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25:騎士とお姫さま。③

連日投稿二十五日目! 後に書きたいことばかりが思いついてしまいました!

 フローラさまの告白に、俺は固まり呼吸を忘れてしばらく声を出せなかったが、ようやく絞り出してフローラさまに問いかけた。


「そ、それは、家族として、好き、ということですよね?」

「・・・・・・そんなわけないじゃない。私はアユム・テンリュウジのことが、誰よりも好きだって言っているのよ。付き合いたいし、結婚もしたいし、あなたの子供も産みたい。そう思っているの」

「ど、どうして、そんなことを思って・・・・・・?」


 俺はフローラさまの告白に、より一層息が苦しくなりながらも俺が好きな理由を聞く。こんな何もない男のどこに好きだと思っているのだろうか。それがイマイチ分からない。


「・・・・・・あなたが、私に優しかったから、私と向き合ってくれていたから、私を守ってくれていたから、私の騎士になってくれたから、あなたのことが好きなのよ。・・・・・・そもそも、気づきなさいよ。私があなたを好きなことを・・・・・・ッ! 私がこんな下着を見せて擦り寄っていたり、恥部に顔を近づけさせたことを、好きでもない相手にすると思うの? 私はそこまで見境がないわけがないでしょう」


 ・・・・・・確かに、誰彼構わずするわけがないか。貴族の遊びだと思っていたが、普通に考えればそれは誰にでもやる遊びではなかった。心のどこかでフローラさまが俺のことを好きなことを否定したかったのかもしれない。


「それで、アユムはどうなの? 私のことが、好きなの?」


 フローラさまは俺の顔に顔を近づけてきて、瞳を潤ませながら俺に迫ってきた。ここで素直に好きだと言えばどれだけ楽なのだろうか。フローラさまと俺は両想いなのだから、祝福されるだろう。だが、俺はそうすることができない。どうしても俺は人を愛すことができない。


「確かに、自分はフローラさまのことが好きです。愛しています」

「じゃあ――」

「しかし、フローラさまとは付き合えません」


 愛していると俺が言うとフローラさまはキスしそうな距離まで顔を近づけてきていたが、付き合えないと言うとピタリと止まった。・・・・・・ふぅ、こうするしかないんだよな。俺はどうしようもない奴なんだから、こうするしかないんだ。


「フローラさまと、自分とでは、釣り合いません。フローラさまのように気高く真っすぐな人には、きっと正直な人が現れて、フローラさまを幸せにしてくれます。・・・・・・自分は、ダメなんです。こんな性根が腐っているような男、フローラさまの騎士にして死なせていれば良いのです。だから、自分とフローラさまが付き合うことはできません」


 俺はフローラさまの目を見れずにそう言い放った。これが、フローラさまとの終わりとは思ってもみなかった。これだけ言えば、フローラさまはくだらないことを言う俺に失望してくれるだろう。そうでなければこんなにつらい思いをしている意味がない。


「・・・・・・バカッ、そんな悲しそうな顔で言うんじゃないわよッ」


 フローラさまは悲しそうな声をして俺に抱き着いてきた。・・・・・・俺が、悲しそうな顔をしていたのか? 自分自身では全く分からなかったが、窓ガラスの方を見ると今にも死にそうな顔をしている男の顔が映っている。確かに、悲しそうな顔をしている。


「私じゃ、アユムと付き合えないの? それはアユムが異世界人だから?」

「・・・・・・それは答えられません」

「どうして、ダメなの? ・・・・・・私に悪いところがあれば直すわ。あなたが必要なものがあれば私が絶対に用意する。私はあなたのどんなことであろうと、すべてを受け入れる覚悟がある。一体、何がダメなの?」

「そういうことではありません。フローラさまに非はありません。自分が、悪いのです。自分が不甲斐ないからフローラさまの告白をお断りしなければならないのです。本当に、申し訳ございませんッ」


 俺が精一杯言えるのはこれくらいであった。本当にフローラさまに非はない。俺がすべていけないから、フローラさまとは付き合えない。これは、俺の心の問題で、この心の問題は決して解決することのない楔。元からまともな人間ではなかった俺が、楔を付けた日には、どうしようもない。だから、俺は異世界の人間であろうと関係ない。俺は、誰とも付き合わない。


「理由くらい、言いなさいよッ。あなたが苦しんでいる理由を分からずに、何もできない苦しみを私に受けろと言うの? それでも私の騎士なの? 主を守るのは騎士の役目だけど、騎士を守るのは主の役目よ。だから、話しなさいよッ」

「・・・・・・申し訳、ございません」


 涙声で俺に言葉を投げかけているフローラさまに俺は何も言うことができない。ただ、謝ることしかできない。・・・・・・こんなことなら、俺は生きていなかった方がいいのか? いや、それは最初から一緒か。何も感じず、何も思えず、誰も本気で愛せない俺には人として生きる資格はない。


 フローラさまは俺に抱き着きながら泣き続け、泣き疲れて寝てしまわれた。俺はフローラさまをベットに運び、毛布をかける。どうしようもない騎士を持ってしまったフローラさまは不幸だ。俺はフローラさまがこんなに泣き続けても、変わろうとしない。だから、こんな自分が嫌いだ。




 フローラさまをベッドに運んで、俺は自身の部屋に戻ってすぐに眠りについた。いつも通りの時間に起きて、いつものように支度をする。昨日のことは夢のような心地の出来事であったが、現実だ。昨日の衝撃は今でも俺の心の中で残っている。だからか、身体に鉛が巻き付かれているかのように重い。こんな体験は久しぶりだから懐かしさを感じるとともに、気持ち悪さも感じる。


 しかし、俺のことはどうでも良い。問題はフローラさまの方だ。俺が何も言わないまま終えてしまったために、フローラさまの中では解決していないだろう。・・・・・・このまま、俺が何もせずにいれば、きっとフローラさまは爆発してしまう。そうなる前に騎士をやめるのが良いのだろうが、やめることは逃げることになる。フローラさまの現状を変えておらず、フローラさまの心を傷つけた状態だ。


 どうすればいいか俺には分からずに、悩んでいる状態で部屋から出る。すると、俺の部屋の前にいたスアレムとバッタリ会った。スアレムは俺の部屋に入ろうとしていたのか。だが、いつもなら俺が寝ている間に来るはずだけど、今日は遅いな。


「おはようございます、アユム。今日は早いですね」

「早い? スアレムが遅いだけなのじゃないのか? 俺はいつも通り起きたぞ?」

「そんなことはありませんよ? まだ日が上がってきてもいないじゃないですか」


 スアレムに言われて窓を見ると、まだ外は真っ暗であった。そもそも部屋の中も暗いのに、こんなことも分からずに着替えていたとは、どんだけ精神的ダメージを受けているんだよ。俺にはダメージはないと思っていたんだけどな。


「・・・・・・何か、ありましたか?」

「何かって何だよ。特に変わったことはないぞ」


 嘘であるが、俺の口からスアレムに言うわけにはいかない。傷ついた張本人であるフローラさまが誰かに言うのは良いが、傷つけた俺が言うのは違う。俺は昨晩の件を誰にも言えない。


「そうですか? ・・・・・・一見すると、いつも通りの顔ですけど、言葉にはできない感覚で、疲れている? いえ、何かを気負っている感じがします」


 こいつ、エスパーかよ。何でそんなことが分かるんだよ。さっき自分で鏡を見たが、いつも通りの顔だったぞ。どうして分かるんだ?


「・・・・・・どうして分かるんだ?」

「さぁ? どうしてですかね。・・・・・・言うなれば、長年の付き合いから分かりました。いつも、アユムの顔を見ていましたから、少しの変化くらい分かりますよ」


 いつも、か。俺の顔を見て何になるのだろうか。見るのならフローラさまの顔にしておけよ。俺の顔を見ても何も得にはならない。いや、今俺の変化に気が付いているから、そうとも言えないか。


「それよりも、何があったのですか? まさか何もなかった、なんて言いませんよね? 私に言えることがあるのなら、何でも言ってください。微力でも力になります」


 ・・・・・・ダメだ、スアレムに俺から何も言えない。その優しさはとても心にしみるが、心に突き刺さっても来る。俺から行動することはない。


「俺から言うことは何もない」

「・・・・・・アユムと何かあるのは、ルネさまとフローラさまと姉さんですけど、ルネさまは何もないでしょう。あの人がアユムに深刻な顔をさせる行動をするはずがない。姉さんはさっき会ったから、フローラさまですか」


 反論する言葉はないから、俺はスアレムの言葉に口を閉ざしておく。まぁ、沈黙していることは、肯定しているようなものだからどちらでも良いのだけれど。


「そうですか、フローラさまですか。・・・・・・何かあったかは知りませんけど、早めに手を打っておいた方が良いですよ。分かっているとは思いますけど、フローラさまは根に持ちますよ?」

「そんなことは分かっている。だが、俺は何もしない」

「本気で言っているのですか? 何もしなければ、下手するとフローラさまの騎士から外されますよ?」

「それが、フローラさまの望みなら、俺はそうするつもりだ。シャロン家からも出て行けと言われても、俺は潔く出ていく」


 俺のこの言葉に、スアレムは目を見開いた。俺がシャロン家の二女をたぶらかし、遊ぶだけ遊んで振ったと見られてもおかしくはないだろう。あの場で保留にすることもできたが、そうしなかったのは俺の選択だ。だから、責任を持つのは当然だ。だが、騎士としての役目は果たすつもりだ。ストーカーみたいにするのもありかもしれない。


「・・・・・・分かりました。そこまで言うのなら私はアユムに何も言いません」


 スアレムは分かってくれたようだ。それで良い。これ以上問いただされたとしても、俺は何も答えるつもりはなかったからな。


「ですが、フローラさまに聞くのは構いませんよね?」

「それは勝手にしてくれ。俺が止めることでもない」


 フローラさまに聞く分には何も文句はない。それに被害者であるフローラさまに聞いてくれた方が、何をされたのかハッキリと分かる。しかし、万が一にもフローラさまが言いたくないと仰るのなら、俺は昨日あったことを素直に話すつもりだ。フローラさまが俺が思っている以上に傷ついていたらあり得るかもしれない。


「では、フローラさまにお聞きします。・・・・・・何があったのかは知りませんが、やめるのだけはやめてくださいよ」

「それは俺が決めることではない、フローラさまやランベールさまが決めることだ」

「そう言わないでください。こんな不愛想で変な趣味にも付き合ってくれる人は、アユムしかいないのですから、やめられたら困ります」

「いや、趣味は付き合っていない。変なところで記憶の改ざんをするな」

「付き合ってくれてますよ。だって、私の趣味にも冷たい視線や暴言を吐かない人はアユムが初めてで、毎回反応してくれる、それだけで私は十分ですから」


 そう言ったいつもすました顔をしているスアレムは、少しだけ笑みを浮かべている。それを見て、俺は顔をそらすしかなかった。昨日、フローラさまに告白されたから、女性関係で何かされると昨日のことを思い出してしまう。


「そうか、そんなことを思っていたのか。俺はてっきり俺の反応を受けて楽しんでいる性癖の持ち主かと思っていたぞ」

「失礼ですね。それならもっと激しく当たっていますよ。節度をきちんと守って、アユムの部屋に薄い本を置いています」

「いや、節度を守っているのなら、薄い本は置かないから」


 ふぅ、スアレムと話していると少しだけ気分が軽くなった。本当に少しだけだが。今も身体は重いし、外に出たくないと思っている。だけど、まだシャロン家の騎士であるから、騎士の役目は果たす。ここで逃げ出すのなら、俺は騎士をしていない。


 スアレムと話していると時間が過ぎていき、それぞれの主を起こしに行く時間になった。スアレムと別れて、俺はランディさまの部屋へと向かった。そしていつも通りにランディさまを起こす。


「ランディさま、起きてください」

「うぅん、眠たぁい」

「昨日あんなにはしゃいだのですから、眠たいでしょう。ですけど、朝食は家族一緒に食べる約束ですよ」

「・・・・・・うん、起きる」


 朝が弱いランディさまは、昨日あんなにもはしゃいだから、いつも以上に眠たそうにしているが、俺がシャロン家のルールを言うと素直に起きてくれた。シャロン家は、朝がどれだけ眠たくても、朝食は一緒に取るという規則がある。それを守らなければ、奥様が烈火のごとく怒りだすらしい。未だにその現場を見たことがないから、あんなにも優しそうなエスエルさまが怒ることが想像できない。


 俺はいつも通りにランディさまのお着替えを手伝い、食堂に向かう。その間、フローラさまにどんな顔で会えば良いのかを考えていた。昨日振った相手に合わせる顔なんてないだろう。それも、解決しているとは言えない状態だ。まぁ、俺はいつも通りの顔をしていれば良いだろう。それ以外の顔をする資格は俺にない。


 食堂室へとたどり着き、ランディさまと俺は食堂室へと入る。食堂室にはいつも通りの位置にランベールさまとエスエルさまがおり、いつもフローラさまが座る席の左に座っているルネさまがいる。残りはフローラさまだけである。


 ランディさまの椅子を引いて、ランディさまが席につかれると俺は使用人がいる両端に並ぶ。今の俺の心はまるで受験が始まるまで席に座っている受験生の気分だ。自分が蒔いた種とは言え、ドキドキが止まらない。そんなことを思いながらフローラさまを待っていたが、一向にフローラさまが来ることはなかった。


「フローラさん、遅いですね。何をしているのかしら」


 顔は笑顔なのだけれど、少しだけエスエルさまの雰囲気が鋭くなっているのが分かる。これが、怒りの前兆なのだろうか。いつも優しそうなエスエルさまがこうなっているのを初めて見た。


「確かにそうだね。いつもならこんなに遅くなるはずはないはずだ。アユムくん、何か知らないか?」

「えっ? あっ、はい、特には、何も知らないです」


 ランベールさまから突然声をかけられたため、上手く誤魔化せずにキョドってしまった。これじゃあ何かあると言っているようなものじゃないか。不思議そうにこちらを見ている全員に、俺は虚空を見ながらやり過ごそうとする。しかし、そんなことをする必要はなく、食堂室の扉が開けられた。


 気配もフローラさまのものだから、やっとフローラさまが来た、そう思った。扉の方を見て、俺は絶句して、冷や汗が全身から噴き出す。


「遅く、なりました」


 髪の毛はボサボサで、目は真っ赤になっており、その上クマができて、顔色が悪いとかそんなレベルではないフローラさまがそこにいた。服装だけはいつも通りであるが、顔がやばすぎる。その後ろにいるスアレムは、俺を見るなり俺を睨めつけてきた。・・・・・・すべて聞いたのだろうか。


「ふ、フローラ? 体調が悪いのなら休んでいても良いんだぞ? 無理に出る必要はないからな。エスエル?」

「え、えぇ、そうですわね。体調が悪いのなら休んでおきなさい。一刻も早く治すことが先決です」


 フローラさまの姿を見たランベールさまとエスエルさまがひどく驚かれている。それ以外の人も驚いている。そして、勘が鋭いニコレットさんがこちらを見てきたが、その目を受けることができなかった。


「はい・・・・・・。それでは、休ませて、いただきます」


 ふらふらとした足取りでフローラさまはも食堂室から出ていき、スアレムがフローラさまに付き添っていった。そんなフローラさまを見たから、気を取り直して明るく食事をすることはできず、終わるまで暗い雰囲気のままであった。

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

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[一言] なんだかこの主人公って、悲劇の主人公ぶってるというか、そんな自分に酔ってる的な? しょーもない思考回路してるな。
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