133:騎士とアンジェ王国。⑤
お久しぶりです、山椒です。
書く気力が戻ってきたので再開することにしました。さすがにこの章は終わらせとかないといけないと思いましたので。
ですが、一つだけ注意してください。この話は前もって書いていた話なのでおかしくないと思いますが、次からが本当に前の話を見直しながら書いているのでおかしな点があるかもしれません。
そこら辺を指摘してくださるとありがたいです。すぐに訂正します。
俺とサラさんと三木は三人で等間隔を保って走りながら魔法の発生源を探していた。少し体力が消費しているサラさんに合わせて移動しているが、それでも探す分には不足ない速さだった。
本来なら三木と別れてまた三組になった方が効率が良いのだが、稲田に連れてこられて場所にわざわざ行くのも時間の無駄だということはあるが、何よりサルモンさんが地道に探していたため三木が探すべきところはもうサルモンさんが探していた。
そしてサルモンさんが国の周りではなく中央にかけて探し出していた。このことから、俺が即座にカバーできる間隔に広がって魔法の発生源を探すことに作戦を切り替えた。
ただ、しばらく探していても一向に魔法の発生源が見つかることはなかった。まだ国全域を探しているわけではないためこう言うのは早いが、もう国の半域以上は探していると思っている。
探している中、俺たちのことを襲ってくる人はいなかった。国中を動き回っているから人を見るかと思ったら、国民を一人も見ていない。元に戻っている≪完全把握≫で俺たちを遠くから監視している人を感知できているため、その人が俺たちの移動に応じて国民を移動させていることは理解できた。
現にアンジェ王国を薄く感知範囲を広げたことで国民がいくつかの集団にわかれて移動していることが確認できた。そうなれば、もしかすれば術者もその集団に入っているかもしれないと思った。
「サラさん! 三木! 少し止まってください!」
俺は二人を大きな声で呼び、二人は止まった俺の元に来た。サラさんは今までに蓄積された疲れがどっと出ている様子で、三木はまだ余裕がある。
「どうしたんですか?」
「もしかして見つけたの?」
「いや、違う。この見つけ方はおそらく術者が移動している可能性があるからダメだ。俺たちを監視している人がいるんだが、たぶんそれに応じて国民を移動させている。だから俺たちは国民と遭遇していないと思っている」
「それは合っていると思うわ。フロリーヌさんの直属の部下がどこにいてもテレパシーが使えるらしいから」
この世界で電話みたいな情報伝達手段があることは有利であるから、こうして探していても術者が移動していれば俺たちが術者に会うことは不可能になる。そうなれば、情報伝達手段を絶つか、逃げれないくらいの速さで集団に向かうことになる。
「どうするんですか? 術者だとしたらこちらの位置が丸わかりで逃げられ続けますよ?」
「そうですよね……」
少し考え、俺の≪完全把握≫が万全であることを思い出した。そして≪完全把握≫が万全であるならば術者や魔法の発生源を見つけることは可能ではないかと思った。
そう思った俺はすぐに≪完全把握≫をアンジェ王国全体に張り巡らせ、国にいるすべての人間の情報が頭の中に入ってくる。今の俺はこの国にいる国民全員の情報を頭に入れたところで全く動じることはなく、この魔法の結界に魔力を送っている男の存在を感知できた。
「……思った通りだ」
「えっ、どうしましたか?」
「いえ、やっぱり合っていましたよ。術者は集団の中に紛れていますが……」
「が?」
俺が途中で止めたことでサラさんが首を少し傾けて可愛いといつもなら思っているところだが、そう思っている場合ではなかった。感知できた場所には多くの国民がおり、俺の推測は合っていたことになる。そこまでは良いが、感知した集団の人々が問題だった。
「……これを引き起こした術者の近くに、フローラさまとルネさま、ニコレットさんとブリジットさんもいます」
「……えっ? 本当ですか? 今までどこにいるんだろうと思っていましたが、まさか術者と一緒にいたのですね。……近くにいるということは……」
「この国にいる冒険者全員が魔法にかけられているのだから、彼女たちが魔法にかかっていても不思議ではないわね」
サラさんと三木の言う通り、ほぼ確実にフローラさまたちは敵の魔法にかけられていると考えても良い。感知だけでは状況が分からないが、無傷であることは分かるためそこは一安心した。
しかし、未だに敵の術にかけられているということに変わりないため早くフローラさまたちをお助けしないといけないと思った。そのためにも術者に死んで償ってもらわなければならない。
「とりあえず、術者を仕留めます」
「そうね。早くこの状況を何とかしないと休めないわ」
「……まさか」
俺の言葉に三木が反応してくれたが、サラさんは何か考え事をしていて何か考え付いたことで少しだけ表情が曇っていたため俺は声をかけた。
「サラさん、どうしましたか?」
「えっ? あっ、いえっ! ……なんでも、ないです」
「何かあるのなら今のうちに言っておいてください。少しでも不安要素は取り除きたいですから」
何かありそうな返事の仕方をサラさんがしたため、俺はサラさんにそう聞いた。俺では気が付かないことなんていっぱいあるから、サラさんが何か気が付いたなら聞きたいと思っている。
「……いえ、大丈夫です」
「本当ですか?」
「大丈夫、だと思います。……でも、心配なことはあります」
「何でも言ってください。言われない方が気になりますから」
「……そうですね。ただ、これは私の推測に過ぎないので言いませんが、一つだけ約束してください。どんなことがあっても術者を倒してくださいね」
「……はい、そのつもりですが……」
サラさんの言わんとすることが全く分からなかった。術者を倒すことは絶対だし、今の状況でそれ以上に勝ることはないと思っている。だけどサラさんの表情からそれが大切なことなのだと理解できた。
「術者を倒すことが、フローラさんや他のみんなを助ける方法です。それだけを忘れないでください」
「はい……、分かりました」
「お願いします」
俺はサラさんの言っていることをよく分かっていないが、サラさんのお願いを心の中にとどめた。どんなことがあっても、術者を倒す。これにどんな意味があるのか分からないが、サラさんを信じて行動するしかない。
「それで? どうやって術者の元に行く気かしら?」
「まずは今も探してくれているサルモンさんのところに行く。俺だけ先行しても良いが、それだと俺たちを監視している人が三木たちを狙ってくるかもしれない。今俺たちを狙わないのは、俺という抑止力があるからで、それがなくなれば国の侵入者の仲間であるサラさんと三木は狙われることになると思う」
「そうね。今のところアユムしか敵の脅威にはなっていないわね。私がどういう認識でいるのかは分からないけれど」
「だから最低でもサルモンさんとサラさんと三木の三人で一緒にいた方が安全だろう。今わかれているのは散らばって探すためだからわかれる必要もない」
「最高は私たちも一緒に術者の元に行くことね」
「俺が全員を担いで行っても良いが、そこは要話し合いだな」
「誰も反対しないと思うけれど、今は彼女と合流しましょう」
三木の言葉に頷いた俺は、三木とサラさんを片腕ずつで抱きかかえた。
「きゃっ、……アユムさん、抱いてくれるのは良いんですが、最初に声をかけてください。じゃないと驚いてしまいます」
「そうよ。別に良いのだけど、声くらいはかけてほしいわ」
「すみません」
声をかけずに抱きかかえたことにやんわりと注意されたことに素直に謝罪して、俺は動き回っているサルモンさんの元へと走り始めた。俺が鎧を着た状態でいつも通りに走ればサラさんの体に負担をかけてしまうため、そこを見極めて走っている。
サルモンさんまでの距離はそこそこあるが、ものの数分でたどり着きそうな距離であるためそれまで二人にこの体勢で我慢してもらうことになる。
「何だか、人がいない国は不気味ね。廃墟みたいだわ」
「そうですね。いつもみたいに活気あふれた国とは大違いですね」
人々が俺たちから逃れているため、俺たちがいる範囲は人っ子一人いない状態になっている。そのことに三木とサラさんが周りを見ながら話している。
確かに俺も思うところはある。国がモンスターにやられて建物が壊滅的な状態になっても、そこから復興を始めてようやく活気を取り戻しているところだったのに、また逆戻りになっている。まさか俺がシャロン家だけではなく、国のことも考えるようになるとは思わなかったが。
「アユム、今言うのは少しずるいのだけど」
「それじゃあ言うな」
「そこを何とか聞いてくれないかしら?」
「……なんでだよ」
今まで会話していたから会話してくれると思ったのか、そう切り出してきたが俺は必要なこと以外話すつもりはなかった。それだけこいつらとの距離は他人よりも遠い。だが、思わぬところから援護の声が上がった。
「アユムさん、少し聞いてあげても良いんじゃないですか?」
「……どうしてですか?」
サラさんがそう言ったことに俺は鎧の下で嫌な顔をしながらもそう答えた。サラさんやフローラさまなどがこう言えば、俺は嫌でも三木の言葉に耳を傾けなければならなくなる。それくらいに甘くなってしまう。
「分かっているとは思いますが、アユムさんが思っているほど、マヤさんたちは悪い人たちじゃないと思うんです。きっと少しすれ違っているだけだと思うので、話し合えば何かが変わると思います」
分かっている、俺が四人とすれ違っていることは。だが、今更そのずれを調整する気にはなれないし、これまで積もりに積もった憎しみはどうすることもできない。その憎しみが、彼女らのことをどうにかしてしまいそうで怖くなっているのかもしれないが、今守りたいものを放っておいてまでこいつらと仲直りをする気がないと思っている。
「……今更、無理なんですよ。もう、終わった話です」
「ッ! ……そう、よね。……そうなのね」
俺の少し苦しそうに言葉を発したことで、三木は目に涙を浮かべて泣きそうになっている。こいつらと俺が交わることはなく、好意の行き違いでどちらも不幸になる。
「アユムさん」
「……すみません、期待に応えられず――」
「大丈夫ですよ、きっと」
「――ッ!」
サラさんのその言葉に俺の内心が見透かされているように錯覚して、心臓を握られているように感じた。その〝大丈夫〟という言葉だけで、何でもできそうになる。
「だって、私やフローラさん、ルネさんやニコレットさんにブリジットさんたちを救えるくらいにアユムさんは強い人です。今まで何があったのか私は分かりませんが、それでもアユムさんはその手が届く人たちを守れる人です。決してその手は壊すためにあるのではありません。根底には大切な人たちを守るという想いがあるはずです。ですから、恐れずに話し合ってください。そうすれば、意外にも楽になるかもしれませんよ?」
「……全く。敵わないな」
俺のこの破壊することで守るという行為を成立させていることを、その真逆で言われるとは思ってもみなかった。破壊して、守る。守るために、破壊する。一見すれば違いがないように思うが、守るが先にある方が心持ちが変わってくる。
破壊して守ることだけが俺ができることだと思っていたが、守るために破壊すると思えば何も怖くなくなる。ただ、だからと言って三木たちと話し合うことを良しとするわけではない。
「サラさん、ありがとうございます。少し楽になれました」
「本当ですか? お役に立てて良かったです!」
役に立つという言葉を使うのはあれだが、サラさんはいるだけで心の支えになってくれているのだから、もうすでに役に立っていると言える。
「まぁ、だからと言って三木の話を聞くつもりはありませんが」
「えぇっ⁉ この流れは聞く流れじゃないですか!」
「そうなんですか?」
「そうですよ!」
サラさんに突っ込まれてしまったが、もうさすがに逃げているわけにはいかないと思った。いつまでもこいつらとの仲を拗らせているわけにはいかない。決別か仲直りか。今は嫌悪と親愛がぶつかっている状態だからハッキリとさせる必要があると思っている。
「三木」
「……な、何かしら?」
三木は俺の問いかけに驚いた表情をしながらも涙を拭ってから答えた。今の流れからこちらに来ないと思っていたのだと考えられる。俺もこの流れを聞いていたら行かないと思う。
「お互いに……、いや俺はないな。三木たちが俺に言いたいことがあるだろうから、この騒動が終わったら話し合いの時間を設けようと思うが、良いか?」
俺がこんなことを言いだすとは思わなかったのか三木は俺の言葉に固まった。俺も自分がこういうことを言うとは思ってもみなかった。だが少し遅いくらいだと思っている。
「えぇ……! 良いわ、こちらから言おうとしていたことよ。……アユムの口から言ってくれるなんて、嬉しいわ……!」
三木は心底嬉しそうな顔をして答えた。その目には涙が浮かんでいるが、そこまで嬉しいことだったのかと不思議に思った。でもこれで話を前に進められる。
「アユムさん、応援していますから」
「何で応援ですか。応援されるようなことでもないでしょうに」
「そんなことないですよ! きっとフローラさんも……フローラさんはどう言うでしょうか?」
「三木、悪いがフローラさまがダメだと言ったらこの話はナシだ」
「……ぬか喜びをさせるのがお好みなのかしら? アユムは」
そんなことを話しながら走り回り込んでサルモンさんの前に出たことで、サルモンさんは止まってくれた。サルモンさんは俺たちの方を見てどうして来たのか疑問に思っている顔だが、サラさんや三木が表情を柔らかくしていることで真顔になった。
「あら、どうしましたか? 騎士王さま」
「えっ……、あっ、いや、少し話があったので来ました」
「そうですか。それはそれはわざわざご足労ありがとうございます。あたしがこんなにも走り回っている間に、女性二人を侍らせてこちらに来ていただいてありがたいことです」
これを聞いて俺はサルモンさんが怒っていることに気が付いた。俺たちが戦ったり足止めを喰らっている間でもサルモンさんは動き続けていたのに、この光景を見てキレたんだと感じた。
「いや、これには事情があって……」
「事情? この国の異常を解決する他に事情があるのですか?」
「実はですね――」
静かにキレているサルモンさんに、三木とサラさんを放しながら俺が囮になっていたことや実力者たちを倒して国民が集団になって逃げていること、そして術者がその集団の中にいることを話すとサルモンさんの表情は元に戻った。
「事情は分かりました。すみません、早とちりをしてしまったようです」
「いえ、大丈夫です。それよりも、自分はこれから逃げている術者の元に向かいます」
「そうですね。それが一番いい方法でしょう」
「それにあたって、サルモンさんたち三人をどうするかまだ決めていません。自分が連れていくか、三人で固まって動くか。サルモンさんの意見が聞きたいです」
「……そうですね。やはり四人で動くことが一番良いと思います。狙われて人質にされでもすれば目も当てられませんから、四人で行けるのなら四人で行きましょう」
サルモンさんの意見を聞き、サラさんと三木の方を見ると特に意見はないという表情だったことですべてが決定した。
「それじゃあ、自分が三人をおぶって行きますか」
最大で四人は運んだことがあるから大丈夫だと思いながら、ようやく出口が見えた気がした。
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