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40:騎士と過去とこれから。

連日投稿にしたいです。この話で区切りがつきます。

 俺は過去のことを思い出して拳を強く握る。今でもあの時のことを考えただけで虫唾が走る。あの時のことを今でも忘れたことはない。あいつらが、あいつらが俺の居場所を奪いやがった。それだけは絶対に許されないことだ。


 怒りで次の言葉を出せず、血が出そうなくらいに拳を握っていると、フローラさまが俺のその拳を両手で包んでくれた。フローラさまの方を見ると、優しい顔をしてこちらを見られていた。そのお顔を見て、俺は拳の力を緩めて、気持ちを落ち着かせる。


「大丈夫よ。だから、ゆっくりでいいから話して?」

「・・・・・・はい、承知しました」


 過呼吸気味になっていた呼吸を整えて、話す準備をする。大切な人が今隣にいるのだから、何も怖くはない。それに俺は騎士なのだから、主に支えられてどうする。俺が支える立場だろうが。話し出す準備ができ、俺はフローラさまの方を向く。


「幼馴染たちは、何が気に入らなかったのか分かりませんが、自分の悪評を広め始めました。そのどれもが根も葉もない噂でしたが、幼馴染たちは人気でしたのでそれらを鵜呑みにして自分は敬遠されていきました。中には幼馴染たちの話を信じて、自分を集団で殴りかかってきた奴らもいました」

「何よ、それ。根も葉もない話なのよね?」

「はい、全く身に覚えのない話でした。噂の中には絶対にないであろう噂がありましたが、それすらも考えることを停止させた奴らは信じました」

「・・・・・・信じられない。仮にも幼馴染だったのよね?」

「世間一般的にはそう呼ぶそうですよ。自分はこの時からあいつらを幼馴染と思ったことはありませんけど」

「それで、その後はどうなったの?」


 フローラさまは食い入るようにその先を聞いてこられた。俺としてはこの先の方が喋りたくない。今でも申し訳なく思っているからな。


「・・・・・・自分の悪評が立っている中、自分の友達たちはその噂を信じず、変わらず接してくれていました。その時はどれほど嬉しかったか。・・・・・・しかし、その友達たちも自分に関わってしまったせいで自分と同じ目にあいました。友達の悪評が立ち始めました。それでも、最後まで自分の友達として接してくれて、感謝していますが申し訳ない気持ちが大きいです」

「えっ・・・・・・その友達はどうなったの?」

「・・・・・・友達は男一人と女二人の三人いました。男は夜道に集団に襲われ、二度と歩けない状態になりました。女の一人は家にいたところを複数の男に不法侵入されて襲われ、もう一人の女は逆上された男に腹を刺されました。友達を襲った奴らは全員逮捕されましたが、どいつも噂に惑わされて犯行に及んだ者たちでした。幼馴染たちが直接的に友達に何もしていなくても、間接的には幼馴染たちがやったのと同義でした。・・・・・・俺は、これほどに殺意を覚えたことがなかった」


 今の俺はおそらく目が血走っているだろう。それほどにあの時のことを思い出すと煮えくり返る。それと同時に転校していった彼たちが、俺に向けて大丈夫という主旨と俺のせいではないと電話してきてくれた。たぶん人生で一番泣いた時間がその時だ。俺の不甲斐なさが本当に嫌になった。


「それから、自分は友達を作らずに一人でいました。そこを狙って幼馴染たちが自分の元へと来ました。幼馴染たちは自分の今まであったことを知らなかったかのように接してきました。その態度にまた腹が煮えくり返りそうになりましたが、もうどうでも良くなりました。あいつらに何かしても、何かされるのだから、何をしても無駄なのだと」

「・・・・・・その幼馴染たちは、人間なの? 話を聞く限り、私には悪魔にしか聞こえないわ」

「悪魔、確かにそうかもしれません。そうじゃなければ彼女たちから見て幼馴染の自分を孤独にするようなことをするはずがありませんから」


 幼馴染たちがそこまでひどいことをしていなくとも、幼馴染たちが仕掛けたことは分かっている。どこから噂が出ているのか調べて、幼馴染たちからと聞いたときは、どうしようもなく心臓が締め付けられる気持ちだった。大切だと思っていた人間が犯人、そんな真相が現実だとは思ってもみなかった。


「たぶん、そこから自分が他人に興味がなくなり、何をしても無気力になっていきました。何も考えることができず、何もする気力が起きない。そんな状態に。正直生きているとは言えないような状態でした」


 俺の人格を形成したと言っても過言ではない幼馴染たち。幼馴染たちは俺の悪評を訂正して、俺の誤解を解いたとして人気が上がったが、俺には自分で種をまいて収穫しているようにしか見えなかった。


「幼馴染たちと何度離れようか、親に言おうとも思いましたが、親に言ってしまえば親たちの関係が傷つくと思い何も言い出せませんでした。ですから、幼馴染との関係は十八歳まで続きました」


 幼馴染たちに信頼を置いていた両親に言っても、俺の話を聞いてきっと問題を解決してくれただろう。だが、それよりも両親の関係が大事だと思ってしまった。両親たちが仲睦まじく話しているのを見たら、俺が我慢すればいい話かと思った。


「十五歳から入る高校という場所でも、自分と幼馴染たちは一緒の高校でした。それまでは幼馴染に言われることを何でも聞くような人形みたいな人間に成り下がっていました。あいつからは、何でもしてくれる幼馴染だと思われていたでしょうけど、まさにその通りでした。嫌だということが面倒くさくなるような人間になっていました」

「・・・・・・何も感じなかったの?」

「何も感じないほどに、その時は感覚が麻痺していました。ですが、高校を上がって少しした頃に自分にとって嬉しい出来事が起きました。ある一人の男が四人の幼馴染の前に現れました。その男は、幼馴染たちに惚れたのかどうかは分かりませんが、積極的に幼馴染に絡んでいきました。その甲斐あって、幼馴染たちは俺に構う頻度が低くなり、時間をその男と会うことに費やしました」


 男が現れて幼馴染たちにちょっかいかけてきた時は、本当に助かったと思った。ようやくあいつらから解放されると思った時には、一人カラオケでのどがかれるほどに叫んだほどに嬉しかった。あの時に俺の心が少しだけ人間としての心を取り戻したと言っても良い。好きだと錯覚していた幼馴染の一人の三木もあの男のものになったが、やっぱり錯覚だったと今は言える。


「これでようやく幼馴染から解放されたと思いました。思いましたが、幼馴染を口説き落とした男は癖のある男で、幼馴染たちとは他の女にも手を出すような男でした。そのおかげで、幼馴染が自分に愚痴を言ってくることが増えてきました。・・・・・・解放されたと思いきや、解放されていないので、自分はストレスがたまり始めました。しかも、今までよりも負の感情をこちらに向けてくるので、辛さがひどくなっていきました」

「その幼馴染たちは、アユムのことを何と思っているのかしら? アユムも立派な人間なのに、自分たちの道具と思っているのかしら。聞いているこちらが腹が立つわ!」


 俺のために怒ってくれるフローラさまに感謝しながら、俺は続きを話し始める。


「そんな辛い状況でも、自分はどうにか耐えてきました。ですが、ある時を境に自分は幼馴染たちに強く言うようになりました」

「我慢ならなかったの?」

「我慢ならなかったのもありますが、一番の理由は幼馴染に近づいてきた男から言われた言葉で吹っ切れました。確か男にはこう言われました。『いつまでも幼馴染という立場に甘えて、あいつらに近寄ってくるんじゃねぇよ。お前じゃあ釣り合わない女たちなんだよ』でした。それを言われた時に、自分は甘えていて、自分から近寄っていたんだと、自分は離れていいんだと不覚にも思いました。幼馴染の彼氏である男から言われたのだから、自分は遠慮なく幼馴染たちにきつく言い始めました」


 失うものがなかったからきつく言ったということもある。きつく言ってからは幼馴染たちは俺に何も言ってこなくなってきた。たまに俺のことを気にして話しかけてきたが、すべて無視して過ごした。友達とかは作るのが億劫になっていたから友達を作らずにボッチになっていた。


「その後、幼馴染たちと男とは何もなく、自分は幼馴染に気づかれずに次の進学先を決めました。何度も進学先を聞かれましたが、親にも口止めして知られないようにして、ようやく幼馴染たちと離れることができました。市内の大学で、家から通っていました。時間帯をずらすなどして会わないようにしました。大学に入ってからも、自分は無関心でした。そして大学二年生の時に、この異世界に来ました」


 この時でも、俺は何も興味がない大学生だった。サークルにも部活にも入らず、ただ授業を聞いて単位を取る必要最低限のことだけを行っていた。女性関係は興味がなかったと言うか、縁がなかった。たぶん俺のモテ期は幼馴染と出会ったことで尽きている。何という理不尽なのだろうか。


「異世界に来てから、〝終末の跡地〟で一年間戦闘に明け暮れ、二年前にフローラさまと出会いました」

「私と出会った時や、今の私をどう思っているの?」

「・・・・・・正直に言いますと、最初にフローラさまを見た時に一目惚れしてしまいました。幼馴染たちと出会ったおかげで自分の興味関心はなくしかけていましたが、フローラさまと出会ったことで、恋という感情が芽吹きました」


 俺の言葉を段々と理解したフローラさまは、顔を真っ赤にして俺から顔をそらした。こうなったら最後まで言うつもりだ。俺がどう思っているのか。


「今でもその気持ちは変わりません。・・・・・・ですが、自分は先ほど言った通りに興味関心がないような何もない男です。フローラさまのことを思ってこそ、自分はフローラさまとは不釣り合いであると言えます。だから、フローラさまとは付き合えません」

「・・・・・・何よ、そんなことだったの?」


 ニコレットさんと同様に、フローラさまもどうでも良いことを聞いたような反応であった。そこまでその反応をされると、本当にばかばかしくなってくる。


「そんなことなら気にしなくていいじゃない。私が良いと言っているのだから、あなたは私の夫になればいいのよ。あなたが私のことを愛しているのだから、これ以上の理由が必要なの? あなたが人格者で私と対等の地位を持てば良いと言うの? それこそアホらしい。アユムは私が惚れて、私が必要だと思った男なのだから、あなたは私の問いかけに〝はい〟と答えていれば良いのよ。分かった?」

「えっと・・・・・・、その・・・・・・」


 俺はフローラさまから並べられる言葉にすぐに答えられなかった。つまり、俺の理由は私が気にしないのだから早く私の夫になれってことだよな。頭が追い付かない。ここで〝はい〟と言ってしまえば、俺は一生この世界で生きなければならない。でも、それはダメだ。最初から決めていることの一つ、この世界の人間ではないのだから元の世界に帰る。そしてこの世界に甘んじて美人な女性に手を出さない。


 これを守ると決めた。だけど、これも言っても普通にフローラさまに反論されそうだ。ここで答えるわけにもいかない。どうするんだ? どうしたら正解なんだ? ・・・・・・やばい、頭がまたふわふわとし始めた。もう、今日じゃなくても良いよな?


「あの、この件はまた次の機会でよろしいでしょうか?」

「何を迷うことがあるのかしら? 私とあなたが両想いなのだから、結婚しても良いじゃない」

「いえ、そうなのですけど、い、色々と段取りというものがあると思います」

「じゃあその段取りを教えなさい。あなたが言う段取りを踏めば良いのよね?」


 あぁ、この状況はまずい。逃げられそうにない。俺の過去と俺のくだらない告白を断った理由を知ってなお迫ってきているのだから、どうしようもなくないか? ・・・・・・いや、このまま難しいことを考えなかったら、フローラさまとハッピーエンドだぞ? 良くないか?


「私は、あなたと会わなかった日やあなたが手の届かないところにいることで、気づいたの。私はもうあなたなしでは生きてられない。あなたが私の人生に必要なの。もう、あなたは私にとって手足どころでは収まらない。私を生かしてくれる心臓や血みたいなもの。だから、私の元で生きなさい」


 人生で初めてプロポーズされているぞ。これはどうしたらいいんだ。どうしようもなくないか? 頭が回らなくなってくる。・・・・・・あぁ、フローラさまルートに入りそうだけど、ここは引いてはダメだ。しっかりと言わないと。


「フローラさま。フローラさまの告白は嬉しく思います。ですが、もう少し自分に時間を与えてもらえないでしょうか? フローラさまの告白を受けるための心の準備が、まだできてはおりません。必ずフローラさまの告白をお受けいたしますので、しばしお時間を・・・・・・」


 これが俺にできる最後の抵抗か。ここまで来てしまえば、フローラさまの告白を受けるしかないだろう。俺がフローラさまの心を奪ってしまったのだから。ちょっとやばい奴のセリフを言ってしまったけど。だけど、俺の心はまだフローラさまと結ばれることを許していない、抵抗している。だからもう少しだけ考えて、フローラさまの告白を受ける。それまでにフローラさまに他の男性ができればそれでよし。それでも待ってくださるのなら、俺はフローラさまに自分のすべてを捧げる。


「・・・・・・まぁ、良いわ。気長に待ってあげる。でも、今日はこれだけでは収まらないわ」


 フローラさまは俺をベットに押し倒してきた! そして俺のお腹にまたがり、フローラさまは俺の服を脱がし始めたのだ! 一体何だ⁉ どうしてこんな状態になっているんだ⁉


「ふ、フローラさま⁉ 一体何をされておられるのですか⁉」

「何って、何をするつもりよ。アユムにきっぱりと断られていれば、私はここまでするつもりはなかったのだけど、保留されたのだからここまではして良いわよね?」

「えぇっ⁉ で、ですが、その、今じゃないとダメなのでしょうか?」

「えぇ、今じゃないとダメよ。これだけ待たされたのだから、もう襲っても良いわよね?」


 顔を紅潮させて息を荒くしておられるフローラさまはご自身の服も脱ぎ始め、その大きな胸が露わになる。あっ、このままだと本当に食われそうだ。貴族であるフローラさまのためにも、ここは俺がどうにかしなければ。


「言っておくけれど、逃げようものなら、あなたのことを全裸で追いかけるわよ。私の尊厳を保ちたくないのなら、逃げても構わないわ」

「・・・・・・いえ、そんなことは考えてもいません」

「それなら良いわ。これ以上待たされることがあってはならないから」




 俺とフローラさまは、こうして一夜を共に過ごしてしまった。どうしようもないくらいに気持ち良かったし、好きな人に童貞を奪ってもらえたのだから、良かったのだろう。だけど、これはより逃げられなくなったのではないだろうか。


 でも、この世界で俺は変わり、俺は人間らしく生きていると言えるだろう。美醜逆転の世界で、ここでは少しイケメンの俺に有利に働いているとは言え、こうして好きな人と結ばれることも悪くないと思えた。だけど、それで良いのか今でも悩んでいる。相手がこんな俺で良いと言ったけれど、俺は良くは思わない。


 しっかりと過去の俺と向き合い、清算しなければならない。・・・・・・それは、この世界に来ている三木や稲田たちにも言えることだ。あいつらと向き合い、俺の中でけじめをつけなければ、俺は前に進めない。決してどんな結果になっても、俺には進むしか道は残されていないのだから。

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

評価・感想はいつでも待ってます。よければお願いします。

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[気になる点] この主人公の心理がよくわからない。 友達が、リンチされてレイプされて腹刺された後に泣きながら電話したんでしょ? なのに何で高校まで一緒にいんの? 確かに幼馴染に対する情も、親達の関…
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