43:騎士と決定戦。
ふと思ったことがあります。もう、二十万時超えているのかと。そんなにした覚えはないなぁと思っています。
途中でルネさまとニコレットさんと別れ、二週間ぶりの学園の寮へとたどり着いた。荷物を置き、俺はラフォンさんの元へと向かおうとしたが、無表情であるが落ち込んでいるブリジットが気になったから話を聞こうと思った。だが、フローラさまに女同士にしか分からないことだから早く行きなさいと言われて部屋から追い出された。
そう言われたら仕方がないため、ラフォンさんがいる騎士育成場へと向かうことにした。寮から出る道中で、別れたばかりのルネさまとニコレットさんに出くわした。二人はフローラさまのお部屋に行くらしい。六人の中で、俺だけハブられてしまった。だけど、女性にしか分からないことがあるのだから仕方がない。こういう話は首を突っ込むものではない。
兎にも角にも、俺はラフォンさんがいるであろう騎士育成場へと向かう。学園はまだ始まっていない。始まるのは明後日になる。学園が始まることも大事だが、俺にとっても大事なイベントが半月後に迫っている。
『騎士王決定戦』
これが半月後に迫っている。この騎士王決定戦は、一年に一回行われ、神を祭るための五大武王の一角・騎士王を選任する戦いになる。この戦いで騎士王に選任され、祭りに参加できれば、地位と名誉が手に入れることができるため、参加者は多いらしい。
この決戦において成績を残しておかなければ、〝マジェスティ・ロードパラディン〟になるのが遅くなる。この騎士王決定戦が一番早く実力を示せる場所なのだ。だから、俺はこの戦いに向けてラフォンさんに色々と師事されておかないとならない。
負けるつもりは微塵もないが、油断する気も微塵もない。この騎士王決定戦には、様々な騎士が出場する。王国騎士だったり、冒険者の騎士、放浪の騎士など様々な騎士だ。騎士と言っても偏に守るものとして括られるものではない。だから、戦闘の場所の経験によって戦い方が全然違う。
今の俺は騎士の本分である守るものとして戦っているが、本来の俺は攻撃力と防御力がどちらも高い攻めるのが得意な騎士だった。一人で戦う騎士ならそうなるだろう。この騎士が集まる決定戦で、どれほどの騎士が参加するのか楽しみでもある。俺が足りないものを探すという目的も含まれている。この戦いで実力を示せて、実力を上げることができるのなら、一石二鳥だ。
そう考えながら、騎士育成場へとたどり着いた。まだ学園が始まっていないというのに、騎士育成場では特訓に励んでいる女性たちが多く見受けられる。この女性たちも騎士王決定戦に出るのだろうか? 騎士王決定戦の出場条件は、アンジェ王国で一定の地位を持っている人からの推薦か、指定するクエストを達成するだったか。俺は前者だ。後者でも腕試しでいいと思うが、時間がもったいないからという理由でラフォンさんに却下された。
邪魔にならないように女性たちが特訓している場所の端を歩く。しかし、俺が来たことでざわめき始めた。女性たちは特訓の手を止めて俺を見ながら内緒話をしているように見える。・・・・・・陰口か何かなのだろうか。俺が何をしたというんだ。学園が一時閉鎖するときには、そんなことはなかったはずなのに。
「あの、少し良いですか?」
「えっ? あぁ、構いませんよ。・・・・・・えっと、どなたですか?」
俺に話しかけてきたのは茶色のショートヘアの女性であった。確か襲撃者が侵入してきた時に、ラフォンさんに侵入してきたことを教えてくれた人で、アニエスさんだと言ったか。
「あっ、そう言えばまだ自己紹介がまだでしたね。私は騎士育成場三年目のアニエス・ギローです。以後お見知りおきを」
「アユム・テンリュウジです。よろしくお願いします。それで、何か御用なのでしょうか?」
「はい、そうです。少しお伺いしたいことがありまして、それをみんなを代表してお聞きしに来ました」
聞きたいこと? 俺に聞きたいことって何だ? 想像だにできない。俺がこそこそと話されていることに関係しているのだろう。
「聞きたいことですか? 何ですか?」
「実は、数日前に起きたニース王国からの侵攻の話です。フロリーヌさんから少しだけ聞いたり、噂で聞いたくらいなので、本当のことを張本人から聞きますね。ニース王国の軍勢を一人で相手にしたというのは本当ですか⁉」
・・・・・・あぁ、そういうことか。よくよく考えてみれば、あれは結構重大なことだと認識した。だから俺を見てそのことを内緒話でしていたのか。一人で片づけたとなれば、国中でその話がもちきりになるはず。俺じゃなくてもそうなる。しかし、これは俺の口から言っても良いのだろうか。自慢する話でもないし、そうなってラフォンさんに迷惑がかかるかもしれない。
そう考えて、答えをはぐらかそうとした時に、ラフォンさんが騎士育成場の建物から出てきて俺とギローさんの元へと歩いてきた。
「どうした、動きが止まっているぞ! 考える暇があるのなら身体を動かせ!」
ラフォンさんの叱責に特訓を止めていた女性たちは再び動き始めた。そして俺と一緒にいたギローさんは特訓に戻ることができずに俺の前でオロオロとしている。何だかかわいそうに見えるな。
「で? お前は何をしているんだ?」
「えっと・・・・・・、その、少しアユムさんとお話ししていただけです」
「それは特訓を止めてまでする必要のあることなのか?」
「い、いえ、ない、です」
「なら戻れ」
「はいッ!」
ラフォンさんにきつめの言葉を受けたギローさんは、脱兎のごとく女性たちが特訓している中に戻ろうとする。だが、ラフォンさんがそれを引き留めたのだ。戻れと言ったのに。
「それと、アニエス」
「は、はいっ」
ギローさんはラフォンさんに声をかけられて走り出そうとした体勢で硬直した。ていうか、どんだけラフォンさんのことが怖いんだよ。過剰に反応しすぎなような気がする。別に俺はラフォンさんが怖いとかそういう感想は持たない。修行に付き合ってくれる師匠という認識だな。
「お前たちが知りたがっていることは、近々国から知らされることになるだろう。だからその件を深く探ろうとはするな。それこそ時間の無駄だ。分かったな?」
「・・・・・・はい、分かりました」
注意? されたギローさんはそのまま特訓している女性たちの中に戻っていった。それにしても、ラフォンさんが言っていた、国から知らされることになるということが初耳なんだけど。俺は何も知らされていないぞ?
「すまない、私の生徒たちが」
「いえ、別に大丈夫ですよ。それよりも、ニース王国の件はどう処理されているのですか?」
「そのことだが・・・・・・、少し場所を変えよう」
ラフォンさんに連れられて、建物の裏手に入った。そんなに大事な話だったのだろうか。それは危なかった、もう少しでギローさんに言うところだった。
「でだ、ニース王国の件だが、まだ国中にアユムがニースの兵を退けたということを発表していないんだ。表向きでは、アンジェ王国が退けたと知らされているが、どこから漏れたか分からないが、アユムが一人で退けたという情報が出回り始めた」
「国は自分が一人で退けたということを隠したいのですか?」
「いや、そういうわけではない。アユムの手柄を潰すほど国は落ちぶれていない。正式にアユムに騎士の称号を与える準備をするために、この件を伏せておきたかったらしい。準備している間に、アユムが何者かに狙われる可能性はなくもない。今のアユムはシャロン家の騎士だからな。それを気に入らないと思っている人物、例えば、大公ミッシェル・ユルティスが今のうちにアユムのことを潰しに来るかもしれないというわけだ」
「・・・・・・娘もそうなら、親もそうなのですね。自分は大公ユルティスのことを何も知らないのですが、悪評が立っている人物なのですか?」
「あぁ、かなり立っている。おそらく私が把握している以上の悪評があるだろうが、私が知っている大公の悪評の一つ。実の兄である現国王の前妻を寝取った挙句に斬首刑に処したというのが一番有名な話だ。これは本当のことだが、口にするのは禁止されているから気を付けると良い」
うそだろ? 実の兄の妻を寝取って、斬首刑にした? ・・・・・・もしかして、国王も弟のことを恨んでいるんじゃないのか? そうであれば、俺の目的はしやすいはずだ。
「その時、国王は何もされなかったのですか?」
「何もされなかった。血のつながった家族であるから、少し大目に見ておられるのだろうが、最近ではその目に余る行動に頭を悩まされている」
「・・・・・・じゃあ、もしも、大公ユルティスの地位を落とす正当な理由があった場合、国王は止めに入られると思いますか?」
「それはないだろう。前妻の件でそれを大公ユルティスからお受けになられた。今度ばかりは何もされないのではないだろうか。・・・・・・もしかしなくても、やるつもりか?」
「寝首をかけれるときが来ればすぐにでも掻きに行くくらいの心持でいます。今はこの地位ですから何もできませんから」
「そうだな。私も大公ユルティスは嫌いだからな、それには大歓迎だ」
よし、国王が良い人そうだからためらっていたが、このことがあるのなら俺の目的を果たすことができそうな気がする。憂いは払った。残りは地位と、落とすためのネタを仕入れないといけない。冒険者ギルドにでも行って、情報を持っているものを探すのもいいかもしれない。
「アユムが一人でニース王国を退けた件だが、そういうわけでアユムのためにもアユムには黙っておいてもらう。発表するときには誰にもちょっかいを出されないような地位を用意されているだろう。先のステファニー殿下をお助けした件もあるから、相当高い地位を用意されると思っておいたらいい」
「はい、分かりました」
「あとはシャロン家関係者にも伝えておいてくれ。言いふらすような人柄ではないから心配ないとは思うが」
「はい、しっかりと伝えておきます」
「よし、じゃあこれで私の件は終わりだ。次はアユムの番だ。用があるからここに来たのだろう?」
建物の裏手から女性たちが特訓している場所に移動しながら、ラフォンさんが俺の用件を聞いてくる。そうだった、俺は学園に到着した報告と騎士王決定戦のことを聞きに来たんだった。それにしてもニース王国の件は、言われるまで忘れていた。ニース王国と言うよりかは、ヴォーブルゴワンのことで頭がいっぱいだった。あいつの駒とまた会うときは覚悟しておかないといけないだろう。俺の戦闘情報を分析してきてそうだし。
「そうです。半月後に行われる騎士王決定戦の件でここに来ました」
「あぁ、その件か。聞かれるとは思っていたが、学園に到着して早々に聞きに来るとは心の準備は大丈夫なようだな」
「もちろんです。ようやく自分の目的の第一歩を踏み出せる機会ですから」
「いや、アユムの場合は・・・・・・」
「どうしました?」
「・・・・・・いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」
ラフォンさんが少しだけ何かに気が付いた顔をしていたが、何もないと言ってきたので突っ込まないことにした。俺とラフォンさんは女性たちが特訓しているグラウンドが見える場所に立ち、ラフォンさんはその特訓を見ながら話を進めた。
「騎士王決定戦の詳細を知りたいと言ったところか。私からは様々な騎士が集結するとしか教えていないからな、詳細が知りたいだろう」
「その通りです。何も知らなくて負けましたは、通用しないので」
「アユムの実力なら心配いらないと思うが、騎士王決定戦の大体の説明をしておこう。騎士王決定戦の実行役に任命されているから、あまり詳しくは言えないが、大体の人が知っている及び、聞けば答えれることを説明する」
ラフォンさんは実行役なのか。俺はてっきりラフォンさんも出場しているのかと思った。ラフォンさんがそうなら、前に国王の付き添いできていたロード・パラディンであるグロヴレさんも出場していないような気がする。どうして二人は出場しないのだろうか。出場する前から騎士王である二人が出るのに何か問題でもあるのだろうか。
「騎士王決定戦には、人数が多いことで予選と本選の二つに分けられている。予選は八つの集団に分かれて集団の中で戦ってもらう。具体的な要件は言えないが、直接相手を倒すということではない。一番に目的を達成したものが勝ちとなる。そして、一つの集団で選ばれるのは二人だ」
人間が相手になるとは、結構そこで神経を使いそうだ。相手は敵ではない人間であるから、殺さないようにする方がよほど難しい。ラフォンさんくらいの実力者がいるのなら、そこで疲れる心配はないんだろうけれど。
「予選で選ばれた十六人の騎士たちで、勝ち残り式トーナメントを行ってもらう。これは至って単純で、観衆が見ているスタジアムの中で一対一で戦ってもらうようになる」
俺の思っていた決定戦は本選みたいな感じだな。予選が不透明というところが少し怖いな。分からないのだからどうしようもないから、考えても意味がない。
「そして、一番伝えないといけないことがある」
ラフォンさんはいつもよりも真剣な顔をして俺を見てくる。一番伝えないといけないこと? 何だろうか、俺が強すぎるから出場できないとかか⁉ それは、説明する前に言うだろう。説明してから言うとか、どんな期待の持たせ方だよ。
「騎士王決定戦には、殺しが制限されていない」
「殺しが、ですか? 国が行っている大会で禁止されていないのですか?」
「あぁ、そうだ。二代前の国王がお決めになったことらしい。二代前の国王は相手を殺さないようにするために自身の力を抑えつけてすべてを出し切れないなど、愚の骨頂。そして、殺されそうになった人間が真価を発揮するやもしれない。だ、そうだ。この規則に現国王が異を唱えたが、その意思は根強く残っているから、簡単には規則を変えることができていない。新たに、降参すれば殺しをしてはならないという規則を追加することしかできなかった」
・・・・・・殺しがダメではないのか。俺にとって良いことなのか悪いことなのか分からない。殺しが良いのなら、俺は手加減なしで優勝を狙いに行けるが、それをしてしまうと俺が人殺しのレッテルを張られてしまう恐れがある。
「厄介な規則がもう一つだけある。騎士王決定戦での結果に、誰も何も言うことは禁止するという規則だ。つまり、殺しをしても、恥ずべき敗北をしたとしても、話題にすることすら許されない。少しでも人殺しなど言うものがいれば、そのものは祭りを汚したものとして最悪斬首刑を言い渡される。この規則は殺しを正当化し、本気で戦えという意味が込められているらしい」
・・・・・・ううん、これは厄介な規則だろう。俺が手加減なしで大会を優勝しても良いと言っているようなものだ。ここまでの規則があるのなら、俺が手加減なしでも良いだろう。・・・・・・まぁ、規則で殺しが良いと言われても、殺しを積極的にしない。
「これを言うのを忘れていた、すまない。だが、アユムが殺すことがあっても、相手に殺されることはないだろう。だから言うのを忘れてしまったんだが」
「大丈夫ですよ、説明ありがとうございます」
「・・・・・・あぁ、これも言うのを忘れていた。くれぐれも他の騎士たちには気を付けることだ」
「はい? どういうことですか?」
「この騎士王決定戦、殺しが正当化されていることもおかしいが、他にもおかしいところがる。騎士決定戦以外で戦略で騎士を潰そうとしても、問題ないようになっている」
「・・・・・・えっ? 本当ですか?」
「あぁ、本当だ。例えば、家族を人質にとって本選出場をあきらめた者が過去にいる。この規則については現国王が取り消そうとしているが、他の重役たちがそれに反対して中々上手く行っていないらしい。だから、主にもしっかりと目をやっておけ。私が言えることは以上だ」
「ありがとう、ございます」
俺を狙いに来るのなら分かるが、フローラさまを狙いに来る可能性があるとは思わなかった。この騎士王決定戦に出場するのが危険だったかもしれないが、後戻りはできない。
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