39:騎士とその後。
全然間に合いませんでした。どうしても連日投稿とこだわっている自分を大目に見てください。
俺とニース王国の戦争がは、呆気ないものであった。俺が≪魔力武装≫をして戦っていたが、あの研究者が言うようにテラペウテースほどの手ごたえはなく、まだ≪剛力無双≫と≪神速無双≫を使っていた方が消耗を抑えることができただろう。
それほどに、ニース王国の兵士たちを簡単に殺しきることができた。殺しきると言っても、四分の三くらいを殺した辺りでニース王国の兵士たちは撤退していった。俺はそれを追わずに見逃し、俺に敵意を向けているものだけを最優先で殺した。あまりの拍子抜けした戦いに、終わったと感じることができなかった。まだ敵が潜んでいるのかもしれないと思い、周りに≪完全把握≫を張り巡らせるが、大量の死体があるだけで、生きている者の反応はなかった。
ニース王国の兵士たちとの戦争が終結して、≪魔力武装≫を解いたところでラフォンさん率いるアンジェ王国からの援軍が来た。俺が無傷であることとニース王国の兵士たちの死体の山を見て、ラフォンさん含めた援軍が驚いていた。だから俺は大丈夫だと言ったのに。本当に死ぬ気だと思っていたのだろうか。
俺は≪魔力武装≫を解いたことで少しの疲労を感じて、ニース王国の兵士たちの処理をアンジェ王国の兵士たちに任せてシャロン家に戻った。シャロン家に戻ると、シャロン家の人たちは全員避難せずにシャロン家にいた。俺が戦場にいるのだから、自分たちが逃げるわけがない、そうだ。
そして、フローラさまやランディさま、ルネさまの三人に抱き着かれた。お三方は俺に抱き着いて涙を流されていた。俺が死ぬつもりだと思っておられたそうだ。全員が俺の実力をちゃんと分かっていないだろう。俺が戦いで死ぬときは、世界を相手にした時だ。今回の国一つの件で認識を改めさせられた。国一つでこれくらいなら、世界でも戦えそうだ。
お三方に泣いて抱き着かれていたが、ランベールさまが俺の疲労を見抜いてくれて、休ませてくれることになった。≪魔力武装≫を使っている時は、すべての能力が底上げされているから疲労なんて感じないし身体は軽く感じる。だけど、解けば話は変わってくる。いつもとは違う、何倍にも凝縮された疲労が襲ってくる。だからあまり使いたくはなかった。この感じはあまり慣れない。一ヶ月使い続けた後に解くと、数秒だけ全身に力が入らなくなった。
俺はランベールさまのお言葉に甘え、自身の寝室に入る。その際に未だに涙を浮かべているフローラさまが付いてこられた。ランディさまとルネさまもついて来ようとしていたが、キッテさんとニコレットさんに止められていた。なぜフローラさまが付いてこられるのかは分からない。
「フローラさま? どうして一緒に入ってこられたのですか?」
「・・・・・・別にいいじゃない。あなたは私の部屋に入るのに、私があなたの部屋に入るのは許されないの?」
「いえ、許されないわけではありません。ですが、少々疲れているので寝させていただけるとありがたいです」
「私に構わず寝たら良いでしょう? 何か問題があるの?」
「・・・・・・ありません。ご自由にどうぞ」
フローラさまは何としても俺の部屋にい続ける気でいるようであるから、フローラさまが部屋にいることを気にしないことにした。気にしないなんてできないけれど、フローラさまが言うのだから仕方がない。しかも久しぶりに≪魔力武装≫を使ったから寝たいという気持ちが強い。頻繁にあくびをしてしまうくらいにだ。
「・・・・・・あの、フローラさま? こちらをじっと見られていては、着替えられないのですが」
「私の下着姿を見ているのだから、アユムの着替えている姿を見てもお相子でしょう?」
「そ、そうですか。では、遠慮なく着替えさせていただきます」
「えぇ、そうしなさい。早く着替えて」
俺が着替えようとしているが、フローラさまがこちらをガン見してきたため異を唱えたものの、異は却下されて俺は寝やすい服に着替え始める。その間にも、目を見開いて少し顔を赤くしたフローラさまはこちらをずっと見ておられた。俺は素早く着替え、少しでも恥ずかしい気持ちを抑える。
今まで俺に見られていたフローラさまはこんな気持ちでいたのかと思ったが、良く考えればすべてフローラさま自身が俺に見せてきたものであるから、今の俺とは違う状況である。好きな人に見られていると思えば思うほどに恥ずかしさは増してくる。
着替えを終えた俺は、とりあえずベットに腰を掛ける。その隣にはすごく近くに座ってきたフローラさまがおられる。俺とフローラさまの間に、少しの沈黙が流れる。フローラさまが俺の元に来た件は、俺のすべてについてだろう。だけど、俺はその話を後回しにして、寝たいというのが実情だ。前者の方が大事なのだろうが、今のような頭がふわふわとした状態で話しでもしたら、またフローラさまに変なことを言うかもしれない。
「フローラさま。自分は少しの間だけ仮眠を取りたいのですが、よろしいですか?」
「・・・・・・今は、ダメ。もう少しだけアユムの声を聞かせていて」
フローラさまは俺の方に寄りかかり、俺の腕に顔をうずめられた。俺はどうしてフローラさまがこんな乙女っぽい態度を出すのか分からなかった。・・・・・・俺が戦場に行ってたからという理由しか思いつかない。頭が考えることを拒否している。
「私ね、正直アユムが無事に帰ってくるとは思わなかったの」
「それは、どうしてですか? 自分は大丈夫だと言ったはずですが」
俺は頭がふわふわとしている状態でフローラさまの言葉に反射で答える。気を抜いていると意識が飛びそうなくらいに疲れている。戦いのスイッチが入っていないからこんなことになっている。〝終末の跡地〟にいた頃なら考えられない状態だ。
「・・・・・・私が、アユムのことを信じ切れていなかったんだと思う。アユムの実力は分かっていたはずなのに、それでも国一つが相手なら、って覚悟していた」
「まぁ、国一つが相手ですので、無傷で帰ってくるなんて誰も思いませんからね」
「ううん、私はアユムのことを信じないといけなかった、主として。なのに、信じられなかったのは、私の心の弱さが原因だと思うの。アユムのことを分かっていれば、心配していなくて済んだのに、心のどこかでアユムを失くしてしまうという感情があふれ出した。きっと大丈夫と自分に言い聞かせても、アユムを失うことしか思い浮かばなかった。・・・・・・私が、どれだけアユムに依存しておきながら、どれだけアユムのことを信じていなかったのかが分かって、情けなく思うわ」
・・・・・・誰でもそういう感情はあると思うが、フローラさまはそれが許せないらしい。本当に真面目と言うか融通が利かないというべきか。そんなことを気にしなくても良いと思うが、フローラさまが気にするのならその心を癒すのは騎士の役目だ。
「では、これから自分のことを信じてください。今まで信じれなかったことを嘆いても仕方がありません。自分がどれほどの死地に、どれほどの困難に立ち向かうとしても、それをフローラさまは胸を張っていつもの顔で見送ってください。心配そうな顔をされてお見送りされると、こちらまで不安になってきます。自分の騎士はこれほどに立派なのだと、見送られる方が誇りを持って戦場へと向かえますから」
これは本当だ。フローラさまに〝行ってきなさい〟と言われて戦場へと向かう方がいつもより何倍も力が発揮できる。心配な顔をさせる騎士にも問題があるから、フローラさまだけに押し付ける問題ではない。俺がフローラさまを安心させるほどの力を身につけなければ、フローラさまを安心させることができない。
「・・・・・・私に、できるかしら? あの場であなたを不安にさせないように振舞うことが」
「できるかどうかは、フローラさま次第です。しかし、フローラさまを安心していただくために、自分ももっと強くなりますから。フローラさまが胸を張れるような騎士に」
「一国の兵を相手に無傷で生き残るあなたが、これ以上強くなったら大変じゃない。世界を滅ぼすつもり?」
「フローラさまを守るためなら、世界だって滅ぼしてやりますよ」
頭がふわふわとしているから、思ったことを口に出してしまった。ものすごく、くさいセリフを言ってしまった。それを聞いたフローラさまは顔を赤くされている。こんなにくさいセリフを吐いてしまったら、こちらまで恥ずかしくなってくる。
「嬉しいことを言ってくれるわね。いつになく素直じゃない」
「そうですね、自分でも素直だなと思っています」
「何よそれ? ・・・・・・ねぇ、アユム。疲れているところ悪いのだけど、今アユムのことを教えてくれないかしら? もう待てないの」
いつになったら寝かせてくれるのだと思ったが、フローラさまの本命はこれだろうな。話している時に襲撃があったから、気になって仕方がないのだろう。俺の話は大したことではないから、フローラさまに話してしまって、早く楽になろう。
「はい、分かりました。・・・・・・どこから話せばいいでしょうか」
「最初から話して。あなたがどこで生まれて、今日まで生きてきたすべてを」
生まれてからすべてか。大したことではないからと思ったが、それはフローラさまが決めることか。俺のことを話す際に、俺の腐れ縁の話を出さないといけないが、嫌だけど話すか。本当に嫌だ。あいつらとの記憶が多いという点も嫌だからな。
「自分は、二十四年前にこの世界とは別の世界で生まれました。両親はごく普通の人で、自分の家庭は普通の家庭だったと思います」
「ご両親はどんな人だったの?」
「どんな? ・・・・・・そうですね、母は少し適当な人ですけど気が強い人で、父は賭けごと癖があって少しダメな人でした」
「そうなの。ご両親ことは好きだった? 私はもちろんお父さまとお母さまは好きよ」
「家族だから少し嫌なところは見えていましたけど、好きです」
「それなら良かった。話を続けて」
話を続けろと言われても、俺の人生を語る上で俺の人格を形成したと言っても良いあいつらのことを話さないといけない。さっきから思っていたが、それがひどく憂鬱でならない。
「・・・・・・自分の両親には、仲の良かった三組の夫婦がいました。その仲の良さと言ったら、家を建てる時にそれぞれの家の生活音が丸聞こえになるくらいに四つの家を隣接させるくらいに仲が良かったのです。両親が好きだったとしても、この家に何度腹を立てたことか」
「そ、そう。でもどうしてその話をしているの?」
「その三組の夫婦と自分の両親は本当に仲が良く、両親含めた四組の夫婦は何も示し合わせていないのに出産日が一緒でした。自分には、幼い頃から何をするにも一緒だった同い年の女の子が三人と、四組の夫婦の中の一組の夫婦の間に一つ下の女の子の、計四人の幼馴染がいました」
「・・・・・・女の子の、幼馴染? 何をするにも一緒だった、幼馴染? へぇ? そんな幼馴染がいたの」
フローラさまから脇腹をつねられている。どうして幼馴染の話が出た途端、声音を低くして怖い顔でこちらを見てくるんだ。あいつらとは何ともないのだから怒ることではないのに。
「フローラさま、手を離してくださるとありがたいです」
「今はそんなことを言っている場合ではないでしょう。早く続きを離しなさい」
「つねられていると話を纏められないのですが・・・・・・」
「それでもいいから話しなさい。そうじゃないと今にも頭がどうにかなりそうだわ」
「・・・・・・承知しました」
フローラさまに手を離してもらうことをあきらめた。この状態で話すことにした。痛くはないが、どうしてつねられているのか分からないからそちらに思考を回してしまう。
「えっと、どこまで話しましたか?」
「四人の幼馴染がいたところまでよッ!」
「ッて! あ、あの、フローラさま。脇腹が痛いです」
「それは何よりよ。そうじゃないとやっている意味がないわ」
フローラさまの攻撃で、初めて痛みを感じた。おそらく力が弱くても痛みを感じさせる場所なのだろうが、さすがに勘弁してほしいから話し始める。
「えっと・・・・・・、四人の幼馴染がいたというところですね。自分たちが生まれる前に隣接した家を建てた仲の良い親たちですから、おのずと子供たちの交流も生まれた時から始まっていました。自分は物心ついた頃から幼馴染と一緒に遊ぶことは不思議ではないと思っていました。それが自然だとも思っていました」
「・・・・・・ふぅん、アユムはその幼馴染たちが大切なの?」
「大切かどうかで言えば、大切だったと言った方が良いでしょうか。最初は自分の半身とまではいきませんが、無くてはならない存在だと思っていました。幼い心ながら、ずっと一緒にいられる、そう思っていました」
そう、俺は幼馴染たちのことを大切に思っていた。過去形だ。死ぬまで一緒だと思っていた。でも、そんなものはただの幻想で、親から植え付けられた思考でもある。このことに対して親に何かを思うつもりはないし、その環境で自分が考え付いただけだ。
「でも、現実はそうではありません。各々の道があり、一緒にいるのは親たちが特殊なだけで、絶対に一緒にいることなんてあるわけがない。・・・・・・それを十三の時に感じました」
その時の俺は中二病と言うものを患っていた。何も言うまい。だけど、患ったおかげで俺は幼馴染との距離を測ることができたと言っても良い。中二病も悪くはない。黒歴史になっているのだから、良いものでもないけど。
「そう感じた自分は、べったりとくっ付いていた四人の幼馴染たちと距離を置くことにしました。今まで自分で決めたことはなく、幼馴染たちには友達がいるのに自分には友達もいないようなどうしようもないクズガキに成り下がっていた自分と決別するためにも、幼馴染たちと離れる必要がありました」
「・・・・・・それで?」
「そんな自分に対して、幼馴染たちは心配したりより一層構ったりしていましたが、それを振り切って自分で行動していきました」
本当にあの時は振り切るのが大変だった。朝起きると前野姉がいたり、学校でずっと一緒にいる佐伯、そして所かまわず抱き着いてくる三木など、四人いるのだから振り切るのは至難の業であった。しかもそれを見た他の男子生徒が俺に嫉妬してくるとか、マジで俺の青春を奪って行ったと感じていた。客観的に見て美人の幼馴染が四人いる時点でどこの主人公状態だが、その時の俺は変わってほしいとどれだけ思ったか。
「今までに友達がいなかった自分でしたが、幼馴染と距離を置いたおかげで、友達ができるようになりました。今まで幼馴染が決断してくれていましたから、最初は優柔不断だった自分ですが、何とか人並みには克服することができました。これで自分が思ったことをできると思っていました」
「思ったこと? それは何?」
「・・・・・・その、言うのは恥ずかしいのですが、恋愛をしてみたいと思っていました」
「恋愛・・・・・・、幼馴染が好きではなかったの?」
「好きとは言っていませんよ。大切だったと言っただけです。物心がつく前から一緒にいましたから、恋愛感情がなかったと思います。幼馴染の中の一人には、そういう感情が少しながらあったと思いましたが、今ではそんな感情はないと思いたいです」
あの時を振り返ることはもうしない。幼馴染の思い出を振り返ることをしたくないのだから。フローラさまの前で感情的になりたくないのだが、抑えきれないかもしれない。
「幼馴染たちと距離を置いて学校生活を送っていた時、唐突にあることが起きました」
俺はそれを話すために一呼吸置く。眠気など冷めた思考で、ゆっくりと口を開く。
「幼馴染たちが、自分を学校から距離を置かれるように仕向けてきました。それも、自分の友達と一緒に乏しめるようにして」
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