126:騎士と異変。
いや、ね? もはや言うことはありませんよ。これだけ投稿していない時間があったのに応援してくれる人がいたので頑張って書きました。マジで前回で区切りが良かったので、何を書こうとしていたのかは覚えているんですけど、細かい部分が本当に思い出せなかったので探り探りで書きました。自業自得なんですけどね。
それから長い時間が空いたということなので、自分でも気が付かないようなおかしい場所があるかもしれないので、そこは指摘してくれたら嬉しいです。
無事にティラノワームから始まり、スラッシュベアー、ブレスバード、ブラッドスネーク、スニークウルフを討伐することができ、俺とサラさんは歩いて王都に戻っていた。
一応討伐の証拠として魔物のそれぞれの一部を持っているが、できることならばすべての魔物を持ち帰りたいところだった。しかし、そうしても今の王都にはそれを処理するのは後になるため、今回は諦めることにした。
「今日はさすがに冒険者ギルドに報告したら帰りましょう」
「そうですね。もう疲れました」
魔物の気配がないのは≪完全把握≫で確認済みであるためゆっくりとサラさんと歩いていた。俺は特別疲れていないが、今日初めて魔物と戦ったサラさんは別だった。身体的にも精神的にも疲労が見えている。
「今日、戦ってみてどうでしたか?」
「そうですね……、何だか、アユムさんと一緒に戦っていると楽しかったです」
「楽しい、ですか?」
「はい。アユムさんの戦いを近くで見れてアユムさんと肩を並べて戦えましたからすごく楽しかったです」
サラさんがとてもまぶしい笑顔を俺に向けてきたことで、俺は恥ずかしくなって別の方向を向いた。しかし、戦うことしか能がない俺でも楽しかったと言われるとは思わなかった。
「……そうですか」
「はい、そうです。また一緒に行きましょうね」
「まだまだアンジェ王国の周りに魔物がいるので、近々一緒に行けると思いますよ」
「それなら明日にでも行きましょう!」
「明日ですか? まぁ、しばらくは暇ですから良いですよ」
「決まりですね。約束ですよ」
「はい、約束です」
俺とサラさんはそんな約束をしながらアンジェ王国の北門の前にたどり着いた。そして北門には行きと同じ女性の冒険者がいた。俺とその女性の冒険者は目が合い、俺は会釈をしながら声をかけた。
「どうもです」
「……あぁ、アユムさんですか。もう帰ってきたんですか?」
「えっ、えぇっ、もう終わったので」
「そうですか……」
「じゃ、じゃあ、自分たちはこれで……」
俺は女性冒険者の声音と表情を見て驚いたが、すぐにその場から離れて戸惑いを気づかせないようにした。女性の冒険者は行きでは笑顔で返答してくれたのにもかかわらず、今さっきは俺のことに興味がなく、どうでもいいと表情で言ってきていた。
どうしてそんな表情をされるのか俺には全く分からなかった。俺に心当たりはないが俺のせいかもしれないから何も聞かずに国の中に入った。
「あの、あの人ってあんな態度でしたか?」
「……違うと思います」
「どうしたんでしょうか?」
「それは分かりません。何か自分がしたのかもしれませんね」
「何をしたって言うんですか。アユムさんは悪いことをしていませんよ」
「それなら良いんですが……」
サラさんにフォローを貰い、少し元気になりながら復興が続いているアンジェ王国の中を歩いて行く。どの道中、どこかから俺に対して殺気が送られていることに気が付いてそちらを向いて≪完全把握≫も展開した。
「どうしましたか?」
「……いえ、何でもないです」
しかし一瞬で逃げられて、≪完全把握≫でもとらえきれない速度で逃げたのか、それとも転移か何かで移動したのかまで分からなかった。とにかく≪完全把握≫の範囲をいつもより広くしてより一層注意することにした。
「……何だか、街の雰囲気がおかしくないですか?」
「たぶん、雰囲気じゃないと思います」
俺とサラさんが冒険者ギルドに向けて街中を歩いている中、サラさんも街の違和感に気が付いたようだった。街の違和感と言うよりは、俺に向けられている視線が王都を出発する前の視線と全く違った異質なものになっている気がしてならない。
「何かあったんでしょうか?」
「……自分にはさっぱりと分かりません」
さっきの女性の冒険者は素っ気ない感じであったが、今の俺に向けられる視線は好意的な視線ではないことは分かっていた。強いて言うならば、騎士王決定戦の後に向けられていた嫌悪的な視線であった。
「何だか、気味が悪いですね……」
「……そうですね、これは異常な気がします」
急な変化に俺とサラさんは困惑しかできなかった。そんな状況なため、俺は思わずサラさんの手を握ったがサラさんも俺の手を握り返してくれた。そしてこんな状況から逃れるために少しだけ早歩きをして冒険者ギルドに向かった。
☆
仮の冒険者ギルドに到着するまでの間、街の一般人たちからは嫌な視線を向けられ、復興を手伝っている冒険者たちからは何の感情もない視線を向けられていた。
それに、どこか気分の悪い空気がこの王都に流れている気がしてならなかった。それをサラさんも気が付いているようでどこか具合の悪そうな顔をしていたが俺にはどうすることもできない。これが何者かの仕業なのか、それともただの勘違いなのかすら分からない。
「すみません、マティスさん。魔物を討伐してきました」
「アユムさんですか。はい、ありがとうございます」
仮の冒険者ギルドの区域に入り、椅子に座って何か作業をしていた受付嬢のマティスさんに声をかけた。しかし前会った時と対応が全くの別人だった。俺に対して真顔で返答している。
「あの、これが魔物討伐の証拠です」
「はい、確かに。おつかれさまでした」
マティスさんは俺から受け取った魔物の一部を受け取り、淡々と言葉を並べる。これがいつものマティスさんなのか、それとも変なのか、俺には全く分からない。
「あの、アユムさん」
「はい? 何ですか?」
いよいよどうなっているのか考えないといけないと思っているところに、俺の後ろにいたサラさんが俺の服の袖を引っ張って俺に耳打ちをしてきた。
「やっぱり何かおかしいですよ」
「サラさんもそう思いますか?」
「そうですよ。だって今まで頑張っていたアユムさんを見ていた人たちが、数時間であんな視線を送ってくるわけがないです」
「まぁ、そうですよね……」
サラさんの言葉で俺は頷きながら、何か原因がないかと考えるが特に心当たりはなかった。誰かがこれをしたとして、何が目的なのか、それがイマイチ分からない。この国の人間をすべて敵にしたとしても、俺には一切勝てないことは先の超巨大モンスターで分かっているはずだ。
「私が少し確認するので、私に合わせてください」
「えっ? はい、分かりました」
俺はサラさんにそう言われて何をするのか分からないまま頷いた。そしてサラさんは俺の腕に抱き着いてきてマティスさんに向き直った。
「マティスさん。今日アユムさんとお出かけするんですけど、良いですか?」
「はぁ……? どうして私に確認を取るのですか?」
「いえ、少しした確認です。マティスさんには関係ないですけど、一応の確認です」
「意図が全く見えませんが、勝手に行けばよろしいのでは?」
「はい、そうですね」
俺でさえ全く意図の分からないことをサラさんとマティスさんが話し、全く分からないまま会話が終わった。そしてサラさんは俺の腕をひいて仮の冒険者ギルドから離れていく。その際にも冒険者たちから向けられる視線は感情がなく見られて気味が悪かった。
「やっぱりおかしいです」
「それは分かっていますよ」
誰にも見られない場所で止まったサラさんは俺の腕を解放してくれて真面目な顔でそう言っているが、先ほどもそれを聞いている。二回言うくらいにおかしいということを言いたいのかと思った。
「普通の人とかアユムさんをよく分かっていない人ならともかく、マティスさんがあんな反応をするのはおかしいですよ。それにさっきの私の言葉を聞いても何も思わないのはなおおかしいです」
「……どうしてマティスさんだったらおかしいんですか?」
「どうしてって、……まぁ、そこら辺は私の口から言えることでもないのでそう言うものだと思っていてください」
「よく分かりませんが、分かりました」
サラさんの曖昧な言葉に突っ込もうとするが、話が進まなくなると思って無理やり納得することにした。サラさんの言う通り、この国では何か俺たちが分からないことが起こっていることは確実だった。
「アユムさんの力で何か分からないのですか?」
「……≪完全把握≫を広げているんですけど、全く分からないですね」
昨日の戦闘が響いているのか、どこか≪完全把握≫の力を百パーセント引き出せていないような気がしていた。体、というよりはクラウ・ソラスやスキルに影響が出ているように感じている。
「……とにかく、どうなっているのか原因を探しましょう。そうじゃないと気になって寝れませんから」
「そうですね。これは異常です」
俺がサラさんにそう提案すると、サラさんは頷いてくれた。とは言え、どうやってこの原因を調べるのか、全く考えが出なかった。俺たち以外にも誰かこの国の異常に気が付いている人がいれば、その人に話を聞けるかもしれないと思っているくらいだ。
「とりあえず、自分たちに友好的な人を探すか手掛かりを探すことから始めましょう」
「はい、分かりました」
そう言って俺とサラさんはその場から動こうとした。しかし俺の≪完全把握≫が正常に動いて感知範囲の中に俺が良く知っていると言っても良い人物が来ていた。そして、その焦っている表情の人物と俺は目が合い、その人物は嬉しそうな顔をした。
「アユム……」
「……あぁ」
俺がこの国に戻って一番最初に俺に好意的な視線を送ってきてくれたのは、俺が避けたいと思っていた三木だった。通常では会いたくない奴だと思っているが、こんな状況だから会って少し安心していることに少しだけ自分に腹が立った。
「良かったわ、アユム。やっと会えた」
息が上がり、汗が出ていることから俺を必死で探していたことが分かった。少し前なら無視してどこかに行っていたところだが、こんな状況じゃなくても一言くらいなら嫌々挨拶するし、今はそんなことを思っている場合ではない。
「俺を探していたのか?」
「えぇ、そうよ。それにサラちゃんも一緒だったのね」
「はい、こんにちは。マヤさん」
三木とサラさんは前にルネさま関連で接点があったのだと分かったため知り合っているのは驚かない。それにしても三木がこんなにも焦った表情をしているということは、三木もこの現状をおかしいと思っているのだろうかと思った。
「サラちゃん。サラちゃんは、アユムのことをどう思っているの?」
「……マヤさんもこの異変に気が付いたのですね」
「そうよ。それでね……」
三木がサラさんに妙なことを聞き、サラさんはそれを聞いて三木の方に近づいて行って二人で俺に聞かれないように何かを話しているため、俺は別の方を向いて聞かないようにしながら≪完全把握≫で何か手掛かりがないかを調べるが特に見当たらない。
「アユム、終わったわよ」
「……そうか」
俺は三木に声をかけられ、そちらを向くと思った以上に三木とサラさんの表情は暗かった。何を話していたのか俺には分からないが、何かを確認し合ったのは間違いない。
「サラさん、三木と何か話したんですよね? 何か分かったんですか?」
「……分かったと言えば分かりましたけど、何が起こっているのか分からなくて」
「私とサラちゃんが確認した中で、共通していることはあったけど、どうしてそれが起こっているのか全く分からないのよ」
「共通していること?」
「えぇ、共通していることだけは国中で起こっているわ」
「何だよ、その共通していることって?」
「それはすべての人間がアユムにマイナスの感情を持っていることよ」
「……は?」
俺は三木の言葉に何を言っているのか分からなかったが、確かに国の人々は俺にマイナスの感情を持っていると言ってもよかった。だが、それ以外の冒険者やマティスさんはマイナスまでは行っていないはずだと思った。
「いや、俺がさっき会った人はマイナスの感情を持っていなかったぞ?」
「でもいつもとは違って少し冷たいと感じなかった?」
「……まぁ、それは感じたな」
「これは仮説だけど、力の弱い一般人はアユムにマイナスの感情を持っているけど、それなりに力を持っている人は抵抗力があるからマイナスにならなくてもアユムに対しての好意的な感情が減少しているんじゃないのかしら?」
「……そうだとしても、どうして俺個人なんだ?」
「それは分からないわよ。それを今から調べないと、結構まずい状況だと思うわ」
「どうしてだ?」
「……ユズキとリサ、チナがもう手遅れかもしれないからよ」
俺の質問に三木は少しの沈黙の後、苦虫を嚙み潰したような顔をして他の同郷の三人の名前を言った。それを聞いた瞬間に、俺はこの話の流れで察した瞬間に別に手遅れで良くないか? と思った。
「その三人も俺を嫌っているってことか?」
「まだその段階に行ってないけど、アユムのことを話していると急にアユムに全く関心がないようになったの。最初は冗談かと思ったけど、時間が経つにつれてアユムに対しての関心がないことが顕著になってきて、ついにはその話題に嫌悪感を覚えるくらいになっていたわ。だから、今はもう遅いかもしれないわね」
俺は、えっ、それでいいじゃん。と言いそうになったが今は抑えて真面目な顔をして話を続けることにした。これがまだサラさんにも被害が及ぶ、とかなら早急に片付けなければならないが、俺一人にヘイトが向くのなら俺はいくらでも耐えることができる。
「調べると言っても、どこから調べるつもりだ? 俺とサラさんはさっきまで魔物を討伐するために外にいたから分からないが、何か手掛かりでもあるのか? そうなる前に何か音がしたとか、何か異変が起こったとか」
「いいえ、残念ながらないわ。それでもアユムもサラちゃんも気が付いているでしょ? この国の中が異様な空気に包まれていることに」
「それはな。これだけ異様だと気が付かない方がおかしい」
「そうよ、私たち以外は誰も気が付いていないのよ。そこもおかしいわよね?」
確かに、俺の姿が見えない国の人たちを見ると、まだ元通りの暮らしではないがそれでも日常的な暮らしをしていることが分かる。この異様な空気がまるで分かっていないと言える。
「……この異様な空気を出しているところが分かれば、原因が分かるかもしれないということか?」
「断定はできないけれど、そうだと思うわ」
手あたり次第見つけるとなれば、ゴリ押しできる力を持つ俺の出番なわけだと思っていると、視界の端にいるサラさんの異変に気が付くことができた。
「サラさん? 大丈夫ですか?」
「はぁ……、はぁ……、だい、じょうぶです」
「それは絶対に大丈夫じゃないですよ」
サラさんは苦しそうに顔を歪めており、大丈夫だと言っているが決して大丈夫ではなさそうであった。俺と三木が大丈夫でも、サラさんはさっきから具合が悪そうにしていた。こんな変化にも気が付かないことに騎士として情けないと思ったが、今は後回しにする。
「ここはガンバンテインでサラちゃんにかかっている魔法を解除するわ。少し魔力がいるけど、今は仕方がないわ」
「待て。結局この国にいるんだから解除しても意味がないだろ。国から出てそれをしてくれ」
「えぇそうね」
俺と三木がそう話し合い、俺がサラさんをお姫様抱っこをして国の外へと飛び出そうとしたが、そんな俺たちの前にある女性が立ちはだかった。
「ふぅ、いてくれて良かった」
地下の書庫で出会った騎士の女性、サルモンさんが俺たちの前に立ちはだかっていた。
これからも適当に頑張っていきます!