04:騎士の誓い。
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俺はフローラさまの件で、この屋敷の主人であるランベールさまの部屋の前に立ち、ノックをする。
「誰だ?」
「テンリュウジです。少しお時間をよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わない。入ってくれ」
ランベールさまの許可が下り、俺は部屋へと入る。そこは書斎と言うべき場所で、両脇に本棚が設置されており、ランベールさまが机に向かって何か書き物をしているご様子であった。
「遠慮せずそこに座り給え。お茶の準備もいらないから」
「はい。では座らせていただきます」
ランベールさまの机の正面に設置されているソファーに座る。ランベールさまは僕が座っても、構わずに何かを書いている。俺は気にせずに、単刀直入に本題に入らせてもらう。
「フローラさまのことでお話があり、ここに来ました」
「ほぉ、フローラのことか。てっきり私のことで来たのかと思った」
「・・・・・・そちらの方が分からないのですが、ランベールさまのこととはどういうことですか?」
「それは、私の夜のお供に――」
「もう言わないで大丈夫です。それはないので安心してください」
「つれないな。さぁ、真面目に要件を聞こうか。アユムくんが言いたいことは、フローラの学園の件だろう?」
どうやら俺の言いたいことが分かっていたようで、ランベールさまは書き物を終わらせてペンを置いて俺の方を向いた。ランベールさまもフローラさまの件で思うところがあるのだろう。
「はい、そうです。自分はフローラさまに今の状況のまま、学園に行かれるのはよろしくないと思い、ご相談したくて来ました」
「確かにそれは心配していたことだ。フローラは繊細で、人の言葉に敏感に反応してしまう。そのせいで、今のようなきつい性格になってしまった」
「フローラさまが学園に行くことは仕方がないとしても、フローラさまをいつでも守れる人材を置いておくべきだと思います」
「それがアユムくん自身だと?」
「そうは言っていません。ただ、自分が一番恐れていることが、フローラさまが家族のことを思って一人で抱え込むことです。付き人であるスアレムだけだと、心配でなりません」
「そうだが・・・・・・。ふむ、そう言えば、アユムくんがこの屋敷に来てからもう二年になるな」
「え? あ、はい。そうです」
突然ランベールさまの話が変わり、俺は少し戸惑ってしまった。どうして今の状況でその話が出るんだ?
「この世界に来てから、三年になるんだったな?」
「はい、魔物との戦いに明け暮れていた日々は一年間でした。・・・・・・ですが、何故今この話をするのですか?」
俺はランベールさまに俺が異世界人だということを知らせている。何故かと言えば、この世界のことを知らなかったからだ。この世界は美醜逆転世界であり、この家の人たちは美形なのに不細工と言われているが、何も知らない俺からしてみれば、美形な人たちが揃っているなとドキドキしていた。
ランベールさまにその心を見抜かれて、どういう事情かを説明する羽目になった。最初のうちはランベールさまに説明しても理解してもらえなかったが、俺がフローラさまが美しいと言動で伝えたため、信用せざるをえなかったようであった。
「いや、なに。フローラやランディ、ルネにエスエル、そして私もだけど、君と出会ってから変わることができた。醜いものとしか見てこられなかった私たちを、普通に見てくれた君がいたから私たちは今も元気で暮らしているんだ。君には感謝してもしきれないよ」
「・・・・・・やめてください、恥ずかしんで。自分は、自分が正しいと思ったことをしているだけです。感謝するのなら、自分をここに飛ばした誰かにおっしゃってください」
「そうだな、神さまか何かに感謝することにするよ。・・・でだ、君が思っている通り、ぜひともフローラの学園行きについて行ってほしいと思っているところだ」
ランベールさまも考えていたのか。・・・長女であるルネさまは、そのほんわかとした性格と自ら大丈夫だと申告してきたから付き人を一人連れて学園に行った。長期休暇に帰ってくる時は元気そうにしているが、無理をして頑張っている気がする。それをランベールさまも感じて、俺と同じ考えをしていたのかもしれない。
「だが、アユムくんが学園に行くということは、ここを最短三年間も離れることを意味している。そこで出てくる問題は二つ。一つはランディの使用人枠が空くこと。そしてもう一つは、ここら一帯に生息している魔物を抑える者がいなくなるという点の二つだ」
ランディさまは仕方がないとしても、俺がここを離れることは魔物の活性化を意味している。ここら一帯には魔物が多数生息している。だから先のオーク襲撃事件も珍しくない、よく起こる話だ。俺が魔物を駆逐して回っているし、俺の≪聖騎士≫スキルで魔物が近寄れないようになっている。
だけど、俺がいなくなれば、その均衡が崩れることになり、俺が来る前まで費用がかさんでいた冒険者の雇用料金をまた払わなければならない。それに冒険者だけではカバーしきれない事態が起こる。俺が出会った時の盗賊がいい例だ。
「そこは心配しなくても大丈夫です。自分のスキル≪死者の軍勢≫を使えば、ここを守ってくれる騎士たちを出すことができます。それならば、冒険者を雇う必要がなくなると思います」
「・・・死者の軍勢? なんだ、そのスキルは?」
「自分が命を刈り取った相手を、自分の軍勢に取り入れるスキルです。死者は自分の命令に背きませんし、会話するために一定の人格は存在しています。ただ、自分の魔力で稼働するので、一か月に一回はこちらに赴かないとなりませんが、そこは問題ないでしょう」
「そんなスキルまで持っているのか。さすが≪騎士王≫、持っているスキルの格が違う。称号だけの≪騎士王≫にもかかわらず、スキルを開花させるとは。私は≪話し上手≫などの戦闘に仕えないスキルしか持っていない」
「それらのスキルも重要なスキルです。自分は戦うことにしか使えないスキルだけしか持っていません。あなたのような戦わなくて良いスキルを誰かが持っていないと世界は破滅してしまいますから」
「そう言ってくれると嬉しいな」
俺は本当に戦闘に役立つスキルしか持っていない。それは俺が異世界に来た時の状況でそうなってしまったのだろう。今考えたら背筋が凍る事態だが、戦闘初心者の者がSランクの魔物がうじゃうじゃするところで放置されていたんだぞ? そんな状況で戦闘で役立つスキル以外何がいるんだよ。
「二つ目の問題は達成したとして、一つ目の問題はどうする気だ? 素直に聞いてくれるとは思っていないが?」
「ランディさまに姉であるフローラさまのためと言えば、納得してくれると思っているのですが、どうでしょうか?」
「ランディはまだ十歳の子供で、今まで悪環境にいたこともあるからアユムくんにとことん甘えている。理解できても納得はできないじゃないのか?」
「・・・・・・確かに、そうですね。ですが、こればかりは納得してもらわないといけません」
「じゃあ、ランディを説得してくると良い。そうすればこれを送ることができる」
ランベールさまが〝これ〟と俺に見せてきた物は、ランス学園宛になっている封筒であった。
「学園には原則一人の護衛が認められている。だけど申請すれば最大二人に増やすこともできるんだ。これには護衛を二人に増やす趣旨を書いておいた。ランディが納得すれば、すぐにでも送ることができる」
「・・・何ですか、結局ランベールさまもその気でいたのですね」
「それはそうだよ。可愛い娘が死にそうなくらいに不安がっているのなら、それを解消させるのは親の役目だよ。でも、学園に行けばフローラにしてやれることはない。してやれることは、フローラのそばに私が絶対的に信用している人物を置いてやることだけだ」
「・・・・・・だから、やめてください、恥ずかしいです」
「はははっ! もう少し褒め慣れている方が良いぞ。これくらいで恥ずかしいと言っているのでは、学園に行った時に悶え死ぬかもしれない」
「は? それは一体・・・?」
「さぁ、これを送れる締め切りまで時間がない。早くランディを説得してくるんだ」
ランベールさまに誤魔化されて急かされて俺はランベールさまの部屋を後にした。そして、難関であるランディさまの元へと向かう。この時間帯では、ランディさまはご自身の部屋にいるはずだ。俺はランディさまの部屋へと向かった。
ランディさまの部屋の前にたどり着き、ノックをして返事を待つ。
「はい?」
「テンリュウジです。少し――」
俺が要件を言い終える前に、すぐに扉は開け放たれランディさまが俺に飛びついてきた。ランディさまは可愛らしい髪飾りをしておりワンピースを着ていた。どこからどう見ても、その姿は女の子のそれである。でも男だけど。
「いらっしゃいアユム! 一緒に遊ぼう?」
「・・・申し訳ございません、ランディさま。今回は大事な話があり、こちらに伺わせていただきました」
ランディさまは上機嫌な声音で俺に言ってくるが、俺が真面目な顔でそう言うと、ランディさまは何かを悟って部屋の中へと入っていき、ベッドに腰かけた。そしてランディさまはご自身の隣をぽんぽんと叩いてこちらに来るように示してきた。俺は大人しくそれに従い、ベッドに腰かけた。
「・・・用事は何?」
「単刀直入に言わせていただきます。一月後に学園に向かわれるフローラさまの付き人になりたく、ランディさまの許可を頂戴しに来ました」
俺の言葉に、ランディさまはすぐに俯いた。しばらくして顔を上げたと思うと、ランディさまは涙を浮かべてこちらを睨めつけていた。
「いやっ! アユムは僕の騎士でしょう⁉ それなのに姉さまのために僕から離れるなんておかしな話じゃん! 僕の騎士なら、僕のそばにいてよ!」
あぁ、ランベールさまの予想通りにランディさまは納得してくれなかった。それも癇癪を起すほどに反対してきている。この状況で、俺は説得することができるのか? いな、説得しなければならない。
「ランディさま、自分はこの家の人たちが大切です。ランディさま、エスエルさま、ランベールさま、フローラさま、ルネさま、もちろんスアレムなどの使用人たちもです。ですので、危険な目に合うかもしれないフローラさまを見捨てておけないのです」
「・・・・・・分かっているよ。ルネ姉さまを見ていて、学園がどれほど過酷なものかなんて理解することができる」
・・・驚いた。まさかランディさまがルネさまのことに気が付いていたとは思わなかった。だけどそれならなおさら俺をフローラさまについて行くことに賛成してくれてもいいはずだ。
「それなら、自分が行くことを――」
「だけどっ! 理解していても納得することなんて到底できるわけがない! もしかしたら、ずっとフローラ姉さまの騎士になって、僕の元へと戻ってこないかもしれないと考えると、アユムを姉さまにあげることなんてできないよ・・・!」
ランディさまはそんなことを考えていたのか。だから俺を学園に行かしたくないわけだ。でも、ランディさまが思っていることはあり得ない。
「そんなことはありません、ランディさま。自分は絶対にランディさまの元へと戻ってきます。命にかけても、その言葉を違えません」
「・・・・・・本当に? フローラ姉さまの元へと本当に行かない?」
「はい、本当です。絶対にランディさまの元へと戻ります。ですので、フローラさまについて行くことをお許しください」
「それなら、絶対に戻ってくるという証明をして? 言葉だけなら何とでもできるよ?」
ランディさまは、俺の方を向いて、目を閉じて顎を上に向けて俺に顔を近づけてきた。・・・これは、もしかしなくてもあれだよな。〝キス〟だよな。ランディさまは俺にキスをしろと言うのか? いや、でも男同士だからやるのには抵抗が・・・。でも、容姿だけで判断するのなら、女の子だ。だからキスしても男同士でしたと言えないんじゃないのか?
「・・・もしかして、証明できないの?」
「や、そういうわけではないです。今証明しますよ」
ランディさまに急かされて、俺はランディさまの両肩をつかんだ。ランディさまは身体をびくりとさせたが、覚悟を決めたのか顔をより近づかせてきた。・・・ふぅ、男の娘は例外だろう。容姿は女の子なのだから、男同士でのキスではない。それに、これは騎士としての誓いの証だ。やましいものではない。
「ッ」
「んっ」
俺とランディさまの唇は重なった。唇の柔らかさと心地よい感触に驚き、これは癖になりそうな快感だと変な性癖を解放させられるところであった。癖になるのが危ないから、数秒したところで唇をはなす。
「これが自分の証明です。フローラさまについて行って構いませんか?」
「・・・・・・うんっ、良いよ。その証明を確かに受け取ったよ」
唇を離したランディさまは、自身の唇を触りながら紅潮されている。・・・そんな乙女みたいな顔をされたら、もう一回したくなるけど、それは、ダメだろ!
「では、ランベールさまにご報告してまいります」
「うん、行ってらっし~い」
ベッドから立ち上がり、ランディさまの部屋から出ようとした。するとランディさまに後ろから声をかけられた。
「アユムっ」
「はい?」
「・・・・・・また、しようね?」
妖艶な笑みを浮かべているランディさまに、心臓を握られているかと思うくらいにドキドキとさせられた。その妖艶な笑みは、フローラさまと似ているものがある。さすが血のつながった姉弟。・・・・・・男の娘でもありかな。
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