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31:騎士と使用人たち。

連日投稿三十一日目! 昨日で一ヶ月? 今日で一ヶ月?

 ニース王国の件で、打てる手はすべて打ったから、今度はフローラさまの件だ。明日はフローラさまのために予定を開けるため、ランディさまに許可をいただかなければならない。もうそろそろで、お勉強の時間は終わりのはずであるから、俺はランディさまのお部屋へと向かう。


 ランディさまのお部屋の前に向かうと、お部屋の前にすでにプレヴォーさんとキッテさんが待機していた。二人は俺のことに気が付き、プレヴォーさんは俺に軽く会釈して、キッテさんは俺の元へと来た。


「こんにちは、アユムさん! 昨日の続きで来たんですか?」

「はい、そうです。キッテさんとプレヴォーさんもそうですよね?」

「今日もお呼ばれしました!」


 キッテさんの手にはお洋服を作る材料があり、プレヴォーさんの手には裁縫道具と手提げに入っている作りかけのお洋服があった。キッテさんは昨日と同じで可愛らしい声で俺に話しかけてくるが、プレヴォーさんは何だか眠そうである。もしかして、徹夜したのか?


「プレヴォーさん、何だか眠そうですね?」

「ッ⁉ ・・・・・・はい、少しメイドのお仕事で、疲れてしまって」

「メイドのお仕事で、ですか?」


 プレヴォーさんがメイドのお仕事と言ってきたから、俺は真顔でプレヴォーさんの顔を見続けた。そんな視線に気が付いたプレヴォーさんは、何か言いずらそうな顔をして顔をそらした。それでもプレヴォーさんを見続けていると、俺に頭を下げてきた。


「す、すみません。徹夜を、してしまいました」

「やはりですか。徹夜はやめてくださいと言いましたが、真面目そうなプレヴォーさんはやりかねないと思っていました。頑張るのは大切ですけど、そのように根を詰めていると倒れてしまいますよ」

「はい、すみません」

「まぁ、でも、そのお洋服を作るという熱意は良いと思いますよ。今はシャロン家の大切な一員なのですから、身体は大切にしてください。プレヴォーさんに倒れられると、悲しいですから」

「・・・・・・は、はい、気を付けます」


 プレヴォーさんが倒れてからでは遅い。少し強めの口調で言ってしまったが、そのあとフォローしたから大丈夫かな? 強く言うだけではあまり効果的ではないだろうからな。


「私は⁉ 私が倒れると悲しいですか⁉」


 プレヴォーさんと俺の間に割って入ってきたキッテさんが俺に聞いてきた。プレヴォーさんはシャロン家の一員で、なおかつ少しプレヴォーさんのことを知っているから悲しい気持ちが出てくる。だけど、キッテさんはまだ何も知らないからな。


「シャロン家の一員としては悲しいですけど、まだキッテさんのことを何も知りませんから個人的には悲しいとは言えません」

「うっ・・・・・・、そ、それなら今私のことを知ってください!」


 必死そうにそう言ってくるキッテさんに押されながらも、俺は頷いた。なぜそこまで必死なのかは分からないが、知っておいて損をすることはないだろう。それにランディさまはもう少し時間がかかりそうだから、時間的に問題ないか。


「はい、良いですよ」

「あっ、私のことだけじゃ不公平なんで、アユムさんのことも教えてくださいよ!」


 そちらから言っといて、不公平とは何だろうか。まぁ、俺も聞くだけだとお互いに知っているとは言えないから良いか。そんなに俺の情報で重要な情報はないし。


「構いませんよ。それじゃあ、キッテさんが質問してきてください。それに自分が答えて、キッテさんもその質問に答える。これで良いですか?」

「それで大丈夫です。・・・・・・じゃあ、一つ目の質問をしますね」

「どうぞ」

「お付き合いしている人や、お付き合いしていた女の人数を教えてください」


 ・・・・・・いきなり、それなのか? 最初の質問が突っ込んでいるものだから俺は驚いてしまった。お互いを知る質問で、最初はもっと、出身とか年齢とかを聞くものじゃないのか? いや、別に構わないけど。


「お恥ずかしいことですが、お付き合いしていた人はいません。この年で彼女いない歴が年齢なので」

「えぇっ⁉ アユムさんが付き合った人がいないんですか⁉ ・・・・・・驚きました。あっ、私は見ての通り不細工なので彼氏はいたことがありません」


 彼女が本当のことを言っているのなら、この世界だとそうなのか。彼女の容姿と、彼女の話しやすい雰囲気を考えれば元の世界だと男の方から寄ってくると思う。まぁ、こう言っては悪いが、雰囲気が猫をかぶっているから百パーセント信じるつもりはない。元の世界の感覚が抜けれないから、こればかりはどうしようもない。


「へぇ、そうなのですね。キッテさんは雰囲気が話しやすいと思うので、彼氏の一人か二人くらいいるのかと思いました」

「そんなことないですよぉ。私なんて男性から全く相手にされませんから。あっ、次の質問をしていいですか?」

「はい、どうぞ」

「アユムさんは、もし私がアユムさんの彼女になるのなら、アリですか? ナシですか? もちろん恋愛感情をなしにして、ただ容姿や雰囲気から判断してください。先に私から言っておきますと、アユムさんが私の彼氏になるのなら、私は全然アリです!」


 またしても、不意を突いた質問をしてくる。まぁ、最初の話題が彼女がいるかどうかの話だったから、この次もこういう話なんだろうな、というのは何となく察していた。・・・・・・これくらいの質問なら、素直に答えても大丈夫か。


「自分もキッテさんを彼女にするのなら、アリです。雰囲気も容姿も特に気になるところはありませんし、今のところ悪い印象は受けていないので」


 俺が素直にこう答えると、キッテさんとプレヴォーさんは二人して驚いてこちらを向いた。どうしてだと思ったが、この美醜逆転世界で美人な女性は不細工であるから容姿が気にならないと言ったから驚かれたのか。少し考えずに言ったかと思ったが、本当のことなのだから仕方がない。


「ほ、本当ですか? 私の容姿が気にならないって。お世辞は必要ないんですよ? これはお互いを知るための質問なので、今後に何ら差し支えないですよ?」

「本当のことですよ。キッテさん、それにプレヴォーさんの容姿も気になりはしません」


 て言うか、二人とも美人なのでこちらからお願いしますです。という言葉は胸の内に納めておく。これを言えば、たぶん俺のブス専という噂が流れてしまう。俺としては来てもらってもいいのだけれど、それを対処する覚悟はない。つまり来てほしくない。


「そ、そうなんですね、変わった人ですね。・・・・・・よしっ」


 キッテさんは小さくガッツポーズをしている。そして何故かプレヴォーさんも俺の方をチラチラと見て、そわそわとしている。この空気は一体何だろうか。


「じゃ、じゃあ、時間的に最後の質問をしますね。・・・・・・わ、私が、一番じゃなくても良いからかの――」


 キッテさんが最後の質問をしている間に、ランディさまのお部屋の扉が開いた。そこにはランディさまの教育係のザ・メイド長みたいなメイド長である鋭い視線を眼鏡で強化し、長い髪を三つ編みにしているお堅い雰囲気のエリアーヌ・ド・ブロイさんがいた。


「ランディさまのお部屋の前です。お勉強中はもう少し静かにしてください」


 ブロイさんは決して睨んではいないのだろうが、そう見えてしまう。俺はブロイさんに頭を下げて素直に謝った。


「すみません、次から気を付けます」

「よろしい。ランディさまのお勉強のお時間は終わりましたので、ご自由にお入りになって構いません。私はこれで」


 そう言ってブロイさんは自分の次なる持ち場に向かった。あの人はニコレットさんより完璧な人だ。ニコレットさんも完璧なのだが、ニコレットさんを上回る経験がブロイさんをトップにする要因になっている。ニコレットさんも経験を積めばブロイさんのようになれると、ブロイさん自身が言っていた。あの人にもお世話になったな。


「あっ、すみません、キッテさん。もう言い始めていたので、最後の質問に答え終えてからランディさまのお部屋に入りましょうか」


 キッテさんの最後の質問は内容が分からないような場所で切れたため、何を言おうとしたのか分からなかった。その質問が気になるため、最後まで言ってもらおう。


「い、いやぁ、その、あの、何と言うか・・・・・・」


 しかし、キッテさんは目を泳がせながら顔を赤くして言いづらそうにしている。その質問は恥ずかしい質問だったのだろうか。それはそれで気になるが、この状況をどうすればいいのだろうか。


「あ、あぁぁぁ、あっ、あっ! ランディさまのお部屋に行かないとですね!」


 キッテさんは逃げるようにランディさまのお部屋に入っていった。質問が気になるものの、本人が質問を言う気がないのならそれ以上詮索するのはナンセンスだ。


「自分たちも行きましょうか」

「は、はい」


 プレヴォーさんに声をかけてプレヴォーさんと一緒にランディさまのお部屋に入る。お部屋にはランディさまが椅子に座られており、生気の抜けた顔をしておられる。今日は随分とブロイさんに絞られたようだ。ブロイさんは教える相手が優秀であればあるほど、厳しく指導する。厳しい指導は愛情の表れなのだろうが、厳しくされる方は少しくらい優しくしてもらいたいとも思うのも真理。


「大丈夫ですか、ランディさま?」

「・・・・・・ううん、大丈夫じゃない。少し抱きしめて」

「はい、承知しました」


 俺はランディさまの我がままを受けて、素直に椅子に座っておられるランディさまを後ろから抱きしめた。ブロイさんに絞られて本当に疲れた時にはこれを指示して来る。これでランディさまのやる気が起きるのなら安いものだ。ランディさまは俺の腕をつかんで、もっと抱きしめてほしい意思表示をされた。だから少しだけ強く抱きしめる。


 ランディさまが満足するまでランディさまを抱きしめていると、他の二人の視線があることに気が付いた。プレヴォーさんは顔を赤くしており、キッテさんは少しだけ複雑そうな顔をしている。何だか、この様子を他の人に見られていると恥ずかしくなるが、それだけの話だ。


「・・・・・・うん、少しだけ名残惜しいけど、もう大丈夫。ありがとう、アユム」

「いえ、お役に立てたのなら何よりです」


 ランディさまにそう言われて、俺はランディさまから離れた。そしてランディさまは元気よく立ち上がり、部屋の中で俺たちの行動に置いてけぼりになっていた二人の方を向く。


「早く始めよう! アユムが執事服以外のお洋服を着ているところを早く見てみたい。それに僕のお洋服も早く着たくてうずうずする!」


 ランディさまはお洋服を着たくて着たくて待ち遠しいらしく、その表情から興奮が丸わかりである。さっきの生気のない表情はどこに行ったのだろうか。そこまで俺のハグが効果抜群なら、売り出せば一儲けできるか? ・・・・・・そんな売れない商売はやめておこう。俺が傷つくだけだ。


「マルトさん、お洋服を出してもらっても良い?」

「は、はい」


 プレヴォーさんはランディさまに促されて、ほぼ完成されているランディさまのお洋服と俺のお洋服を手提げから丁寧に取り出した。昨日は三割完成だったのに、もうランディさまと俺のお洋服を九割は完成させているぞ。どれだけ頑張ったんだよ。


「・・・・・・マルトさん、もしかしなくても、徹夜したよね?」


 あぁあ、ランディさまにも言われている。二度目はかわいそうだから、ここは俺がランディさまに口添えして少し抑えてもらうか。


「ランディさま。自分も先ほどその件について注意したので、軽く注意するだけで勘弁してあげてください。プレヴォーさんも反省しているようなので」

「・・・・・・うん、分かった。でも、これだけは言わせて」


 俺が口添えしたことで、抑えてくれたランディさまはプレヴォーさんの元へと歩いていき、プレヴォーさんの手を両手で包んだ。


「マルトさんは、もうシャロン家の一員なんだから、もっと身体を大切にして? マルトさんが倒れると僕は悲しくなっちゃうし、他の人も悲しくなるから。でも、お洋服を作ってくれたことはありがとう。すごくうれしい」

「・・・・・・はい、申し訳、ございません」


 二人に言われたことで、プレヴォーさんはもう徹夜はしないだろう。これでもう一度徹夜しようものなら、ブロイさんにプレヴォーさんが超絶メイド研修を受けるように頼んでおこうかな。


「それじゃあ、気を取り直してお洋服を完成させよう!」


 ランディさまの掛け声で各々作業に取り掛かる。だけど、俺は作業に取り掛かる前にランディさまに言わなければならないことがあるんだ。明日だけだから、たぶん大丈夫だとは思う。


「ランディさま、少しよろしいでしょうか?」

「何?」

「明日、お暇をいただいてもよろしいですか?」


 俺がランディさまにそう言うと、ランディさまは信じられないという顔をしてこちらを見てきた。えっ、何かいけないことがあったのか? ずっと一緒にいると言ったから、ダメだったのだろうか。


「あ、アユムが、自分から休みを取るのなんて、初めて聞いた」

「そっちですか。自分も人間ですから休みは取りますよ」


 確かに人間であるが、こっちに来てから、あの地獄を切り抜けて不眠不休で一ヶ月は動けるようになったがな。それに一ヶ月不眠不休の後に五時間の睡眠を取れば、あと半月は不眠不休で動ける。戦争でもそんな状況にならないから心配していない。あの地獄で〝レインボー・クワトロドラゴン〟と戦った時には一ヶ月不眠不休で戦った。


「うん、良いよ。何か大事な用事なの?」

「大事です。今後に関わるような大事な件です」

「・・・・・・その口ぶり、フローラ姉さまだよね?」


 俺はランディさまが仰った言葉で、やはり気が付いていたのかと思ってしまった。さすがにフローラさまの態度が露骨すぎるからな。


「はい、その通りでございます。明日、フローラさまに予定を空けておくように命じられました。今のままではダメだと思い、その言葉を受けた次第です」

「やっぱり、フローラ姉さまと何かあったんだ。・・・・・・何かあったのかは聞かないけど、早く仲直りか決別かしてきてね」

「そこは仲直りじゃないのですね」

「僕からすれば、どちらでもいいもん。今のこの最悪な空気をどうにかしてほしいだけ。だけど、これだけは覚えておいて?」


 ランディさまは俺の服をつかんでしゃがむように無言で指示してきたため、俺はランディさまの目線に合うようにしゃがんだ。するとランディさまは俺の耳元に口を近づけてきた。


「アユムは僕のものだからね。フローラ姉さまと仲直りしようと決別しようと、それは変わらない。フローラ姉さまがアユムを追い出そうとしても、僕が絶対に引き留めるから、決別してきても良いよ?」


 可愛い声で怖いことを言ってくるが、これはランディさまなりの励ましなのだろう。そう思いたい。


「はい、承知しました。フローラさまと向き合ってきます」

「うん、頑張ってね」


 ランディさまに励まされ、俺は明日に向けてやる気がみなぎってきた。どうなろうとも、それは俺とフローラさまのことであるから、それが運命だったのだろうと思うしかない。なるようになる、たぶん。

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

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