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13:騎士と不穏。

連日投稿十三日目! あと少しで二週間連続になりますね!

 フローラさまに許可を得たことをラフォンさんに話し、俺は正式に騎士見習いとして申請できるようになり、騎士見習いになった。だが騎士見習いになったからと言っても、何か変わるわけでもなく、ただラフォンさんの過酷な特訓があるだけである。最近どこかラフォンさんが距離を詰めてきているような気がするが、特訓をしている仲だから仲良くはなるか。


 そしてフローラさまの騎士としての務めは疎かにしておらず、きちんと騎士をしている。フローラさまからは何も言われることもないから、騎士ができていると思う。一週間くらい経っているが、フローラさまの機嫌は悪くない。


「お帰りなさいませ、フローラさま」


 いつも通りに特訓が終わり、フローラさまの部屋へと戻り身支度を済ませてフローラさまを出迎えた。出迎えて見たフローラさまの顔は、無と表現していいほどのものであった。フローラさまは俺を無視して進むから、進行方向を妨げないために端に避ける。その際に俺を横目で睨みつけてきてるのが分かる。


 一体俺が何をしたというのだ⁉ 全く見当がつかないぞ! えっ、普通にいつも通りにしていたはずで、朝もそんなことはなかったのに、夕方になったら機嫌がものすごく悪くなっている。もしかしてまた大公に何かされたのだろうかと心配になり、後ろにいたスアレムとサラさんの方を見る。


 スアレムは俺のことを汚物を見るような目で見てきており、サラさんは困惑した表情で俺を見てきた。うん、この表情は俺が何かした表情だ。だが、何も心当たりがない以上、謝りようがない。ここはサラさんに俺が何をしたのかを聞いてみるか。


「あの、サラさん。少し――」

「サラさんはこちらに行きましょうね。女性三人で仲良く話しましょう」


 サラさんに聞こうとしたときに、スアレムがサラさんを連れてフローラさまが座っている場所に誘導させたが、こいつは何がしたいんだ⁉ 俺の邪魔をしてきやがって。あいつのあの顔は絶対に意図的だ。こんな疎外感は元の世界で腐れ縁たちと腐れ縁の彼氏が登校している時に後ろから付いて行っている時と一緒だ。くだらないことを思い出させてくれる。


 俺はまず謝ろうとフローラさまのそばへと行こうとしたが、スアレムに通せんぼされてフローラさまの元へと向かうことができない。いや、通ろうと思うが通れるが、それだと関係がこじれるだけだ。


「どういうつもりだ?」

「ここはフローラさまのお部屋です。関係のない者は直ちにお引き取りください」

「は? 何言ってんだ? 悪ふざけにも程があるぞ」

「悪ふざけなどしていません。これはすべてフローラさまの意思です。アユム・テンリュウジという名前の使用人はいません。今すぐ向かいの部屋に帰ってください。部屋の鍵は開いたままです」

「ご丁寧にどうも。それがフローラさまのご意向なら従う。だけど、どういうことか説明してくれても良いんじゃないのか?」

「それは、あなたの胸に聞いたら早いのではないのですか? 当事者はあなたなのですから」

「いや、だからそれが分からないん――」

「早く出て行ってくれるかしら? 耳障りよ」


 俺が説明を求めて粘っていると、ついにフローラさま直々の退去命令が下った。しかも冷たい声音でだ。それを聞いた俺は胸をえぐられる気分がするとともに、虚無感が訪れた。


「はい、申し訳ございませんでした」


 俺は大人しくフローラさまの部屋から出て、向かいにある使用人の部屋へと入る。・・・・・・あんなにも冷たい声音をされたのは初めてだし、理不尽を感じるが、俺が何かをしたのは事実なのだろう。身に覚えがないから罪悪感も何もないが。


 いつもスアレムが寝泊まりしている部屋は、綺麗に整頓されている。物がないわけではないが、必要最低限の荷物を仕分けして置いている。そして、スアレムの趣味全開のBL本が、机の上に並べられている。俺がこの部屋に入ることを見越して仕掛けていたのか、それともいつもこうなのかは分からない。


 今はそれをどうにかする気もなく、ベッドに寝転がった。ここにスアレムが寝ていたのかと考えても、どうにかなるわけもなく、今日一日の疲れがどっと来た。これでも眠れそうであるが、きちんと執事服から着替えてこの部屋に用意されている男物の寝間着を着る。・・・・・・そう言えば、どうしてこいつは男物の着替えを常備しているんだ? まさか男を連れ込んでいるのか? そんなにも進んでいるのか。いや、俺が進んでいないだけか。


 もしかしたら、俺の知らないところでフローラさまは男を作っているかもしれない。マイナスな感情になればなるほど、マイナスの思考があふれてくる。どうするわけでもなく、俺は目を閉じて眠りへとつく。こんなにも早く寝るのは久しぶりだ。




 朝となり、俺はもう一度フローラさまに用件を聞くために使用人の部屋の扉の内側で待機する。フローラさまたちが出てくるところを出くわして話を聞くという算段だ。正直上手く行くとは思っていない。無視されるのがオチだと思う。


 だが、しないのはどうかと思うからフローラさまが出てくるのを待つ。・・・・・・何か嫌だな、こうしているのは。ストーカーのように付きまとっている男の動きじゃないか。現にストーカーまがいのことをしているんだけど、今は仕方がない。


 しばらく待っていると、部屋からフローラさまたちが出てくる気配がした。だから俺はいち早く部屋から出て使用人の扉の前で待った。そして、フローラさまが部屋から出てきた。


「おはようございます、フローラさま」


 頭を下げて朝の挨拶をするが、フローラさまは俺のことを無視して歩いていく。まぁ、分かっていたことだから何も傷つかないよ! そう思いながらため息を一つはくと、フローラさまは立ち止まって俺の方を向いた。なんだ⁉ 何かフローラさまの気に障ることが、いやもう気に障っているけれど。


「まさか、騎士になるという理由があのメスと仲良くなるためだなんて思わなかったわ。それに気が付かない私も愚かだけど、あなたのその演技も評価に値するわ。詐欺師にでもなれるのじゃないの?」


 そう言い残してフローラさまは歩き出した。その後ろには申し訳なさそうにしているサラさんと、無表情のスアレムが歩いていく。しかし、スアレムだけが俺のそばに来て耳打ちしてきた。


「あの用意してあった本に慰められてください」

「・・・・・・安心しろ、すべて焼き払っておく」


 こいつはくだらないことしか言わない。何か言ってくるかと思えば、全然違うことを言ってくるとはな。そして俺の発言に分かりやすく動揺しているスアレムは、言葉を続けた。


「たぶん、今回の件はフローラさまも分かっていると思いますけど、問題を解決するためには根本から噂を断ち切らないとフローラさまの機嫌は直らないと思って良いですよ。・・・・・・それと、本は焼き尽くさないでください、お願いします」


 最後に切実な声音でお願いしてきて、フローラさまの元へと戻っていった。それにしても、噂がフローラさまの機嫌を損ねている原因か。フローラさまとサラさん、スアレムとルネさまとニコレットさん、そしてラフォンさん以外の生徒に会うことがない。


 半分の情報源が失われた今、ラフォンさんに聞くのが早いだろうが、あの人が噂に得意かと言われれば、そうではない気がするが、今は特訓のためにラフォンさんの元へと向かう。もしかしたらラフォンさんが何かを知っているのかもしれない。


 俺は特訓の準備を手早く行い、ラフォンさんの元へと向かう。その道中で、俺が意識していなかったのか、噂を聞いたから意識してしまっているどちらかは分からないが、俺を見て話している生徒が結構な割合でいる気がする。・・・・・・気のせいだと言ってくれ。これ以上俺の苦労を増やさないでくれ。


「おはよう、アユム。今日は早いな」


 速足で歩いたせいか、いつもより早く騎士育成場へとたどり着き、早いにもかかわらずラフォンさんは訓練場で立っていた。初日に言ったはずなのに、この人はまた長い時間待っていたのだろうか。


「おはようございます、ラフォンさん。それよりも、いつもより早いのに、どうして訓練場で待っているのですか?」

「・・・・・・そ、それは、いつもよりも早く起きてしまったから、早く来たんだ。き、今日だけだぞ⁉ 決して毎日この時間に来ているとか、そういうのはないぞ⁉」


 目が泳ぎまくり、声音は不安定であるから、間違いなくいつもこの時間には来ているのか。どれだけ待っているんだよ、恋する乙女かよ。


「それなら良いのです。自分が待たせていれば、こちらが気にするのでやめてくださいね」

「そ、そうだな。今度から気を付けよう。・・・・・・だが、待っている時間というのも存外、苦ではないから私は気にしていなかった。むしろ、楽しんでいたよ」


 待っている間が楽しいとか、夢の世界とかのアトラクションの列に並んでいる時のリア充たちかよ。そもそも待っている先にそんな楽しい時間なんてないだろうに。いや、俺と打ち合っている時は楽しそうにしているから、そういう趣味のお方なのだろうか。今はそんなことはどうでもいいんだ。今はフローラさまの件だ。


「そう言えば、最近出回っている学園の噂について知りませんか?」

「噂? 何のことだ? 私は知らないぞ」


 やはり、ラフォンさんは噂については疎かったか。聞くまでもなくそのことは分かっていたんだ。がっかりすることなんて、少ししかない。


「何か噂があるのか?」

「いえ、最近出回っているらしい自分に関係している噂を知りたかったのです」

「ほぉ、そんな噂が出回っているのか。まぁ、私の弟子なのだから噂されるのも仕方がないことだ」

「その噂がどんなものなのか知りたいのです。そうでなければ、フローラさまとのこじれた仲が元に戻せないのです」

「仲がこじれているのか? それは一大事だ。その噂について今すぐにでも騎士育成場に通っている生徒に聞ければいいのだが、もう授業が始まってしまっているからそれもできないか」


 授業が終われば、騎士育成場に通っている人たちに聞けるのか。それはラフォンさんに任せよう。なぜかここに通っている女性たちに遠目で見られている気がしてならないのだ。だからどこかおかしいのかと思ってしまう。そんな視線を感じているから、話しかけることに抵抗がある。


「では、それで聞いてもらって良いですか? 聞ける人がいないので」

「あぁ、構わない。聞くだけだからな。噂が分かって主に許してもらえるといいな」

「はい、自分にとっては死活問題なので」

「主に許してもらえなくても、私のところに来ればいい。ほとぼりが冷めるまで離れているという選択肢もありだろう」

「もしもの時は頼らせていただきます」

「あぁ、頼ってくれ。何せ私はアユムの師匠なのだからな」


 ラフォンさんは俺が弟子なのが嬉しいのか、師匠として尽くしてくれる。俺のことを気遣って、タオルを渡してくれたり水を持ってきてくれたり疲れを取るツボを押してくれたりとかしてくれる。これは師弟関係が逆なのではないのだろうか。普通は弟子が師匠のためにする行為が、師匠が弟子のために気遣ってしまっている。


「授業が終わるまで、今日も特訓を始めるぞ」

「はい、お願いします」


 とりあえず、今は騎士として地位を上げるために特訓あるのみだ。フローラさまのことを考えても仕方がない。何も解決しないのだから。今はラフォンさんに集中する。・・・・・・なぜラフォンさんは俺が特訓のために見ると顔を赤くするのだろうか。


「始める――」


 ラフォンさんが始めようと合図を出そうとした時、誰かが俺とラフォンさんに向けて巨大なプレッシャーを放ってきた。俺とラフォンさんはすぐにそちらへと向き、戦闘態勢を取った。誰がプレッシャーを放ったんだと思いながら、プレッシャーを放たれた方向を見ると、右目に縦の傷がついて目を閉じている黒のショートヘアの美人な女性がこちらへと歩いてきていた。腰には刀剣を携えている。


「誰だ?」


 ラフォンさんもプレッシャーを放ち、その女に対抗する。しかし、女は止まることなくこちらへと進んできて、刀剣の間合いに入れる距離で止まった。


「こんにちは、七聖剣兼騎士王のフロリーヌ・ラフォン。今日は貴女を倒しに来た」


 腰に携えた刀剣を鞘から抜き出して剣先をラフォンさんに向けている。だが、ここは弟子である俺が師匠の手を煩わせることなく終わらせる。そう思い俺はラフォンさんと隻眼の女性の間に立つ。


「ラフォンさん。この相手をもらって良いですか? 弟子として師匠の手間をかけずに終わらせて見せますよ?」

「最初からそのつもりだ。身の程知らずに相手をやってこい」

「了解しました」


 ラフォンさんが別空間から取り出した刀剣を俺に投げて渡してきた。それを取って鞘から取り出す。渡された剣は、結構な業物だと一目でわかった。これは刃こぼれは許されない。


「悪いが、お前の相手は俺だ」

「・・・・・・顔がそこそこで、いつも騎士王と一緒にいる男。そうか、お前が騎士王の婚約者にして、未来の騎士王か。学園中で噂になっていると聞いた」


 ・・・・・・うん? こいつは何を言っているんだ? 俺がラフォンさんの婚約者? そんな馬鹿な話がどこにあるんだよ。どこから出てきたんだよ。そう思い、ラフォンさんの方を見ると、ラフォンさんが露骨に顔をそらしてきた。


「・・・・・・ラフォンさん?」

「ち、違うんだ! 私は別に悪気があってやったのではないんだ! 話が盛り上がるにつれ、少し大げさなことを言ったから、そのまま他の生徒たちに伝わったんだ!」


 俺がどういうことか聞く前に、ラフォンさんが自ら告白してきてくれた。・・・・・・あれだな、これがフローラさまが機嫌が悪い原因だな。俺がこそこそと女性と密会していたということになるのだろう。騎士が主に秘密で逢引していれば、切れるだろうな。


「先に未来の騎士王が相手か。肩慣らしにはちょうどいいだろう」

「悪いが、俺はやることがあるんだ。ここは手早く終わらせてもらう」


 フローラさまにすぐにでも謝らなければならないことができた。ならば、ここで時間を食っている場合ではない。俺はすぐに隻眼の女性の方に向けて飛び出した。

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

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