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24:騎士とお姫さま。②

連日投稿二十四日目! 一気に書きすぎて気持ちが悪いです!

 俺とランディさまとアンヴァルで、花畑を日が暮れるまで堪能した。俺といることで何かの枷が外れていたのか、遊んでいるランディさまはいつもよりも楽しそうで元気であった。そのせいか、日が暮れる頃には眠たそうに眼をこすっておられ、ついには睡魔にかなわなかったようだ。俺はそんなランディさまを抱っこしてアンヴァルに乗せて、俺の前に跨がせた。そして俺にもたれかかるような体勢で進み始める。その歩みはゆっくりで、ランディさまを起こさないようにしている気がした。


 アンヴァルでシャロン家まで向かっていると、シャロン家の前にスアレムが立っているのが見えた。スアレムの近くでアンヴァルを停止させた。


「おかえりなさい、アユム。ランディさまは・・・・・・」

「寝ておられる。ランディさまを頼めるか?」

「はい、お任せください」


 俺はランディさまをスアレムに任せ、屋敷から少ししたらすぐにつく距離にある厩舎にアンヴァルを連れて行く。厩舎は大きく、馬や牛を一匹一匹大事に育てている。ランベールさまが生き物を大切にする人であるから、ここに結構な予算を割り当てている。そのおかげで、牛からは高級な牛乳が出ることで有名だ。


「こんばんは、フランツさん」

「あ? アユムじゃねえか。帰っていたのか」

「はい、今日の昼間に」


 厩舎の中で、馬と触れあっているガサツなおっさんこと、この厩舎で牛と馬の飼育を任されているフランツさんがこちらに来た。


「そうか、それは賑やかになるな。・・・・・・で、ここに来たのはそっちの白銀の馬でか? アユムの馬なのか?」

「そうです。でも、この馬は普通の馬ではなくて転変馬という馬で、名前をアンヴァルと言います」

「ほぉ、転変馬か。そりゃ初めて見た。それにしても・・・・・・立派な馬だ。随分と良い馬を持ったじゃねぇか。誇っても良い」

「ありがとうございます。それで、自分が屋敷にいる間、アンヴァルに寝床を貸してほしいのです」

「それはお安い御用だ。こんなに広い場所だ、寝床はいくらでも余っている」


 フランツさんに撫でられているアンヴァルは、大人しかった。どういうことだろうか。いや、だが飼育している人には特有の雰囲気があるから、それで安心して大人しいのかもしれない。学園にいる飼育員の人に触られていても、何もしていないからな。


「じゃあ、アンヴァル。ランディさまとどこかに遊びに行くときには、また力を借りると思うから、その時は頼む」


 アンヴァルを撫でながらそう伝えると、アンヴァルから『分かった』みたいな声が聞こえたような気がした。だが、そんな声を出すはずがない。疲労が溜まりすぎて幻聴が聞こえるようになったのかもしれない。これは早く帰った方が良い。


 俺はフランツさんに深々と頭を下げ、アンヴァルをその場に残して屋敷に戻る。この時間帯はもうフローラさまたちがお夕食の時間だろうが、俺は行くつもりはない。少しだけ一人にしてほしい気分だ。別にフローラさまやルネさま、ニコレットさんにスアレムと一緒にいたくないと思ったことはない。少し精神的にくることをされても、好きだからそばにいる。・・・・・・まぁ、それでも元は一人が好きだったんだから、一人でいたい時くらいはあるよな。


 そんなことを考えながら、屋敷の庭を当てもなく歩く。日はすっかりと落ち、月明かりだけが世界を照らしている。月明かりに照らされている花を見ながら、歩くこんな一人の時間も悪くない。こうして一人で歩いていると、俺が一人であると実感できる。元の世界では、いつも一人。固まって動くことが嫌いで、固まっていないと行動できない奴らにはなりたくないと思っていた。それは、俺が幼馴染に振り回されていたことが原因であろう。


 昔を馴染みながら、歩き続けること数十分、どこかからかすかに歌声が聞こえてきた。それも引き寄せられるほどの美しい歌声だ。俺はそちらに本能のまま引き寄せられ、歌声の方に歩いていく。行きついた先は、観賞用の魚を飼っている池であった。池のそばで歌っているメイド服を着ている黒のロングヘアの女性がそこにいた。


 その女性は、月明かりに照らされ、月が彼女のために彼女を照らしているのかと思うくらいに美しかった。その女性をよく見ると、どこかで見たことのある顔であった。あんなにも美人、て言うか俺から見ればこの世界の人々は美形が多いから逆に美人だと印象が残らない。歪な世界だ。


 俺は目を閉じて彼女の歌声を聴き続ける。これほどに浄化されると思う歌声は初めてだし、今までの疲れが吹き飛ぶくらいに美しい歌声だ。いつまでも聞き続けられると思えるその歌を聞き続け、残念ながら彼女は歌い終えた。黒髪の彼女は一息ついて振り返ると、俺と目が合った。彼女は猫が飛び跳ねるくらいに驚いていた。


「すみません、あまりにも美しい歌声だったので、つい聞き入ってしまいました」

「いえ、大丈夫、です。・・・・・・あれ? あなたは」

「・・・・・・うん?」


 俺と彼女は目と目を合わせて見つめ合う。彼女は俺との距離があり暗かったから俺の顔を見つめてきて、俺は頭の片隅で引っかかっている記憶を一生懸命に取り出す。そして、俺が月明かりに照らされると、彼女は俺の顔を見て驚いた表情をして、俺は彼女のことを思い出した。


「あっ! アユムさん!」

「あなたはプレヴォーさんでしたね」


 数か月前にオークに襲われていたところを助けたマルト・プレヴォーさんという女性であった。一際美人であったから覚えている。名前まで覚えているのは、さほど覚える名前がないという悲しい理由だ。それにしても、プレヴォーさんはシャロン家の使用人ではなかったはず。ここに入ってきたのか?


「覚えていて、くれたのですね。とても、嬉しいです」

「いえ、普通のことですよ。それよりもプレヴォーさんはシャロン家のメイドになったのですか?」

「は、はい。こんなお見苦しい格好で、お恥ずかしいことですが」

「恥ずかしくないですよ。とても似合っていますよ」

「・・・・・・それは、とても嬉しいです」


 プレヴォーさんは顔を俯かせて手をもじもじとさせている。この人も美人だから、他の人から不細工だとか言われたのだろうか。全く、こんなに儚い雰囲気を纏っている女性が不細工だとか、信じられない。


「どうしてシャロン家のメイドになったのですか?」

「・・・・・・え、えっと、その、アユ、じゃなくて、前々からメイドの仕事をしてみたかった、からです」


 詰まりながらも答えることなのだろうか? それともプレヴォーさんは人見知りで俺と話すのに緊張しているのだろうか。それなら、俺の顔を上目遣いでチラチラと見ながら顔を赤くしていることも納得できる。


「プレヴォーさんみたいな女性がシャロン家に入ってきてくれて良かったです」

「・・・・・・そんなことは、ないです。私は、何をしてもダメで、いつも他の人に迷惑を、かけてばかりで。私はメイドに、向いていないのでしょうか?」

「プレヴォーさんが働いているところを見たことがありませんので分かりませんけど、ここで働きたかったのなら、向いているとか関係ないのではないでしょうか。向いていることとやりたいことは決してイコールにはなりませんから、やりたいようにやった方がきっと後悔しないと思います。自分も騎士や執事が向いているとは思っていませんけど、やりたいから続けています。それにやりたいことのためなら、とても頑張れますから」


 俺の言葉を聞いたプレヴォーさんは顔を上げて俺の顔を見てきた。プレヴォーさんはいつ見ても綺麗な顔で驚いていた。もしかして俺にやめろとか言われると思っていたのだろうか。そんな鬼畜じゃないぞ? 俺はやりたい人の背中を押したいだけだ。


「あ、ありがとうございます。元気が、出ました。・・・・・・もう少しだけ、頑張ってみようと思います」

「はい、自分もフローラさまやランディさまの執事を頑張るので、一緒に頑張りましょう」

「・・・・・・はい、頑張ります」


 プレヴォーさんが元気を出してくれてよかった。あんなにも綺麗な歌声を出して美人な人が、才能を埋もれさせるのはもったいない。ぜひとも、プレヴォーさんの歌声をランベールさまに聞いていただいて、彼女の才能を活かしてほしいものだ。あっ、さっきの歌声の感想をちゃんと言っていない。聞いていたのだから言わないと失礼だ。


「キチンと言っていませんでしたが、先ほどの歌声は素晴らしいものでした。あの透き通る声や癒してくれる歌声に聞き入ってしまいました。素晴らしい歌声をありがとうございます」

「い、いえっ! 私が、勝手に歌っていただけです。・・・・・・本当に良かったですか?」

「納得しないのなら、何度でも言いますよ。とても良かったです。毎日聞きたいくらいです」

「ま、毎日・・・・・・」


 俺の言葉を聞いたプレヴォーさんは顔を真っ赤にさせ、手で顔を隠している。俺も我ながら少しだけ褒めすぎたなと思って恥ずかしくなる。


「・・・・・・歌は、亡くなったおばあちゃんに、教えてもらいました。おばあちゃんは歌が上手で、いつも私に聞かせてくれていました。アユムさんに褒められて、嬉しかったですけど、まだまだです。いつか、いつか、おばあちゃんに追いつけるようにも、頑張りたいです」

「それは楽しみです。ぜひ、おばあさまの歌声に追いつけたのなら、プレヴォーさんの歌声を聞いてみたいです」

「・・・・・・そ、それなのですが、す、少しだけ、お願いがありまして・・・・・・」


 またしてもプレヴォーさんはもじもじとさせて俺を上目遣いで見ている。この可愛い顔を何度見せてくるんだよ。まぁ、可愛い顔は何度見ても可愛いから良いんだけど。


「はい、何でしょうか?」

「そ、そのっ、毎日、私の歌声を聞いてくれませんかぁ⁉」


 プレヴォーさんは大きなうわずった声で、俺に頭を下げてきた。突然のことに、俺は少しの間だけ呆気にとられたが、すぐに回復してプレヴォーさんに答えた。


「屋敷にいる間なら、ぜひともその歌声を毎日聞かせてください。自分はプレヴォーさんの歌声のとりこになってしまいましたから、こちらから毎日聞くことを頼み込むくらいです」

「・・・・・・よ、良かったぁ、断られるかと、思いました」

「断るわけがありません。本当に、プレヴォーさんの雰囲気と歌声が合っていて、歌っている時も綺麗でしたよ」


 感激のあまり、つい思っていることを言ってしまった。そんな言葉を聞いたプレヴォーさんは手で顔を隠してどこかへと走って行った。・・・・・・怒らせたわけではないよな? 褒めたのだから。それにしても、プレヴォーさんのおかげで疲れが吹き飛んだ。これなら、もうフローラさまと会っても大丈夫だ。一人の時間はもう十分に取った。


 俺は来た道を戻り、屋敷に入っていく。もう遅くなっているから、自身の部屋に戻っても何も問題ないだろう。・・・・・・いや、フローラさまにご挨拶するか。その方が、機嫌が悪くても少しくらいは和らげてくれるだろう。そう思って、自身の部屋への道から外れて、フローラさまの部屋に行く道を進んだ。


 もう夜であるから、使用人たちも就寝する準備をしている。俺もお風呂に入って寝ないといけない。夕食を一回抜いたところで死にはしないし、俺には一か月食べなくても生きていられるスキルを所持しているから一食分くらいどうということはない。


 ついにフローラさまの部屋へとたどり着いた。部屋の中にフローラさまがいることは分かっており、動いていることから寝ていないことも分かっている。俺は部屋の扉をノックして、フローラさまに話しかけた。


「フローラさま、テンリュウジです。おやすみの前にご挨拶をしておこうかと――」

「早く入りなさい」


 俺が言葉を言い終える前に、扉の先からフローラさまの声が聞こえてきた。その声は抑揚のないものであったため、またフローラさまが怒っているのかと思った。俺は意を決してフローラさまの部屋の扉を開けると、そこには無表情で二人用のソファーに座っているフローラさまがいた、のだが、フローラさまは紫色の下着を履いているだけで、他は何も纏っていなかった。


「失礼します」


 どういう状況か分からずに、部屋の中に入る。しかし、フローラさまのそばには行かずに部屋の扉の前で止まった。お休みの前の挨拶なのだから、部屋の中央部に入る必要はないと判断したからだ。そんな俺の独断を許さなかったフローラさまは、フローラさまの隣に来るように指示してきた。


 指示されたのだから、俺はフローラさまのそばまで行き隣に立つが、ソファーを強く指さされてフローラさまの隣に座る。すると、フローラさまは俺の方に近づいてきて寄りかかってきた、下着姿でだ。俺はさっきからフローラさまに翻弄されっぱなしだ。どうして下着姿でいるのか分からない。だから俺は目のやり場に困る。フローラさまはスタイルが良くて、スリムな体型だ。しかも胸が大きくて良い匂いがすると来たら、これは誘惑しているのか? マジで勘弁してほしい。


「アユム。あなたは、あなたはどうしてランディの騎士なの?」


 何か哲学的なことを言い出したフローラさまだけれど、そんなものは決まっている。


「それは、ランディさまが一番に自分を必要としていたからです。ルネさまやフローラさまのように強くはなく、発展途上であるからこそ、自分が騎士兼執事として選ばれたのです」

「じゃあ、ランディが成長すれば、家でも私の騎士になってくれるのかしら?」

「その時になってみなければ分かりません」


 俺がその時までいるかどうかも分からないのだから、断定することはできない。それにしても、さっきからフローラさまの様子がおかしい。どこかうつろな感じがする。


「アユムは、私のことが好きなの?」

「はい、好きです。ランディさまもルネさまもシャロン家の人たちは全員大切に思っています」

「その好きじゃないの。私が聞きたい好きは恋愛的な好きや、結婚的な好きの話をしているのよ」


 恋愛的や結婚的な好き? そう言われると俺は即答して好きだとは言えなかった。もちろんフローラさまのことは好きであるが、最初に覚悟していた〝絶対に誰とも付き合わない〟という自身との約束がある。この世界で、幸福になってはいけないし、俺のような何もないやつが幸福になる資格はない。


「・・・・・・もちろん、好きですよ」


 俺がすごく間を開けてフローラさまの質問に答えると、フローラさまは俺の胸に顔をうずめて俺の身体を無造作に拳でたたき始めた。


「なんで、そんな間が空くのよ。すぐに答えなさいよ。・・・・・・私は、あなたが好きなのに」


 初めてフローラさまの口から聞くその言葉に、俺は時間が止まったように固まってしまった。俺のことが、好き? とは、どういうことだ? 俺は初めてされる告白に呼吸をするのを忘れてしまった。

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

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