16:騎士と捕らわれのお姫さま。
連日投稿十六日目! しんどいです!
フローラさまの気配がない以上、スアレムの元へと向かう。スアレムの場所にはサラさんもいるようであった。二人がいるのにもかかわらず、何故フローラさまがいないんだ? もしかして、フローラさまがどこかに連れ去られていったのか? そうなればやばい、どこにも気配がしないから追跡できない。何かしらの方法で気配が探れない状態であってくれ。
スアレムとサラさんは学び舎の三階におり、そこには侵入者と思われるやつらがいる。ルネさまのように襲われているわけでもなく、生徒や先生が纏まっていてその周りに侵入者がいるところから、拘束されているのだろう。状況を細かく把握しながら、俺はルネさまとニコレットさんを担いで、学び舎に入った。
「アユム、どこに向かっている?」
階段を駆け上がっていると、担がれているニコレットさんに問いかけられた。
「三階の教室です。そこに三階の生徒や先生たちが全員固まって捕まっているようです」
「・・・・・・三階か。あいつは四階だから会わなくていいようだな」
「誰がいるのですか?」
「大公の一人娘だ。あいつは授業を聞く気がないが、ある男を気に入っているから、そいつと授業を受けるために教室にいるらしい」
「随分と詳しいですね」
「嫌でも耳に入ってくる。あいつの声はデカくて虫唾の走る声だから耳に響いて気持ち悪い」
「・・・・・・それはお気の毒なことです」
どうやら、四階も同じように侵入者がいるようだ。そもそもどれだけの人間がここに侵入してきているんだ? これほどの人間が侵攻してくれば、遠く離れた俺でも分かるはず。何かスキルを使ったのかもしれないが、今の俺には分からないことだ。
三階にたどり着き、ルネさまとニコレットさんをその場で降ろした。ニコレットさんから睨まれながら足を踏まれたが、今は甘んじて受けよう。騒げばすぐにばれしまう。
「これからどうするんだ?」
階段の前にて三人でなるべく密着して、話し声も聞かれないようにする。三人でキスしそうな距離にいるが、今は気にしている場合ではない。ニコレットさんの問いかけてきた艶がある唇に目が行くのも、ルネさまの丸出しの胸に目が行くのも仕方がない。
「おい、聞いているのか? 人と話すときは目を見て話すと言わなかったか?」
「やめてください、もう見ませんから、目を見ますから」
視線に敏感なニコレットさんに気が付かれ、頬をつねられた。俺がそう言うとニコレットさんは手を離してくれた。そして真面目な話に入る。
「自分が≪隠密≫スキルを使って、侵入者たちを一人で片づけます」
「それは誰も傷つけることなく、片付けることができるのか?」
「はい、できます。自分の≪隠密≫はほぼ誰にも見つかることがないので、≪隠密≫と≪一閃≫を使えば一撃で片づけられます」
「ほぼではダメだろう。絶対に見つかることは許されない」
「見つけられることができるのは、自分より強く、看破するスキルを持っている相手です。自分より強い相手はあの教室にいないようなので、誰にも見つかりません」
俺はそう言い切った。侵入者の実力を見た限り、脅威になる相手はいなかった。だが、あいつらがどうやってここに来たのか分かっていない以上、何かしらの特殊なスキルを持っている奴がいることは確かだ。絶対とは言えない。が、見つかっても秒で片づける。人質か何かが傷つけられる前に。
「なら行って――」
ニコレットさんが行くように指示しようとした時に、階段から誰か上がってくるのが見えたらしい。ただ、女二人が階段を上がってきていることに、俺はすでに気が付いていた。息を殺してどこかへと逃げようとする。そしてルネさまも悲鳴を上げそうになるが、俺はルネさまの口を押さえ、ニコレットさんの姿勢を崩して俺に倒れこませた。
「もう頭は行ったのか?」
「そうよ、行ったわよ。これから取引を行う準備をするんだって」
女二人は俺たちに全く気が付かずに目の前を通って行った。そして、完全に行ったことを確認するとルネさまとニコレットさんから手を外した。
「・・・・・・今のはどういうことだ?」
「今のが≪隠密≫スキルです。自分と触れている相手なら、相手も≪隠密≫スキルによって姿を消すことができます。ただ、気配と姿を消すだけで声とか音は聞こえますけど」
俺一人の時なら≪隠密≫ですべてを消すことができる。俺の好きな誰にもばれないができるわけだ。さて、侵入者が歩き回っているということは、二人をここに置いていくのは危険だな。
「ここにも侵入者が来ますので、二人も一緒に行きましょう」
「わ、私も⁉」
俺の言葉にルネさまが心底驚かれている。それも当然だ、ルネさまはあまり戦闘がお得意ではない。ルネさまは知能派の人だ。フローラさまはどちらかと言えば武闘派で、ランディさまはあのようなお姿をしていて文武両道だ。
「はい、その通りでございます。ここにおられた方が危険です。自分についていてください」
「そ、それは、一生俺に付いてこいっていう遠回しなプロポーズ?」
「どうしてそうなるのかは分かりませんよ。とりあえず、今は自分の後ろについていてください。ニコレットさんも付いて行くということで良いですか?」
一番の鬼門であるニコレットさんに聞く。ニコレットさんは少しの沈黙の後、軽く頷いて了承を得た。そうと決まれば、いち早く行動に移す。今が誰も行動していない絶好のチャンス。変化がないということは、その空間に馴染んでしまっている。なら、一番油断している時だ。
「行きましょう。俺の肩に手を置いてください」
俺の言葉に、ルネさまとニコレットさんは頷いて肩に手を置いてくれた。そして≪隠密≫を発動させ、姿を消す。音が消えないため、足音を出さずにゆっくりと歩いていく。集められている教室の入り口が見え、幸運にも扉が開けられている。姿を消している俺たちだが、音を消すことができないため開けることができなかった。しかし、開けられているのは良かった。
そこから教室の様子を見ると、感知した通りに生徒と先生が集められて手首を縛られて座らされている。周りには侵入者が武装している。数が十人なら、≪一閃≫で行く。さっき無力化しきれなかった人がいたから、今回はスキルを他のスキルを使う。≪一閃≫は筋力で左右されるから、≪剛力無双≫という力を上限なく上げることができるスキルを使う。本気でやれば海を切り裂いてしまうが、そこは微調整をすれば、問題ない。
こいつら一人一人の戦闘力を≪感知≫で記憶し、どれほどの微調整で上手く無力化できるかを図る。一人一人別々の威力であるが、俺ならできるだろう。やったことはないけれど、すべてが同じ斬撃で撃たれているとは思っていない。本能でコントロールしていただけだ。最悪、死に至るやつが出るが、その時はその時だ。
俺は二人に目配らせして、これから無力化することを伝える。二人とも準備がいいようだ。俺は刀剣を片手で持ち片手は刃にそえた。そして、≪十撃一閃≫を心の中で唱えて侵入者十人すべての背中に大きく斜めに傷をつけた。血が噴き出し、自身の状況を呑み込めないまま全員倒れてくれた。
「き、きゃぁぁぁっ!」
その状況を見ていた一人の生徒の女性が、驚いて悲鳴を上げた。それに触発されて他の人たちもパニックになっている。そりゃ、人が一斉に血を噴き出して倒れたら怪奇現象で叫びたくもなるが、今は落ち着いてくれないと、他の奴らが来る。とか思っていると、こちらの声が聞こえてきた侵入者たちが三階に集結してきている。
俺は隠密を解いて拘束されて集められていた生徒の前に姿を現す。そこでも驚いて悲鳴を上げられたが、別にお化け屋敷のお化けじゃないんだから、そこまで悲鳴を上げることないだろうに。少し俺の顔が怖いのかなと思ってしまうだろうが。
「あっ、アユムさん!」
「無事で何よりです、サラさん」
拘束されている中にいたサラさんが集団から出てきた。縄で両手首を縛られているサラさんの縄を斬って外し、剣を構えてどのように集結している侵入者を処理するかを考える。
「アユムさん、実は――」
「すみません、サラさん。話は後にしてもらっても大丈夫ですか? 今は侵入者がここに集まってきていて、それを対処しないといけません」
「早めにお願いします。侵入者の件も大事ですけど、こちらの話もアユムさんにとってはもっと大事です」
「分かりました。秒で終わらせます」
真剣な表情で俺に話しかけてきたサラさんに、ただならぬ事情を感じ俺はスキルを使って全力で終わらせる気でいた。しかし、この校舎に入ってきている覚えのある気配がした。これはラフォンさんの気配だ。一階をラフォンさんに任せるとして、俺は四階と五階を率先して侵入者を狩ることにした。
「ニコレットさん、これで彼女たちの縄を斬ってあげてください」
俺はニコレットさんに刀剣を柄の方を向けて突き出す。それをニコレットさんは困惑した様子で俺の顔を見てきた。
「良いのか? これから侵入者たちを殲滅しに行くのだろう? 剣が必要なはずだ。縄を解くには便利だが必要なわけではない」
「自分は確かに剣で戦います。しかし、剣が必要なわけではありません。それに剣で戦わない方が手加減がしやすいです。ですのでそれで拘束を解いてください。それにもしもの時の武器が必要でしょう」
「・・・・・・分かった。くれぐれも無理はするな」
ニコレットさんに剣を渡し、俺は≪感知≫でどのような道筋で侵入者を狩っていくかを考える。倒し方と言えば腹パンして壁に当てていれば適度に怪我をしてくれるだろう。もしも壁に穴が開いて落ちていったら、ご愁傷さまだ。どうしようもない。
使うスキルは≪神速無双≫で、上限なく速度を上げることができるスキルだ。スキルはこれだけで十分で、速度で力が上乗せされる。・・・・・・よし、倒していく道筋も出来上がったことだし、秒で終わらせる。サラさんが言いたいことは、おそらくフローラさまのことだろう。
俺は≪神速無双≫を使い、一瞬で教室を出て四階へと駆け上がる。ここでも微調整しないと走っただけで校舎が壊れるし、下手するとあらぬ方向に身体が吹き飛ばされるかもしれない。
まず一人目の獲物を発見し、肩にめがけて拳を振るう。肩もろとも背後にある壁に叩きつけようかと思ったが、ここで思いもよらぬ事態が起こった。俺の拳が当たった肩の部分だけが消し去ってしまった。それも綺麗にだ。これでも強すぎるのか。いや、強すぎるのなら、拳でも行けるはずだ。
片方の肩から下がない女を無視して、次の相手に向かう。こちらに走ってきている女を発見した。そしてそいつに向けて、遠くであるが拳を振るった。すると拳から風圧が出現して、走ってきている女に直撃した。女は風圧に耐えきれずに後ろへと吹き飛ばされた。
やっぱり、剣で飛ぶ斬撃ができるのなら、拳でも行けると思った。これなら簡単に拳で無力化できる。この調子で、次々に侵入者を吹き飛ばしていく。途中で実力者に会うこともなく、つつがなく四階と五階の侵入者の排除が終わった。他の階でも捕まっている人がいたが、俺は忙しいから他の人に任せることにした。
二階と一階については、ラフォンさんや他の実力のある人たちが事態の鎮静化に取り組んでいる。三階での叫びが、良くも悪くも状況を一変させた。叫んだ女性が俺の顔を見ても叫んだことについては帳消しにしてやろう。そう思いながら三階のサラさんやルネさまたちがいる教室に戻ってきた。
「ただいま戻りました。それで、話という――」
「アユムっ!」
サラさんに聞こうとしたが、さっきまで捕まっていたスアレムが珍しく取り乱しながらこちらに駆け寄ってきた。
「どうしよう、どうしよう、アユムっ」
「落ち着け。落ち着かないと話が分からないぞ。一体何があったんだ?」
「これが落ち着いてられないよ! フローラさまが誘拐されたのに!」
・・・・・・やはりか。フローラさまの姿がこの教室にない時点でその可能性は高くなっていた。嫌な予感が的中していたわけか。
「どうしよう・・・・・・」
「一旦落ち着け。俺が必ずフローラさまを助ける。だから今は状況の説明とフローラさまの居場所を正確に教えてくれ」
俺がそう言うと、スアレムは落ち着くために深く息を吸って吐いてをして、少しだけ落ち着いたようであった。だから、俺はもう一度スアレムに事の状況を聞いた。
「ここで何があった? フローラさまはどこにいるんだ?」
「・・・・・・ふぅ、落ち着きました、最初から手短に話します。事の発端は授業中、侵入者たちが教室に入ってきたことから始まりました。侵入者たちは私たちに動きを止め、こちらの言う通りにするように指示しました。私たちは混乱しながらも指示に従い、一人ずつ手首を縄で縛られ固まって座らされました。ただ一人を除いて」
「・・・・・・まさか」
「そのまさかです。フローラさまが抵抗したのです。フローラさまはアユムのおかげで、なまじ実力がついていましたので、侵入者を五人ほど倒しましたが、リーダーの女に倒されて捕らえられました」
・・・・・・ふぅ、拘束するのが好きだけど拘束されるのが嫌いなフローラさまがしそうなことだ。だが、たぶんフローラさまは勝てると思ってやったのだろう。そうじゃなければやらないし、フローラさまも馬鹿じゃない。リーダーの女が今回のネックになりそうだ。
「そして、あるお方がリーダーの女に連れて行かれそうになりました」
「あるお方?」
「はい。この国の第一王女であるステファニー殿下です」
第一王女⁉ 第一王女がこのクラスに在籍していたのか。・・・・・・正直、フローラさまからは学園のことを何も聞いてなかったからこれに驚きだ。第一王女ということは、国に対する宣戦布告か、国に身代金を要求するのか。だが、それならどうしてフローラさまが誘拐されるんだ?
「リーダーの女は、ステファニー殿下に加え、フローラさまの二人を連れて音もなくその場から忽然と姿を消しました。・・・・・・私は聞こえました、フローラさまを本気だと示すために見せしめとして殺す、ということを。お願いします、アユム! 早く、早く、フローラさまを探してください!」
「それは分かっている。どこに行ったのかを何か言っていなかったか?」
「・・・・・・確か、〝潜伏の迷宮〟と言っていました」
それはどこにあるんだ? と誰かに聞こうとしたときに、後ろから声がした。
「この国の最北端にある迷宮だな、そこは」
「ラフォンさん」
剣を腰に携えているラフォンさんがそこにいた。後ろには他の先生たちや騎士の人たちがおり、教室の安全を確認するために入ってきた。
「全く、一人で突っ走るとはどういう要件だ?」
「すみません、ラフォンさん。小言はあとでお願いします。今は大事なことがあります」
「分かっている。アユムの主を助けに行くのだろう? ならついて来ると良い、便利なものを貸してやろう」
「お願いします。それでは、フローラさまを救い出してきます」
俺はルネさまたちに頭を下げて、教室から出て行っているラフォンさんについて行った。
最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。
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