36:騎士と女性の巨人。
連日投稿三十六日目とさせてください! 少しだけ書くモチベーションが低くなっているので、書き進めないのですが、連日投稿は続けてみます。
女性の巨人のうちの一体が俺を踏みつぶそうと俺に足を上げてきた。その際に、布を一枚纏っているだけだから巨人の恥部がちらりと見えてしまうことは、許してほしい。それに相手は魔物だ。どれだけ美人な顔をしていても、魔物なのだから倒すしかないだろう。
そう考えて、女性の巨人が俺を踏みつけようとしている足にクラウ・ソラスで対抗する。クラウ・ソラスを当ててしまうのだから、足が切れてしまうと思った。だが、巨人の足は少しだけ切り傷ができているだけで済んでいる。どれだけ硬いんだよ。
「あら、この感じは足が切れているわね。私に傷をつけるなんて、何百年ぶりかしら。それなりに良い男じゃない」
女の巨人は足の力を強めて俺を押しつぶそうとしてくる。こんなに力が強いのは久しぶりだ。踏ん張っている地面に足が埋もれ始めた。俺はこれ以上押しつぶされないように、より踏ん張って女の巨人の足を押し返す。≪剛力無双≫を常時発動していないと、ここら辺が血の海になっていたぞ。
「良い男に加えて、強い男ね。私の足を押し返す力があるなんて。それにその剣も並大抵の人間が作った剣ではないわね。良い男には良い剣が備わっているわけね」
俺は女の巨人の足の裏を斬る覚悟で、剣を振り切って女の巨人の足を押し返す。押し返すことはできたが、切り傷程度にしか斬れていない。巨人は滅多に人前に出てこない種族で有名であるが、その身体は神から与えられた屈強な肉体だと聞いたことがある。屈強な肉体が想像しにくかったが、これを見たら屈強だと言わずして何だと言えるのだろうかと思えるくらいに屈強な肉体であった。
「姉さんばかりでつまらないわ。アタイにもやらせてよ」
「うちにもやらせて! こんな状況だし、面白くなきゃ意味がないし!」
「・・・・・・わたくしは、早く家に帰りたいですわ」
外見が一緒で声も似ているから見分けにくい。ただ、一人称は違うようであった。違いが分かったところで何か能力で違うところがあるのかは分からない。戦闘力も全員が一緒だ。
「待ちなさい、この男は私がやるの。私が、この男を見定める」
女の巨人の一人がそう言うと、残りの三人は黙って一歩引きさがった。こいつらの目的は俺の排除じゃないのか? それなのに、見定めるというのはどういうことだ? 俺を殺すために見定めるのか? それにしては殺意の欠片もない。俺を舐めているのかどうかは分からないが、俺はこんなところで立ち止まってはいられない。
「そこをどけッ!」
俺は≪剛力無双≫の限界の四割を引き出した状態で目の前にいる女の巨人の足に向けて斬りかかる。しかし、女の巨人が土魔法を使い、俺と女の巨人の間に土壁を挟んで俺の進行を妨害する。だが、その程度では俺の進行を防ぐことはできず、俺はその土壁を切り裂いた。
「あら、この強度でも斬れるのね。随分と威勢がいいじゃない」
「俺はそんなお遊びに付き合っている暇はない。早くそこを通せ」
「必死なのは分かるけど、そうはいかないわ。私たちにも事情があって、その事情のためにあなたを見定めなければならないの」
事情? さっきからこいつらがしようとしていることが分からない。俺を殺す気がないのは分かっているだけで、他は何もわかっていない。だが、そんな関係のない魔物の事情よりも、フローラさまの方が大切だ。一瞬だけ全開で行って、ここを押し通る。
「そんな事情は関係ない。俺にも事情があるからな、ここからは手加減できないぞ?」
すぐさま≪剛力無双≫や≪神速無双≫を限界ギリギリまでは身体が追いつかないから、少しずつギアを上げる必要がある。二つのスキルの出力を限界の五割と引き上げる。ここからは力を抑え込むことができず、ギアが次第に上がっていく危険な状態。十秒と持たずに限界まで上がってしまうから、一秒で片を付ける。
「ま、待って! 私たちは別にあなたの邪魔をしたいわけではないの! だから殺そうとしないで!」
「邪魔をしたいわけではないのなら、道を開けろ」
「それはできないわ」
「だからそれを邪魔をしていると言っているんだ。通るのなら倒すしかないだろう」
「そうじゃないからって、もう! わからずやの男ね、あなた!」
え、えぇっ? なんで俺は魔物に怒られているんだ? 邪魔をしてきているのだから敵対するのは当たり前だろう。こいつの方が意味が分からないことを言っていて、理解できないぞ。
「お姉さま、今はおしゃべりしていると感づかれてしまいます」
「ッ! そうね。今は感づかれてはまずいわ」
わたくし口調である女の巨人に言われて、さっきから俺に会話している私口調の女が俺に攻撃してきた。だが、その攻撃には殺意はなく、それほど速い攻撃ではなかった。俺は≪剛力無双≫と≪神速無双≫を限界の三割まで下げて避ける。こいつらは本当に俺と戦いに来たわけではないのか? それならなぜ俺を通してくれないんだ?
「お願いだから、少しの間でいいから私と組み手をしておいてほしいの。その間に私の事情を話すから」
「・・・・・・分かったが、時間はかけられない」
「ありがとう、じゃあ攻撃を始めるわ」
フローラさまの方に意識を向けると、フローラさまに危害を加えられていない。アンヴァルが敵と戦ってくれているらしい。本当に俺の周りにはできた生物しかいない。フローラさまを助けた後、俺たちを襲ってきた相手の尻尾を逃がしたとなれば、フローラさまに何か言われそうだ。
俺と女の巨人は、軽くだが派手に戦い始める。女の巨人は俺を踏みつぶそうと砂埃をひどく立てながら俺を攻撃してきているが、俺はそれを避けて女の巨人の足や腕に攻撃を仕掛ける。女の巨人に合わせるように、刃が通らない程度の力で攻撃をし続ける。これで良いのかと言わんばかりに、女の巨人の方を見ると、表情を変えずに口角を上げてきた。これで良いようだな。
「それで? 俺に何を話したいんだ?」
「今すぐ話すわ。私たちは普通の人間や魔族、魔物では見つけることができない秘境に暮らしていた巨人族。他の種族には害を与えずに静かに生きてきた種族なのだけど、二年前にある人間たちが私たちの秘境を見つけて襲撃してきたの」
俺は女の巨人と攻防を繰り広げながら、早口で言っているその言葉を頭の中に叩き込む。と言うか、この流れで行けば、その襲ってきた人間たちっていうのは、あの国の人間なのか?
「その人間たちはニース王国の人間で、私たちの肉体を求めて私たちの秘境の地に襲撃してきた」
やはりニース王国なのか。なら、この魔物の群れと言い、人造魔物はニース王国で間違いないのか? 最悪の事態だろう、これは。ニース王国がもうすでに進撃してきているのだから、ラフォンさんに報告しないといけない。そう言えば、ジェット・クロウは帰ってこないのか? これは関係ないが、私たちの肉体を求めてというところが、エロイ意味で聞こえるのは俺だけだろうか。
「ニース王国の人間は、私たちの故郷を全壊にさせて私たちを含めた数人の仲間を残して、それ以外をすべて殺していった。あいつらは私たちの強靭な肉体をものともしない攻撃力を持っている魔物を手下にして侵攻してきた。強靭な肉体は歯が立たなかったわ」
・・・・・・巨人族の屈強な身体を、ものともしない攻撃? さっき女性の巨人に攻撃したが、この身体をものともしない攻撃があるとは思えない。何か身体を弱体化するスキルがあったのか?
「そして、私たちはあいつらに捕らえられた。他の仲間たちは各地に人間や魔族を襲撃していたらしいが、私たちは牢屋に入れられ身動きも取れない状態で一年と少し経つ頃に、あいつらはこう私たちに命令してきたわ。『俺たちにとって目障りな人間がいる。そいつを殺して来れば、お前らを全員解放してやる』と」
「それが、俺だと?」
「えぇ、転移されるときにそう言われたわ。あなたがあいつらにとって邪魔な存在らしいわよ」
俺が? 思い当たる節はない。俺はフローラさまやランディさまをお守りしているだけの騎士兼執事なのだが。勇者・騎士として全く活動していないぞ。それなのに狙われるとは、ますます意味が分からない。もしかすると、アンジェ王国の脅威を見定めたのかもしれないが、それならラフォンさんを狙うだろう。
「それで? 俺にはどうしてほしいんだ?」
「あなたには、ニース王国を滅ぼしてほしいの。滅ぼさずとも、侵攻してくる兵を可能な限り殺してほしいと思っているわ」
人間の俺にそれを頼むかよ。でも、俺はあいつらを滅ぼそうと思っているのだから、言われるまでもなく滅ぼすつもりだ。それにしても、どうしてターゲットの俺なんだ?
「どうして俺なんだ? 俺の他に頼める人間がいなかったのか?」
「それもあるわ。でも、あなたを殺すことを指示していた人間の顔が、ひどく歪んでいた。その表情の歪みは、恐怖から来るものだわ。どれほど凶悪な人間だと思えば、普通にイケてる人間だったから、おそらくあいつらはあなたの戦闘能力に恐れている。それもこれほどの戦力を投入してきてまで。だから、あいつらを倒してくれることを願って、私たちはあなたに願いを託すわ」
なるほど、そういうことか。ニース王国の人間がどうやって俺のことを知ったのかは分からないが、俺の恐ろしさを知っているのなら、その恐ろしさを再認識させてやろう。
「それで、答えを聞かせてもらっても良いかしら?」
「答えるまでもない。あいつらを滅ぼすことなどすでに決めていたことだ。あなたたちに言われるまでもない。だからそこを通してくれ」
「そう、それなら私たちもできる限り手伝うわ。まずは私たちがここで砂埃を上げるから、派手に傷をつけて私たちを戦闘不能に見せかけてちょうだい。ニース王国に大打撃を与えてくれた暁には、私たち巨人族があなたの味方になるわ」
「それは良い。俺の味方になる用意でもしておけ」
「心強い言葉をありがとう。それじゃあ行くわよ!」
女の巨人は、周りの巨人たちと同時に俺の近くの地面に拳を打ち付けて砂埃を舞い上げた。その間に言われた通りに、血が大量に出るが、重症ではない程度に四体の女の巨人の身体を斬りつけていく。身体中に傷があった方がやられた印象があるだろう。
そして砂埃が晴れたころには、四体の女性の巨人は倒れ伏していた。もちろんこれは演技で、俺が適度に傷をつけた時に自分から倒れてくれた。これでこいつらへの配慮は十分だろう。次はフローラさまだが、こいつらと接している間に、良い感じで≪順応≫が発揮してくれた。俺が今一番必要とする≪騎士の誓い≫が≪順応≫してくれて、≪騎士の誓い≫が≪騎士王の誓い≫となった。
この≪騎士王の誓い≫は、ありとあらゆる束縛をも王の前では無意味となる効果が付与されている。フローラさまの気配を≪騎士王の誓い≫で感じると、今まさに俺に助けを求めているところであった。俺はすぐにフローラさまのところに飛ぶ準備をする。その際に、四体の女性の巨人に目をやると、四人ともが俺に縋りつくような視線を送ってきた。
大丈夫だ、俺は絶対にニース王国を潰すという強い視線を送り返し、フローラさまのそばに飛んだ。フローラさまのそばに飛んだ瞬間、俺は反射で動き始めた。フローラさまは、二人の男に服を破かれている状態で、アンヴァルは今にも一人の男に刃物を振り上げられている状態であった。
「なっ・・・・・・」
「ッ⁉」
まずそばにいた二人の男に向け、胴体を真っ二つにするつもりで振った。一人の男には逃げられたが、もう一人の男は胴体を斬って一つの身体が二つになった。二つになっている男の返り血を浴びないようにフローラさまを抱えて、そのままアンヴァルのそばに移動する。そして頭から股まで後ろから真っ二つにする。アンヴァルはかなり傷だらけになっており、フローラさまを守るために傷だらけになってくれたのだろう。
「・・・・・・あ、アユム?」
「はい、テンリュウジです。ご無事ですか、フローラさま?」
フローラさまは俺のことを見て呆然としながら、俺の名前を呼ばれた。しばらくすると俺が来たことが現実だと分かったフローラさまは俺に抱き着きながら泣きじゃくり始められた。俺はフローラさまを抱きしめて落ち着いてもらう。敵の男は、俺がここに来たことが相当信じられない様子で、動こうとしない。だからこの間に話させてもらう。
「申し訳ございません、フローラさま。こんな想定外の事態こそ、フローラさまをお一人にしておくべきではありませんでした。これは自分の落ち度です」
「・・・・・・ッ! そんなことは良いのよ! どうして、どうしてもっと早く来てくれなかったのよ! 私の騎士でしょう⁉ 騎士なら私が呼んだらすぐに来なさいよ!」
「返す言葉がございません。この状況になってしまったのは、自分が弱いことが原因です」
「・・・・・・私は、私は、アユムのそばに、ずっと居たかったから、修行を積んだのよ」
「はい、理解しています」
「それなのに・・・・・・、いざという時に、アユムのそばにいれないんじゃ、私がやってきたことは無駄だったじゃない・・・・・・ッ!」
「いいえ、無駄ではございません。今までやってきたことはフローラさまの糧となっております。ですから、これから自分の隣で一緒に戦えるように、頑張りましょう。絶対に自分の隣から離れないように」
「・・・・・・うんっ、頑張るから、早くこの状況をどうにかして」
「はい、承知しました」
フローラさまの背中をさすりながら、フローラさまを落ち着かせる。その傍らで隣にいるアンヴァルに触れて傷を≪自己犠牲≫で俺に移しながら≪超速再生≫で回復していく。そしてすべての傷を俺に移し終えてアンヴァルは全快したが、体力までは回復していないから立てずにいる。
「お前は安静にしていてくれ。ここは俺が片付ける」
俺の言葉に、アンヴァルの気持ちが俺に伝わってくる。〝悔しい〟や〝悲しい〟などの感情が。俺はアンヴァルを撫でてアンヴァルも慰める。二人を落ち着かせながら、俺は未だに動こうとしない男に目を向ける。男と目が合うと、男は後ずさっている。
「少し待っていてください。すぐに戻ります」
「・・・・・・いや」
俺が男の処理に向かおうとするが、フローラさまが俺の服を離してくれないから向かうことができない。ここからでも処理することができるが、話したいことがいくつかあるから、フローラさまには手を離してもらいたいところだ。
「フローラさま、自分と一緒に戦いたいのなら、自分が戦闘しているところをハッキリとその目に焼き付けておいてください。フローラさまが目指す場所がどこであるかを、自覚なさるために」
「・・・・・・ふぅ、すぐに戻ってきなさいよ」
「はい、承知しました」
フローラさまは俺の服から手を離してくれて、ようやく男の前に立つことができた。男は俺が前に出てくると、足を震わせている。こいつがさっきまでフローラさまを襲っていたやつだと考えると、弱い者いじめしかできないのだと思ってしまった。それを憐れむつもりはないし、こいつはここで殺すつもりだ。
「お前には聞きたいことが山ほどある。答えてくれるよな?」
「ひ、ひぃ、こ、殺さないでくれ!」
俺が睨みを利かせただけで、男は腰を抜かせてその場に尻もちをついた。こんな奴が暴力を使って弱いものを従わせていると思うと、腹が立つだけでは足りない。俺の顔はすでに憤怒の表情になっているだろう。この状況に久しぶりに切れている。
「殺すか殺さないかは俺次第。素直に質問に答えれば、良いようにやってやろう。質問に答えるのか? それともこのまま死ぬか?」
「し、しししし、質問に答える! だから殺さないでくれ!」
さっきからこいつは殺さないでくれ、ばかりだ。こいつは目の前で犯している相手に犯さないでくれと言われて、やめたことがあったのだろうか。こいつは俺と同じで根っから腐ってそうだから、自分の都合だけでやめもしなかっただろう。しかもその命乞いをあざ笑ってすらいただろう。勘であるがな。
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