132:騎士とアンジェ王国。④
書きたいところがいっぱい出てきています……。
一瞬でサラさんたちが見える位置に移動すると、サラさんは三木の前に出て冒険者の攻撃を受けて三木はサラさんが守っている間に冒険者を気絶させているが、段々とサラさんが相手の攻撃を受けきれずに三木に攻撃が向かっていて押されていた。
そしてサンダさんがサラさんをかわして三木にフラガラッハで攻撃しようとしているのを見て、すぐに三木とサンダさんの間に入ってフラガラッハを弾いてサンダさんを後退させた。
「無事か?」
「えぇ、アユムが来てくれたから無事よ」
三木を見ると大きな怪我はしていないがチラホラとかすり傷はついている。これくらいなら唾を付けていれば治るだろうと思い放置して今度はサラさんに声をかける。
「サラさん、大丈夫ですか?」
「はぁ……ふぅ、何とか、大丈夫です……」
大丈夫だと言っているサラさんだが、≪完全把握≫で大丈夫ではないことは明白だった。しばらくの間、白銀の鎧をつけっぱなしにしていたのだから疲れているのは当然だ。物理攻撃がきかなくても鎧による身体能力強化で疲労がたまっている。初めて纏ってここまで鎧をつけれていることが凄いことだ。
「サラさん、少し休んでください。鎧は外します」
「えっ、で、でも、まだ戦えますよ……!」
「これ以上は無理です。それにサラさんはもう十分に頑張ってくれました。ですからここからは自分に任せてください」
「……はい、分かりました」
サラさんは俺の言葉に納得してくれたから、俺はサラさんが纏っている鎧を解除した。鎧から解き放たれたサラさんは汗だくになって息が乱れている。さすがに国の外でモンスターを倒した後にこれをしたのは体に無茶をさせてしまったと後悔した。
「三木、サラさんを頼む」
「そのつもりよ。アユムはあっちをお願いね」
「言われなくてもするつもりだ。……それに、お前も休んでろ」
「ッ! ……ふふっ、お言葉に甘えて休ませてもらうわ」
「その後にキッチリと働いてもらうからな」
「えぇ、そうね」
三木にサラさんを任せ、俺はサンダさんと冒険者たちの前に出た。一番警戒すべきことはサンダさんだと考えた。サンダさんは暗殺者であるからとにかく姿が見えなくなることはまずい状況と言えるが、俺の≪完全把握≫のスキルがあればサンダさんを見失うということはない。
それに、どうしてか俺の≪完全把握≫が元に戻っている気がする。クラウ・ソラス自身は本調子ではないが、スキルの調子が戻っているのは良いことだ。
「ねぇ、コウスケくんを、殺したの?」
対面しているサンダさんが怖い目をして俺の方を見てきた。そんなに稲田のことが大切に思っているから静かに怒っているのかと思ったが、そもそもサンダさんと稲田にこうなる状況前に接点があるのか分からないから真相は分からない。
「殺したって言ったらどうするんですか?」
本当のことをそんな感じで俺が言うと、サンダさんはすぐに俺の目の前まで来てフラガラッハを俺に突きつけようとする。今のサンダさんは無表情であること極まりない。
だが俺はフラガラッハを握っているサンダさんの手を掴んで止める。それでもサンダさんはフラガラッハを俺に突きつけようと力を込めてくるがビクとも動くことはない。
「どうして、殺したの? コウスケくんを」
「どうしてって、あんな危険な化け物を放っておくことはできませんよ」
「コウスケくんは化け物じゃない!」
こうも前提知識や会話が食い違っていると何を話しているのか本当に分からなくなってくる。稲田が冒険者たちを攻撃していたのに、サンダさんがあいつを庇う意味が分からない。
「稲田はあなたたちを攻撃しようとしていたじゃないですか」
「それはキミたちが何かしたに決まっているでしょ? 普通のコウスケくんがあんなことをするわけがないよ」
「……そうですか。とにかく今は引いてくれませんか? あなたたちとは戦いたくありません」
「そんなこと聞くと思う? それにキミたちが国から出て行けばいい話でしょ」
「そうはいかないからこう言っているんですよ。この国の不利益になることはしませんし、今なら怪我をさせません」
話し合いができれば話し合いで解決したいが、そうできているのならとっくにしていると思いながらも一応サンダさんにも聞いた。
「どうして侵略者で仲間を殺したやつの話を聞かないと、行けないのッ!」
「そうですよね」
サンダさんは俺の言葉に蹴りを放って答えてくれた。その蹴りを俺は腕で受け止めて一旦サンダさんの手を放したことでサンダさんは俺から距離を取った。そしてフラガラッハを構えて俺の隙を伺っているサンダさんだが、俺はどうしたものかと考える。
この冒険者たちはこの国を支えている人たちであるため、重傷を負わせるわけにはいかない。だが重傷を負わせるくらいに実力差を見せつけないと引いてくれそうにないと思った。しかし、引いてくれなくても彼女らを全員気絶させれば問題ない。その実力をこの場を見ている監視者に見せつければ俺に来る人も限られてくる。最初と一緒だ。
「すみません、少し眠っていてください」
「えっ――」
そう思った俺はすぐにサンダさんの近くに移動して、サンダさんが俺のことを認識する前に≪魔力武装≫の状態だからより一層手加減してお腹に一発拳を入れてダウンさせようとした。だがあまりにも手加減し過ぎたのか、サンダさんは少し動きを止めたがすぐに俺にフラガラッハを振るってきた。
俺はそれをクラウ・ソラスで受け止めたが、一瞬で元の状態に戻ったサンダさんはフラガラッハを持っていない手で暗器を取り出して近距離から投げてきた。それを俺は避けずに受け、鎧に当たってもきかないと分かったサンダさんは下がり、俺もその場から下がった。
「ふぅぅ……、やっぱり一筋縄ではいかないか」
「一筋縄で行けるほど、自分は弱くありませんから」
サンダさんは俺の方を見て冷や汗を垂らしながらそう言ったが、俺からすればサンダさんの神器の力が完全に分かっていない以上油断はできない。
前野妹たちと相対した時、前野妹たちは弱くても神器の力が強力であるから油断はしておらず、サンダさんでもそれが言える。何よりサンダさんはこちらの住人であるからそれを使いこなしている。
「さて、神器の固有スキルは何かな……?」
俺はそう呟きながらクラウ・ソラスを構え、サンダさんも同じようにフラガラッハを構えた。そして今度はサンダさんから仕掛けてきて、サンダさんは俺の背後に立っていた。サンダさんから目を離していなかったから相手の背後に立つスキルかと思いながら、俺を殺しに来ているサンダさんのフラガラッハを弾いて掌底を喰らわせようとする。
「残念」
「ッ! 幻影か」
「そうだよ。そしてさようなら」
俺が狙いを定めた時にはすでにサンダさんの気配は元あった位置ではなくその横にあり、そして俺が触れたことで幻影のサンダさんは消えて横に立って俺にフラガラッハを向けていた。
サンダさんが躊躇なく俺にフラガラッハを振ってくることに仕方がなく地面にクラウ・ソラスを叩きつけて無理やりサンダさんに後退を選択させた。
だがサンダさんは後退してすぐに俺に近づいてきて短剣のフラガラッハで何度も攻撃してくるが、俺はそれを余すことなくすべて弾いた。フラガラッハのスキルが分からない以上、不用意なことはできないでいた。今は攻撃を弾くことしかできていない。この攻撃の中でこちらから攻撃できていない。
俺がすべての攻撃を弾いていると、サンダさんは一度体勢を立て直すために俺から離れて呼吸を整えながら嫌な顔をしていた。
「ごつい鎧なのに、すべての攻撃を弾くかぁ。……相性最悪だなぁ……」
「それはこっちのセリフですよ、全く」
サンダさんの独り言に俺は返す。サンダさんは軽やかに動いて俺に攻撃を仕掛けているが、俺はそれをすべて弾いている。対して俺はサンダさんに攻撃を加えようとするがサンダさんの攻撃と軽やかな動きで攻撃を与えられないでいた。
これが何も考えないで良い敵ならここまで苦労することはなかった。何も考えなければ広範囲な攻撃で仕留められるが、今回はそう言うわけにはいかない。強力なスキルだらけなことが仇になった結果になっている。何か威力を自動で修正してくれるスキルがあればいいが、そんなことで≪順応≫できるとは思っていない。今の俺はそれを手に入れられずに困っていないのだから。
「ふぅ……」
だが、サンダさんの真剣でやばそうな雰囲気を感じ取り、どうやらサンダさんに傷を与えずに倒すという考えを改めなければならない気がした。神器所有者相手や実力者にその考えは命取りになると思わざるを得なかった。俺の持っているクラウ・ソラスも神器なのだから、侮る理由にはならない。
「……ッ」
「……何だ?」
フラガラッハの桃色の刀身が俺のクラウ・ソラスと共鳴して光っているところに、さらに光が増幅しているのが確認できた。何かしてくると思い、構えているとまたさっきのように俺の背後にサンダさんが移動してきた。
そしてまた俺にフラガラッハで攻撃を仕掛けてきて俺はクラウ・ソラスで受け止めようとするが、異様な感覚が襲ってきてその一撃を避けることにした。しかしそれでサンダさんが諦めるわけがなく、サンダさんは二撃目を俺に放ってこようとした。
おそらくこの攻撃がフラガラッハの固有スキルだから、それを確認するのとどうなるのかを試してみたいと思い、二撃目をクラウ・ソラスを持っていない手で受け止めることにした。
「ハァァッ!」
そう気合を入れてサンダさんは腕を前に出して受けようとしている俺にフラガラッハを向けてきた。どんな攻撃が来ようとも鎧を少し傷つけるくらいだと思っていた。
「……マジか」
だが、そんな甘い考えはすぐさま捨て去ることになった。鎧を纏っている俺の腕は、白銀の鎧ごと綺麗に切断されてしまった。今までこんなことがなかったため、一瞬だけ驚いたがすぐに俺はクラウ・ソラスを収納して空いている腕で斬られて宙に浮いている腕をつかみ、もう一撃喰らわせようとしているサンダさんを蹴り飛ばして俺は後退した。
「あ、アユムさん⁉ だ、大丈夫ですか⁉」
「腕が斬られているわよ⁉」
サラさんと三木の前に移動したため、二人は慌てた様子で俺の元に来た。腕を斬られたくらいで大袈裟だなと思いながらも、斬られたところから大量の血が出ている。
「大丈夫です。これくらいならすぐに治ります」
そう言った俺は斬られた腕を元あった場所にくっつけ、≪超速再生≫を行うとみるみるうちに腕の感覚が戻ってきて動かせれるようになった。だが、これでフラガラッハの固有スキルがハッキリとした。
「あれは、彼女のスキルなの? それとも神器のスキルかしら?」
「フラガラッハのスキルだろ。何でも斬れる、みたいな感じだな」
「鎧を着ているアユムさんでも受け止め切れないって、強くないですか?」
「強いです。さすがは神器と言ったところでしょうか」
三木とサラさんと会話している中でもサンダさんから目を離さないでいた。サンダさんは俺の腕が治ったことにそれなりに驚いていたが、こちらの隙を伺っているようにも見える。
「サラさんはここから動かないでください。さすがにあの神器の能力は人相手には厄介です。三木、お前もだぞ」
「分かりました。アユムさん、頑張ってください」
「そんなついでに言わなくても分かっているわよ」
俺は二人に見送られて前に出た。斬られたところの鎧は腕が治ったと同時に修復されており、万全の状態で前に出る。そしてサンダさんも同じように前に出ているが、少しこわばった表情をしているような気がした。
フラガラッハの固有スキルがどこまでの範囲でどこまで有効なのか分からないが、それでもサンダさんの相手をするしかない。腕や足が斬られても≪超速再生≫があれば問題ないが、首や胴体が斬られては俺であっても死ぬしかない。
固有スキルがどんな防御もすべて無効にして何でも斬れるというスキルなら俺の白銀の鎧は意味を成さないが、今は全く情報がないため一応≪強靭無双≫を六割ほどで使っておく。そしてサンダさんを無傷で倒すことは無理だと感じて、死なない程度に倒すことにした。
「すみませんが、ここから先は遠慮なく行きます」
「今まで手加減していたって言うの? そんな強がりを言っちゃって」
「どう受け取っても構いませんが、死なないようにお願いします」
俺はサンダさんに向けて殺気を送り、本気度を極力伝えた。それを受け取ってくれたようで、サンダさんは冷や汗を一つ垂らした。
「行きます」
そして俺はサンダさんが見えないくらいの速度で背後に回り込んだ。俺が背後に回り込んだことを分かったサンダさんはすぐに光っているフラガラッハで俺に攻撃してくるが、俺はそれを避けて拳をサンダさんのお腹に叩きこんだ。
「ガッ――」
「行くと言ったはずです」
サンダさんは俺の軽い攻撃に吹き飛んで建物と衝突した。何が起こっているのか分からないといった表情をしているサンダさんは、血を吐き出しながらもこちらを見てフラガラッハを構えている。
それを見た俺は内心すごく焦っていた。ここまで強くするつもりがなかったのに、サンダさんが結構ダメージを与えてしまっていたからだ。これはさすがに≪順応≫してくれた方が良いなと思っていると、俺の中で何かが足されたことに気が付いた。
「ふっ!」
「少し待ってくれてもいいのでは……!」
だがそれを確認する間もなく、サンダさんは俺に斬りかかってきた。サンダさんは他の冒険者によって即座に回復されていて、全快で俺に攻撃していた。俺はサンダさんの攻撃をすべて避けながら俺の中で増えたスキルを確認する。
確認できたスキルは≪出力調整≫というものだった。スキルの詳細を思い浮かべると、自身が思い描いた結果に必要な出力を行ってくれるというものであった。俺が思った通りのスキルが手に入ったと思いながら、早速サンダさんを殺してしまわないように使うことにした。
この≪出力調整≫のスキルをぶっつけ本番で使うわけにはいかないから、サンダさんには悪いが肩を脱臼させる勢いで肩に普通くらいの威力で攻撃することにした。肩なら最悪の場合でも俺が即座に回復させればいい話だと思った。
そう思った俺は俺の背後や死角に移動して攻撃しているサンダさんの攻撃を避けた次の瞬間に、サンダさんの肩を脱臼させるイメージをしながらサンダさんがフラガラッハを持っている方の肩に掌底を放った。
「ッ⁉」
「……よし」
サンダさんの肩が後方に脱臼したことでサンダさんは驚いて後ろに下がり、俺はスキルが機能したことでこれから味方相手にできることが広がったと思った。
そうと分かればサンダさんに時間を与えることはせずにサンダさんの元に一瞬で移動して、今度こそ気絶させれて外傷がないくらいの力でサンダさんのお腹に一撃を入れる。
「ぐっ……」
「今度こそ眠っていてください」
俺の一撃を受けたサンダさんは俺に攻撃することなくその場に倒れそうになったところを支えて、その場に優しく横にした。そしてこちらを見ているだけで手を出してこなかった冒険者の方を見ると、一瞬でサンダさんをやったことによる畏怖を纏った人たちや、俺に襲い掛かろうと殺気が漏れ出している人たちがいた。
しかし、俺が≪出力調整≫というスキルを手に入れてしまったため彼女らを遠慮なく攻撃することができる。遠慮なくという言葉は誤りだが、遠慮は俺のスキルがしてくれる。
俺はすぐさま≪出力調整≫で想像を忘れずに冒険者のお腹に一撃を入れていく。冒険者たちはまるで無双ゲームのように一撃で倒れていく。全員同じ力で殴っているのに全員が同じように倒れていく。もれなく地面にそっと置くことも忘れないくらいに余裕があった。
「ふぅ……」
一分もしないうちにこの場にいる冒険者すべてを気絶させることができたことで一息ついた。これでアンジェ王国から少なくともラフォンさんやグロヴレさん以外が来ることはないと思った。
「終わりました。魔法の原因を探しに行きましょうって、どうしたんですか?」
数秒だけ立ち止まって呼吸を整えた俺は三木とサラさんの近くに立った。二人はどうしてか呆けた顔をしていた。それを不思議に思って聞いた。
「どうしたって、急にスムーズに彼女たちを倒せるようになったのかしら?」
「それは俺が≪順応≫してスキルを手に入れたからだ」
「本当にチートよね、その固有スキル……」
「アユムさんに勝てる人って、いないんじゃないんですか? 敵でも味方でも」
「まぁ、≪順応≫があれば基本は大丈夫だと思います」
「……クラウ・ソラスって、本当に強いですよね」
三木とサラさんがそんなことを言ってきたが、俺はそれを受け流して魔法の発生源を一人で探しているサルモンさんに怒られそうだと思いながら再び探すことにした。