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30:騎士と報告。

連日投稿三十日目! ここで一ヶ月? それとも明日で一ヶ月?

 すぐに屋敷に戻り自身の部屋に戻った俺は、手紙を送ってきた鳥の箱に、ラフォンさんの感謝の言葉ともしかしたらニース王国と俺一人で戦うことになるかもしれないが助けは必要なく、シャロン家をお願いしますという主旨を書いた手紙を丸めて入れて、鳥を羽ばたかせた。最悪の事態は、俺と国が争うことになること。


 いや、そう考える前にランベールさまに手紙の件と魔物の件を伝えておかないとならない。俺はラフォンさんからの手紙を持って、急いでランベールさまの書斎へと向かう。最悪になれば、シャロン家にいる人間を全員逃げてもらわないといけない。まぁ、シャロン領土に一歩も入らせる気はないが、万が一という事態もある。先のゴリラのような魔物とカマキリ男の件がある。不測の事態で寝首を掻かれないようにしないといけない。


 走らずに早歩きで書斎へと歩いていると、書斎に向かう道中にフローラさまとスアレムが道の真ん中で止まっている気配がした。このまま進めば今朝のように二人に出会ってしまうが、今はそれどころではない。俺は気にせずに進んで行く。そして、気配通りに道の真ん中に立っている二人の姿を確認した。二人は俺が来たのを確認して立ち塞がるように二人で並んでいる。フローラさまは今朝と違い、顔色が良くなっているが、こちらを見る目が半端なく鋭いのが分かる。


「こんにちは、フローラさま」


 俺は軽く会釈をしてフローラさまの横を通り過ぎようとする。しかし、フローラさまはそれを許してくれなかったようで、俺の前に立ち塞がった。その目には、これまでに感じたことのないほどの殺意を感じた。えっ、今それを俺に向けてくるのですか? 立ち直ったっぽいからいいけど、今から大事な話がランベールさまにあるから、どいてほしいのですが。


「あの、フローラさま? 道を譲ってもらえませんか?」


 いつまでも何も言ってこないフローラさまを避けようとするが、俺の行く先に立ち塞がって俺を先に行かしてくれない。これは完全に故意でやっていることは一目瞭然だ。俺が道を譲ってくれないかと言っても、何も答えてくれない。視線を鋭くするだけであった。


「スアレム、フローラさまは何をしておられるのだ?」


 仕方がないから答えてくれそうなスアレムに問いかけた。するとスアレムはため息を吐いてフローラさまの元へと移動して、フローラさまに耳打ちをしている。俺は聞こえないように意識を他の場所に集中させる。そしてしばらく二人が小言で何かを話していたが、話し合いは終わったようで、スアレムは一歩下がってフローラさまはこちらを向いた。


「あ、アユム!」

「はい、何でございましょうか?」


 上ずった声でフローラさまに呼びかけられ、俺は普通に返事をした。こんなに取り乱しているフローラさまは久しぶりだ。新鮮に感じるけれど、今はやめてほしいというのが率直な感想だ。だけど、たぶんここでフローラさまを後回しにすれば、フローラさまはもう二度と話しかけてこない気がする。


「・・・・・・わ、私と」

「フローラさまと?」


 聞くと決めた以上、俯いて言葉がなかなか出ないフローラさまを急かす雰囲気を出さずに待つ。しばらくして覚悟を決めたようで、俺を再び睨めつけてくる。


「私と、つ、付き合いなさい!」

「・・・・・・はい?」

「だ、だから、つ、付き合いなさいって言っているのよ! 何度も言わせないで!」

「いえ、そこは聞こえているから大丈夫です」


 付き合う? フローラさまと? ・・・・・・果たして、その付き合うはどちらの付き合うなのだろうか。フローラさまと男女関係を持つ付き合うなのか、それともどこかに向かうために付き合えという付き合いなさいなのか。どちらか判断できない。先日の件があったばかりだから、前者にしか捉えられない。


「その付き合う、というのは、どういう意味でしょうか?」

「言葉通りの意味よ」


 いや、それが分からないから聞いているのですが。もう少し具体的に行った方が良いか。あまりあの件を掘り出したくないのはお互いに一緒だと思っていたが、会話が先に進まない以上仕方がない。


「付き合うは、フローラさまがどこかに行くために同行する付き合うなのでしょうか? それとも、フローラさまが自分と彼氏彼女になるためにもう一度、告白してきているのでしょうか?」


 それを聞いたフローラさまは、取り乱したように急いで弁解をし始めた。


「ち、違うわよ! 前者よ! 振られたのに後者なわけがないでしょうが!」

「それはそうですよね。・・・・・・ですが、万が一にもそうだといけなかったので、確認しただけです。気を悪くされたのなら謝ります」

「そうよ、全く。・・・・・・それで? 私に付き合ってくれるの?」

「付き合うのは構いません。日にちは決めておられますか?」

「えぇ、決めているわ。明日の朝からよ」


 明日とは少しだけ急な話であるが、このままフローラさまとの関係をこじらせているのは好ましくない。ニコレットさんに向き合えとも言われたからな。こじらせるのではなく、置いておくか切り捨てるかのどちらかを決めてほしいだけだ。できることなら、置いておいてほしいところだ。


「はい、承知しました。明日はランディさまに許可をいただき、予定を空けておきます」

「絶対よ。ランディがどう言おうと、絶対に私の予定を優先させなさい。私とあなたの今後の話をするのだから、これ以上大事な予定はないでしょう?」

「・・・・・・承知しました」


 俺の言葉を聞いたフローラさまは納得した顔をして、スアレムと一緒に去って行った。まさかフローラさまから接触してくるとは思わなかった。どうせスアレムの差し金だろうが、手間が省けて助かった。この機を使って、フローラさまと向き合うことにする。覚悟がなくても、やらねばならない。


 今はそんなことを考えている場合ではなかった! 今すぐにランベールさまの元へと向かわないといけないんだった。・・・・・・この件が悪い方向に行ってしまえば、フローラさまとの予定が台無しになるかもしれない。いや、そんなことを考えている暇ではない。とりあえず今はランベールさまの元へ行こう。




 俺はランベールさまの書斎にたどり着き、扉をノックする。ランベールさまの返事が聞こえたため、少し急いでランベールさまの書斎に入る。


「何か用か? もしかして、フローラの件で何かあったのかな?」


 ランベールさまにフローラさまのことを言われたことで、少し驚いた。やはりフローラさまに何かあった時には、俺が何かしたという風潮があるのだろうか。いや、実際にそうだから否定しないのだけれど、もう少し他の可能性を疑ってほしい。


「いえ、今回は別の用件です。これをランベールさまに見てもらいたく、ここに参りました」

「一体何かな?」


 俺はランベールさまの元へと向かい、ラフォンさんから送られた手紙をランベールさまに手渡しする。不思議そうにその紙を広げて読み進めるが、ランベールさまは読み進めるにつれて表情が険しくなっていくのが分かる。そして、紙を机の上に置いて、深い溜息をつかれた。


「ふぅぅ・・・・・・、まさか、こんなことが起こるとは。もしもの時と覚悟していたが、こんなにも早く来るとは思わなかった」

「ここが戦場になることが、ですか?」

「ハッキリと言うな。でも、そうだ。アンジェとニースの間に挟まれているここは、一番戦場になる可能性が高い場所であるから危険地帯と言っても良い。同盟を結んでいる間は何も起こらないと思っていたが、これは、非常にまずいな」


 頭を抱えるとは、まさにランベールさまが今している体勢に他ならない。大事にしていた土地が戦場になると知れば、そうなってしまう。だが、それは最悪の事態であって、向こうが積極的にお互いを削りあう戦いをするとは思わない。戦いを避けるために同盟を結んだとも、聞いたことがある。・・・・・・だが、一部の人間がこちらを滅ぼそうとしていたら、文字通りエサが投げ込まれたわけだ。


「この大公の一人娘は、ルネやニコレットさんをイジメた女で間違いないか?」

「はい、その通りでございます」

「・・・・・・ハァ、こいつのする行動はすべてがひどいな。伯爵家の人間相手にイジメをした挙句、よその第二王子に襲い掛かるとは、どこでこんなにも性格がねじ曲がったのだろうか」

「大方、大公が甘やかしたのではないのでしょうか。もう少し大公がしっかりとしていれば、同盟を破棄するようなことにはならずに済んだものを」

「それもあるが、周りも甘やかしたのだろう。大公の一人娘は美しいと聞く」


 あの容姿で美しいとは、本当にこの世界は末恐ろしい。


「だが、今更嘆いても仕方がない。起こってしまったものは起こってしまったのだ。次をどうするかを考えるべきだな。・・・・・・最悪の場合、この土地を放棄しなければならないのか」

「いいえ、その必要はありません」


 ランベールさまの言葉に、俺はすぐさま反論する。俺の言葉にランベールさまは訝しげな表情をしてこちらを見てくる。


「どういうことだ? 何か戦争を回避する方歩でもあるのか?」

「それは思い浮かびません。そもそも自分ができることは敵から主を守ることしかできません」

「・・・・・・まさか」

「はい。この土地を守るために自分が侵攻してくる相手国の兵を殺します。ですので、ニース王国が攻めてきても、この土地を放棄しなくても問題ありません」

「それは本気で言っているのか? 相手は国一つで、数多の精鋭が揃えられているんだぞ? そんな相手をアユムくんが生き残れるのか?」


 確かに、最も国一つ一つの戦力が大きい北の大陸の国一つを相手にすればただでは済まないだろう。だが、それは今の状態であって、≪魔力武装≫すれば生き残ることができる。何も、すべての兵で攻め込んでくるわけではない。それなら生き残ることができる。


「はい、生き残れます。まだ死にたくはないので」

「アユムくんの力は信じているが、国一つ相手にできるほど力があるとは思えない。本当に死ぬ気はないんだろうね?」

「何回聞かれても一緒ですよ。自分は死ぬ気はありません。ですが、もしニースが攻め込んできたのなら、屋敷から避難してください。死ぬ気も負ける気もありませんが、自分がいない間に屋敷を狙われ、シャロン家の人間が殺されるのだけは阻止したいので」

「狙われる? それはどういうことだ?」


 俺は先ほど起きた魔物の群れの件や盗賊の件をランベールさまに報告した。この二つの件が、ニース王国と関わっていても関わっていなくても面倒なことになる。関わっていれば、それらを導入して他の場所から攻めてくるかもしれないし、関わっていなければ、この機に乗じて何かしてくるかもしれない。二つの件が解明されていない以上、警戒しておきたい。


「カマキリ男に、上半身が膨張したゴリラ。それに盗賊の集団か。・・・・・・一体、この土地で何が起こっているんだ? 何が目的だ?」

「カマキリ男と上半身が膨張したゴリラについては、ご存知ですか?」

「いいや、聞いたことがない。腕と頭がカマキリで他が人間など、それは人間とも魔物とも言えない生物だろう。言うなれば、キマイラと言うべきか。そんな中途半端な生き物は知らない。それにゴリラも、今更新種が出てきたと言うのか? 魔族領にいる魔物であるなら、それは私が知るところではないから、もしかしたらそうなのかもしれないが、今は何も分からない」


 この世界に俺以上に生きているランベールさまが分からないというのなら、俺が分かるはずがない。カマキリ男から連想させる言葉は、人体実験しかない。まさか、こんな元の世界より遅れて魔法がある世界で人体実験が行われるのかと思ったが、俺がいる以上何も分からない。もしかしたら、異世界からの人間がいるのかもしれない。


「では、最悪の場合は避難をお願いします」


 一番重要なことをランベールさまに再度伝え、書斎から退出しようとする。だけど、それをランベールさまに引き留められた。


「待ちたまえ、アユムくん」

「はい?」

「何回聞いても悪いが、これで最後だ。君は死ぬ気はないんだな?」

「はい、ありません」

「・・・・・・もし、君が一国を相手にして敵わないと思った時は、すぐに逃げるんだ。私たちは避難しているのだから、逃げてくれて一向に構わない」

「万が一にも敵わないとは思いませんが、死にそうになったらすぐに逃げますよ」


 ここでランベールさまに死ぬ気で戦場に立つと言えば、きっとランベールさまは俺を戦場には行かせてくれない。だから、俺は嘘のような本当のことを言う。死にそうになれば、内なる俺は逃げ出そうとする。だけど、たぶん騎士としての俺は逃げ出そうとしない。だから、嘘のような本当のこと。


「それなら良かった。土地も大事だが、何よりも大事なものは命だ。命さえあれば、あとでどうとでもできる。アユムくんはシャロン家の騎士であり、大事な家族の一員だからね。戦争なんかで命を落としてもらいたくはない。何より、うちの子供たちはアユムくんに夢中だから、死なれでもしたら大変なことになってしまう」


 今はその子供さまの一人と絶賛仲がこじれていますがね。でも、ここまで言われたのなら、少しくらい逃げる気持ちも出てきたものだ。


「はい、ありがとうございます。それでは、自分はこれで」

「うん、報告をありがとう。避難の件は私に任せてくれ。みんなにそれとなく理由をつけて、最悪の事態になったときにすぐに動けるようにするから」


 俺はランベールさま一礼して書斎から退出した。これでラフォンさんからの手紙の件はクリアか。いや、これから始まりか。これから王都・ニースがどう動くかを瞬時に把握しないといけなくなった。諜報活動を誰かがしてくれれば良いのだが、誰かに任せるわけにはいかない。いや、俺のスキルにできそうなやつがいたな。やったことはないが、試してみる価値はある。


 屋敷から外へと出た俺は、スキル≪死者の軍勢≫を発動する。俺が殺した相手の中で、一番諜報に向いている魔物が、いたな。俺は漆黒の毛色をしている、この世で一番早い生物を呼び出した。地面から顔を出し全身も地面から出てきて、その生物の呼び出しに成功した。漆黒で俺が知っているサイズのカラスが俺の目の前で飛んでいる。


「カアァァ!」


 ジェット・クロウという世界で一番早い生物である。俺は一度こいつを殺しているから、こいつを僕として呼び出すことができる。それにこうやって呼び出した生物は、いくらかの知性を持って生まれてくる。生前の記憶も持ち合わせている。


「少し頼みたいことがある」

『あぁっん⁉ どうしてお前なんかの頼みを聞かにゃならないんだぁ⁉』


 知性を持っているから、こういう風に頼みを聞いてくれないやつもいる。ドラゴンとかは元々知性があり、自身が負けたと認識しているから大人しく強者である俺に従ってくれる。こういう頼みを聞いてくれないやつは引っ込めるのだが、こいつしかいないからな。


「そこを頼む。後でほしいものを用意してやるから」

『おらぁ、そんなにやすかぁねぇぞ! 鶏丸まる一匹で許してやらぁ』

「分かった。交渉成立だ」

『てめぇ、ちゃんと約束は守れよぉ?』

「分かっている。約束だ」


 こいつが鶏一匹で済ませてくれて良かった。他の魔物と交渉しようとしていた時に、人間一人とか言い出したやつがいたから、俺はすぐに消滅させて戻した。根幹にあるのは魔物の精神であるから、分かり切っていたことではあったけど。


「――と、言うことだ。頼めるか?」

『あたぼぉよ! ちょっくら行ってくるぜ!』


 ニース王国の件をジェット・クロウに伝え、ジェット・クロウはすぐにその場から消えるように飛んで行った。これで、ニース王国の情報が少しでも手に入ればいいのだが。・・・・・・ジェット・クロウがへまをするということはないだろうが、あの口調は心配になるな。

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

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