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23:騎士と男の娘。

連日投稿二十三日目! 男の娘再び!

 シャロン家にたどり着くまでの数日間、俺は四人か問い詰められていた。いや、問い詰められているだけなら良かったのだが、他の三人にしたことをやれとも言われた。これがやばかった。一対一の空間でなら良いが、三人に見られている状態ではやるものではないだろう。


 例えば、フローラさまのスカートの中に入った件でルネさまのスカートにも入ったり、ルネさまの胸に顔を突っ込んだ件でニコレットさんの胸に顔を突っ込んだり、ニコレットさんと抱き合った件でスアレムと抱き合ったり、スアレムが俺に膝枕をした件でフローラさまが膝枕をしてくれたり、と散々であった。これが貴族の遊びなのかと思ってしまうと、俺は貴族になれないようだ。


 そんなこんなで、俺たちはシャロン領へと入り、シャロン家が見えてきた。そしてシャロン家の前には可憐なドレスを着ている女の子、いや男の娘がソワソワとしながら待っているのが見えた。あれはまさしく、ランディさまである。ランディさまはフローラさまの馬車が見えると、こちらに大きく手を振ってきた。


 そしてシャロン家の前に着く頃には、多くの使用人が屋敷から出てきた。俺たち五人は馬車から降り、使用人の歓迎を受けた。その中で、一番前にいたランディさまがこちらに走ってきて飛びついてきた。俺はランディさまを優しく受け止めて衝撃を吸収する。


「おかえり、アユム! 早かったね!」

「はい、ただいま戻りました。お元気でしたか? ランディさま」

「うん、元気だったよ。アユムがいなくて寂しかったけど、我慢していた」

「申し訳ございません、ランディさまに寂しい思いをさせてしまいました」


 ランディさまは俺に抱き着いて上目遣いで俺に嬉しそうに話しかけてきている。あぁ、一番の癒しはランディさまのようだ。ルネさまもいつもは癒しなのだけど、さっきのは癒しではなかった。男としては女性四人に、しかも美女とお遊びをしているのは良い状況なのだけれど、騎士としては我慢しなければならなくて辛かった。そして、耐えて見せた。


「ううん、大丈夫。寂しいけど、我慢すればするほどアユムのことを大事だと思う心が強くなるから、これもこれで全然我慢できるよ」

「そうですか、それなら良かったです」

「帰ってきたんだから、僕といっぱい遊んでね!」

「はい、そのつもりでございます」


 こうして楽しそうにしている姿を見ると、本当に女の子みたいだ。男の娘だけど。いや、俺とランディさまはすでに後戻りできそうにないところにまで来ているのだから、もう女の子として接するしかない。


「随分と仲良くしているのね、私の時とは大違い」


 後ろから冷たい声音が俺に投げかけられた。この声はフローラさまであるが、振り返りたくない。俺の唯一のオアシスに癒されているのだから、今だけは何も言ってほしくない。


「無視かしら? わざと聞こえていないふりをしているのなら、やりようがあるわよ?」


 怖い声音のフローラさまに脅されている。やはりフローラさまに何かをしようとするのには、まだ力が足りなかったか・・・・・・ッ! 観念して振り返ろうとしたとき、予想していなかったところからフローラさまに声をかけている人がいた。


「フローラお姉さまも帰っていたのですね。アユムだけで十分だと思いますけど、お姉さまは帰ってこなくても良かったのではないですか?」


 そう、ランディさまがフローラさまに声をかけたのだ。しかも、何か棘のある言葉でだ。ランディさまがフローラさまに向けてこんな言葉を向けたことがあったか? 俺が知る限りではないはずだ。現に、周りの使用人たちも驚いている。


「・・・・・・へぇ、姉に向かってそんな口を利くようになったの? 私とルネ姉さまがいなくなっている間に偉くなったつもり?」


 フローラさまの方を向くと、フローラさまはランディさまの言葉に少し切れているのか視線を鋭くしてランディさまを見下している。そんな高圧的なフローラさまにも屈さずに、ランディさまはフローラさまの前に出てきて余裕の表情で見上げている。


「そんなことはないですよぉ。・・・・・・ただ、アユムを自分の騎士だと勘違いしていそうなお姉さまには、勘違いを正す時間が必要ではないかと思いまして」

「そうね、〝今は〟ランディの騎士ね。それがどうなるかは分からないものよ」

「いいえ、お姉さま。昔も今もこれから先も、ずっとアユムは僕の騎士なので安心していてください。お姉さまの騎士になることは決してありません」

「それはどうかしら」

「いえいえ、お姉さまがどう思おうが変わりません。いい加減、認めてはいかがですか?」


 フローラさまとランディさまが初めて対立している。これはランディさまの成長を喜ぶべきなのか、それとも嘆くべきなのか。いや、それよりも先にこの対立を止めないと。他の使用人がランディさまの言動に驚いていたり、二人の雰囲気にひるんでいたりとか、結構やばい状況が出来上がってきている。出来上がる前に止めないと。


「おかえり。フローラ、ルネ、それにニコレットさんにブリジットちゃん、そしてアユムくん」


 救世主と呼べる存在である、シャロン家の当主であるランベール伯爵が屋敷から現われになった。ランベールさまの登場により、二人の犬猿の雰囲気は消えて、フローラさまはそっぽ向いてランディさまはまた俺に抱き着いてきた。


「何かあったようだけど、どうしたんだ?」

「いいえ、些細なことです。お気になさらず」


 ランベールさまがこちらに来て、さっきのことを聞いてきたが、俺は何もないと答えた。俺はさっきのことを掘り返されるのは真っ平だったからな。それはフローラさまとランディさまも同じだったようで、二人から特に反論はなかった。


「ニコレットさんにブリジットちゃん、二人の娘の面倒をいつもありがとう。二人がいるおかげで私も安心して生活できているようなものだ」


 ランベールさまの言葉に、ニコレットさんとスアレムは同時に頭を下げた。だが、ニコレットさんが頭を下げようとした時の顔は辛そうな顔であった。おそらく大公の一人娘の件でだろう。ランベールさまはそのことを知っているはずであるから、形式的に言っているだけであろう。後で詳細を聞かれるだろう。


「それにアユムくん。君のおかげで、おてんば娘が守られた。感謝してもしきれない」

「いえ、自分はやるべきことをしただけです。お気になさらず」

「本当にありがとう。それよりも、長時間馬車に揺られて疲れているだろう。早く屋敷に入って休むと良い。積もる話は明日にでもしよう」


 その言葉に、フローラさまとルネさまは屋敷に向かい、二人に続いてニコレットさんとスアレムも屋敷に向かう。俺も屋敷に入ろうかと思ったが、ランディさまに止められた。


「ねぇ、アユム。今から遊べない?」

「今からですか? 問題ありません、あまり疲れていませんから」


 主に疲れた原因が四人という、意味が分からない状況だったけどな。


「じゃあじゃあ、近くの森に行こう? 森でお花を摘みたいの!」

「はい、行きましょう。・・・・・・フローラさま、ランディさまと遊んで参ります」


 一応、フローラさまにどこに行くか説明しておく。ここで知らぬ間にいなくなっていて、どこに行っていたのかしら? とか問い詰められても困る。


「えぇっ・・・・・・ご勝手にどうぞ? あなたはランディの騎士なのだから」

「えっ、はい」


 フローラさまに説明すると、フローラさまはこちらを向いて怒りの血相をしてこちらを見てきている。どうしてそんな顔をして見てきているんだ⁉ そしてそんなフローラさまの顔を見たランディさまは、俺の正面に抱き着いてきて、フローラさまに言葉を放った。


「そうですよ、僕の騎士ですよ。だからフローラお姉さまには関係ないことです。勘違いしていないようで何よりです」


 あぁ、またランディさまがフローラさまを挑発している。そんなランディさまの言葉を受けたフローラさまはランディさまではなく、俺を睨んで屋敷に入っていった。・・・・・・なぜ、俺が睨まれなければならないのだ。これ以上、ランディさまがフローラさまに挑発する前に、少しだけ聞いてみるか。


「今日はどうしたのですか? フローラさまにあそこまで仰られるとは思いませんでした。何かありましたか?」


 俺がこう聞くと、ランディさまは俺の身体に顔を押し付け、少し聞き取りずらい声で話し始めた。


「・・・・・・だって、ずるいんだもん」

「フローラさまがですか?」

「うん。学園に行くまでもアユムといたのに、学園に行ってからもアユムを独り占めしていることが、我慢ならないんだ。アユムは僕の騎士なのに、どうして僕が我慢しないといけないんだろうって、思っちゃったら、フローラお姉さまのことが許せなくなって、あんな態度を取っちゃった」


 まぁ、子供らしい考えだし、尤もな考え方だ。俺はランディさまの騎士であるのだから、フローラさまと一緒に学園に行くことは間違っている。だからこそ、それがランディさまは許せないのだろう。


「・・・・・・そうですね、確かに自分はランディさまの騎士ですからランディさまの元にいることが普通です。今が異常なのでしょう」

「な、なら、また学園に戻らずに、僕のそばにいてくれる?」

「申し訳ございません、それはできません。自分はランディさまの騎士であるとともに、シャロン家の騎士でもあります。ですので、自分はシャロン家の人間が、危険にさらされている状況を見過ごせません」

「・・・・・・うん、そうだよね。アユムは騎士なんだから、それが当たり前だよね」


 ランディさまが顔を上げると、その顔は目に涙をためて笑おうとしているが笑えていない顔であった。ここまで我慢させていたとは思ってもみなかった。俺はフローラさまばかりに構っていて、本来の主のことを放っておくとは、騎士の風上にも置けない。


「そうです。しかし、シャロン家を守るからと言って、ランディさまを忘れているわけではありません。自分の一番の主は、ランディさまです。これは絶対に変わることがありません。ランディさまが寂しいときはいつでも呼んでください、すぐに駆け付けます。ですから、そんな泣きそうな顔をしないでください」


 俺はランディさまの瞳に浮かべられている涙をハンカチでふき取り、ランディさまを慰める。


「・・・・・・本当に、駆け付けてくれるの?」

「はい、駆け付けます。例えどんなところにいても、絶対に」


 俺が言っていることは口からでまかせではなく、本当に駆け付けられるのだ。フローラさまが侵入者に捕らえられた時に、フローラさまは俺と≪騎士の誓い≫で繋がっていた。そのおかげで俺はフローラさまの気配を探ることができた。だが、騎士は主の元にすぐに駆け付けなければならない。そう考えていると、この≪騎士の誓い≫は≪順応≫によってスキルを変化させた。


 この≪順応≫の発動条件は、順応すべき状況に陥ることが第一の条件であり、その状況をどう打破するかを考えるのが第二の条件。そして第三の条件にその状況を受けて終えることにある。それがすべて達成されると≪順応≫が初めて発動する。この工程を全開発揮させ、俺の≪騎士の誓い≫は〝誓いを立てた主の元にすぐに現れることができる〟という能力が付け加えられた。


「・・・・・・うん、それならまだ我慢できる。でも、家にいる間は僕のそばにいてよ?」

「はい、承知いたしました」


 ランディさまが俺の言葉に納得してくれて良かった。それよりもランディさまとお花を摘みに行くんだった。


「では、ランディさま。森にお花を摘みに行きましょうか」

「うん! お母さまにお花の冠の作り方を教わったから見せてあげる!」

「腕前を楽しみにしています」


 俺とランディさまは手をつないで森へと行こうとすると、背中を軽く小突かれた。誰かと思ったら、さっきから近くにいたアンヴァルであった。アンヴァルの存在をすっかりと忘れていた。


「そう言えば、この白銀のお馬さんは何?」

「この白銀の馬はアンヴァルで、自分の馬でございます」

「うわぁ、近くで見ると格好いい!」


 ランディさまはアンヴァルに近づいてアンヴァルの胴体に恐れなく触れる。それに対して、アンヴァルは何もせずに大人しくしている。アンヴァルがランディさまに危害を加えないか構えていたが、杞憂に終わった。


 どうしてアンヴァルはフローラさまとランディさまは触ったり乗ったりして良いのに、ラフォンさんや他の人は触ったり乗せたりしたがらないのだろうか。俺の主だからだろうか。そうじゃないと共通点がない。


「ねぇねぇ、アユム! アンヴァルに乗って森まで行こうよ! アンヴァルに乗ってみたい!」

「自分は良いですけど、アンヴァル、行けるか?」


 俺の問いかけに、アンヴァルはこちらに尻尾を向けてきた。これは良いということなのだろう。


「では、アンヴァルに乗って行きましょうか」

「やった!」


 俺はランディさまをアンヴァルの背中に乗せ、俺もランディさまの後ろにに乗る。そしてゆっくりアンヴァルが歩き始める。アンヴァルは案外俺以外の人には優しいのだ。フローラさまがお乗りになる時は速度を落として走ってくれる。俺の時は遠慮がないくせに。


「もっと速くできないの?」

「できますよ、アンヴァル頼む」


 アンヴァルは俺の言葉に少しずつ速度を上げてくれた。俺の時は少しどころかいきなり加速してくる癖に、どうして他の人が乗っている時は遠慮してくれるのだろうか。まぁ、それでいいんだけど。俺の時はいくら速度を上げてくれようとも乗り続けられるからな。


「・・・・・・いつか、アユムと一緒に世界中を冒険できたらいいなぁ」

「いきなりどうしたのですか?」


 ふとランディさまがつぶやいた言葉が聞こえた。まさかそんな願望があるとは思わなかった。ランディさまは静かなことが好きなのかと思っていた。


「は、恥ずかしいけど、どうしても世界を見て、世界を感じたいなって思って。絵本で見るような大冒険をしてみたいとか、思ったんだ。・・・・・・変かな?」

「いいえ、変ではございません。世界を見ることは良いと思います。世界を見れば、自分がどれだけ小さい存在かとか、色々なことに触れられるとか言いますし、いつか行きますか?」

「うん、約束だよ」

「はい、約束です。でも、そのためにはもう少しランディさまが大きくならないといけません。それまでに知識を蓄えていてもいいかもしれませんね。冒険は死と隣り合わせですから、どんな状況でも対応できるようにしておかないといけません」

「冒険が危険でも、アユムがいてくれるなら大丈夫でしょう?」

「そうですけど、念のためです。どうなるか分からないのが冒険ですから」


 そんな話を続けながら、森の中にある花畑にたどり着き、ランディさまがお花を摘んでお花の冠を楽しそうに作り、俺に自慢して俺にくださった。俺はその冠の出来を素直に上手だと言い、冠を付けた。自分ではあまり似合っていないと自負しているが、今は仕方がない。似合うとか似合わないとかの問題じゃないからな。


 俺の次にアンヴァルの分の花の冠も作られ、二人と一匹は悪くない時間を過ごした。こうして、ランディさまが寂しく思っていた時間を埋めれたらいいなと思った。・・・・・・だが、フローラさまは絶対に文句を言ってくるが、こればかりはどうしようもないか。

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

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