128:騎士とアンジェ王国。②
何気に評価ポイントが千を越えて嬉しいです。それにしても、この章を始めてもう一年も経っているんですね、早くオワラセナイト。
近くにいる人に自身のスキルの効果を付与することができる俺とサラさん、魔法を無効化する三木、精神汚染魔法がきかないサルモンさんの三組でアンジェ王国に乗り込み、術者もしくは魔法の起点を見つけることになった。
俺が≪完全把握≫で二人の様子を確認しながら三木とサルモンさんの行動をカバーして戦うということで落ち着いた。ただ、俺が一番狙われるということなので、二人の元に行けないかもしれないことも織り込み済みだ。
あまり性能を期待できない今の≪完全把握≫でも、二人を強く意識することで二人を感知することはできる。あと、近くなら≪完全把握≫を万全に発揮することができるが、近くだとあまり意味がないと思っている。
「それでは、作戦を開始しましょう」
「はい」
「えぇ」
「はい!」
サルモンさんの言葉に俺と三木とサラさんが返事をして、アンジェ王国の中に入った。そしてサルモンさんと三木とわかれて、俺はサラさんをお姫様抱っこをしながら真正面に突っ込んでいった。
「テンリュウジだ! テンリュウジがいるぞ!」
「あそこだ! みんな来てくれ!」
「女子供を家の中に避難させろ! 何をしてくるか分からないぞ!」
「あいつはこんな時に来るとか人のやることじゃないだろ⁉」
真正面から向かったことにより、それに気が付いたアンジェ王国の住人たちはもれなく全員が俺に敵意を向けてきた。アンジェ王国の住人の声を聞いて、どこかの凶悪犯罪者が来た時のような反応だと思った。だが俺が敵に回れば、そういうことだと思われても仕方がないとも思った。
「うわぁ……、かなりの人が集まっていますね」
「自分が注目を集めていれば妙な動きをしているサルモンさんと三木が動きやすくなりますから、結果的には良いと思います」
作戦を実行する上では俺が注目を浴びることは良いことだが、昨日まで友好的な関係だったのが急に悪意を向けられるのは気持ち的には堪える。
「さっさとこの国から出ていけ!」
「お前がいたら碌なことにならないんだよ!」
「死ねぇぇぇっ!」
この国の復興を手伝っていたから余計にこう言われるのは嫌な気持ちになる。そして一番厄介なのがこの人たちは敵の魔法にかかっていて、悪意を向けている味方ということになる。完全に敵なら倒すことができるが、すべての人を無傷で抑えることがベストだ。
「サラさん、少し抱き方を変えます」
「えっ、きゃっ!」
俺は攻撃を弾くために白銀の盾を出すべく、お姫様抱っこをしているサラさんを進行方向にお尻を前にする形で担いだ。近くにサラさんのお尻があることに前の俺だったらドキドキしていただろうなと思いながら、今はそんなことを思っている場合ではないと思考を切り替える。
「サラさん、何か後ろで異常があれば教えてください」
「はい、任せてください!」
後方はサラさんに任し、俺は空いた片手に白銀の盾を出現させる。ここでクラウ・ソラスを出せば冒険者でもないただの一般人だから加減を間違えて大けがをさせてしまう恐れがある。ここは防御に徹するのが吉だ。
「出ていけ! 疫病神!」
「随分な言われようだな……」
木の棒やフライパンなど、家にあったりそこら辺にある武器で攻撃してくる住民を≪完全把握≫で察知しながら完璧にいなしていく。相手に衝撃が伝わらないように衝撃をできるだけこちらで受け止めて進んで行くのは少しばかり骨が折れる。
そしてこうして進みながら、俺は探しながら国を真っすぐ進んで行く。三木は右から回り、サルモンさんは左から回って行っている。術者または起点を探すことはさほど難しいものではないらしく、これほどの規模で魔法をかけているため近づけば嫌でも分かるとサルモンさんから言われた。
「どうして私たちの生活を脅かすの⁉」
「このっ!」
「ッ! 全く……」
武器で来られるのは嫌な気持ちになるが、塩を振りかけられる攻撃性皆無のも堪える。無駄遣いだと思いながら、苛立ちを抑える。この人たちは倒すべき敵ではなく、この国の財産だから決して攻撃を加えてはならない。
「アユムさん。危害を加えないことはすごいことですけど、少しは死なない程度に倒していかないと探すこともできませんよ?」
「分かっていますけど、敵の思い通りになっている気がしてならないんです」
サラさんが言っていることはまさしくその通りだ。倒さないと至る所から人がこちらに来ている。サルモンさんと三木が動きやすくなっていることこの上ないだろうが、完全に陽動になるつもりはない。
だが、このままだとサラさんを守ることが難しくなってくる。俺の技は敵を殲滅する力が大半であるから敵が増え続ければ守る技があまりない俺にはサラさんを守れない。サラさんも魔力で戦闘は行えるが、今のサラさんに任せるのは荷が重いと思った。
「……あれが、使えるのか?」
「アユムさん? どうしましたか?」
今、サラさんには俺の≪自己スキル領域≫で≪不可侵領域≫の効果を付与している。そして、このスキルを付与するスキルで、サラさんを守れるスキルがあることに気が付いた。他のスキルならサラさんの体がもたないが、これはおそらく俺がコストを払うだけで済むはずだと考えた。
「サラさん、少し試したいことがあるんですが、良いですか?」
「はい、良いですよ」
「……内容も聞かずに即答で良いんですか?」
「アユムさんのことは信じていますから大丈夫です。やってください」
サラさんがこうして信頼してくれることを嬉しく思いながら、その信頼にこたえないといけないというプレッシャーが俺の中にのしかかってくる。ただ、応えればいいだけの話だと思い、俺はサラさんに内容だけ説明しておく。
「一応内容だけ言っておきます。自分が持っているスキルの≪魔力武装≫の効果をサラさんに与えます」
「魔力武装って、アユムさんが着ているあの白銀の鎧ですか? それを私が着れるのですか⁉」
「たぶん、行けると思います。それに効果を与えるだけなら魔力を消費するのも自分だと思いますから、サラさんの負担はないと思います」
「でも、それはアユムさんに負担をかけすぎじゃないですか? 私は何もせずにここにいるわけじゃないですよ……」
俺の言葉にサラさんが少し辛そうな声音で言ってきたため、俺はサラさんが何かできないかを考えた。そして考え付いたが、これはあまりにも今まで俺がしていたことを真逆であるため言うのをはばかったが、今思いつくのがこれしかなかったため、言うだけ言うことにした。
「あるにはあるんですけど……」
「何でも言ってもください。それでアユムさんのお役に立てるのなら、何でもしますから」
何でもします、という女性の言葉は魔性が秘められていると思いながら、そう言うのならと俺は言うことにした。
「自分のスキルに≪絶対権限・囮≫というスキルがあります。他人の視線を自身に集中させるスキルでこれをサラさんに付与すれば、自分の攻撃をサラさんに振り分けることができます。そしてサラさんは鎧を着ているので何の怪我はありません。ですがサラさんが怖い思いを――」
「やらせてください!」
俺が言い切る前にサラさんがそう言ってきた。俺とサラさんはお互いに顔が見えていない状態で話しているから何とも不思議な状態だと思いながらも、サラさんの力強い言葉に俺も覚悟を決めた。そもそもどうなるのかもわからない状態でやるのもハラハラする。
「じゃあ行きます」
「はい!」
俺の合図にサラさんは大きく返事をしたことで、俺は≪自己スキル領域≫で≪魔力武装≫の効果をサラさんに付与した。すると魔力が鎧分減っているのを感じ、さらにサラさんの体から白銀の光があふれ出したことで周りの人たちはその光に当てられて止まったことで俺は人ごみから跳んで脱出した。
「……これが、アユムさんの白銀の、鎧……?」
「そうですよ。と言っても自分が他の人の視点で見るのは初めてですけど」
脱出したと同時に、サラさんの体には七割くらい黒い模様が入っている白銀の鎧が装着されていた。黒い模様のせいで白銀の鎧だと分からない気がするが、それでも性能は変わりない。
「サラさん、これからサラさんに注目させるスキルを使いますから、辛かったら遠慮なく言ってください」
「大丈夫です。だから早く魔法の原因を見つけ出しましょう」
「……そうですね」
サラさんの言葉に俺は遠慮なく≪絶対権限・囮≫の効果をサラさんに付与したところ、さっきまで来ていた殺気のほとんどがサラさんに向き、石などの投てき物がサラさんに向かっている。
「……これ、すごいですね。ほとんどの攻撃が私に来ていますよ……!」
「何で喜んでいるんですか?」
攻撃を受けているサラさんの喜んでいる声に俺は少し困惑した。攻撃を受けて喜んでいる、ということだけを聞けばそっちの気質があるのかと思ってしまう。
「だって、こんなにもアユムさんの負担を減らせているんですから、嬉しくて堪らないんです……!」
「そうですか……、それは良かったです」
サラさんがそう思っていたのかと考えると、サラさんに本格的に修行を付けても良いのかと思った。ただそんな技術は俺にはないため、ラフォンさんに手伝ってもらわないといけない。
「アユムさん、これから真っすぐ進んで行くんですよね?」
「はい。それで見つからなければもう一度来た道を引き返して、そこから二人から何もなければ縦横無尽に動いて行くつもりです」
「それで見つからなかったらどうするんですか? 先日落ちた地下とかにあったら、見つけるのが難しそうですね」
「そんな状況は嫌ですが、幸いこの国に魔法をかけている時点で範囲は限られていると聞いてますからその範囲で探せば大丈夫だと思います」
近くに行けば分かるは、近くに行かなければ分からないという意味も含まれている。ただこの国にある以上、俺が見つけられないことはないと思っているから今日一日で終わらないことはないはずだ。
「……何だか、少なくなってきてませんか?」
「やっぱりそう思いますか?」
俺とサラさんが国を横断している中、段々とこちらに来ている住民が少なくなっていた。それはサラさんも気が付いたようで、俺の勘違いではないと判断できた。
「たぶん、ここからが少し厄介ですね」
「えっ? それってどういう意味ですか?」
「今までは自分が国に入ってきたことで自分を見つけた住民が攻撃して来ていましたが、それがこの国にいる実力のある人たちに伝わって、その人たちが来ていると同時に一般国民たちの避難が行われているんだと思います」
「実力のある人たちということは、フロリーヌさんも来るんですよね?」
「あの人が来ないわけがないです。できることなら来てほしくない味方です」
ラフォンさんは七聖剣にしてこの国のロード・パラディン。そんな人がこんなにも嫌われている俺を討伐するために来ないわけがない。来る候補として挙げられるのは、ラフォンさんやグロヴレさん、ラフォンさんたちの部下、三木を除いた前野たち。
他にも冒険者たちもいるし、その中で神器持ちのサンダさんも来る可能性が大いにある。十五の神器のうち、四つの神器を相手にすることになるとは思わなかった。
「……誰もいなくなりましたね」
「おそらく自分たちが真っすぐにしか行かなかったので国民の退避が簡単に済んだんだと思います」
気が付けば俺たちの周りには誰もいなくなり、少し遠くで俺たちのことを監視している人がいるだけになった。俺は全くそっちの人を知らないから何とも言えないが、冒険者ではなく国の騎士だと予想した。監視している感じが荒い冒険者というより騎士という理由からだ。
「つまり、アユムさんの読みが当たっていれば来るということですよね?」
「おそらく当たっていると思います」
俺とサラさんが周囲を警戒しつつ走っているとこちらに来ている気配に気が付いた。こんなに近くに来ないと分からなくなったのかと≪完全把握≫のスキルに悪態をつきながらこちらに来た人たちを撃退するために止まった。
「来ます」
「向かい打つ気ですか?」
「はい。このまま追われていたらすぐに見つからなければ邪魔をされます。それなら最初から撃退していた方が邪魔されずに済みます。幸い、あちらは一般国民じゃないんで、痛い目を見ても体が頑丈ですから安心です」
「言われてみればそうですね。けど……大丈夫ですか?」
俺に対しての大丈夫は、勝てるかという大丈夫ではなく、攻撃できるのかという大丈夫だとサラさんの心配そうな声音で感じた。俺が勝つということは大前提にあるが、それでも身内に攻撃できなければその大前提も早くも崩れてしまう。
相手が前野たちなら遠慮なく叩き潰してやるが、これが見知った冒険者やラフォンさんならやりづらいと思う。だが、そんなことを思っている場合ではないことは重々承知している。
「大丈夫です、絶対に倒してみせます。ですから安心して見ていてください」
俺は向かい打つためにサラさんを降ろしてそう言った。鎧のせいでサラさんの表情を見ることができないが、今はそうは言っていられない。俺と一緒にいたということは、初期の状態でサラさんに何も思っていなくても、サラさんが俺の味方だと思われて攻撃される可能性がある。
「あの、この鎧は……」
「鎧はつけておきます。いつサラさんに攻撃されるか分かりません。それにサラさんの方に行けば、サラさんに任せても良いですか?」
「ッ‼ はい、大丈夫です!」
そう嬉々として返事をしてくれたサラさんに頬を緩みそうなのをおさえて、目視できる距離まで来た人たちの方を見た。
「アユム・テンリュウジだな? 今より貴様を排除する」
「そうですか。それなら抵抗しないといけませんね」
監視しているのが国の騎士だが来たのは騎士ではなく、女性の冒険者五人が俺の前で武器を構えて殺気を放ってきた。俺は白銀の盾を握り直しながらクラウ・ソラスを出現させた。≪完全把握≫で三木とサルモンさんが無事でいることを確認して、相対している冒険者たちに体を向けた。
「今引けば攻撃しません。ですから引いてくれませんか?」
「何をバカなことを言っている。侵入者にそんなことを言われて引き下がるやつがいると思うか?」
「それは確かに。それじゃあ、やりますか」
一応忠告したが言い返された俺は普通に相手をすることにした。手加減をするつもりだが、死にはしないにしても大けがをするかもしれない。そこは魔法がとけた後に土下座をプレゼントしようと思いながら向かい来る女性冒険者たちに意識を集中させた。