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03:騎士とお姫さま。

連日投稿します!

「今日はどこに行くの?」

「南南東に森の入り口に向かいます。そこで報告されている魔物の小さい集団を狩ります」


 道なりに目的地へと向かう道中、走りながらことの詳細を話していく。フローラさまの走る速度に合わせているが、それなりに早い。


「そこには何がいるの?」

「報告では、オークです。十は満たない集団らしいですが、早急に討伐した方が良いでしょう」

「オーク・・・・・・。初めての人型ね」

「緊張しているのですか?」

「馬鹿を言わないで。緊張しているわけがないでしょう」

「緊張していても良いんですよ? 何より、自分が守るので安心して戦ってください」

「・・・そうね。あなたは私の騎士なのだから」


 オークは、その大きな身体と怪力が特徴の魔物だ。上級の冒険者なら大した脅威にはならないが、下級の冒険者からすれば強大な魔物だ。そして、オークは人間の女を犯すのだ。ゴブリンと同様に。人間の女で繁殖ができるのはオークとゴブリンくらいで、他の魔物なら殺すだけか、殺して食べる。


 それを知っているフローラさまだからこそ、かなり緊張しているように見える。いつもの威勢はどこにやらと言ったところだ。でも、俺がいるのだから彼女に怖い思いをさせるつもりはない。それは他のシャロン家の人間でも言えることだ。


 走って数十分、目的の場所の森が見え、その近くに築き上げられている町も見えた。そこは自然豊かな場所で、色々な植物や果物が取れることで有名な場所だ。そこに近づいていくにつれて、違和感を覚えた。いつもの町の賑やかさではない。これは・・・、悲鳴だ!


「お嬢さま、町が襲われています」

「私のことは良いから早く行きなさい」

「承知しました。では行ってまいります」


 フローラさまに許可をもらったことで、俺はフローラさまより早く走り出す。町へと近づいていくと、悲鳴が鮮明に聞こえ始めた。スキル≪感知≫を使い、町のどこに何がいるのかを感知する。町の中にバラバラに散らばっているオークが七体。そのうち一体のオークが、町の住人を襲っている。


 俺はすぐに町へと入り、襲われている現場に急行する。現場に到着すると、黒のロングヘアの大人しそうな女性がオークに服を破かれている途中であった。俺は刀剣を鞘から抜き出し、一直線にオークの首を狙うために一歩踏み出す。その威力だけでオークの背後へと移動し、気づかれないうちにオークの首を刀剣で斬り落とした。


 首を切り落としたオークから大量の血が吹き出そうであったため、服が少しだけ破かれている女性の手をつかんでその場から離れる。黒髪の女性が立てそうにないから、女性の腰に手を当てて支える。


「大丈夫ですか?」

「・・・・・・あ、ありがとう、ございます」


 女性は俺の顔を凝視し、その後ハッとして顔をそらしてお礼を言ってきた。あの間は何だったのだろうか。


「立てそうですか?」

「・・・はい、立てます」


 黒髪の女性から手を離し、周りを確認すると一匹のオークがこちらに気が付いたようだ。ついでに首から下がないオークの死体も。それを見たオークが雄たけびを上げ始めた。


「ぶおぉぉぉっおおっ!」


 その声に他のオークが次々にこちらへと集まっているのが感知できた。これで移動する手間が省けた。それに町へとたどり着いたフローラさまが一体のオークと対峙していたため、フローラさまもこちらへと来ている。


 先ほど雄たけびを上げたオークが、単身で持っている身の丈に合う棍棒で攻撃してきた。俺は一歩も動かずに刀剣でオークの攻撃を受け止めた。オークで怪力だと言っても、俺にその怪力は効かない。フローラさまが倒すオークは一匹でいいか。


 さっきから無意味な攻撃を繰り返しているオークの棍棒を真っ二つにして、オークの肩から袈裟斬りした。オークは力なく倒れていった。倒したと同時に、残りの五体のオークもやってきた。オークの背後からフローラさまも無事に来ている。


「フローラさま! 一体のオークを残し、残りのオークはすぐに処理します」

「すぐにやりなさい」


 俺は残りの五体のうち、気配を強く感じる上位四体に狙いを定める。さっきの二体と同じく、一体ずつ秒で首を斬り落としていく。オーク四体の最後の一体を倒し切り、黒髪の女性を担いでフローラさまの元へと移動した。


「・・・その女は?」

「オークに襲われていた女性です。あそこにいては危険なので、連れてきました」

「ふーん、ちょっと近くに来なさい」


 ・・・・・・これは、また嫌な予感がすると思いながらも、フローラさまの近くへと向かうと、思いっきり足を踏まれた。痛くはないが、フローラさまの機嫌がちょっとだけナナメだ。


「さっき言ったばかりなのに、またお仕置きが必要なのかしら?」

「助けただけですよ、勘弁してください。それよりも今はオークです。危なくなれば援護します」

「大丈夫よ。私だけでやるわ」

「そうですか。それでは、ご武運を」


 フローラさまは細剣を鞘から抜き出し、残っているオークと対峙する。残っているオークは俺が仲間を殺したことで怒り狂っている。そんなオーク相手に、フローラさまはさっきの緊張感は嘘のようになくなっており、素の状態でオークに立ち向かっていった。


 オークは持っている剣を振り上げてフローラさまを攻撃するが、それを上へ華麗に避けたフローラさま。そして、上から攻撃する態勢に入った。


「ポーク・アロー!」


 フローラさまはオークに細剣の素早い突きを無数に繰り出していく。無数の突きがオークへと突き刺さり、オークは為す術もなく身体中に穴が開いていく。そして、最後の一撃と言わんばかりに、オークの顔面に思いっきり細剣を突き刺した。細剣を受けたオークはその場に倒れこみ、すでに息絶えているようであった。


「アユム、やったわよ!」


 嬉しそうな顔をしながらフローラさまがこちらに来て、抱き着いてきた。抱き着いてきたことで、胸当てを着ているから胸の感触は感じられないが、汗の良い香りが俺の鼻孔を刺激してくる。汗でも、こんなにも良い匂いがするんだな。


「お見事でございました」

「そうでしょう? 私もこれで一人前の剣士になれたかしら?」

「いいえ、まだまだです。オークを倒せたことは称賛できますが、オークはランクDの下。一人前と呼ぶのはまだまだですよ」

「・・・少しくらいは褒めてくれてもいいじゃない」


 フローラさまがボソッと言った一言を俺は聞き逃さなかった。どうやって褒めようかと思ったが、俺が思いついたのは一つしかない。俺は殴られないか心配であったが、意を決してこちらからフローラさまを抱きしめた。


「先ほどの突きは今までで一番の突きでした。これからも精進して、将来共に魔物を討伐する冒険に出ましょう」

「・・・・・・えぇ、当たり前よ。早くそれを言いなさいよ」


 フローラさまが抱き着いてくる力が増している。・・・・・・やばい、もうそろそろでどいてもらわないと俺の理性が持たないかもしれない。邪な考えがないから、俺の理性の歯止めが利かないぞ! 何かないかと周りを見渡すと、こちらに続々と様子を見に来た町の人たちが現れた! ナイスだ町の人たち。


「フローラさま、町の人々が集まってきました」

「そう、分かったわ」


 抱き着いていたフローラさまは俺から離れて、町の人たちに話をするべく前に出た。しかし、町の人たちはフローラさまを見てざわめき始めた。聞こえてくるのは、フローラさまに対する侮辱の声でしかなかった。俺がフローラさまを絶世の美女に見えるということは、この世界の人間から見れば絶世の醜女に見えるのだろう。


 それを聞いたフローラさまは、歯ぎしりをして怒りのままに声を出そうとしたが、俺が止めた。フローラさまはきっとこの町の人々を侮辱し返すつもりだろうが、ここはシャロン家の領地。領地民に反感を買わせてはいけない。だからここは俺がフローラさまより前に出る。


「自分はシャロン家に仕えている騎士。オークは自分とフローラさまにより討伐しました、安心してください」


 俺がそう言うと、領民たちは安堵した表情を浮かべている。フローラさまは俺の後ろで隠れている。俺は実績があるにもかかわらず、顔ですべてを決める領民に怒りを感じながらも、抑えて次の言葉を紡ぎだす。


「家の被害などについては、おってシャロン家に申請してください。魔物の被害なので、大部分は補填します。心配しないでください。自分たちは屋敷に戻りシャロン家当主に現状を伝えてきます。使いの者と大工が来ると思いますので、しばらくお待ちください」


 早くこの場から離れたいがために、俺は要点を素早く言い一礼してこの場から立ち去ろうとする。だが、隣にいた黒髪の女性に服の裾を引っ張られた。何かと思って見ると、彼女も彼女で自分で引っ張ったことに驚いている。


「何か御用ですか?」

「え、あの・・・その、私はマルト・プレヴォーと申します。あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?」

「はい、自分はアユム・テンリュウジです。オークに襲われて大丈夫でしたか?」

「それは、アユムさんが助けてくれたので、大丈夫です。本当にありがとうございました」

「気にしてもらわなくても平気です。プレヴォーさんを救えることができたので良かったです」


 目の前にいるプレヴォーさんは、前髪で表情を隠しているが、避けるときに見えた素顔は美人であった。美人であるということは、この人もこの世界でブスだと言われているのか。何ともひどい話だ。


 何やら空気が変わったと思い、プレヴォーさんの方を見る。すると、プレヴォーさんは顔を真っ赤にして手で顔を覆った。どこでそれが起こったんだと考えていると、今度は背後から黒い雰囲気が醸し出されて、フローラさまが俺の脇腹を籠手を着けた状態でつねってきた。とりあえず今はこの場から離れることを優先しよう。


「では、自分はシャロン家に戻ります」

「は、はい。お気をつけて!」

「またお会いしましょう」


 顔を隠したままこちらを見ないプレヴォーさんに疑問を感じながら、フローラさまを後ろにつけて町から去っていく。町が見えなくなったところで、フローラさまに話しかけてみた。


「あの、フローラさま? もう町から離れましたよ?」

「・・・・・・分かっているわ」


 フローラさまがようやく離れてくれ、顔を見るために振り返ると目を見開いてしまった。フローラさまが目に涙を浮かべていた。あの領民たちの心ないため涙を浮かべているのか? それとも俺の言葉で何か傷つくことでもあったのか?


「ど、どうして泣いていらっしゃるのですか?」

「泣いてないわよッ」

「いや、涙を浮かべて鼻声になられたら、泣いているとしか見えないのですが」

「今は放っておいて!」


 フローラさまは怒りで俺に殴りかかってくるが、どれも力が入っていない拳であった。


「放っておけません。自分はフローラさまの騎士でもあると、先ほど言ったばかりですよ? お姫さまが泣いている場面を放っておけるほど、腐っていないので」

「・・・・・・こんな場面だけ、騎士面するなんて、ずるいでしょ」

「ずるくて結構です。話してください」


 俺の言葉に、フローラさまは少しの間涙を止めるために時間を要した。その間俺はフローラさまの背中をさすっていた。そして涙が収まると、フローラさまが話し始めた。


「・・・・・・あと一か月で、春が来るわ」

「え? えぇ、そうですね」

「私はもう十五。次の春に王都へ行かないといけないわ」


 ・・・・・・あっ、そうだった、忘れてた! そうか、フローラさまの年齢では、王都にある貴族が通うことを義務付けられている学園に行かないといけないんだった! 昨年、フローラさまのお姉さまが学園に行かされていた。その学園を卒業できないと、貴族として位が地に落ちると言われている。だから嫌でも通わないとならない。・・・これがフローラさまが嫌がっている理由か。


「三年間も、私を見下してくる輩たちと空間を共にすると考えた時、私が耐えきれるかどうか心配でならない。あんな・・・・・・、あんな視線をずっと向けられたら、どうにかなってしまいそう」


 フローラさまが情緒不安定だったのは、学園に行くことに対しての憂いだったのか。それに、領民たちがフローラさまに見せた不愉快な視線が、不安を煽った。・・・・・・しかし、この件をどうにかすることは俺にはできないぞ。魔物を倒すことや誰かを守ることに関していえば、右に出る者はいないほどに強いと自負しているものの、政治や貴族関係はどうにもできない。


「私をいつでも守ってくれるんでしょう⁉ どうにかしなさいよ!」

「・・・どうにかって、無理を言わないでください」


 だが、どうにかしないという選択肢はない。・・・俺ができることがあるとするならば、フローラさまと一緒に王都に行くことだ。できる限りそばから離れずにいれれば良いのだが、それだとこの家を離れることになる。


「学園に行くことを止められないのなら、ついてくるくらいしなさいよ! 私の騎士でしょう⁉」

「いや、自分はランディさまの騎士です」

「だから、そこは私の騎士だと言うところよ」

「確かに、フローラさまの騎士です。・・・・・・少し時間を下さい。それまでにフローラさまが納得する答えを出してきます」

「・・・・・・早くしなさいよ」


 フローラさまはまた俺に抱き着いてきた。俺は何もせずに今後について考える。俺がフローラさまについていくのは決定事項として、そうしたことで空いた穴であるこの屋敷の護衛をどうするかだ。・・・スキルに頼るしかないか。

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

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