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20:騎士と褒賞。

連日投稿二十日目! これで一区切りです!

 俺は数秒固まった後、相手が国王だと認識したからラフォンさんと同じようにひざまずいて頭を下げた。どうして国王がこんなところに、そしてそんな格好で来ているのか分からないままにな。


「頭を上げよ、ここにはお忍びで来ている。そうしていると私が国王であることがすぐにばれてしまう」


 国王に言われて、俺とラフォンさんは頭を上げて立ち上がった。それにしても、お忍びで来るとか、心臓に悪いからやめてほしいという心境しかない。


「それにしても、お主の先ほどの戦いは見事であった。お主の口から名を私に聞かせてはもらえないか?」

「はい、自分はアユム・テンリュウジでございます」


 あぁ、口から心臓が飛び出しそうだ。この人に下手をすれば、俺だけではなくフローラさまやシャロン家の地位が地に落ちるかもしれないと思うと、吐きそうだ。戦いの方がよっぽどいいぞ。


「そこまで緊張しなくてもよい。今日はお主に礼を言いに来たのだ」

「礼、ですか?」

「そうだ。我が娘を救い出してくれたことについてだ」


 あぁ、そういうことか。何もしていないのにどうしてお礼を言ってくるのだろうと思っていたところだ。それにしても、誰からこの件のことを聞いたんだ? 先の件は、ラフォンさんが助けたことにしてくれと、ステファニー殿下にお願いした。・・・・・・そう言えば、ラフォンさんにはお願いしていなかったなと思い、ラフォンさんの方を見ると、顔を露骨にそらされた。


「ラフォンくんは何も悪くない。私が無理にすべて聞き出した。責めないでやってくれ」

「あ、はい。責める気はございません」


 待てよ、すべて聞き出したってことは、俺が異世界人だということも聞いているということなのか? それは、非常にまずいのではないのか? ステファニー殿下には助けた恩として口止めできたが、国王となれば話が別だ。


「私はすべて聞き出したと言った。お主が異世界人で、勇者であることも、神器クラウ・ソラスを所有していることも、我が娘とお主の主を助けるために、侵入者の主力を一人で討伐したこともすべてだ」


 国王にはすべてお見通しのようだ。さて、国王はどう来るんだ? 俺を勇者として世界を救うように言ってくるのか、それとも何か別の用事で来たのか。


「私は最初、先の一件の結末を聞いて信じられなかった。勇者であるならばまだしも、勇者ではなく騎士が侵入者を討伐するなどあり得るのか、と」

「それは、どうしてでしょうか?」

「・・・・・・非常に言いにくいことではあるが、今もなお騎士とは思えぬ行為をして名を汚し続けている異世界人が原因なのだ」


 騎士? あぁ、イナダのことか。どうせあいつのことだからその地位に甘えて自堕落な生活を送っていそうだ。それを注意できない周りも周りで悪い。


「イナダのことですか?」

「おぉ、そうか、前の世界では知り合いなのであったな」

「はい、不本意ですが」

「そうも言いたくなろう。その騎士は、死が付きまとう戦場に行くにもかかわらず、あろうことか努力をせずに魔王討伐を試みたのだ。その結果が、仲間の足を引っ張り、惨敗して帰ってきたのだ。他の者は努力しているというのに、何たることか!」


 国王さまが怒っていらっしゃる。あいつ、こっちでも中途半端に生きようとしているのか。こっちは中途半端に生きていい様な場所ではないとまだ自覚していないようだな。


「私が本当に怒っているのはその後だ。その騎士は自身の行いで仲間が傷ついたことを省みず、まだ努力をしようとしない。・・・・・・私は、他の者たちが可哀想でならないのだ」

「・・・・・・まぁ、そうですね。あいつは昔からそうでしたから」

「そんな騎士を見てきたからこそ、異世界から来た騎士を信用ならなかったのだ。そこで回りくどく、ラフォンくんに頼み込み、私にアユムくんの実力を見せてもらったのだ」


 それで、国王が来てから戦いを始めたのか。何のための戦いなのか最後まで分からなかった。


「戦いを見るまでは、まだ疑っていたが、先ほどのラフォンくんとの戦いを見て、その疑いはすぐに晴らされた。今まで私が分からぬくらいに積み上げてきた努力を軽んじ、疑ったことを謝ろう」

「ちょ、ちょっと! 頭を下げないでください! 別に気にしていませんから!」


 国王はなんと、俺に頭を下げてきたのだ。別に思ったくらいだから気にしていないし、話さなければ良かった話ではないのか。この王さまは本当に律儀だな。


「それで、お願いがあるのだが」

「・・・・・・はい、何でしょうか?」


 この流れはあれしかないよな。うわぁ、国王から言われるとか嫌だな。まだステファニー殿下の時は失礼だけどマウントを取れていたから良いけれど、この状態はまずいな。


「勇者パーティーに入ってはくれないか?」


 やっぱりこう来ましたよ。もはやこれしかないよな。俺の答えは決まっている、ノーだ。答えもそれしか考えられない。


「正直に答えてもらって構わぬ。私は、ステファニーと同じく強要するつもりはない。さぁ、答えてくれ」

「では、正直に答えさせていただきます。その申し出をお断りさせていただきます」


 俺は頭を下げながらキッパリと断った。ここは正直に答えないと王さまに失礼だからな。それにここでためらっていては、ずるずると勇者一行に加わりそうで怖い。


「本当に正直に言うではないか。先も言ったように強要するつもりはないから、安心するがいい。強要しても良いことはない。・・・・・・ただ、少しでも良いから、異世界人の彼女たちに気をかけていてはくれぬか? お主が彼女たちと何かあったのは知っておるが、それでも気をかけてはくれぬか。そうでないと、こちらが気負いそうになるのだ。元の世界で彼女たちを助けたのなら、この世界でも助けてやってくれ」

「・・・・・・余裕があれば、気をかけます」


 国王の頼みに対し、その答えが俺のできる最大限の答えだった。これ以上あいつらに構っていられない。今は関わってくれるなという思いしかないが、これも断れば国王に悪い印象を与えてしまう。これが本当に精一杯の答えだ。


「うむ、それで構わない。彼女らと何かあったのだから、これも無理は言わぬ。ただ、彼女たちも頑張っていることだけは知っておいてほしい」

「分かっていますよ。元の世界であいつらのことを誰よりも見ていたのが自分なのですから」

「それなら良かった。この話はこれで終わりにして、次の話に移る」


 次? これ以外に何かあるのか?


「ゴホンッ、ところでアユムくんはお付き合いしている女性はおるのか?」

「・・・・・・お付き合いしている女性、ですか?」


 聞かれたことがさっきとは全く違うことになっていた。しかも内容のシリアス度が全然違う。これは何かを察しろとか暗に言っているのか? さすがにこれだけでは分からないから、素直に答える。


「いえ、お付き合いしている女性はいません」

「ほぉ、そうか。好きな女性はどうなのだ?」


 それを聞かれた俺はフローラさまのことを頭に浮かべたが、フローラさまと俺ではお付き合いできるはずがない。俺が一目ぼれしただけで、ただそれだけだ。


「・・・・・・好きな女性は、いませんね」

「そうか! それは良かった!」


 この国王さまは何をこんなにも喜んでいるのだろうか。俺が女性と付き合っていないだけでそんなにも嬉しいのか?


「一人身なお主に、私の孫であるステファニーをどうだ? ステファニーは何でもできる良い子だから、きっと損はしないはずだ」


 え? この人はお孫さんであるステファニー殿下をススメてきているのか? どういう意図があって? とりあえず俺には、本物のお姫さまと共同生活をする度胸はない。伯爵家のお姫さまで限界だ。


「じ、自分にはもったいないお方です。それに自分よりも相応しい人はいると思います」

「そうか? 姫を助けた勇者には十分資格があると思うが。君は異世界人なのだから、ステファニーの容姿を醜いとは思っておらんのだろう?」

「はい、そうでございます。非常にお美しいと思っております」

「それなら良いではないか。シャロン家の娘の護衛をしながら、ステファニーの夫をしても、ステファニーは文句はないと思うぞ?」


 そうではなくて、遠回しに拒否していることに気が付いてほしい。


「す、ステファニー殿下の意思はどうなのですか? 無理にするというのは・・・・・・」

「この話は、ステファニーの方が乗り気だ。そこは問題ない」


 どうして乗り気になるんだよ。やばい、どうやって回避するか何も思い浮かばない。


「まぁ、今ここで急いで決める必要がないことだ、答えを考えておくように」


 ふぅ、良かった。どうやってお断りしようかと考えていたけれど、全然思いつかなかった。後でどうやってお断りするか考えておかないといけない。お姫さまの夫って、胃に穴が開く。一般人の俺が急に王族の仲間入りとかやめてほしい。


「今回の本題に入ろう。今回はステファニーを助け出した褒賞を与えるために来たのだ」


 やっと本題かよ。どれだけ前置きが長いんだ。・・・・・・うん? 褒賞? 褒賞ならステファニー殿下の口止めで良いと言ったはずだ。口止めされていないけれど。


「褒賞ならステファニー殿下から頂戴しました」

「口止めのことであろう? そんなものを褒賞にしていては、王族としての質が問われる。正式なものを与えなければ、こちらも気が済まないというものだ」


 良く分からないが、もらわないと長くなりそうだからもらっておこう。これ以上この国王さまと一緒にいたくない。もう疲労がこの間で限界を突破している。


「お主が欲するものを言ってみよ」

「欲するもの、ですか。・・・・・・申し訳ございません、特にございません」

「何と、地位でも名誉でも金でも何でもよいのだぞ?」

「自分は今のあるもので満足していますので、欲しいものはありません」


 これは本心なのだろう。俺は今の状態を変化させたくないと思っているくらいに、今がちょうどいい。例え絶対に崩れると思う現実でも、今だけは崩してほしくない。


「そうか、それは困った。お主が欲しいものが何もなくとも、私は褒賞を与えなければ気が済まない。何かないか? ラフォンくん」

「・・・・・・そうですね。騎士の爵位はいかがですか? 彼は〝マジェスティ・ロードパラディン〟を目指しているようなので」

「ほぉ! 〝マジェスティ・ロードパラディン〟を目指すものがいるのか! それは良きかな。あの爵位は国の強さの象徴となる爵位であり、平和の象徴でもある。最近はそれを目指すものがいなくて困っていたものだ。しかし、いきなり〝マジェスティ・ロードパラディン〟の爵位を与えるのには、実績と人望があまりにも少なすぎる。最大限与えれる爵位となると、〝パラディン〟くらいか。パラディンの爵位を受けてみるか?」


 いきなり〝パラディン〟の地位を得られるのは大きいだろう。だが、〝マジェスティ・ロードパラディン〟が実績と人望を必要とする爵位なら、それはありがたくない。


「ありがたい褒賞ですが、お断りさせていただきます。実績と人望を積むためには一から自分で努力しなければなりません。そして自分の力で〝マジェスティ・ロードパラディン〟になり、ある目的を果たすつもりです」


 ここで、あなたの弟さんと姪っ子を地に落とすために努力するんですよ、とは言えない。伏せておいても大丈夫だろう。


「ふむ、そうした方が後々揉め事にならずに済むか」


 どうしたものか、と考え込む国王の背後に突然人が現れた。誰かと思いみると、重装備をしている三十代くらいの俺から見てイケメンで金髪の男性がそこにいた。


「王よ、時間です。お戻りください」

「おぉ、アドルフ。もう時間か、仕方がない。この件は追々考えることにしよう。アユムくんもステファニーの件を考えておいてくれ」

「はい、承知いたしました」


 どうやら国王は戻るようであった。これで一安心だ。


「君がアユム・テンリュウジくんか」

「えっ、はい。そうです」


 安どしていると重装備の男性が話しかけてきた。えっ、不敬で殺すとかはないよな?


「君には俺からも感謝しなければならない。ステファニー殿下をお守りしたことにね。本来は俺かラフォンがしなければならないことであったが、どちらも不甲斐ないばかりに君に頼ってしまった」

「お前と一緒にしてもらいたくはない。お前はステファニー殿下の危機に、茶を飲んでいたんだろうが」


 重装備の男性が言ったことに、ラフォンさんが反論した。


「助けられなければ一緒だよ。それに、お前は契約して間もない彼と馬に負けたのだろう? どちらが不甲斐ないんだ」

「それはそうだが、アユムは特別だ」

「ふん、言い訳にしか聞こえないが、勇者なら仕方がないか。勇者には逸話が数えきれないくらいにある。そのどれもが信じられないものばかりに規格外だ。本当だとしたら恐ろしいものだ。・・・・・・それはそうと、ステファニー殿下をお助けしてくれたんだ、何かあった時には俺を頼ってくると良い。俺はアドルフ・グロヴレ、〝ロード・パラディン〟の爵位を受けた騎士だ。では、またどこかで会おう」

「はい、ありがとうございます」


 この人も〝ロード・パラディン〟だったのか。そんなロード・パラディンのグロヴレさんが王の後に付いて行き、俺とラフォンさんも解散となった。




 訓練場からフローラさまの部屋に戻った。汗などは部屋に戻る道中で洗い流す場所で洗い流し、執事服に着替えている。部屋の扉をノックし、フローラさまの返事が聞こえたから部屋へと入る。フローラさまはソファーに座っていた。


「ただいま戻りました、フローラさま」

「・・・・・・こっちに座りなさい」


 フローラさまは座っているソファーの空いているスペースを手で軽く叩いて、こちらに来いと言ってきた。俺は迷わずにそちらへと座ると、フローラさまが俺に寄りかかってきて俺の肩に頭を置いてきた。


「ねぇ、アユム」

「はい、何ですか?」

「アユムは私のこと・・・・・・いえ、何でもないわ。気にしないで」


 言い淀んでいるフローラさまなんてレアだ。いつもならズバズバと言ってくるはずなのに、どうしてそんなに顔を真っ赤にしているのだろうか。何かあったのだろうか。


「アユムは、いつも私のことを助けてくれるわね」

「はい、騎士ですから」

「・・・・・・騎士だから、ね。そうよね、私の騎士だものね。でも、騎士じゃなければ」


 フローラさまの声がいつもよりずっと小さい。俺が騎士じゃなければ、何だ? 俺はその先をずっと待っているが、一向にフローラさまから言葉を発せられることはなかった。


「アユムは、ずっと私のそばにいてくれる?」


 俺はその言葉に、即答して〝はい〟とは答えることができなかった。この世界にずっと居続けるわけではない。この世界に幸せを求めるつもりはないし、元の世界が俺の正しい場所だ。ここが居心地がいいからと言って、居座るわけにはいかない。


「おそらく、いますよ」


 断言せずに答えることしかできなかった。きっと、この世界で元の世界と同じ価値観であったならば、フローラさまは素敵な人がすぐに見つかっていた。だけど、この世界はフローラさまみたいな美人に厳しい。俺はこんな歪な世界の中で、幸せを見つけ出すことはできない。だから、答えられない。

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

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