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21:騎士と早めの帰省。

連日投稿二十一日目! 今回も長くなりそうだったので、早めに切りました!

 先の襲撃者が侵入してきた件で学園が一時的に閉鎖されることとなり、フローラさまとルネさま、そしてスアレムとニコレットさんと俺の五人はシャロン家に帰省することになった。その経緯はランベールさまに≪死者の軍勢≫で伝えている。ルネさまの件も帰省してから伝えるとも軍勢を通じて伝えた。


「少しの間だけ、アユムさんとお別れですか。寂しいです」

「そうですね。学園にいる間、毎日顔を合わせていたのでサラさんを見ないと違和感があるかもしれませんね」


 途中まで一緒であるサラさんと一緒の馬車に乗っている。サラさんの馬車は、サラさん専用の馬車であり、フローラさまが工面したものだ。何だかんだ言っても、フローラさまの厳しさにもめげずにずっと一緒にいたサラさんをフローラさまは気に入ったのだろう。


 そのフローラさまたちは並んで走っている別の馬車に乗っており、サラさんがどうしてもと言うから俺はこちらに来た。ラフォンさんに言われて、俺の専用馬のアンヴァルも一緒にシャロン家に向かっている。


「ハァ、帰るのが憂鬱です」


 溜息を吐きながら、暗い顔をしているサラさん。学園が一時閉鎖されて家に帰るようにと言われた時も暗い顔をしていた。没落貴族だということは聞いていて、父親がクソだと聞いている。もしかして父親に会いたくないのか?


「もしかして、例の父親のせいですか?」

「・・・・・・はい、そうです。高位の貴族の男を落とすために学園に行けと言われた時に、これで父と離れることができると思いました。でも、まさかこんなにも早く帰るとは思っていませんでしたから、父に何と言われるか」


 サラさんは父親に何をされても、反撃せずに受け続けるだろう。短い期間ではあったけれど、サラさんの優しい一面やサラさんの女子力が高い一面、サラさんがとても心が美しいことは分かっている。だからこそ、俺はどうにかしたい。サラさんがシャロン家に行けばいいのだが、それはサラさんが断るだろう。迷惑をかけられないとか言って。


「・・・・・・もしかしたら、父が私の身体を売るかも」

「それは、本当なのですか?」


 サラさんがポツリと言った一言は、俺の表情を凍り付かせた。俺がその真偽を確認すると、サラさんが慌てて顔をそらした。


「も、もしかして聞こえていました? 聞こえていたのなら忘れてください。くだらない戯言なので」

「くだらないことはありませんよ。自分とサラさんの仲じゃないですか、どういうことか説明してください」


 知り合いが父親のせいで身体を売られたとかになったら、寝覚めが悪い。俺がどうにかできるのならどうにかしたい。


「・・・・・・少し前に、父の部屋から父と誰かの声が聞こえたんです、私をどこかの貴族に売って金を得ようかと。不細工だから、良いように使っても問題ないと聞こえました。それを今思い出してしまって」


 クソな父親だな。自分の娘を、自分の責任のために使うとは。それは絶対に回避したいことだ。今回帰省した時に何もなかったとしても、サラさんが男を落とさなければ、それをするかもしれない。


「そうですか、それは困りましたね。どうにかしないといけませんね」

「はい。・・・・・・誰か、わ、私の、か、彼氏役に、なってくれれば良いのですけれど」


 サラさんは恥ずかしそうな声音でそう言ってきた。それを聞いてサラさんの方を向くと、真っ赤にした顔を俺からそらした。・・・・・・この場には俺とサラさんしかいない。つまり、俺がサラさんの彼氏役になれば、サラさんが無事に帰省できるということか。それは一理ある。


「良いですよ、自分で良ければサラさんの彼氏役になります」

「ほ、本当ですか⁉ ありがとうございます、すごく嬉しいです!」


 俺の手を握って嬉しそうな顔をするサラさんに圧倒されてしまった。そうだよな、父親に売られるのを回避できるのだから嬉しそうになる。


「でも、父親を信用させるために、何か証拠が必要ですね」

「そ、そうですね。・・・・・・私が、アユムさんのものである証拠が必要ですね」


 どこか言い方に裏がある感じであるが、そういうことだ。俺は何かないかポケットの中を探ると、ちょうど良いものが入っていた。豪華な装飾がされている金色の懐中時計だ。いつぞやに、ある魔族を異世界に逃がした時にお礼にもらったものだ。記念にずっと持っていた。魔族のものであるという証拠はないし、ランベールさまのお墨付きの懐中時計だ。


「では、これをどうぞ」

「えっ、こんなに高価なものをもらっても良いのですか?」

「えぇ、大丈夫です。記念で持っていただけなので、どうぞ証拠としてお使いください」


 俺はサラさんにその懐中時計を渡した。すると、サラさんはその懐中時計を受け取り、大事そうに懐中時計を両手で包んでいる。


「本当にありがとうございます。アユムさんからのもらい物、大事にします」

「喜んでもらって良かったです。それで父親を信用させれるでしょう」


 サラさんは懐中時計を嬉しそうに見ている姿を見て、俺も少し嬉しくなった。今まで使っていなかったものを、必要とする人に渡せたのだから良かった。決して邪魔だと思っていたわけではない。


「何とお礼を言って良いのか。アユムさんには助けられてばかりです」

「そんなことはありませんよ。自分だってサラさんに助けられていますよ」

「えっ、そんなところありましたか?」

「はい、ありますよ。それもたくさん。フローラさまにお仕置きされそうになった時に、さりげなくフローラさまの誤解を解いてくれたり、服が少し破れていると知らないうちに直してくれていたりなど、たくさんありますよ」


 それをサラさんに伝えると、またしても顔を真っ赤にしながら驚いている顔をした。


「し、知っていたんですか?」

「はい、知っていますよ。だから自分はサラさんを助けるのです」

「・・・・・・ふふっ、本当にうれしいです。ちゃんと見てくれていて」


 その後、分かれ道までお互いに喋らなかったが、サラさんが手を握ってきて俺も握り返して甘い雰囲気となった。何か、あれだな。正真正銘のラブコメをしている感じがする。まぁ、向こうはそんな気はないだろうけれど。これはあくまでも仮の関係なのだから。


「それでは、ここでお別れですね。またお会いしましょう、アユムさん」

「はい、またお会いしましょう、サラさん」


 分かれ道まで来て、俺はサラさんの馬車から降りた。ここからはサラさんと馬車を運転する女性の二人で家に帰省する。


「本当に、ありがとうございます」


 サラさんは俺にさっき渡した懐中時計を見せながらお礼を言ってきた。余程その懐中時計が気に入ったらしい。それなら良かった。


「それなら良かったです、お気をつけて」

「アユムさんもお気をつけて」


 サラさんを乗せた馬車は走り出し、俺は見えなくなるまで馬車を見送った。ついてきていたアンヴァルに乗って行こうかと思い振り返ると、馬車の中からこちらを見ていたフローラさまとルネさまとニコレットさんとスアレムと目が合った。フローラさまは笑顔でこちらに来いと手で示してきた。


 俺は別にその笑顔に恐れてフローラさまの馬車に乗るわけではない。ただ、示されたから馬車に乗っているだけだ。馬車の扉を開けて、中へと入る。フローラさまは良い笑顔で、隣に来いと指示して俺はフローラさまとスアレムの間に座る。目の前に座っているニコレットさんはあきれた表情をして、ルネさまは不思議そうな顔をしている。


「随分とサラと仲良くしていたじゃない。馬車の中でも、馬車から降りた後でも。一体、何を話していたのかしら?」

「えっ、と。それはですね・・・・・・」


 この四人になら言っても大丈夫だろう。早々に話すことはないし、貴族の問題なのだから理解してくれるだろう、そう思って馬車での仮の彼氏のことをフローラさまに伝えた。すると、フローラさまの笑顔は、段々と般若のような顔になっていった。


「へぇ、サラのために彼氏役になったの。私の許可もなしに? へぇ、そうなの。それはそれは随分とご立派なことをしたのね。私の騎士なのに。へぇ? ・・・・・・で、言いたいことは何かあるかしら?」

「勝手なことをして申し訳ございませんでした」


 フローラさまの圧にやられて、俺は素直に頭を下げて謝った。まさかここまで圧をかけられて怒られるとは思っていなかった。仮の関係なのだから。それにフローラさまもサラさんのことを気に入っているのだからやっても良いと思ったのだけど、違ったようだ。


「まぁまぁ、フローラ。アユムくんはサラちゃんの安全を確保するために行動したんだよ? それは絶対に立派な行動だよ」


 ルネさまが俺のフォローに回ってくれた。さすが俺の心のオアシスのルネさまだ。責めることはしてくれないと思って――


「でも、彼氏は良くないと思うよ? アユムくん?」


 いたのだが、気のせいなようだ。顔には出ていないが、珍しくルネさまからあふれ出している怒気がそれを物語っている。そんなにも俺がサラさんの仮の彼氏になったことがダメなのか?


「フローラさま、おそらくアユムは事の重要性を理解していない様子です」

「いや、ことの重要性ってどういうことだよ」


 スアレムが意味の分からないことを言い出した。これがそんなにも重要なことなのか? 俺には理解できない。もしや、俺の知らない何かが世界の常識になっているのか?


「・・・・・・この顔は、どうやらそのようね。ハァ、アユムはどうしてこうも女関係は疎いのかしら?」


 フローラさまはため息交じりに俺をあきれているが、俺自身が女関係に疎いとは思ったことはない。むしろ得意だと言っても良いくらいだ。なぜなら、不本意ながら幼馴染に四人の女がいるのだからな。子供のころから女性に慣れているのだから、疎いわけがない。


「本当に分かっていないようね、アユム」

「いえ、自分は女性関係に疎いとは思っていません」

「そう思っている男ほど、疎いのよ。じゃあ聞くけれど、サラはどうしてアユムに彼氏役を頼んだと思っているの?」


 どうして? どうしてと言われても、一つしかないだろう。


「自分しか頼れる男がいなかったから、ではないのですか?」

「それもそうね。でも、彼氏役を頼む人は、どうでもいい人ではできないはずよ。どういう人を選ぶのかしら?」

「・・・・・・都合のいい人ですか? 自分はサラさんのことを理解しているので、融通が利く自分を選んだのではないのでしょうか?」


 俺の言葉に、四人は一斉にため息を吐いてきた。えっ、そこまで残念がるほどの回答だったか? 俺は結構いい線の回答をしたはずだったんだが。・・・・・・どういうことか全くわからない。


「これは、サラが可哀想に思えるわ。どれもこれもアユムが鈍いせいね。いや、鋭かったら鋭かったで困るのだけれど」


 フローラさまの言葉に俺は首をかしげるしかなかった。おかしい、俺が間違っているところはなかったはずなのだけど、何故サラさんが可哀想なのだろうか。

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

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