125:騎士と没落貴族の少女。⑥
ブラッドスネークを書く際に、ネットで蛇のことを軽く調べたのですが、自分は蛇がすっごく苦手なので蛇の画像を見ないようにしていました。今後蛇はたぶんでません。
最初に没落貴族の少女が投稿された日を見て、もう三か月も経っているんだと衝撃を受けました、すみません。
平原を二人で走り続けていると、ついに平原が終わり岩場が見てきた。そして岩場に入るすぐ近くにブラッドスネークがいることも確認ができたが、≪完全把握≫で認識できているだけで視界にはただ岩があるだけに見える。
「サラさん、止まってください」
「はい」
俺はサラさんに止まるように言い、俺とサラさんはその場で止まった。
「ここから先はブラッドスネークの領域です。ですから、今からサラさんを抱きかかえますね」
「はい、お願いします」
俺の言葉にサラさんは近づいてきて、俺の首に手を回してきた。俺はそれに応じてサラさんの腰に片腕を回して片方の腕でクラウ・ソラスを振れるようにした。
「行きますか」
「そ、そうですね」
こうしてサラさんを近くに感じていることで、少しだけドキドキしてきた。今日の朝は一緒に寝たり、昨日はサラさんを抱っこしていたが、意識してしまうとドキドキしてしまう。だが、今は切り替えて擬態しているブラッドスネークに狙いを定める。
「これから戦闘に入ります。しっかりとしがみついていてください」
「はいっ!」
そう言ってサラさんを抱きかかえて俺は走り始めた。ブラッドスネークは未だに擬態したままだが、俺たちのことには気が付いているはずだ。俺はそう仮定して、ブラッドスネークに向けて殺気を向けた。
だがブラッドスネークは未だに擬態を解こうとしなかった。何をしてくるか分からないが、サラさんにAランクの魔物との戦いを見てもらうこともあり、俺はブラッドスネークの胴体に向けて≪裂空≫で軽く斬撃を飛ばした。
「ようやくか」
思ったよりも軽くしてしまったため、少し傷を入れただけで終わったが、ブラッドスネークは擬態を解かずにそのまま動き始めた。動き始めたことで、そこにいることが目で認識することができ始めた。
「こんなに近くにいたんですね」
サラさんもブラッドスネークを認識することができ、驚いた表情をしている。俺も≪完全把握≫がなければ気づいていなかったということになるため、このブラッドスネークの擬態能力に驚いているところだ。
「はい。ですが、このブラッドスネークの能力はこれだけでは終わりません」
「他に何があるのですか?」
「名前の通りですが、説明するよりも見てもらった方が早いはずです」
ブラッドスネークはこちらに顔を向け、舌を出し入れしているが、俺は構わずにブラッドスネークの首を取りに行こうとした。
「シャアアアアアアッ!」
ブラッドスネークは攻撃しようとしている俺を囲み込もうとしてきた。俺は一先ずブラッドスネークの包囲網から逃れるために跳んで離れるが、すでにここら一帯にはブラッドスネークの身体しかなくなっていた。これほどまでにブラッドスネークの身体が長いと、包囲網が完成されると普通なら逃れる術はなさそうに思える。
俺はやむを得ず、ブラッドスネークの身体に着地してしまった。着地した身体の部分から、血が噴き出てきたため、俺はすぐに飛びのき、すぐに他のブラッドスネークの身体に着地するが、再びそこから血が噴き出てきた。
「えっ、えっ? な、何で踏むだけで血が?」
「そういう体質らしいです」
俺はその場から思いっきり飛びのき、血に当たらないようにしてブラッドスネークの包囲網の外側に立った。ブラッドスネークは身体を渦巻かせており、その中央に顔を上げてこちらに顔を向けていた。そして、外側の身体から突然俺に向けて血が噴き出てきたが、俺は数歩下がってそれを難なく避けた。
「血が・・・・・・」
サラさんはブラッドスネークから噴き出てきた血が地面に落ち、地面を溶かしている光景を目にして絶句していた。
「ブラッドスネークは溶解の血を身体から出し、相手の動きを封じて食べるらしいです。それに加えて身体の大きさや高度な擬態、口から吐き出す猛毒。スラッシュベアーやブレスバードよりも手強い相手です」
このブラッドスネークは特殊性と純粋な戦闘力を併せ持っている。普通に強く、サラさんがこのブラッドスネークに勝てるようになるのは全然先だ。だが、勝てない相手ではない。
俺はブラッドスネークの周りを走り出し、それに対してブラッドスネークは俺に血を当てるために何か所も血を噴き出させ始めたが、俺はそれを避けて走り、適度にブラッドスネークを斬りつけていく。そこからも血が出ているが、それも避けて周りを走り続ける。
こんな巨体ではあるが、血の量には限界がある。こんなちまちまと削るのは途方もなく、あまりいい手とは言えないが、それでも倒す方法の一つではある。こちらの体力が続く限りは大丈夫だが、やる人は俺くらいしかいないと思う。
だが、これが決定打ではないにしても、相手の隙を作ることにはなる。こう図体がデカければやれることが限られてくるし、こちらに攻撃を一度も与えれてはいない苛立ちがあるはずだ、魔物相手にそれが通じるかどうかは相手によって変わるが。
「シャアアアッ!」
俺が周りでウロチョロとしていることにブラッドスネークはしびれを切らしたのか、次の一手を繰り出してきた。
「今度は突進か」
渦巻いていた身体の中央にいた頭の部分が出てきて俺に突進してきた。俺がそれを避けると、ブラッドスネークは地面へとぶつかって砂埃が立った。考えなしの捨て身タックルかと思ったが、≪完全把握≫で頭部が砂埃に紛れて俺を囲み込もうとしているのが分かった。
そうならないようにいち早くブラッドスネークから離れようとすると、その方向からブラッドスネークの棘が付いた尾が向かってきた。俺はそれをクラウ・ソラスで弾いたが、その棘から紫色の液体が漏れ出してこちらにかかりそうになっていたため、瞬時に尾の向こう側に移動した。
「物騒だな」
紫色の液体が地面に落ちると、地面は解け始めた。こいつの身体は相手を殺す、もしくは戦闘不能にする道具が揃っている。特殊性はブレスバードよりも厄介だ。
そう思っていると、ブラッドスネークは岩場の中に巨体の割に素早く向かい始めた。岩があるため、良い感じでブラッドスネークの擬態に有効な場所だと思う。それに、自分の領域に持ってこようとしている辺り、それなりの知性が見て取れる。
本当ならば相手の得意な場所に引きづり込まれる前に倒すのがセオリーだが、ここはサラさんにブラッドスネークとの戦いを見せるために俺はあえて敵陣に入っていく。すでにブラッドスネークは岩に紛れており、擬態や岩の多さ、そのおうとつにさっきよりも見えづらくなっている。
「・・・・・・どこに、いるんですか?」
「自分の死角にいますが、もう来ます」
サラさんがキョロキョロとしながらそう聞いてくるが、俺が方向を示す暇もなくブラッドスネークが俺の背後から口を大きく開け少し紫色の気体を漏れ出させながら向かってきた。俺は≪裂空≫を使ってその気体ごとブラッドスネークの頭部を吹き飛ばした。
吹き飛ばされたブラッドスネークはすぐさま岩場に戻って行き、身を潜めた。≪完全把握≫で分かっているが、ここはすでにブラッドスネークが周りを囲んでいる。逃げることは不可能となっていた。逃げるつもりはないが、さすがはAランクの魔物と言ったところだと再認識した。
ここから俺の死角を狙って次々に岩場からブラッドスネークが俺を喰らいに来たが、俺は≪完全把握≫で分かっているため、≪裂空≫を使って撃退していく。自陣であるためか、撃退されてから次に来るまでの間が短い。
「何をしているんだ?」
また次が来るかと身構えたが、ブラッドスネークは俺の真上に頭部を持ってきた。上から落ちてくるつもりかと思ったが、上から毒霧を吐き出してきて、さらには身体から血を噴き出させてきた。それに加えて周辺からブラッドスネークの血が俺に向かってきた。
「≪一閃・空弾≫」
一閃と裂空を組み合わせ、何かを弾くことだけに特化した技を血と毒霧に向かって放った。血も毒霧も俺にかかることはなく、その場で止まるか違う方向に弾き飛ばされた。
もうそろそろで倒しても良いと判断して、俺は岩に戻ろうとしているブラッドスネークに向けて≪裂空≫を放った。俺の斬撃はブラッドスネークに直撃し、ブラッドスネークの頭部を斬り落とすことができた。
ブラッドスネークは斬られた場所から大量の血が噴き出しており、頭も少しの間動いていたがすぐに動かなくなり絶命した。絶命したブラッドスネークを見ながら、危険な場面はなかったが、それなりに厄介な敵だと思った。
俺は岩場から抜け出して草原に戻った。そして安全を確認したのち、サラさんを降ろした。危険がないように心がけていたし、降ろしたサラさんを見て安全であることを確認した。
「ふぅ、どうでしたか? 近くから見て」
「・・・・・・アユムさんが言う通り、遠くから見るのと近くから見るのとでは全然迫力が違いました。アユムさんはあんなところで戦っていたんですね」
サラさんは俺とブラッドスネークとの戦いの余韻に浸っているような感じで俺の問いに答えてくれた。戦いの中でサラさんのことを少しだけ見ていたが、迫力に怖気づくことはなくブラッドスネークの方を見ていた。
「大丈夫ですよ、そう思っているのならいつかはあの中で戦えますよ」
「アユムさんは、どうしてそう言い切れるのですか?」
「どうして・・・・・・?」
サラさんが純粋な疑問を俺にぶつけてきたことにより、俺は少し考えてしまったが、これが一番しっくり来ている答えをサラさんに答えた。
「何となくです」
「えっ? な、何となく、ですか?」
「はい、勘です」
「えっ⁉」
俺の答えにサラさんは戸惑った様子を見せてくれた。こういう戸惑った顔を見て、俺は少しおかしくなって頬を緩めてしまった。それと説明不足だと思って付け加える。
「自分は人のことを見て、この人は強くなる、この人は弱くなるなどの判断はできません。ただ、頑張り続ける人、頑張り続けれる人が強くならないわけがないと思っています。頑張り続けれる気持ちをサラさんは持っていて、頑張り続けているので、自分は強くなれると言っています。あとは、何となくサラさんなら強くなれると思っている節もありますけど」
俺は思っていることをそのまま言った。頑張り続けることができる人間は、元の世界で周りの人間を見て思ったことだ。残念ながら、俺は頑張り続けることができない人間で、この世界に来てずるをしているだけに過ぎないため、俺のことを知っている人ならば俺の言葉は何の説得力もないと思う。
「・・・・・・ふへっ」
俺の言った言葉に、サラさんは少しの間何も反応しなかったが、突然とてつもなく緩んだ顔をして笑みを浮かべている顔を見てしまった。俺が呆気に取られていると、それに気が付いたサラさんは顔を真っ赤にしてすぐに顔を戻して手で顔を隠した。
「み、見ないでください!」
「それはどんな顔ですか」
緩み切ったサラさんの顔は、俺の頭にしっかりと刻み付けられてしまった。どうしてあんな顔をしているのか分からないが、恥ずかしがっているサラさんに聞くことははばかられる。
「す、すみません、アユムさんにそんなに褒められたら、顔が緩んでしまって」
「別に謝ることではないですよ。それにサラさんの知らない一面が見れたので自分は嬉しいですよ」
「そ、そんなことを言われても、わ、私は恥ずかしいです! すぐに忘れてください、あんなはしたない顔は!」
「いやいやいや、無理です。もう一生忘れられません。諦めてください」
「それでも忘れてください! 恥ずかしくて死んでしまいます!」
「それも無理です。絶対に死なせませんから」
「うっ、うぅっ」
サラさんは俺との問答で忘れられないと思ったのか、すごく恥ずかしそうな声を漏らしている。少しだけ意地悪をしてしまったかと思ったが、忘れられないのは事実だ。
俺はサラさんを可愛い攻めをして慰めた後、次なる目的地であるスニークウルフが生息している西にある森林に向かい始めた。
俺とサラさんは並んで森林に向けて走っているが、サラさんを慰めたにもかかわらず、サラさんの反応がかなり塩対応になっていた。
「あの、サラさん?」
「はい、何ですか? テンリュウジさん」
「あの、怒ってますか?」
「いいえ? どうして怒る必要があるのですか?」
「じ、自分が何かしたからですか?」
「何かしたという心当たりがあるのですか?」
「そ、そんなにはないかなぁ、なんて」
「それなら私は怒っていないですね」
この問答をして、俺は全力で土下座を繰り出さねばならないと覚悟した。恥ずかしいところをさらに追い打ちをかけたことがいけなかったようだ。そもそも追い打ちと言っている時点で塩対応されても文句は言えない。
「さ、サラさ――」
「ふふっ、少し意地悪し過ぎましたね。ごめんなさい」
俺がサラさんに謝ろうとしたところで、笑みを浮かべてサラさんから謝ってきた。
「いえ、自分が悪いです。自分がサラさんのことを意地悪し過ぎたばかりに、サラさんを羞恥攻めをしてしまいました」
「本当に気を付けてくださいね。そういうことを女性にしたら機嫌を損ないますよ。私は別に大丈夫ですけど」
「それならさっきのあれは何だったんですか?」
「それは私のお茶目です。それとそういうことをしたらどうなるかを身をもって体験してもらいました。どうでしたか?」
「それはもう、本当に、身に沁みました」
女性にこういうことをしないように記憶に刻み付けた。だが、心の中で反論をしておくと、あんな態度をしていたサラさんが悪い。こんなことを言ったら、またサラさんに塩対応されては俺の精神にダメージが入るため、言わないようにした。
「見えてきましたね」
「はい、私も見えています」
そうこうしている内に、立派な木が無数に生えている森林が見えてきた。さらに俺の≪完全把握≫に引っかかっているスニークウルフが二十体以上いることが分かっている。
「スニークウルフとの戦い、行けそうですか?」
「もう万全に行けます。アユムさんとの会話で緊張なんてなくなりましたから」
「それは良かったです。それでは自分が一撃目を放つまで自分の後ろにいてください」
「はいっ」
サラさんの顔色を窺っても、万全と言えるほどの顔色をしていた。そのため、俺はサラさんより前に出て森林を見る。森林を≪完全把握≫で見ると、すでにスニークウルフがこちらに気が付いている陣形になっていた。
俺に対してその陣形はすべてを知っているため無意味で、これからその陣形を崩しにかかる。しかし、俺の一撃でどれだけのスニークウルフを討伐するかによって話が変わってくる。
すべてのスニークウルフを森の外から一撃で倒すことはできるが、今回はサラさんにも手伝ってもらうことになっている。すべて倒してはサラさんの取り分がなくなってしまうため、どれだけの量を残せばいいか、考えなくてはならない。
「・・・・・・よし」
答えを出したと同時に森林の手前にたどり着いた。俺とサラさんは止まらずに走り続け、俺はクラウ・ソラスを出して≪裂空≫を放つ前にどこにどう攻撃するのかを殺気でスニークウルフたちに伝えた。するとスニークウルフすべてが反射的にだろうが、上に跳んだ。その下を俺の斬撃が通り、スニークウルフがいる場所一帯の木々が伐採された。
木々が重力に逆らわず下にどんどんと落ちて行くが、スニークウルフはそれを軽やかに避けている。俺とサラさんはすべての木々が落ちきるまで待ち続け、倒れ切ったが砂埃が立っている。
「砂埃に紛れて来ます」
「はい!」
そう言った直後、黒く、鋭い牙をむき出しにしている人間ほどの全長のスニークウルフ一体が俺に向かって飛び出してきた。俺はスニークウルフを切り裂き、それに対処した。
「砂埃を払います。少し目を閉じていてください」
俺はそう言って周りに≪裂空・広≫を放ち、砂埃を払った。そしてスニークウルフたちは俺たちを囲んでいた。逃げる気はないようで、ここで俺たちを仕留めるつもりでいる。
「サラさんは気にせずに向かってきたスニークウルフを倒してください。その他は自分が対処します」
「お願いします!」
俺がそう言うと、サラさんは胸当てに魔力を流して全身に魔力を纏って戦闘準備を完了させて、背中合わせになってスニークウルフたちを向かい打つ。スニークウルフたちは、俺とサラさんに同時に向かってきた。どうやって連携を取っているのかは分からないが、木々がなくなっても俊敏な動きでフェイントをかけてきている。
「ふっ」
「はぁっ!」
俺は数体のスニークウルフをクラウ・ソラスで斬って倒し、サラさんの方に三体来ていたため二体を≪一閃≫で倒してサラさんに一対一を仕向けた。サラさんは噛みつこうとしていたスニークウルフを冷静に避けて殴り飛ばした。
それからサラさんにどれだけスニークウルフが複数で来ても、俺が一体しか行けないようにした。さすがに俺よりもサラさんの方が弱いと分かっているのか、先にサラさんの方を倒そうとしているが、それを俺が阻止している。
サラさんはスニークウルフと一対一で戦っても難なく戦えている。だが、ここでスニークウルフの数を増やすのはできない。連携してくる魔物であるから、単体と複数とでは話が違う。ここは魔物を少しランクが高い魔物を倒すことに専念してもらうことにした。
「ふぅ、中々数が減りませんね」
「そうですね」
少し疲れてきているサラさんを尻目に、俺は疑問を覚えた。すでに自陣を壊されたのにもかかわらず、スニークウルフたちはどうして逃げようとしないのだろうかと。ここまで戦力差があるのならば、逃げるのが当たり前のように思える。スニークウルフが逃げない種なのかもしれないが、そこに疑問を感じてしまう。
「まぁ、好都合か」
俺は誰にも聞こえないほどの声で呟き、襲ってきているスニークウルフたちに集中する。サラさんの方に来ているスニークウルフに気を付けながら、≪完全把握≫と≪一閃≫、≪裂空≫を駆使して徐々に数を減らしていく。
「これで、最後ッ!」
そして最後の一匹をサラさんが倒し、スニークウルフたちは何事もなく討伐することができた。