02:美醜逆転世界の現状。
二日連続で投稿します! これが続けばいいのですが・・・。
この世界は美醜逆転世界だ。前の世界では、美人が不細工と言われるのはどんな世界だよと思っていたけれども、現在では目の前で起こっている。
「このブス! 堂々と歩いているんじゃないよ!」
「・・・・・・すみません」
屋敷の外にある出入り口の近くで、何度か食堂室で会ったことがある茶髪のツインテールの可愛らしい子が、絶世の醜女にいじめられている。これを、今の世界の常識を前の世界の常識に変換させると、顔のパーツがバラバラな女の子が、絶世の美女にいじめられていることになるらしい。天地がひっくり返っても想像できない。ブスがブスと言っているところを見ると、哀れになってくる。悲しくないのだろうか。
「これだからブスは・・・・・・、ブスはブスなりに隅を歩いていれば良いんだよ!」
「・・・・・・ごめんなさい、気を付けます」
さすがにこれ以上見て見ぬふりをできないため、止めることにした。
「何をしているのですか?」
「あら、アユムくん! 聞いてよ、この子ったら私が前から歩いてきているのに、身の程を分からずに歩いていたのよ」
絶世の醜女は俺が話しかけると、気持ち悪いくらいに近づいてきてすり寄ってきた。これは・・・魔物の大群を相手にするよりか破壊力がある威力だ。しかし、耐えろ。ここで問題を起こしてはならない。我慢できるのなら我慢するだけだ。
何故、俺がすり寄られているのかを説明しよう。俺はこの屋敷でボディーガード、騎士兼執事として働いている。そして、この世界で男は全人口の二割しかおらず、醜男と美男(この世界での言い方)割合は、一・五対零・二となっている。残りの零・三は俺みたいな平凡な顔をしている奴らだ。
これが前の世界の世界観なら、どれほど残酷なものになっていたことか。イケメンが大半を占めているということなのだ。俺たちみたいな普通以下は悲しいことこの上ない。
話が逸れたが、結局、この世界の価値観では、顔面平均すれば俺みたいな平凡なやつはそれなりに人気になるのだ。それも、男が少ないとなればなおさらだ。この世界の女性たちは結構男を見るとがっつく傾向がある。これもうれしいことだが、絶世の醜女ならお断りしたいところだ。
「そうですか。でも、この娘に悪気があったわけではないと思いますよ。悪気がありましたか?」
「い、いえ! そんな、悪気なんてちっともないです!」
ツインテールの彼女は、勢いよく首を横に振って悪気がないことを訴えた。それを見た絶世の醜女は、言葉を少しだけ詰まらせて、また何か文句を言いそうになったが、その前に俺が言葉を放った。
「もう良いじゃないですか、本人も反省しているようです。自分からも言っておきますので、ここはどうか抑えてください。せっかくの美貌が台無しですよ」
「あら・・・、それほどでもあるわ。でもそうね、こんな不細工のために怒ることはなかったわ。今日のところはアユムくんの顔に免じて勘弁しておいてあげるわ。次はないわよ。・・・じゃあね、アユムくん」
絶世の醜女は、怒りを納めてどこかへと歩いていくが、去り際に俺の方を向いてウインクしてきた。俺は全身に寒気を感じたが、≪不屈の精神≫のスキルでどうにか耐え抜いて笑顔で送り出した。
くそっ、国の無能な王様が。あんな絶世の醜女を国の財産か何かにしやがって。まだ、普通にしていれば文句はないのだが、あの顔で我が物顔で接してくることが我慢ならない。我慢したけど。どうしてこんな目に合わないといけないのだろうか。
「あの、ありがとうございます。助けていただいて」
「別に大丈夫ですよ。自分はあの人たちを抑え込む役目も担っていますから」
マジで、不名誉なことだ。あんな人たちの相手をするなんて、元の世界にいた時には考えもしなかった。
「あ、あの、私はロレーヌ・キッテです。何度か顔合わせすることはあったと思うのですが、こうして会話するのは初めてですよね。よろしくお願いします」
「自分はアユム・テンリュウジです。同じ職場の同僚ですので、これからお互いに助け合っていきましょう」
キッテさんは俺に手を出してきたので、俺もそれに合わせて彼女の手を握った。すると、キッテさんは俺の握手に驚いたようにこちらを見てきた。どうしてそこで驚くのかが分からない。
「・・・・・・嫌じゃないんですか? こんな不細工と握手して」
「嫌じゃないですよ? そもそも、嫌がるようなことを相手にするのは良くないと思いますけど?」
「えっ⁉ ご、ごめんなさい! ・・・・・・でも、アユムさんは使用人の中である噂が流れていて、それが本当かどうか確認したくて」
えっ、初耳なんだけど。俺も一応使用人の一人だと思うけど、どうして俺の元には噂のうの字すら届いていないのだろうか。
「それはどんな噂なのですか?」
「えっと・・・・・・、アユムさんが、ブス専だということが噂されています」
あぁ、なるほど。確かにこの世界だとブス専とされるのか。しかし、それは俺にとっては名誉のことだ。ブスではなく、俺にとっての美人が来るのなら、どんと来い! ハーレムを作る気でいるぞ! ・・・そんな度胸はないけどね。
「噂は本当なのですか?」
これは、どう言ったらいいんだろうか。本当のことを言ったら、あの絶世の醜女の機嫌を損ねることになるかもしれない。機嫌を損ねるくらいならまだいい。だけど変にやる気を出されたら俺は自分を制御する自信はないぞ。・・・・・・無難なことを言うか。
「自分はそんな人の好き嫌いはないですよ。ただ平等に接しているだけですよ」
これが無難だろう。前の世界の俺ではこんなことを言わなかっただろうし、こんなに人と関わらなかった。環境は人を変化させるな。
「そうなんですね! 素晴らしい考え方だと思います」
うん、この子は良い子だな。て言うか、この世界では美醜逆転の他に、俺が言う美人の待遇が悪すぎるんだ。醜女の待遇が良すぎて、美女が卑下されている。その他にも、普通は男の冒険者が多いと思うが、この世界では男が少ないため、美女が冒険者になることが多い。そして、命を落とすなどあってはならないことだ。まぁ、それは人間全員に同じことが言えることだ。
「では、私は仕事に戻ります。今日は助けていただいて本当にありがとうございました」
「これくらいなら大したことはないので、気にしなくていいですよ。仕事、お互いに頑張りましょう」
「はい、頑張りましょう!」
キッテさんはこちらに手を振りながら元気よく仕事場に戻っていった。俺も彼女が見えなくなるまで手を振り返した。
「随分と仲が良さそうね、アユム?」
「同僚との会話ですよ。どこにそんな怒気を含める要素があったのですか? フローラさま」
背後から近づいてくるフローラさま。振り向かなくてもその声で分かる。しかし、どうにも異様な雰囲気を背後から感じており、声も怒気を含めている。俺が振り向くと、フローラさまはいつもの険しい顔から、人を殺せる視線でこちらを見ている。・・・・・・どうしてそこまで怒るんだ⁉
「アユム、ここに膝を付きなさい」
フローラさまは自身の足元を持っていた扇で指示し、ここに来るように言ってきた。俺はどうせ抗議しても聞いてはくれないことを理解しているから、大人しく言われたことに従う。フローラさまの前でひざまずいた。フローラさまとのこの距離だと、顔を前に突き出しただけでフローラさまの秘部に顔をうずめれそうだ。
「これでよろしいですか?」
「えぇ、良いわよ。そのままにしておきなさい」
何をされるのかと思っていると、手に持っている扇を俺の頭に向かってフルスイングしてきた。当然のことながら、扇は壊れた。そして当の本人である俺はそのくらいの攻撃では痛くもかゆくもない。しかし、どうやら今日のフローラさまはご機嫌は最上級で最低らしい。こんなことをするなんて過去に二度しかない。
「あなたのご主人は誰かしら?」
今度は、膝を付いている方の太ももに狙いを定めたフローラさまが、問いかけながら履いているハイヒールのかかとで俺の太ももを突き刺してきた。痛くはないけど、アブノーマルなプレイと思われるよね。俺は騎士だけどその気はないぞ。
「自分のご主人はランベールさまです」
「・・・じゃあ誰の騎士なの?」
「ランディさまです」
二つの答えがお気に召さなかったようで、フローラさまはより一層かかとに力を入れた。
「違うでしょう? あなたのご主人は私、そしてあなたの守るべき姫も私。そんな名誉ある男が、昼間から他の女に尻尾を振るんじゃないわよ」
・・・・・・何か、あったのだろうか。荒れていることからあったのは確かだけど、その言動に焦りを感じる。何かは分からないが、この人を納めることから始めようか。
「お言葉ですが、フローラさま。自分はあなたの使用人でもなければ、あなたの正式な騎士でもありません。ここで二つを肯定することは、恩義があるご家族に嘘をつくことになります。そこは何卒ご理解ください」
「そう・・・、あなたも私を否定――」
「しかし、自分がフローラさまをどんな時も守る、そう言ったことに嘘偽りはございません。そこのところもご理解していただければ、幸いです」
フローラさまと出会って数か月くらいした頃に、交わした誓い。これを忘れるはずがない。
「・・・そう。忘れているのかと思った。覚えているのならそれで良いわ」
フローラさまはそう言った後に、何も続かなかったので顔を上げるとこちらを見下ろしているフローラさまと目が合った。その顔は、少し顔を赤くして何かいたずらをしてくる顔であった。
「そのことを覚えていた、誰にでも尻尾を振る犬にはご褒美が必要ね。さぁ、お姫様のにおいを存分に覚えておきなさい」
「っふぐ⁉」
フローラさまは自身のロングスカートをまくり上げて、まくり上げている隙に俺の方に一歩近づいてきてスカートの中に俺を入れてきたのだ! これは予想できるか! それよりも、目の前にはフローラさまの純白のパンツがあり、もうすでに鼻がパンツについている。呼吸をするだけで、フローラさまの甘酸っぱい香りが漂ってくる。心なしか、甘酸っぱい香りが広がっている気がする。
・・・・・・これは、今すぐにでも理性を吹き飛ばしてフローラさまを押し倒したい。ここまでされたら、もう我慢できるわけがない。いや、それでもするけども! ・・・あぁ、このパンツの先に、フローラさまのにおいの元が・・・・・・ふぅ、抑えろ童貞。ここで襲い掛かるのはナンセンスだ。
「お戯れはおやめください、フローラさま」
すぐさまスカートの中から脱出して、同時にフローラさまのスカートを直した。ふぅ、あそこまで積極的に来るとは思わなかった。
「もう良いのかしら?」
またしてもイタズラな表情を浮かべて、スカートをひらひらとさせているフローラさま。俺は軽く反応するだけにして屋敷の方に歩き始める。
「もう少し反応してくれても良いんじゃないの? 何なら、さっきの続きをするのも良いわよ、私の〝騎士さま〟?」
「結構です。それよりも早く準備してください。今日はあの日のはずですよ」
「あの日? ・・・・・・あっ、特訓。そうだったわ。早く私をお姫様抱っこをして私の部屋に運びなさい」
「了解でございます」
言われた通りに、フローラさまにお姫様抱っこをする。
「ちゃんと守りなさいよ、私の〝騎士さま〟」
「御意でございます」
俺の首元に回している腕の力が強くなる。しかし、ここまでわがままな人がいたら、さすがに美女でも嫌だろうな。いや、この世界では醜女なのだから最悪と言ってもいいのだろう。でも弁明させてもらえば、フローラさまはこの美醜逆転世界で様々な環境で育ってきたから、気を許す人にはわがままになったのだろう。
それでも、ここまでわがままに付き合えるのは俺だけだろう、たぶん。最近は結構な頻度でさっきみたいなご褒美があるから良いけれども、ご褒美がないときついだろうな。俺は続けるつもりだけど。何故かって? それは簡単だ。俺が、彼女に人生で初めての一目惚れしてしまったからだ。だから彼女のわがままにも付き合える。
俺はフローラさまの部屋へとたどり着き、着替えさせてと言ってくるのは予測で来ていたから、事前にスアレムを呼んでおき、俺はフローラさまの部屋の前で待機しておき、フローラさまの着替えを彼女に任せる。
フローラさまが着替えている間に、自分の部屋から使い慣れている業物で白銀の刃の刀剣を持ってきてフローラさまの部屋の前で待機する。俺専用の剣であるクラウ・ソラスはもしもの時にしか使わない。そうしなければ、あの剣に頼り切ってばかりだからな。
少ししてから、フローラさまは部屋から出てきた。フローラさまは灰色の胸当てを付け、両腕に灰色の籠手、両足に膝までの灰色の鎧を装備している。腰には細剣を携え、これで準備万端か。
「それでは、お気を付けください。フローラさま、アユム」
スアレムに見送られながら、俺とフローラさまは屋敷の敷地内から飛び出した。さすがにこれから魔物と戦いに行くため、フローラさまはおふざけムードを封印しているようであった。
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