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26:騎士と説明。

連日投稿二十六日目! フローラさまとは一体どうなってしまうのでしょうか⁉

 フローラさまの目も当てられない状況になっていることは、とりあえずスアレムに任されることになり、どういうわけか俺に触れられることはなかった。良かったのか良くなかったのかは分からないが、どちらにしろ俺とフローラさまのことは知られることになるだろう。


 フローラさまの件は後回しにされ、ランベールさまがルネさまの件が聞きたいとのことであったから、俺とルネさまとニコレットさんがランベールさまの書斎に呼ばれた。ルネさまの件について、俺はランベールさまに詳細を伝えていない。俺はルネさまがいじめられているとしか伝えていない。ルネさまの口からランベールさまに伝えてほしかったからだ。ルネさまの口から言えないのなら、俺から伝えるつもりでもある。


 ランベールさまの書斎に呼ばれ、俺とルネさまとニコレットさんの三人は一緒にランベールさまの書斎に向かっている。何か感づいているニコレットさんと行動すると、先の件を突っ込まれそうで怖い。


「アユム、何があったんだ?」

「何が、とは?」


 ルネさまが先頭で、俺とニコレットさんが並んで歩いている時に、案の定さっきの件についてニコレットさんから突っ込まれてしまった。俺は素知らぬ顔で答えたが、その視線からは疑いのまなざしは消えない。


「とぼけても無駄だ。フローラさまと何かあったことくらい分かっている。それを話せと言っているんだ。どうせ、話してくれとこちらが言っても正直に話すつもりはないだろう?」

「・・・・・・まぁ、言いたくないですから」


 スアレム同様、スアレム姉妹は主人を気にかけている分、人間の言動を察知する能力が高い。さすがシャロン家に何世代も渡って仕え続けているスアレム家は違う。今はその能力を発揮してほしくはなかったけれど。


「だから話せと言っているんだ。言っておくが、私はお前に対して遠慮なく聞くぞ。私はお前の上司であり、恩人なのだから、それくらいは大人しく話してもらわないとな」

「どんだけ恩着せがましいんですか。・・・・・・それに、自分から言うのもどうかと思いますから、話せませんよ」

「そんなのは関係ない。お前がどれだけ罪悪感を抱いたとしても、私に話せ。そんなくだらない屁理屈を並べようとも、お前がしたことは変わらない。せめて私には話してもらおうか」


 くっ、さすがニコレットさん。完璧超人の女執事であり、その実はSの気質を持ち合わせている女。スアレムのように簡単にあきらめてくれない。だからと言って、ルネさまがいるところで話すことはできない。話すのなら、ニコレットさんと二人きりの時だ。


「もうランベールさまの書斎に着く。答えは、今日の夜にでも聞こう。それまでに話す覚悟をつけておくことだな」


 ふぅ、今は回避できたか。それに最低限二人で話すということは達成された。と言うか、ニコレットさんが俺の表情を察してくれたからそうなったのだろう。この人は本当にすごい人だ。


「今日の夜に後回しにするのは良いですけど、話す気はありませんよ?」

「いや、話してもらう。お前のことだ、フローラさまのことを思ってお前自身を犠牲にするようなやり方をしたんだろう。騎士として正しいのか、人間として正しくないのか」


 ニコレットさんにはすべてお見通しのようで。大体合っているんだから、話す必要はない気がする。でも、話さないと、たぶんどんな手を使っても話させようとする。この時点で俺に逃げ場はほぼないと思った方が良いだろう。ルネさまにも聞かれていたらどうしようもなかったが、あいにくルネさまはランベールさまの書斎に行くにあたって言い訳を考えているようであった。


 ランベールさまの書斎の前にたどり着き、俺が扉をノックしてランベールさまに入室の許可をもらって扉を開く。先にルネさまが入り、ニコレットさん、そして俺が入室して扉を閉める。


「よく来た。ニコレットさん、悪いけど全員に紅茶をいれてくれないか? 紅茶がいるような話だと思うから」

「承知いたしました」


 ランベールさまに頼まれたニコレットさんが紅茶の準備をする。深刻そうな顔をしているルネさまは、ランベールさまが座っている机の正面に三人掛けのソファーを横向きに二つ、テーブルを挟んで向き合わせて設置している右側のソファーに座り、俺は扉の前で立っている。ランベールさまの許可がない限り座ることはない。


「お待たせいたしました」


 ニコレットさんが人数の紅茶を用意し、ソファーで挟んでいるテーブルに三つ置いてランベールさまの机に一つ置いた。


「さぁ、ニコレットさんもアユムくんもソファーに座ってくれ。立っていては疲れるだろう」


 俺とニコレットさんはランベールさまの言葉通りにソファーに座ろうとする。ニコレットさんはルネさまの隣で、俺はニコレットさんの正面に座ろうかと思ったが、ニコレットさんにニコレットさんの隣に強制的に座らされた。まぁ、問題ないから良いのだけれど、三人で座ると、三人用だとは言え、少し窮屈に感じる。


「さて、なぜ私に呼ばれたのか分かっているな?」

「・・・・・・私の、ことでですね?」


 ランベールさまの問いかけに、ルネさまが覚悟を決めた表情をして答えた。ランベールさまは頷いてルネさまを直視する。


「誰かから、と言わずとも分かっているだろう。もちろんアユムくんから聞いた話だ」


 ランベールさまの言葉に、ルネさまとニコレットさんがこちらを睨むような視線を送ってきたが、俺は二人のためを思っているのだから、何も視線を逸らすことはしない。


「アユム、ランベールさまにお話しするとどうなるかは分かるだろう。三人の中で収めていれば済む話だっただろうに」

「ニコレットさん、アユムくんをそんなに責めないでやってくれ。二人のためを思って私に報告してきてくれたんだ。・・・・・・アユムくんが報告してくれないと、ルネの件を分かってやれなかった自分を情けなく思うよ」


 ランベールさまは暗い表情をしてうつむく。そんなランベールさまに誰にも何も言えずにいる。ランベールさまは家族や家の者を非常に大切にする人だ。そんな人が家族がこんな目に合っているのに気が付かなかったとなると、精神的ダメージは大きいのだろう。


「それで、詳細を聞いても良いかな? 誰にいじめられて、誰にどんなことをされているのかをね」


 ランベールさまには怒りの表情が見える。さっきニコレットさんがランベールさまにお話しするとどうなるか分かるだろう、と言ってきたが、誰にでも分かる。相手がたとえ大公であろうと、ランベールさまは躊躇しないだろう。そうなれば、この家も終わるかもしれない。だから、ランベールさまの報告は危険な行為なのだ。俺としてもこの家を終わらせたくはないから、他の方法を提案するつもりでいる。


「ルネの口から聞きたいんだ。どれだけ辛かったとしても、ルネがどれほどの苦痛を伴ってきたのかを私にも共有させてほしい」

「お父さま・・・・・・。ですが、こればっかりは」

「話しなさい、ルネ。ルネが苦しんでいるのに、私だけが何も知らないわけにはいかない。私が何かをすると思っているのなら、今は心配しなくても良い。今は何もするつもりはない」


 ランベールさまは今を強調して話している。その言葉に嘘はないだろう。だけど、今しないだけでいつかはやると言っているようなものだ。それを聞いたルネさまはひどく悩み、助けを求めるようにニコレットさんと俺の方を向いた。ニコレットさんは目をつぶって反応する気はないから、残る俺に目で訴えかけてくる。


 俺に目で訴えかけてきても、俺がランベールさまに言ったのだから、俺はお話しするように言う。だけど、少しでもルネさまが話しやすいようにすることは可能だ。


「ルネさま、お話しになってください」

「で、でも、お父さまが何かをしでかすかも・・・・・・」

「それは自分がランベールさまを押さえますので、安心してください。何か無謀なことをしようとするものならば、自分が騎士をやめる覚悟で止めてみせます。ルネさまが話したからシャロン家が潰れたことなんてありませんし、潰れるようなことにならないように努めます。ですので、お話しになってください。今回の件の全貌を。それで良いですか? ランベールさま」

「それでいい。話次第では私が私自身を抑えきれないかもしれないからな」


 ランベールさまの許可をもらった俺の言葉を聞いたルネさまは、俺の顔をしばらく見つめてきた。俺はルネさまから目をそらさずに見つめている形になる。しばらくして見つめ合っていることに気が付いたルネさまが恥ずかしそうにして目をそらした。そして、ランベールさまの方を向く。


「分かりました。お父さまに、私が受けたすべてをお話しします」

「うん、ありがとう。じゃあ話してくれ」


 ランベールさまの言葉で、ルネさまが話し始めた。事の始まりから、終わりまで詳細に。ルネさま自身が何もしていないのに、大公の一人娘にいたずらを受け始めた。いたずらはルネさまが我慢していくにつれ、悪化していきついには暴力にまで発展したと。そしてニコレットさんにまで被害が及んでいたことも、ランベールさまにお話しした。


 前にニコレットさんから聞いていた話と相違はないが、本人が受けた体験談である部分は生々しく語ってくれて、途中からルネさまが涙を流しながら話していた。ルネさまをニコレットさんが慰めながら話し続けた。その間、ランベールさまはルネさまの言葉を一つも聞き逃さないように食い入るように聞き続けていた。


 そして、ルネさまが事の詳細を話し終えると、部屋の中には沈黙が流れ、ルネさまの鼻をすする音だけが部屋に響く。誰も言葉を発さずに、時間だけが流れる。誰も話さないのかとランベールさまの方を向くと、俺はその姿に息をのんだ。


 全身を震えさせながら血が出るほどに拳を握りしめて、歯を食いしばっている。そして視線は下に向いているが、その目からは憎悪しか感じられないほどであった。これほどの仕打ちを自分の娘に受けていたのだ、騎士の俺がぶち切れ寸前なのだから、親のランベールさまはぶち切れる。


「・・・・・・話してくれてありがとう、ルネ。今まで辛い思いを抱え込ませて悪かった」


 しばらくすると、ランベールさまが口を開いた。その頃にはルネさまの涙も収まり、少しだけ落ち着いている。だけど、ランベールさまは落ち着きとは正反対の感情を持ち合わせている。


「ルネには悪いけど、この件はさすがに看過できない。少し軽く話を聞いていたが、間違いだった。それはもう我慢できる状態ではない。あろうことか、ニコレットさんにまで手を出しているとは、我慢できるはずがない」

「ま、待ってください、お父さま! 相手は大公の一人娘です! 何をしても、何も解決しません。むしろ、シャロン家が落ちるかもしれません。私は我慢できますので、気になさらないでください」

「そんなことできるわけがないだろう! ルネは大切な娘で、ニコレットさんも大事な家族の一員だ。そんな二人がひどい目にあって、何もしないほど私はクズではない。・・・・・・そんな目にあっていた二人に気が付かなかった私に心底腹が立つよ」


 何やらランベールさまが早くもさっきの言葉を破って行動を起こしそうだったから、俺が立ち上がって仲裁に入る。そうしないと、俺のしていることがすべて無に帰ってしまう。いや、無ではないが、シャロン家を守るために騎士としてそれらを捨てないといけないかもしれないというだけだ。


「お待ちください、ランベールさま。先ほどのお言葉をお忘れになられたのですか?」

「忘れてはいない。ただ、その言葉は想定していた軽いものだと思っていた言葉であって、ルネとニコレットさんが受けた暴力はそれを逸脱している。早く手を打たないと、最悪の場合、二人が死んでしまうんだぞ⁉」

「そんなことは自分がさせません。それに、ランベールさまが下手に行動されれば、それが原因でルネさまへの当てつけがひどくなるかもしれません。ここは一度落ち着いてください」


 ルネさまの当てつけがひどくなるかもしれないことを指摘すると、ランベールさまは一度落ち着かれた。しかし、そのお顔はまだ引っ込んだ顔ではない。だからこそ、俺の考えていることを言うべきなのだろう。明確な解決策を出さないことにはランベールさまは落ち着かない。


「この件は、自分にお任せください。自分が大公と大公の一人娘を打ち負かせて見せます」

「・・・・・・何だって? まさか、襲撃するとかではないだろう?」

「まさか、そんなことをするはずがありません。そのようなことすれば、シャロン家に迷惑が掛かります。そうではなく、もっと確実な方法です」


 俺の言葉に全員が俺の方を向いた。そんなに注目されると話しにくいけれど、ここで言うしかない。


「何だ? 言ってみてくれ」

「はい。・・・・・・それは自分が、〝マジェスティ・ロードパラディン〟になることです」


 俺がそう言うと、全員が固まったけれど、何かおかしなことを言っただろうか。いや、ラフォンさんから聞いた話なのだから、おかしくはないはずだ。俺は誰かが反応するのを待っていると、ランベールさまが最初に反応した。


「あ、アユムくん、それは本気で言っているのか?」

「本気じゃないと思いますか? 自分は本気ですよ。〝マジェスティ・ロードパラディン〟になり、大公よりも地位が高くなったことで、大公を潰す。それがこの件の解決策です」

「な、何年かかると思っているんだ? 今までに〝マジェスティ・ロードパラディン〟になったものは一人しかいない。今、解決できるわけではないのだから、他の解決策を――」

「〝マジェスティ・ロードパラディン〟になる算段はついています。一ヶ月後にある〝騎士王決定戦〟で最高三ランク上昇を狙い、〝パラディン〟となり、二ヶ月で実績を上げて〝マジェスティ・ロードパラディン〟になります」

「さ、三か月でなるつもりなのか⁉」

「はい、最短三か月で、最長一年で〝マジェスティ・ロードパラディン〟になるつもりです、絶対に。意地でもなって見せます」

「・・・・・・自分が、現実的ではないことを言っているのが分かっているのか?」

「ちゃんと現実を見ていますよ。ランベールさまも分かっていますよね? 自分の実力がどれほどのものかを」

「わ、分かっているが、〝マジェスティ・ロードパラディン〟になるには、実績と人望が必要となるのだぞ?」

「それは一ヶ月後に行われる〝騎士王決定戦〟までの期間と、終わった後の二ヶ月でクエストを達成して二つを満たします」


 俺の本気の言葉に、ランベールさまはついに言葉を失ったようであった。ルネさまとニコレットさんも唖然としている様子である。さすがに言うのがいきなりすぎただろうか。でも、ランベールさまを落ち着かせることには成功した。


「どうですか? 落ち着かれましたか?」

「あ、あぁ、ぶっ飛んだ話を聞いたおかげで落ち着いた」

「それは良かったです。ルネさまとニコレットさんが受けた傷は決して許されるものではありませんが、何も考えずに報復するのはお二人の望むところではないでしょう。ですから、今は落ち着いて今後どうするかを考えましょう」

「・・・・・・あぁ、そうだな。落ち着いた、ありがとう。当主の私がこんなのではダメだな」


 ランベールさまは一度深呼吸をして落ち着かれた。その姿を見たルネさまとニコレットさんは安どしているようであった。ここに俺が同席しておいてよかった。


「それよりも、あの〝マジェスティ・ロードパラディン〟になるというのは、私を落ち着かせるための冗談だよな?」

「えっ? 冗談を言ったつもりはありませんよ。すでに一ヶ月後に行われる〝騎士王決定戦〟に出場を申請していますよ」


 そう言うと、三人全員が絶句してしまった。こんな場面で冗談を言うつもりがないだろうに、何を考えているんだ?

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

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