんなことを言わないでね、せっかく出会った仲なんだから、仲良くしようよ」
「あなたと仲良くするためにここに来たわけではありませんから、結構です」
「そう言わずにさ、どうせなら私とクエストに行かない? 私、今さっきまで暇してたんだよね」
「いいえ、一人で行かないと意味がないので、結構です」
「今ならクエストでどんなことをしても文句を言わないよ?」
・・・・・・こいつ、さっきからしつこいな。俺が良いと言っているんだから、何度言われても誘いに乗るわけがないだろう。こいつ面倒くさいという顔をしていると、どうやらサンダさんにバレたようであった。
「今、面倒くさいって思っているよね?」
「分かっているなら、付きまとわないでくれますか?」
「・・・・・・君も大概失礼ね。だけど、ここで君を逃すわけにはいかないんだよね。この容姿と冒険者という危険な職業だから、私は後がないの」
何だかサンダさんの目がマジになりながら、俺の腕をつかんでくる。しかも力がそれなりに入っている。フローラさまの時は何もしなくても痛くはなかったが、この人は何もしてないと腕が潰れそうだ。さすがは冒険者と言うべきなのか。俺はとりあえず腕に力を入れて潰されないようにする。
「それはお気の毒ですけど、財があるなら他の男の人でも良いんじゃないのですか?」
「・・・・・・それがいれば、苦労するわけがないじゃない。こんなにがっついてもいないよ」
あっ、サンダさんの闇をつついてしまったらしく、サンダさんは何もない先を見て目を虚ろにしている。これは本当にやばい奴らしいな。この世界の女性には、この話題を言いたくないんだけど、相手がその話にせざるを得ない状況を作り出してくるから厄介なんだよ。
この世界の女性は、俺から見れば美人ばかりだが、この世界では醜女と認識されており、その醜女さんたちの方がたくさんいる。そして全人口の二割しか男がいないわけだ。その二割の男たちは、この世界で言うところの美女たちに掻っ攫われ、貰い手がない状態になっている。だから、こんなに必死なのだ。周りにいる人で、ニコレットさんが良い例だ。良くはないけど。
「ねぇ、お願い。少しだけでいいから付き合ってくれないかな? 少しでも私に希望を持たせて! このまま親に何か言われ続けるのはもう限界なの! だから、クエストの間だけでもいいから、男性のにおいを嗅がせて!」
最後の方は願いと言うか、性癖だったぞ。・・・・・・ここまで来たら、もう可哀そうにしか見えない。俺も前の世界で何も起こらなかったこうなっていたんだろなと思った。だから、断り切れない。別に邪魔をするわけじゃないなら良いか。
「・・・・・・分かりました、一緒にクエストに行きましょう」
「えっ、本当に⁉ ありがとう! 付き合ってくれるとは思わなかったぁ!」
サンダさんは感極まったのか俺に抱き着いてきた。即座に避けようとしたが、一瞬だけ油断して殺気がなかったためか分からないが、動きが早かったから避けることができなかった。そして、不覚にもサンダさんの身体の柔らかさを味わってしまった。
俺はすぐにサンダさんを引き離そうとするが、力が強くて中々離れてくれない。くそっ、どれだけ男に飢えていたんだよ。俺の隣にはすでにフローラさまがいるのだから、諦めてくれよ。
「離れてください。邪魔です」
「本当にそう思っている? 私の身体を堪能しているんじゃ――」
「分かりました。さっきの言葉は――」
「嘘です嘘です、冗談です! 今すぐに離れます!」
俺がさっきの言葉を人質にとると、サンダさんは離れてくれた。人を脅しているようだから、この言葉を使うのはこれっきりにしよう。後で根に持たれても困るのは俺で、こういう女性は丁重に扱わないと爆発してしまう。
「今日、クエストに行ってみて、お互いに相性が良いかを判断しましょう。サンダさんも自分とは合わない男性といるのも辛いでしょう」
「・・・・・・前まではそう思っていたけれど、二十八まで行ったら、そうは思わなくなったよ?」
あぁっ! どうしてこうも地雷に入ってしまうんだよ! この人は今までに見たことがないタイプの女性だな。ここまで必死な女性は初めて会ったぞ。獲物の男である俺が相手である以上、地雷を踏まずに行くとか無理な話だろう。
「そうはいきません。そのように焦って男性を捕まえようとすると、ろくでもない男性に捕まるかもしれませんよ?」
「捕まるだけ良いよ。捕まらずにいると、段々と腐っていき、見向きもされないものへと変わり果ててしまう。そんな人生の第一歩を踏み込もうとしているんだよ? それは必死になると思う」
・・・・・・ふぅ、今更だけど、一番やばそうな人に捕まった気がする。ここまで闇が深い人は、この場にいないだろう。いたらいたで、俺はここから今すぐにでも離れたい気持ちだ。だけど、ここで離れては何をされるか分からない恐ろしさを、この女性は持ち合わせている。適度に距離を離しておこう。
「それでもです。サンダさんのことを考えているんですから、サンダさんは自分の身をもっと案じてください。変な男に引っかかって、サンダさんの人生を台無しにしてサンダさんの親御さんを悲しませるより、サンダさんがやりたいように生きた方が良いと思いますよ」
俺は精一杯のフォローをする。これ以外に俺は何も考えられない。またサンダさんが闇の部分を見せつけてくれるのかと思ったが、今回はそうではなかった。サンダさんは俺の言葉に俺の顔を見て固まってしまった。もしかして、爆発したか?
「・・・・・・心配、してくれるんだ」
「心配ですか? それはそうですよ。赤の他人ですけど、悪いことをしている人を止めれる状況なら止めに行きますよ」
「何だか、本当にアユムくんって変わっているよね。この世界の住人じゃないみたい」
それは当たっていますよ。美醜逆転世界と俺の認識がマッチしていないから、こういうところで感づかれるのか。だけどサンダさんは冗談で言っているだけだから、バレていない。もう少し意識しないといけないな。
「ただ少しだけ心配しているだけですよ」
「それが心に響くんだよ。他の男とたくさん話したことがあるけれど、他の男は私の心配なんてすることはなく、私の顔を見ずに私の身体だけを見てくる。あろうことか私が拒否すると罵倒してくる始末。本当は誰でもいいわけではないけれど、あとがないと誰でも良いと思っちゃうんだよね。・・・・・・だけど、アユムくんは私の顔を見ても嫌な顔をしなかったよね。どうして?」
「相手の顔を見て、相手の印象を判断しないようにしているだけです」
「ふぅん、そんな人もいるんだ。・・・・・・でも、君の場合は私のことを好意の目で見ていた気がするけど、気のせい?」
くっ、女としてやばい人かと思ったら、結構鋭い人だな。さすが年の功なだけはある。俺としてはそこを無視しておいてほしいところだが、人を欺いたりする職業の人なんだろうから欺くには相手が悪すぎる。本業の人に勝てるわけがないだろう。俺の専門は戦闘だ。
「そうだとして、サンダさんに何か困ることがありますか?」
「全くないよ! むしろそっちの方が良いと思うくらい! そう思っているのなら、私と付き合ってみないかな?」
「お断りします。それよりもいつまでこの話を続けるつもりですか。早くクエストを決めてクエストに行きましょう」
「あっ、そうだったね。じゃあ早速クエストを決めようか」
俺はようやくクエスト掲示板に張られている紙をじっくりと見ることができた。この際、サンダさんとの距離が近くても何も言わないようにしよう。そして、早く決めて早くこの場から離れたい気分だ。この冒険者ギルドの中にいる女性全員から視線を集められているからだ。俺がここにいることがそんなにも珍しいことなのか。でも、そこまで凝視しなくても良いだろう。
「アユムくんはどんなクエストがしたいの?」
「そうですね。・・・・・・できれば討伐クエストが良いですけれど、Fランクが受けられる討伐クエストはないですね。最初なので採集クエストでも構いません」
俺の目に留まったのは、『薬草採集』と『聖なる水の回収』の二つのクエストであった。手っ取り早く終わらせるクエストであり、知識でしかなかったものに実際に触れてみたいからだ。
「それなら、私が付いていればランク以上のクエストを受けることができるよ」
「サンダさんがクエストを受けて、それをこなすというわけですか」
「そうだよ。でも、私が受けたとしてもクエストに同行したアユムくんにもクエストを達成したという点数は加算される。だから、私が受けても変わらないんだよ。もちろん、それだけでランクが上げるためのクエスト数をこなしたとしたら、他の人とは別の試験を受けてもらうようになるだけ」
「・・・・・・なるほど。サンダさんのランクはいくつなのですか?」
「ふっふっふっふっ、良く聞いてくれました。私のランクは、これです!」
テンション高く俺の前に出された冒険者カードを見ると、サンダさんの名前と、その横にランクがSと書かれていた。Sってことは、最高ランクの冒険者と言うことなのか? この人って、人格的にも戦闘面でもやばい人だったのか? いや、冒険者ランクがSランクがどれくらいすごいのかが分からないから適当だった。
「S、ランクですか。最高ランクですよね」
「そう、私はこれでもSランクの冒険者なんだよ。この世界に九人しかいないSランク冒険者の中の一人がこの私、『瞬消の暗殺者』ヴェラ・サンダ」
世界に九人しかいないとは、すごいな。それにサンダさんの動きは速いと思っていたから、Sランクだと言われると納得してしまう。Sランクの冒険者と初日から出会えるとは、幸運と言って良いのだろうか。
「どうどう? これで私と一緒に行動してくれる理由が増えた? どうせなら私と正式に付き合ってくれてもいいよ? 親への挨拶は早めに済ませておく?」
「何言っているんですか?」
いくらすごい人とは言え、こんなにもやばい人だったら幸運だとは言えない。中堅くらいのBランクだけど、普通の人でなら良かったけれど、こうなってしまった以上受け入れるしかない。サンダさんのSランクという地位を、有効に使わせてもらおう。
「Sランクということは、基本何でもクエストを受けられるのですよね?」
「そうだよ。クエストの条件が特になければ、受けることができる。何か受けたいクエストがあった?」
またしてもサンダさんに身体をすり寄せられても、何も文句を言わないようにした。何か言っても無駄なのだろう。だから俺はこのまま話を進める。俺の目に留まったクエストは、Bランクに指定されている『コブラズ討伐』という討伐クエストだ。俺は紙を手に取ってサンダさんに見せる。
「これなんかどうですか? 自分はBランクのクエストがどれくらいのものか図りたいです」
「コブラズか。・・・・・・うん、良いよ。このクエストにしようか。私がいれば危なくないだろうし、Bランクくらいならアユムくんも大丈夫そうだね。・・・・・・ところで、このコブラズがどういう魔物なのかは知っているの?」
「いいえ、知りません。蛇か何かの魔物なのだろうと認識しているのですが、どんな魔物なのですか?」
「知らずに手に取ったんだ。まぁ良いけど。このコブラズという魔物は、お察しの通り基本的にコブラが巨大化したような姿をしているんだけど、コブラズには分裂という特殊な能力が備わっているんだ。この分裂がとにかく厄介で、コブラズは本体を逃がすためや相手を囲むために分裂し続ける。本体を倒さない限り、永遠と分裂し続ける。だから分裂体じゃなくて分裂する前の本体を狙うのが一番討伐しやすい方法だね。暗殺者である私は、コブラズ相手じゃなくても一撃で倒しているけれど、冒険者ランクがBランクになりたての頃は、分裂されて逃げた覚えがあるなぁ」
「その分裂が厄介なのは分かりましたけど、そいつが急激に強くなるわけではないんですよね?」
「そうだよ、結局分裂し続けるだけだから。コブラズを相手にしたら、勘だけどアユムくんが危険だとは思わないな」
「自分も危ないとは思っていません」
「このクエストで、アユムくんの実力を見てみたいとも思う。・・・・・・私とアユムくんの相性もね? 忘れていないよね? 忘れていたら、ずっとアユムくんの背後に立っているつもりだったよ? これっきりはなしだからね?」
「忘れていませんよ。相性が良ければこちらからお願いしますよ」
この人が言っていることは、すべてがマジなのだろう。その声音には、焦りがにじみ出ていることは誰が聞いても分かることだ。前の世界では出会ったことがなかったが、婚活に失敗し続けている人の末路は、こうなるのか。
「じゃあ、私がこのクエストを受けるね。アユムくんも一緒に来てクエスト同行者として登録しないとクエスト達成に加算されないから、一緒に行こう」
「はい、分かりました」
俺とサンダさんは、さっき俺の冒険者登録をした受付に向かう。そしてそこには同じ受付嬢さんがそこにいた。受付嬢さんは営業スマイルをして、俺たちに対応した。
「どうなされました?」
「今日はこのクエストにアユムくんと一緒に行くことになったんだよ。だから、私が受けてアユムくんは同行者として登録しておいてくれる?」
「・・・・・・えっ⁉ 今登録したばかりのテンリュウジさんを、このBランククエストに同伴させるつもりですか? Sランク冒険者のサンダさんがいますから、大丈夫だとは思いますけれど、本当に大丈夫ですか?」
受付嬢さんは心配そうな顔をして俺の方を見てきた。その大丈夫は、もちろんクエストのことですよね? サンダさんのことではありませんよね?
「はい、大丈夫です。自分も承知の上ですから」
「そうですか、分かりました。本人がそう言っているのなら、私は何も文句を言いません。ですが、サンダさんがいるとは言え、決して油断せずに挑んでください」
「分かっています。油断なんてしませんよ」
受付嬢さんの許可をもらい、サンダさんがクエストを受けて俺がサンダさんに同行するという形を取ることができた。初めてのクエストに、少なからず俺はワクワクしている。フローラさまもおらず、フローラさまのためではない魔物退治。
「それじゃあ、指定されている『崩壊の大地』に行こうか」
「そうですね。それでは、これからよろしくお願いします」
「うん、こちらこそよろしく。あっ、ちゃんとポーションとは持っている? ないなら私が買ってあげるよ? 他にも装備とか小道具が必要なら、私が全部出してあげる」
「必要ないですし、貢ごうとしないでください。ひもを飼っている人みたいですよ」
これからクエストを一緒に行う相手なのに、大丈夫なのかと不安になりながら、アンジェ王国の西にある『崩壊の大地』に馬車ではなく走って向かった。
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