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32:騎士とお姫さま。④

連日投稿三十二日目! 次は目指せ二ヶ月連日投稿!

 昨日はプレヴォーさんの徹夜の頑張りにより、ランディさまと俺のお洋服が完成した。少し着てみたが、バッチリの出来で、プレヴォーさんの腕をみんなで褒めまくった。すると恥ずかしくなったプレヴォーさんが気を失いそうになり、みんなで謝ったということを経て、今日が来た。


 今日はついにフローラさまと向き合う日。今日の結末がどうなろうとも、俺は受け入れるつもりだ。俺の心が弱いせいでこうなったのだから、俺は受け止める。だけどフローラさまは違う。フローラさまがどのように納得するのかで結末が変わってくるだろう。


 そんなことを考えながら、いつもより遅い時間に執事服を着てフローラさまのお部屋に向かう。場所を指定されていなかった上、フローラさまのメイドであるスアレムが来ていないためフローラさまのお部屋に向かうしかなかった。ランディさまのお世話はプレヴォーさんとキッテさんに任せているため、今日はランディさまのお部屋にはいかない。屋敷にいるのにランディさまのお部屋に行かないのは違和感を覚える。


 そしてついにフローラさまのお部屋の前にたどり着く。中にはフローラさまとスアレムがいることが気配で分かり、俺はノックをして声をかける。


「フローラさま、テンリュウジです」

「・・・・・・入りなさい」


 少しの間があった後に、入れと命じられお部屋の中に入る。そこには下着姿で着替えているフローラさまと着替えを手伝っているスアレムの姿があった。俺は着替えしている姿を視界に入れないように扉の方を向く。いつもならそんなことをしないのだが、フローラさまとの距離感を掴みかねているからこうしている。


「何をしているの? アユムも手伝いなさい」

「・・・・・・承知しました」


 フローラさまに着替えを手伝えと言われ、俺は振り返ってフローラさまの元へと向かう。どこかフローラさまの肌を見るのは久しぶりだと、変態的な思考でフローラさまの近くに立った。何に着替えているのかと思ったら、俺と特訓をするときに着ている灰色の胸当てと籠手、それに足の鎧が近くにあった。もしかして俺とどこかへと行くのは、特訓するためか?


「アユム、そっちの籠手を着けなさい」

「承知しました」


 鎧の下の服を着終えたフローラさまは、鎧を着る準備に取り掛かる。フローラさまに籠手を着けるように言われ、籠手を着け始める。スアレムは足の鎧をつけている。・・・・・・数年一緒にいたはずなのに、少し離れただけでこんなにも違和感があるものなのだろうか。こうしていることが不思議でならない。俺がもうフローラさまから心離れてしているのが原因なのだろう。嬉しくない変化だ。


「最後はブリジットがつけるから、アユムは待ってなさい」

「はい」


 籠手と足の鎧を装着し終えたフローラさまは、最後に胸当てをスアレムに後ろから装着してもらい、腰に細剣を装備したことで準備が整ったようだ。そうすると、フローラさまは俺の方を向いて言葉を放った。


「行くわよ、アユム。あなたのアンヴァルでね」

「承知しました」


 俺とフローラさま、スアレムは外出するための水分と必要なものを持って厩舎へと赴く。そこにはフランツさんが馬のお世話をしている姿が見えた。俺はフランツさんの方に走って向かい、挨拶をする。


「おはようございます、フランツさん」

「あ? アユムか。それに後ろにいるのはフローラ嬢とスアレム妹ちゃんか」

「はい。今日はフローラさまとアンヴァルで出かけることになっているので、アンヴァルを迎えに着ました」


 少し近くにいたアンヴァルは、俺の言葉が聞こえてすごくこちらを見てきている。一日に一回は様子を見に来ていたから、調子が良いのは分かっている。たぶん、アンヴァルに乗るということは少し遠くに行くのだろう。遠くでなければ走って向かう。


「おぉ、そうか。それは良い。見ての通りアンヴァルはすこぶる調子がいいからな。存分に走らせてやってくれ。・・・・・・それよりも」


 フランツさんは俺の近くに着て、後ろにいるフローラさまを気にしながら小声で話しかけてきた。


「フローラ嬢とはどうなっているんだ? アユムは本人だから分からないとは思うが、屋敷ではお前さんとフローラ嬢の関係で賑わっているぞ」

「あぁ、やっぱりそうなっているのですね」


 フローラさまの初日の変わりようや、俺がフローラさまと一緒に行動しないことでそんな噂が出てきているのだろう。間違いではないから何とも言えない。そして、噂に疎いフランツさんに言われてしまうと、もう終わっている。これは何としても今日で終わらせないといけない。


「で、どうなんだ?」

「大体そんな感じですよ。今から少し話し合ってくるだけです」

「ふぅん、そうかい。まぁ、若いんだから派手にやってこい。いくらでもやり直しはきくんだから、恐れずに行くことが正解だ。頑張ってこい」

「はい、頑張ります」


 背中を軽く叩かれて、フランツさんに少し勇気づけられた。そして俺は解き放たれたアンヴァルを連れてフローラさまの元へと戻った。フローラさまの顔はどうしてか少し怒りの表情が現れていた。


「フランツさんと何を話していたのかしら?」

「アンヴァルの調子について話していただけですよ。それがどうかしましたか?」

「・・・・・・いいえ、何でもないわ」


 少し離れただけで、フローラさまが何を思っているのか分からなくなった。・・・・・・それは元からか。分かっていたらフローラさまと仲がこじれるわけがないもんな。それにしても、フローラさまがイライラしている理由が分からない。最初からこんな感じで大丈夫なのだろうか。


「早く行くわよ」

「承知しました」


 俺はフローラさまをアンヴァルに上げる。ここで俺はスアレムがどうするのかが気になって、スアレムの方を向く。すると、フローラさまから叱責を受けた。


「アユム! 何をしているの! ブリジットの方を向くんじゃなくて、今は私の方を向いていなさい! 早く後ろに乗って行くわよ」

「はい、承知しました」


 頭の中ではてなをいくつも浮かべながら、フローラさまの言う通りにフローラさまの後ろに乗る。そしてフローラさまはアンヴァルを操作し始めた。そこでチラリとスアレムの方を見ると、強い意思のある目でこちらを見てきており、深々と頭を下げてきた。これはフローラさまをお願いしますという意思表示なのだろう。・・・・・・ハァ、軽く終わらせれると思ったが、そう簡単にはいかないか。


 俺とフローラさまは、アンヴァルに乗り、西へと向かった。西の方は、ニース王国がある方角であるからあまり行きたくはないのだが、フローラさまのご指名となれば行くしかならない。アンヴァルの軽い走りで西へと走った。




 俺とフローラさまの間に会話がないまま、しばらく西へと走っていると、高く大きい山が見えてきて、そのふもとに木々が生い茂っている森が見えた。よく見ると周りには長い川が流れており、まさにファンタジー要素が詰まっている場所であった。


「どこがフローラさまの目的地なのですか?」

「・・・・・・あの高い山が見えるでしょう? あの頂上にある七色秘草が今回目的のものよ」


 七色秘草? 聞いたことがない草だ。それに目的のものがあったのか。俺はてっきりフローラさまの気分転換がてらに俺との関係をどうにかするつもりなのかと思っていた。どちらにしても、俺とフローラさまは二人なのだから、誰も助けてくれない。自分から行かなければならない。


「その七色秘草は、どんなものですか?」

「その名の通り、七色に輝くどんな病気でも治す秘薬を作るための草よ」

「なるほど、そういうものなのですね。どうしてその七色秘草を取りに行くのですか?」

「・・・・・・べ、別に、秘草はあっても、良いじゃない」


 俺の何気ない質問に、フローラさまは歯切れが悪く答えた。理由を聞いただけでそうなるとは思わなかった。その質問がフローラさまにとって隠す意味があるものだろうか。


「では、とりあえずあの山の麓まで行きましょう。そこからは徒歩で行きましょう。山道は徒歩の方が安全ですから」

「えぇ、分かっているわ。早く行かないと日が暮れるわよ」


 フローラさまの言う通り、ここまで来るのに少し時間がかかった。帰り道に迷うことはなく、俺の力で明るくできるから何ら問題はないが、少し強い魔物が出てくるから夜に出歩くことはない。それも俺がいるから平気なのだが、遅れるとシャロン家の方々がフローラさまのことを心配するから遅くなる前に帰らないければならない。


 アンヴァルで山の麓まで到着したため、俺はアンヴァルから降り、そしてフローラさまが降りるのを俺が手を差し出して手伝う。フローラさまは素直に俺の手を取り、アンヴァルから降りられた。山の麓であるが非常に自然が豊かで、これが空気が澄んでいると言うのだろうと思いながら、周りの感知は忘れない。


「言わなくても分かっているとは思うけれど、ここからは歩きで行くわよ。何でかは言わなくても分かっているわね?」

「・・・・・・はい」


 フローラさまも覚悟を決めてきたのだろう。頂上まで歩く中で俺と話し合うのだろう。面と向かって言うのは話しにくいものがある。何かしながらの方がやりやすいし、別のきっかけを作りやすいのだろう。俺とフローラさま、そしてアンヴァルは頂上に向けて山道を歩き始めた。


 異世界の色々な場所を見てきた俺であるが、こんなにも自然が溢れているところには初めて来た。鳥の声や水の音、草木が揺れる音にそこら中でカサカサとしている草むら。草むらは何か出てきそうで怖いが、元の世界では自然が溢れている場所に行ったことがなかった。元の世界にもこんなところがあるのだろうが、陰キャの俺には厳しすぎた。


「ねぇ、アユム」

「はい?」


 しばらく歩き続けて自然を堪能していると、フローラさまの方から声をかけてこられた。声をかけられたことにより、自身の目的を思い出して気を引き締める。フローラさまより先に先手を打つべきであった。何も考えていない。


「先日の件で、話したいことがあるの」

「・・・・・・はい、自分もです」


 フローラさまはこちらを見ずに話しかけてきた。それに対して、俺もフローラさまの方を見ずに、自然の方に視線を送って心を落ち着かせるようにする。


「一つだけ、確認しておきたいことがあるわ」

「はい、何でしょうか?」

「すぅ・・・・・・ふぅ。アユムが私のことを愛しているということに、嘘偽りはないかしら?」


 深呼吸を深く一度した後に、フローラさまは俺の方を見ずに真に迫ったことを聞いてきた。だが、その質問に対する答えは一つしかない。俺は間髪入れずにその質問に答えた。


「はい、ありません。自分はフローラさまのことを愛しています」

「・・・・・・そう、それは良かったわ。言わなくても分かっているとは思うけれど、私もアユムのことを愛しているわ」

「はい、存じております。非常に嬉しく思います」

「嬉しく思うのなら、告白を受けてくれても良かったと思うわ」


 少しだけ棘がある言い方をして、痛いところをついてくるフローラさまに俺は何も言うことができなかった。本当のことであるから、何も反論できないし、何も言い訳できない。まだ俺のターンではないから、今は黙っておこう。


「ねぇ、アユム。今から私のことを聞いてほしいの。あなたと出会う前の私を。そして、あなたと出会ってからの私のことも聞いてほしい。だから、あなたにはあなたのこれまでのことを話してほしいの。あなたがどう思って、何を考えているのか知りたい。・・・・・・好きな人のことを何でも知りたいと思う私の気持ちは間違っているかしら?」

「・・・・・・いいえ、決して間違っていないと思います。相手を知れば知るほど、相手の深みやエグみを味わうことができるでしょうから」


 フローラさまのすべてと、俺のすべてか。これは本格的に向き合わないといけなくなったようだ。・・・・・・よし、覚悟は決まった。これからフローラさまのすべてを聞いてもおそらく俺にはダメージは行かないが、俺のすべてを聞いてどうなるか分からない。でも、話さないと次には進めない。ここで俺とフローラさまは腹を割って話さないといけないんだ。


「ちょうどあそこに座れそうな石があるから、あそこで話しましょう」

「はい、承知しました」


 フローラさまは先にある少し大きく平べったい岩を指さし、そこへと向かう。平べったい岩は座れそうであるが、葉っぱから落ちた水滴によって少し濡れていた。俺はすぐに岩に付着している水分をふき取り、フローラさまが座る場所にハンカチを敷いておく。少しでもフローラさまの触り心地がよさそうなお尻にダメージを与えないようにする。


 そのハンカチの上にフローラさまは座り、フローラさまが俺に隣に座るように手で指示してきたため、俺もフローラさまの横の岩の上に座る。隣に座っているのなら、いつもは密着するくらいに座るのであるが、今回は少しだけ距離があり、これが今の俺とフローラさまの心の距離なのだろうと勝手に思った。


「私は、この世界が大っ嫌い。この世界は、私を異物のように扱ってくるから。自分が醜い容姿だということは分かっているけれど、それでも、あなたが来るまでの間は醜い以上に私を邪魔ものとして誰もが私に接してくるように思えた。本当はそんなことはないのだけれど、そう錯覚させてしまうほどに、私はひどく荒れていた」


 フローラさまの話に耳を傾ける。フローラさまの思いを一字一句聞き逃してはいけない。


「アユムはこの世界は嫌い? それとも好き?」


 フローラさまのその質問は俺にとって非常に難しいものであった。この世界で好き勝手に生きようとするのなら、この世界ほど良いものはない。俺の顔は良い部類に入るからな。だけど、フローラさまのような美人がこんな待遇を受けている世界が良いとは思えない。


「・・・・・・さぁ、どうでしょう。好きなところもあれば、嫌いなところもあります。その二つをどちらかと判断することはできません」

「そう。じゃあ嫌いなところはどこなの?」

「この世界がフローラさまのような女性を醜いと言っている点です。前にも言いましたが、元の世界の住人からしてみれば、フローラさまのような女性は絶世の美女にしか見えません。そんな女性が醜いと蔑まれるところがあって良い訳がありません」

「・・・・・・そうだったわね。アユムから見れば、私は絶世の美女だったわ。絶世の美女と言われるのは悪くないわ。じゃあ好きなところはどこ?」

「それは、フローラさまに出会ったことです」


 好きなところを聞かれて、俺がすぐにそう答えると、フローラさまは顔を赤くして俺から顔をそらされた。しかし、これだけはたぶん一番の理由だ。何せ、俺はフローラさまに一目惚れしているのだから。一目惚れした女性がいる世界が、好きじゃないわけがない。


「そ、そう。それはありがとう。・・・・・・でも、今は前より素直に喜べない」

「分かっています。その原因を解くためにフローラさまの自分はここにいるのです」

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

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