17:騎士と捕らわれのお姫さま。②
連日投稿十七日目! もう少しでこの話が終わりそうです!
学び舎から走り急いで馬小屋に到着した。ここには学園に来た初日に探索した時以来だ。たくさんの馬がおり、隣接している場所には飛竜がいる。ここに来たということは、そういうことなのだろうか?
「遠出するには足が必要だろう。前々から飛竜と無馬を一頭ずつ授けようと思っていたが、いい機会だ。なるべく早く、直感でこの中から選べ」
連れて行かれた場所は、馬が放たれている策で囲まれている場所であった。この中から選べと言われても、俺にはどれがいいのか分からない。直感で選べと言われても、どれを選んで良いか分からない。ここにいる馬なのだから、どれも良いのだろうけれど。て言うか、無馬? ただの馬じゃないのか?
「早くしないと、手遅れになるぞ」
「分かっています」
色々と突っ込みたいところだが、今は時間が押している。それにもしも体力がない馬を選んで行けなくなっても俺が走ればいい話だ。気楽に探そう。・・・・・・いや、探すまでもなかった。
「あの馬が良いです」
「あの白銀の馬か。・・・・・・確認する必要はないと思うが、相性が良いか一応確かめてみよう」
俺が指さしたのは、他の馬とは群れずに隅で堂々と空を見上げている白銀の馬であった。格好いいとも思ったが、どこか俺の剣とも似通ったものがあり、あんなにも堂々としている姿に目が引かれた。これが直感と言うものなのだろう。他の馬ではダメだと思ってしまう。
ラフォンさんは近くにいた人に話しかけて、あの白銀の馬を連れてくるようにお願いした。そして、白銀の馬は近くに連れられてきた。白銀の馬は連れてこられている間、ずっと俺の方を見ていた。いや、それ以前にその連れてきた人の顔が引きつっているのは何故なのだろうか。
「触ってみると良い」
「触るだけですか?」
「触ろうとするだけで全てが分かる」
ラフォンさんが触れと言ってくるから、近くにいた白銀の馬の身体に触ろうとする。しかし、白銀の馬にその手を食べられた! えぇっ! どうして食べられたんだ⁉ これは失敗ということなのか⁉ このまま噛み千切られるんじゃないのか?
「ひっ! やっぱり!」
白銀の馬を連れてきた人がやっぱりって言っているけれど、やっぱりって何だよ、もしかしてこの白銀の馬はやばいやつだったのか? と思っていたら、白銀の馬に口の中にある手を舐められている。俺の手を味わってどうする気なんだ?
「アユム、口の中で何をされている?」
「何って、舐められていますけど、どうしたら良いですか?」
「ほぉ、舐められているのか。第一段階は成功だな」
「だ、第一段階ですか? 第二段階もあるのですか? そもそも急いでいるのですけど、これはまだ終わりませんか?」
「焦っても仕方がない。もう少しで終わるから待っていろ」
ラフォンさんに言われて、俺は大人しく舐められながら待つ。と言うか、さっきからずっと顔を青くしている白銀の馬を連れてきた人がものすごく気になるんだけど。顔を青くするということは、下手をすると何かやばいことが起こるんだろうな。
「・・・・・・いっ!」
急がないといけないと心の中で思いながら、一分経とうとしたときに俺の手に痛みが走った。そう、馬にかじられているのだ。しかも俺が痛いと思うほどなのだから、結構な噛む力で。この手の感じからして血が出ていることも分かる。
「ラフォンさん、手がかじられているんですけど、失敗ですか?」
俺の言葉を聞いたラフォンさんは嬉しそうな顔をして、白銀の馬を連れてきた人は驚いた表情をしている。この反応はもしかしなくても成功しているのか? 血が出ているのに?
俺はどうしたら良いのか分からずに白銀の馬のされるがままにしていると、かじることをやめて俺の手を舐め始め、遂に俺の手を解放してくれた。噛んだ跡がついているんだろうなと思ったが、ついていなかった。しかも舐められて唾液まみれのはずなのに、唾液はすぐに乾いた。
跡が付いていないことに不思議に思い、俺の手を凝視していた。そんな時、舐められていた俺の手が急に光りだし、白銀の色をした紋章が手全体に浮かんできた。光が収まると、手首から上にはびっしりと何かわからない白銀の紋章があった。
「まさか今の時点で第三段階まで成功するとは、よほど白銀の馬に気に入られたんだな」
「この紋章は何ですか?」
「その紋章は無馬が有馬になった瞬間であり、アユムと契約した証だ」
「よもや、誰も気を許さなかったこいつに気を許すものが現れるとは思いませんでしたよ」
二人から絶賛の言葉をもらい、少し照れくさくなるが、今はそれどころじゃなかった。早くフローラさまを助けに行かないといけないのだった。
「それよりも、今すぐにこの白銀の馬、て言うか名前はあるのですか?」
「その白銀の馬の名前は、アンヴァルです。能力がどの馬よりも桁外れで高い馬ですので、どこへなりとも行けるでしょう。その馬の真価はそこではないのですが・・・・・・」
「聞くのは後にします。今すぐに乗りたいです。行けるか?」
俺は白銀の馬ことアンヴァルに行けるかを聞く。アンヴァルはそれに答えてくれたのかどうかは分からないが俺の顔を舐めてくれた。
「有馬についてや馬の契約については、共に馬を走らせている時に説明しよう」
「ラフォンさんも行くのですか?」
「当たり前だ。捕らわれているのはシャロンさんの他にステファニー殿下もいるんだ。この国で〝ロード・パラディン〟の私が行かないわけがない」
俺とラフォンさんは、それぞれの馬に準備をさせて出撃する用意をする。ラフォンさんの馬は、一回りくらい大きな白馬であった。俺とラフォンさんの馬はそれぞれに鞍を付けられ、ラフォンさんの白馬には馬鎧がつけられた。アンヴァルのは採寸して作られるらしいから、後になる。
「では行くぞ!」
「はい!」
俺たち二人は馬に乗り、フローラさまとステファニー殿下が連れて行かれたという〝潜伏の迷宮〟がある北部に向かった。
王都から離れ、山を越えて見る限り平原の場所を走っている。その間にアンヴァルの速度を体感したが、他の馬とは比べ物にはならないほどの速度であった。これならこの国の最北端でもすぐにたどり着けそうだ。だが、それ以上に驚いたのが、ラフォンさんの白馬もあの大きさとあの鎧を着ていて同じ速度を出していることだ。不利な条件は白馬の方が上なはずなのに。
「ここからは平原がしばらく続く。ここで有馬について説明しておく」
「はい、お願いします」
並走してきたラフォンさんが、さっき言っていた馬のことについて説明してくれるらしい。
「まず、その馬はお前と契約したわけだが、まだお前の馬ではない」
「仮契約みたいなものですか?」
「いや、契約はしている。そのことを説明する前に、この種の馬について説明しなければならない」
「馬について?」
「そうだ。この馬は見た目こそ普通の馬だが、普通の馬とは異なっている。この馬の名前は転変馬、名前の通りに変化する馬だ」
変化? どういうことだ?
「この転変馬は、契約した者の性質と同じ性質に変化していく変わった馬だ。変化する前が無馬で、変化した後が有馬となっている。例えば、素早いものが契約者となれば足が速くなり、力が強いものが契約者となれば攻撃力が高くなったりする。だから、本当にアユムの馬となる日は、アンヴァルがアユムの性質を認識してその性質に変化して初めてアユム・テンリュウジの馬になる。それまでは身体能力が非常に高い馬だ」
「なるほど、それで自分の馬じゃないのですね。なら第一段階とか第二段階とかは、性質関連なのですか?」
「そうだ。第一段階は馬との共鳴。第二段階が契約成立。そして第三段階が性質の変化だ」
・・・・・・うん? 何か矛盾していないか? 俺は第三段階まで行ったと言われたが、俺の今の段階は変化していない第二段階のはずだ。
「あの、今の自分とアンヴァルの状態は第二段階の状態ですよね? でも、この手のを見た時に第三段階と言っていましたけど、どういうことですか?」
「あぁ、そのことか。段階は、第一段階、第二段階、第三段階、第四段階まであり、第一段階の共鳴は何も変化がない。しかし、第二段階から契約した者に変化が訪れる。第二段階は手の甲に丸い紋章が浮かび上がり、第三段階は手全体に紋章が浮かび上がり、第四段階で腕全体に紋章が浮かび上がる。その状態はまさに第三段階のそれだ」
「ですが、それは矛盾していますよね?」
「稀にいるんだ、転変馬に非常に気に入られて第二段階なのに第三段階の状態に契約の証が変化することがな。つまり、アユムはアンヴァルに非常に気に入られているんだ。非常に気に入られていれば、変化が著しく早くなる。だから、この走っている時に変化してもおかしくはない」
「そういうことですか」
非常に気に入られているのは良いが、俺のどこに非常に気に入る要素があったのか疑問だ。もしかして俺の勇者としての力に引かれたのかもしれない。俺がアンヴァルの毛並みに最初に目が引かれたのと同じように、アンヴァルも俺の白銀の力に引かれたのかもな。
「本来は第二段階、第三段階に移行するのに一年くらいかかるはずなのだが、上手くいって良かった」
「第一段階だけでも移行できていれば良かったってことですか?」
「そうだ。第一段階はすぐに終わるからな。それよりも、神器クラウ・ソラスを出しておけば、変化が早くなるから出しておいた方が良いぞ」
「どうしてですか?」
「転変馬は、外面と内面の両面を見せることでより正確な変化が起こる。今のアユムとアンヴァルの状態は内面だけしか見せていない状態になる。外面、戦う姿や武器や声の出し方などの色々な要因で転変馬は変化する」
「分かりました」
俺はラフォンさんに言われた通りに、鞘付きのクラウ・ソラスを異空間から取り出した。そのクラウ・ソラスを馬の鞍に装着できるため、鞍に装着して剣を定着させた。
しばらく会話がないまま馬を走らせていたが、どうしてかラフォンさんの馬が遅れ始めてきた。最初は白馬の方が速かったが、今は俺のアンヴァルの方が速い。
「どうしました? 速度が落ちてきていますよ。もうそちらの馬はスタミナ切れですか?」
「そんなわけがない。さっきと同じ速度で走っている。アンヴァルの方が速くなってきているんだ」
言われてみれば、速くなっている気がする。だが段々と速度を増していたせいか、実感が湧いていない。最初と同じで十分に速い。俺がスキルなしで走れば確実において行かれている。スキルありで全力なら俺は一瞬でたどり着いて勝負にならない。本気ですればの話だけど。
「・・・・・・アンヴァル? 速くなってきていないか? 少し速度を落としてくれないか⁉」
今度は実感が湧くほどに速くなっているのが分かった。ラフォンさんの白馬と共に向かう気などさらさらない感じで、白馬との距離を離していく。早く着くのはいいけれど、これはこれでまずくないか? 俺は潜伏の迷宮の場所を知らない。
「私のことは良い! 行けるのならお前たちだけで行ってこい!」
「でも、場所を知りません!」
「ここからずっと真っすぐに行って看板を目印にたどり着く! とにかく真っすぐだ!」
「了解しました! 先に行っています!」
叫びあわないと聞こえないくらいの距離になっており、少しするともうすでにラフォンさんとの距離は離され、ラフォンさんが見えなくなった。・・・・・・これが、性質が変化した有馬の力か。これはアンヴァルの力がすごいのか、俺の力が強いのか。どちらかもしれない。
それにしてもこのアンヴァルという馬は、何も聞きやしないな。速度を落とせと言っても何も聞いてくれない。人間の言葉が理解できないわけではないとラフォンさんから聞いた。なら、このアンヴァルは俺の言葉を無視して速度を上げたのだろう。
何はともあれ、今は早く着くのなら何でもいい。フローラさまが誘拐されてから、もう一時間以上経っている。あと到着するまでどれくらいか分からないが、二時間はかけたくない。フローラさまの命は敵の手にある。今のところスキル≪騎士の誓い≫で命があることは分かる。
・・・・・・あっ、≪騎士の誓い≫は忠誠を糧に力を上げることができ、主がどこにいるのか分かるんだった。心のどこかで混乱していたから、このことをスッカリ忘れていた! これで場所の心配はいらない。どうして早くに気が付かないんだ!
「くそっ! アンヴァル、全速力で頼むぞ!」
アンヴァルは鼻からデカい息を吹き出して答えてくれた。そしてアンヴァルはさっきの比にはならないくらいの速度で走り始めた。・・・・・・振り落とされないか心配だ。
潜伏の迷宮の場所には、アンヴァルのおかげで約三十分でたどり着き≪騎士の誓い≫で大体の場所が分かった。ラフォンさんの看板で分かるという言葉も頼りになったが、さすが潜伏の迷宮と言うだけある。森の中にある入口の場所が分かりにくい場所に作られている。しかも入り口は木と木が支え合っており、人一人くらいしか入れない狭さだ。
「アンヴァル、ここまでありがとう。俺が一人で入ってくるから、ここで待っていてくれ」
疲労が丸出しのアンヴァルの身体をさすりながら労わった。アンヴァルは俺の言葉に木の陰に入って涼んでいる。俺はクラウ・ソラスを鞘から取り出して、狭い入口だから構えることはできないが、いつでも戦闘ができる準備をした。
狭い入口を俺一人で入っていき、すぐにコンクリートでできている迷宮らしくなってきた。一本道になっているため下に続く階段を下りていく。こんな形で迷宮に初挑戦になるとはな。攻略されているから挑戦とは言えないか。
迷宮とは、古代の人々がその中に宝を隠すために作り出したとされている。その一説が一番説得力があり、他の説には神々が作り出したなどある。結局のところ迷宮の起源については何も分かっていない。だが、ここが迷宮でよかった。迷宮は、迷路の正反対とされて一本道となっており、宝の場所にたどり着くにはすべての道を通るようになっている。
何か仕掛けがあるらしいが、迷わずに済むところがいい。そしてこの迷宮は円状になっているのか。中央に行ったり、中央から離れたりして分かった。フローラさまの気配が近くに感じるのに、手が届くことはない。無理に壊そうとすれば迷宮が崩れるかもしれないから、壁を壊すことはできない。
全力で走っていると、先が開けた場所になっているのが見えた。そこはフローラさまがいるゴールではなく、ただの通過地点でしかなかった。誰かがいるのが分かるが、道は一つしかないからその場所に突入した。開けた場所には、ボサボサの長い茶髪に左目に眼帯をつけている女性が刀剣を携えて真ん中に立っていた。
「あ? 騎士王じゃないのかよ。騎士王が来ると聞いてここで待っていたのに、よりにもよって来たのがこんなガキなのかよ」
口が悪く、目つきも悪い。これが侵入者と言うか、ならず者と呼ぶに相応しい風貌だ。
「おい、お前俺のことを悪く思っただろう。お前の考えることなんてお見通しなんだよぉ!」
「・・・・・・話している暇はない。そこを通してもらおう」
「嫌だね! 通すわけがない。通りたければ俺を殺してでも通ってみろよ! できればの話だけどな!」
眼帯の女は刀剣をおもちゃのように扱って、俺を馬鹿にしてくる。どうして俺と敵対する相手は大抵が俺を甘く見てくるのだろうか。甘く見なかったのはラフォンさんくらいか。
「では、遠慮なく通してもらおう」
女に言われた通りに力尽くで通らせてもらうことにした。女は俺の言葉を聞いてもニヤニヤとした顔をやめておらず、何も構えていなかった。俺が今持っている剣は、この世にこれ以上ないとされる神器クラウ・ソラス。そして俺はその担い手。
「っ‼ ばっ、ぶはっ!」
「道を開けろ、俺はこの先に用がある」
俺は女をすれ違いざまに斬りつけ、女を戦闘不能にさせた。女は血を噴き出させながら、進もうとする俺に声をかけてきた。
「おい、あんた」
「何だ?」
「あんた、何もんだ?」
「俺か? 俺はシャロン家に仕える騎士見習いだ」
そう言い残して、俺は迷宮の奥へと進んでいった。
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