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127:騎士と状況。

つい先日更新したと思っていたのに、もう十日以上経っているんですね。時間の流れがはやい。

 サルモンさんが俺たちの前に立ちはだかったことで、俺は一瞬だけ身構えたがサルモンさんから悪意は全く感じなかった。だけどどうしてサルモンさんが俺たちの前にいるのかは分からない。


「こんにちは、アユムさん。ご気分はどうですか?」

「最悪ですね。そう言うサルモンさんはどうですか?」

「いつも以上に最悪ですね」


 そう笑顔で言うサルモンさんは俺を嫌っているような感じはなく、むしろあちらから話しかけてくれたのだから正常だと言える可能性があった。でも今はサラさんの具合の方が重要であるためサルモンさんを後回しにしないといけなかった。


「すみません、今は先にやらないといけないことがあるので良いですか?」

「……やらないといけないこととは、そこの女性ですか?」

「はい、そうです」


 俺の言葉にサルモンさんは俺がお姫様抱っこをしているサラさんの方を見た。その目つきは少しだけ鋭いものだったが、特別害を加えようとしているわけではないと思った。


「その具合が悪そうな女性をこの国から逃がすために外に行くということですか?」

「そうです。だから今すぐに出ないといけません」

「……まだ、その女性はかかり切ってないように見えますね。それなら間に合うかもしれません」

「かかる……?」


 サルモンさんが俺に分からないようなことを独り言のように言った。だがサルモンさんが何か知っていることは分かった。何か知っているのなら手掛かりのないこちらとしては教えてほしいところだが、それは都合がいいというものだ。


「ねぇ、アユム?」

「あ? 何だよ」

「そこの女性と知り合いなのかしら?」

「そうだ。それが何だ?」

「そう……、そうなのね……」


 俺の隣にいた三木が俺にそんなことを聞いてきたが、こちらも何を言っているのか分からない含みのあることを言ってきた。そして三木はいつもの落ち着いた雰囲気はどこにやら、少しキレていることが分かる表情で俺を見てきた。


「ねぇ、アユム。あなた、知り合いの女の子が多くないかしら? それも全員が可愛い女の子って、どういう了見なの?」


 いきなりそんなことを言われて俺は一瞬だけ思考停止するくらいには驚いたが、別に俺が女の子といっぱい知り合いになっていようが三木には関係のないことだと思い、反論する。


「俺がたくさんの女性と知り合っていても、別に三木に関係のないことだろ。それを三木に口出しされる覚えはない」

「確かにそうね。でも、知り合いの女の子が増えて、フローラさんとかルネさんはどう思うのかしらね? 逆に考えてもそう言えるのかしら?」

「……それを、三木に言われる筋合いはないな」

「ルネさんたち側から忠告をしているだけよ」

「そうかよ……」


 三木にこう言いくるめられるのは少しだけ納得いかないものがあった。別に俺は三木とこういう話をする関係ではない他人なのだから、他人にとやかく言われる筋合いはないというものだ。


「話は終わりましたか?」

「あっはい。大丈夫です」


 俺と三木の会話が終わったことを見たサルモンさんが俺に話しかけてきたことで話を進めることができた。こういう状況だから言わないが、俺としてはあまり三木と会話したくないところではある。


「とりあえず、一旦この国から出ましょう。その女性もですが、今は大丈夫でもアユムさんがこの国の人間すべての敵になることは時間の問題ですから」

「すべての、ですか。……とにかく国から出て考えましょうか」

「その方が一番良いと思いますよ」

「三木もそれで良いな?」

「元々そのつもりだったわよ」


 この国の人間すべての敵になる発言を聞いてどういうことか分からなかったが、サルモンさんの意見と同じく今は最優先で国の外に出ることにした。


 サラさんを抱っこしている俺と三木はサルモンさんの後ろについて国の外に向かって人目のある場所に出て少し早く歩き始めた。俺が出たことで日常的な暮らしをしていた人たちは俺を発見して、和やかな雰囲気が一転して俺を汚物を見るような目で見ている。


「……これは想像していた以上ね、アユム。とんだ嫌われようね」

「それは冗談で言っているのか? それならお前はとんでもなく嫌な奴だ」

「ごめんなさい、想像以上だったからついね」

「ついなら言っていいのかよ。本当に嫌な奴だ」

「冗談よ。許して、ね?」

「ね、じゃねぇよ。今の状況を考えろ」


 俺は隣で歩いている三木が当たり前のように話しかけてきていることが納得できていない。だがここで突っぱねても今の状況では、という考えに陥りこいつの術中にハマってしまっている。どうにかして術中から抜け出したいものだと思った。


「この、疫病神が!」


 俺たちが早歩きをしていると、どこからかそう言って石が俺に向けって投げられてきたため、俺はクラウ・ソラスを出現させて≪一閃≫で斬り落とした。


「そうだ! この国から出ていけ!」

「お前らがいると邪魔なんだよ!」

「この国をこれ以上壊さないで!」


 最初の投石をきっかけに、次々と石がこちらに向けて投げられ始めた。これほどまでにヘイトが向かってくるとは思っていなかったが、俺は冷静にすべての石を動作を必要としない≪一閃≫で弾いて行く。三木を守るつもりはないが、ついでのつもりで弾いている。


「魔法の濃度が濃くなっています。急いで出ましょう!」

「分かっています。この状況で急いで出ない人がいませんよ」


 魔法の濃度と分からない単語を言って俺たちに急ぐように言うサルモンさんだが、俺と三木はそう言われなくても走り出し、三人で急いで国から出る。その際に冒険者の門番が俺に攻撃的な視線を向けてきたが、俺がその冒険者ににらみつけると動きが止まったことでそのまま外に出た。


 そして国から出ると国の中がどれほど気持ち悪い空間になっていたかを外の何ともない場所に出て再認識させられた。ある程度国から見えないところで、安全な場所であることを確認できた草原で俺たちは止まった。


「ここまで来れば大丈夫ですね」

「そのようです」


 サルモンさんの言葉に≪完全把握≫をしながら返事をした。走ったとはいえ、あまり距離を走っていないため俺はもちろんのこと他の二人も息を切らしておらず待つ時間は必要なかった。


「そこの女性をこちらに。私が体調を治します」

「はい、お願いします」


 草原にある大きな岩を示したサルモンさんがサラさんをそばに置くように言ってきたため、俺はサラさんを岩に寄りかかるように座らせた。


 そしてサルモンさんはサラさんの前で手のひらを突き出すと、サルモンさんの手が光り始めた。その光は暖かくて心地の良いものだった。その光がサラさんの全身を包み込むのを見ていると、この光は見たことはないがどこかで感じたことのあると思ったら、俺が地下で魔導書と戦っていた時に俺の中の歪な魔力を打ち消してくれた力と同じだと感じた。


「……これで、大丈夫です。じきに目を覚まします」


 光がおさまりサラさんの顔を見ると、苦しそうな顔から楽そうな顔になっていたことで俺は安心した。それを見て俺はサルモンさんの方を見てお礼を言った。


「サルモンさん、サラさんを治してくれてありがとうございます」

「別に構いません。一人でも多くの人が必要な時なので、これからのことを考えればお礼を言われることはありませんから」

「これから、ですか?」


 サルモンさんは何か知ってそうな言葉を発した。アンジェ王国で何かが起こるのなら、俺はここにいるサラさんもそうだが、フローラさまの安全も確保しなければならない。最悪、フローラさまが≪騎士王の誓い≫で俺を呼んでくれるがそうなることは最悪の場合だと思っていないといけない。


「サルモンさん、教えてください。アンジェ王国で何が起こっているんですか?」

「言われなくても教えるつもりでした。ですが、恐れている事態まで刻一刻と迫ってきています。私が知っている限りを手短に話します」


 俺の問いかけにサルモンさんは深刻な顔をして話し始めた。俺が知っている俺だけが嫌われている状況だけなら深刻でもないと思っているが、おそらくそれ以上なのだと覚悟する。


「まず、数時間前にアンジェ王国全体に大規模な魔法がかけられました。それは徐々に人々の心を侵食していく魔法で、抵抗力がない人は侵食する速度が速く、抵抗力がある冒険者などは侵食する速度が遅くなっています」


 悔しいが三木が推測した通りだったと思いながら、サルモンさんの話を聞く。


「そして、これは間接的に狙われている標的者と魔法がきかない人以外は無条件でこの魔法の餌食となってしまいます。ここにいる人たちは、運よく外にいたか標的者か魔法がきかない人の三種類に分けられます」

「狙われている人が標的者ということは、自分が標的者ということですか?」

「はい、そうです。ちなみに私は精神汚染魔法がきかないので魔法がきかない人に分けられます」

「私も精神干渉魔法がきかないわ」


 俺が標的者で、サルモンさんと三木が魔法がきかない人にわけられる。そして眠っているサラさんが運よく外にいて魔法の効果が薄まっていたのだと分かった。今日外に行っていなければサラさんも俺を嫌っていたことになれば、俺の心にダメージが相当与えられていたことになる。


 そこでふと俺はフローラさまやルネさまもこうなっているのではないかと思ったことで、想像するだけで相当なダメージが来た。相当な覚悟を持ってフローラさまたちと会わないといけないと俺は覚悟した。


「この魔法は、分かっていると思いますが結果的にアユムさんが嫌われるというものになっています」

「結果的に?」


 サルモンさんの結果的にという言葉が気になり、俺はそこを言葉にした。結果的にという言葉は目的とは違うがそうなったみたいな使い方だと思っている。


「アンジェ王国にかけられている魔法がどんな効果を持っているのか、それはまだ確実には分かりませんが、それでもアユムさんを嫌うという効果は持っていないことは確かです。大まかに言うのなら、何かと入れ替えている、という魔法に見えます。それ以上は私でも見ることができません」


 何かと入れ替えているといことが、結果的に俺が嫌われていることになるということが分からない。しかしそれをとやかく言っている場合ではない。今はこの状況をどうにかすることが大事だと思い、俺はサルモンさんに質問する。


「この魔法はどうすれば解けるんですか?」

「術者を戦闘不能にするか、魔法を発動するための起点を破壊するかのどちらかです。どちらも近づけば魔法を発動していることが分かるので心配いりませんが、術者を探す方が厄介です」

「移動するからですか?」

「そうです。術者は移動しますが起点はその場になければなりませんからそちらの方が楽です。しかし今回はどちらかが分かりませんから、とりあえず国中を探し回らないといけません」

「国中を……かなり時間がかかりそうね」


 サルモンさんの言葉に、三木がそう呟いたが俺からすればそうではなかった。むしろ見つけられるのならそれだけでも十分だった。≪完全把握≫があればすぐにでも見つけられるのだが、それは仕方がないと割り切る。


「そうは言ってられないだろ。それに俺の速度なら国中を探すのは訳ない」

「でもアユムは他の人から狙われているんだから、動きにくいんじゃないのかしら?」

「……確かにそうだな。でも俺の≪魔力武装≫なら国の人たちが例え攻撃してきても気にせずに動ける」

「それでも、国の人たちがすべて敵になるということは、フロリーヌさんやユズキたちとも戦うことになるのよ?」


 三木にそう言われてそれは厄介だと思った。前野妹たちなら俺にとっては軽く倒すことはできるし、ラフォンさんも厄介ではあるがおそらく倒すことができる。でもそれらを一度に相手にするとなれば話は別だ。相手を殺さずに倒すとなれば、難易度も上がってくるからだ。


「やるしかないだろ。この魔法がどんな目的でしているのか分からない以上、これ以上好き勝手にさせるわけにはいかない」

「アユムさんの言う通りです。今は一刻も早くこの状況を打破しなければ国が崩壊する可能性だってあります。国の人々に危害を加えるのは騎士として許されませんが、今は緊急事態ですし大目に見てもらいましょう」

「そうですね」


 この国規模で起こっているため、サルモンさんが言うように誰かによって国が掌握される可能性だってあるわけだ。ならこの状況を解決しなければならないということに変わりはない。


「う……ん……?」


 そうこう話していると、岩に寄りかかっているサラさんが目を覚ました。そしてここがどこか分からないといった感じで周りを見ていたが俺の顔を見て一安心した表情を浮かべた。


「サラさん、気分はどうですか?」

「……大丈夫です。私は、一体どうしてここにいるのですか?」

「国に入って精神に干渉する魔法に当てられていたみたいで、さっきまで気を失っていたんですよ」

「アユムさんが、助けてくれたのですか?」

「残念ながら自分ではできません。そこにいるサルモンさんに助けてもらいました」

「あっ、あの時の……」


 俺がサルモンさんと出会った時にサラさんもいたためサルモンさんのことを知っているため、サラさんはサルモンさんに頭を下げてお礼を言った。


「あの、助けてくれてありがとうございます」

「お礼はアユムさんからもらいましたからもう十分です。それよりも、目を覚まして早々申し訳ないですが、今はあなたがどうするかを考えなければなりません」

「私、ですか?」

「はい。あなたです」


 サルモンさんのその言葉の真意に俺は気が付いた。サラさんだけが、この場で一番危ないと感じた。


「あなたは、アユムさんのように標的者でもなければ私とそこにいる女性のように魔法がきかないわけでもありません。ですから国の中に入れば、国の人々のようになるかもしれません。ですからあなたはここに残ることが望ましいです」


 サルモンさんの言う通り、サラさんは国全体にかかっている魔法をどうにかする術を持っていない。だから国に入ってもサラさんができることがないかもしれない。


「……どういう話かはあまり理解していませんが、私はアユムさんと一緒に戦いたいんです。足手纏いにならないようにします。ですから、私も一緒に付いて行きたいです」


 深く話をしていないのにもかかわらず、サラさんは力強い視線でサルモンさんに言った。俺としてもサラさんをここに置いて行くことはできないため、内に宿るクラウ・ソラスにどうにかできないかと考えを送った。


「それなら良かったです。ここでぐちぐちいうような人を連れていくつもりはありませんでしたし、ここが絶対に安全と言えないので数少ない仲間を置いて行くわけがありません」

「じゃ、じゃあ付いて行っても良いですか?」

「はい。それよりも今の状況を説明しますね」


 サルモンさんがサラさんに今の状況を話している間、俺はクラウ・ソラスに意識を集中して、今の状況とそれを打破できる考えを送ったところ、いつもよりも異常に早くスキルが手に入った。いつもなら戦っている中か数時間くらい時間がかかるのにもかかわらず、それが数秒で終わった。


 俺が手に入れたものは≪自己スキル領域≫というものだった。俺が望んだのは、一定範囲いる人を守るスキルを考えたが、このスキルは俺が持っているスキルをその領域にいる任意の人にも効果を与えることができるというものだった。


「ここにいる三人なら私かそこの勇者さんと一緒にいることが一番ですが――」

「あの、少し良いですか?」


 サラさんに状況を説明したサルモンさんが誰と一緒にいるかを言っている話を遮って俺のスキルを伝えたことで、サラさんは俺と一緒に行くことが決定した。

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