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122:騎士と没落貴族の少女。③

感想や評価をしてくださると、モチベーションが上がります。いつも感想をくださる方は本当に感謝しています。

 屈強な女性店主さんから白銀の軽装備を頂き、俺たちはポーション屋へと向かった。ポーション屋も冒険者ギルドの近くに移動しているため、防具屋からすぐにたどり着くことができた。


「良かったですね、マナ・ポーションが残っていて」


 紫色の液体が入った透明な瓶を三つ持っているサラさんは俺にそう話しかけてきた。俺もポーション屋から三つの魔力を回復するマナ・ポーションを買い取った。


「はい、魔力の回復は自分ではどうしようもないので」


 俺は相手の傷を自分の傷にすることができる≪自己犠牲≫を持っているため、傷を回復するフィジカル・ポーションを必要としないが、サラさんのように魔力を使う人に対して魔力を分け与える術を持っていない。俺自身、魔力を余るほど持っているが、分け与えることができないため、意味がない。


「マナ・ポーションだけが余っているなんて、どうしてですかね?」

「さぁ、どうしてでしょうか。マナ・ポーションを必要としない前衛の冒険者たちがたくさんいるのかもしれません」


 サラさんの言う通り、フィジカル・ポーションや攻撃や防御系のポーションはなかったが、マナ・ポーションだけは残っていた。それも俺とサラさんで三本ずつ買えるくらいに。


 フィジカル・ポーションの方が需要があるのは当たり前ではあるが、マナ・ポーションも魔法使いなどの人たちに需要がある。それでも残っているということは、魔法を使う冒険者たちが魔物討伐に行っていないのかもしれないと思った。


「このマナ・ポーションが六本あれば、サラさんが魔力切れになったとしても問題ないですね」

「これって、一本でどれくらい魔力を回復するんですか?」

「それは分かりませんが、このマナ・ポーションは市場で一番出回っているランクが一番下のポーションですから、回復量をあまり期待しない方が良いかもしれません」


 回復量をあまり期待しないと言ったが、それでもポーションの力は侮れない。俺の考えでは、このマナ・ポーション一つでサラさんの魔力を全回復できるはずだ。前に一度試しに呑んだことがあったが、魔力が全快の状態で飲んだため魔力酔いしそうだったが、どれくらい魔力を回復できるかを確認することはできた。


「魔法袋があれば、良かったんですけど」


 俺が呟くように放った言葉、魔法袋は製作の際に込められた魔力に応じて袋の容量が増えていく代物だ。魔法袋と言えど、ピンからキリまである。最近魔法袋の存在を知り、魔物の素材を集める時に便利だとも聞いた。


「普段のアンジェ王国なら売り出されていたと思いますけど、今では無理そうですね。それに、魔法袋は比較的に高いですから、私は買おうともしませんでした」

「便利さを考えれば、それ相応の値段でも納得です。機会があれば、ということにしておきましょう」


 魔法袋の存在を早めに知っておけば、と後悔しながらも頭を切り替えて俺はサラさんと一緒にアンジェ王国の北の門に向かっている。サラさんは白銀の軽装備を身に着けているだけで準備万端だ。


 俺はポーションをセットできて小物を収納できるウエストポーチをポーション屋で買っており、それを身に着けて六本のマナ・ポーションをウエストポーチに収納しているだけで準備はできている。クラウ・ソラスが異空間に収納されているため、俺はこの身一つで戦うことが可能となっている。


 復興の作業をサラさんと見ながら話している内に、北の門にたどり着いた。門の近くには冒険者たちがいつでも魔物が来ても良いように門番をしている。聞いた話によると、ここ最近の冒険者たちはアンジェ王国の周辺の魔物を討伐するか、門番をしているか、休んでいるかの行動パターンでいる。


「アユムさん、魔物討伐ですか?」

「はい、そうです」

「アユムさんなら心配ないでしょうが、お気をつけて」

「油断せずに行ってきます」


 門番をしていた顔見知りの女性冒険者に話しかけられ俺は軽く返して門をくぐって、サラさんと一緒に外へと出た。そのため、通常時でも≪完全把握≫を軽く展開しているが、戦闘時用に展開する。普通なら≪完全把握≫を使い続けることは情報の多さに脳が疲れるが、≪順応≫で疲れなくなった。


「外に出ましたから、少し試してみましょうか。その鎧の性能を」


 ある程度、国から離れたところで俺はサラさんにそう言った。この辺りなら誰にも迷惑をかけずに済み、周りに誰もいないことを確認済みだ。


「えっ、もうして良いんですか?」

「さすがにぶっつけ本番では怖いですよ。マナ・ポーションもありますから気にせずにやってください」


 ぶっちゃけ本番は怖いと言っている俺自身が、ほとんどの場合がぶっちゃけ本番であるから説得力がないことを隠しながらサラさんに説明する。


「はい、じゃあやってみますね」


 俺の言葉に納得したサラさんは、目を閉じて一度深呼吸をした。するとサラさんの身体から紫色の靄みたいなもの、魔力が現れた。図書館で地下に落ちた時に見たものと同じだ。


「・・・・・・あれ?」


 俺は前に見たサラさんが魔力を纏っている同じ光景を見ているが、サラさんはどういうわけか困惑している。俺も何がどうなっているのか分からないでいた。だから俺はサラさんに声をかけた。


「どうしましたか?」

「・・・・・・あの、鎧に魔力を流すって、どうやってやるんですか?」

「えっ?」


 サラさんの疑問に俺は固まってしまった。サラさんの方が魔力を流すことを得意としているはずだが、それを俺に聞かれたとしても分からない。辛うじて≪魔力武装≫で魔力を使っているくらいだ。


「いつも魔力を纏っているのですから、魔力を鎧に込めればいいだけなのではないですか?」

「うーん、いつもは身体中から魔力を放出させて、必要な時に必要な分以外を制御しているだけなので、魔力を込めると言われても、どうすれば良いか分からなくて・・・・・・」


 サラさんの言葉に俺も納得してしまった。俺の≪魔力武装≫も魔力を纏うだけで、必要な個所に必要な分だけ、ということをしない。だが、腕の鎧だけを出現させることができるため、助言できないことはないと思った。


「・・・・・・サラさん、全身ではなく、足だけから魔力を纏うことはできますか?」

「足だけ、ですか?」

「はい。とりあえず全身からではなく一部からの魔力の放出を始めましょうか」

「分かりました」


 こうなってしまえば、サラさんの稽古を俺がつけるしかなく、今ここでサラさんには魔力をコントロールしてもらわなければならない。


「ふぅ・・・・・・」

「身体を支えている両足に、しっかりと意識を向ければできるはずです」


 目を閉じて集中しているサラさんに、意識を向けることを言ってサラさんの様子を見る。しばらくは身体中から魔力が漏れていたが、段々と頭や腕に放出されずに足に近い部分だけに魔力が放出するだけになり、ついに両足だけに魔力が纏っている状態が完成した。


「で、できた、できました! できましたよ、アユムさん!」


 喜んだ表情で俺にそう伝えてくるサラさんに俺は少し微笑みながらも手を上げて答える。最初の時点で時間がかかると思っていたが、そうではなかったと安堵する。


「それでは、次は腕だけに魔力を纏うことに挑戦してみましょう」

「はい、頑張ります!」


 俺が出した次の課題に、サラさんは嬉々として返事をして集中し始めた。足だけに魔力を纏わせることができたのなら、腕だけに魔力を纏わせることも簡単だと思っている。


「・・・・・・ふぅ、これで、良いですかね?」

「はい、十分ですよ」


 俺の思った通り、サラさんは一瞬だけ身体全体から魔力を放出させたが、次の瞬間には腕と胴体だけに魔力が放出されており、すぐに腕だけに魔力を放出して、纏っている状態になった。


「腕に魔力を纏っている状態ですが、その状態を維持したまま、足に魔力を纏うことはできますか?」

「えっ! 同時にですか?」

「今はできなくても大丈夫ですけど、できるかどうかだけ確認しておきたいです」

「まぁ、分かりました、やってみます」


 どういうことか分からない表情をしているサラさんだが、俺の言葉に頷いて腕に魔力を纏っている状態を保ちながら、足から魔力を放出し始めた。


「・・・・・・くうぅ」


 足から魔力を放出させて纏わせようとするが、疎かになったのか腕に纏っている魔力が消えそうになり、慌てて魔力を腕に纏わせた。だがそうしたため、足の魔力が消えてしまい、また足から魔力を出そうとすると、今度は全身から魔力があふれ出てしまった。


「もう大丈夫ですよ、サラさん。大体分かりました」

「ハァッ! ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・」


 俺の合図にサラさんはすぐに全身から魔力を消して、肩を大きく上下させて呼吸をしている。魔力の消費ではなく、それなりに集中力を使ったため、疲れているのだと判断した。


「ハァ、ハァ、ッ、これって、どういう意味があるんですか?」


 サラさんは呼吸を整えて俺にさっきの意味を聞いてきた。俺はその質問に素直に答える。


「サラさんって、基本的に魔力を全身に纏って戦っているじゃないですか?」

「はい、そうです」

「それって無駄だと思いませんか?」

「無駄、ですか?」

「走っている時、敵を殴っている時、敵の攻撃を防ぐ時、戦いでは様々な場面が想定されますが、その中で全身に魔力を纏う必要がある時って、攻撃を受ける時以外はほとんどないと思います。それなら必要最低限の場所に魔力を纏わせ、必要な分だけ魔力の出力を上げれば、効率よく魔力を使えると思いませんか?」

「・・・・・・確かに、そうですね。魔力を無駄遣いできない私は、なおさらその戦い方を目指さないといけませんね」

「おそらくラフォンさんも、次にこうさせようとしていたはずです」


 俺の言葉に、サラさんは何度も頷いて理解してくれた。どんな敵にもごり押しできる力と、そういう戦いをごり押すためのスキルを持っている俺が言えたことではないとまたしても思った。


「それでは、そろそろで本題に入りましょう。魔力をどの個所に出すということを意識してできたのなら、次は胸当てに意識を集中させて魔力を流し込んでください。胸当ても自分の身体の一部と思えばできると思います」


 スキルを駆使する俺にとって、魔力の流し方とかはあまり理解していない。だが、元の世界でラノベとか漫画とかにはそういう風に書かれていた覚えがある。これでできなければ、一旦鎧の能力を使わないようにして、魔物を討伐するしかない。


 自信がない中、俺は集中しているサラさんを見守る。言葉だけの、しかも創作物語から得た知識なためできないと思った次の瞬間に、サラさんの魔力がまだ他の部位に出ているが、確実に胸当てに集中しているのが見えた。


「鎧を、身体の一部に・・・・・・」


 小さくそう口にしたサラさんの魔力は胴体だけに放出され、胸当てに集中することができた。すると胸当てから身体全体に魔力が覆われていく。


「どうやら、できたみたいですね」

「・・・・・・何だか、不思議な感じです」


 サラさんは全身に魔力を纏っている状態に驚いている、というよりかは把握しきっていない顔をしている。俺からすれば、サラさん自身の魔力を纏っている状態と、胸当てから魔力を効率よく纏っている状態の違いが分からない。


「普通に魔力を纏う状態と鎧を通して魔力を纏う状態の二つに、何か違いがあるのですか?」

「違い・・・・・・。普段纏っている魔力とは違い、魔力の質が違う気がします。それに魔力の消費が少量で済んでいるので、そこまで疲れを感じません。纏っている感覚は同じなのですが、その違いで変な感じがします」


 サラさんが言っている感覚を俺は理解できないが、その違いは良いものだということは理解した。ここでふと、サラさんの纏っている魔力を見て、俺の魔力について疑問に思った。


 俺が≪魔力武装≫をする時は白銀色の魔力から鎧が生成される。人によって魔力の色が違うことは周知の事実であるが、俺の魔力の色は生まれ持っての白銀色なのか、それともクラウ・ソラスの所有者になったために白銀色になったのか、そういう疑問だ。だが、ここら辺は覚えている時にでもラフォンさんにでも聞こうと思った。


「その状態を維持して動けますか?」


 俺は思考をすぐに切り替えて、魔力を纏っている状態を維持しているサラさんに質問した。動けないことには話にならない。


「たぶん、動けると思います」

「では、その状態であちらに走って行きましょうか」


 目的の魔物がいる方向を指さして俺はサラさんに言った。サラさんは頷きながら走る準備に入った。


「サラさんの行きたい時に行ってください。自分はそれに付いて行きますので」

「はい、分かりました。今すぐ行きます!」


 俺の言葉にサラさんはすぐに走り始めた。俺はそれに軽く走るくらいで付いて行っているが、魔力を纏っているだけあって普通の人では出せない速度を出している。


「まだ維持できそうですか?」

「できます!」


 俺の問いかけに力強く答えたサラさんの纏っている魔力は未だに安定しており、速度も維持し続けている。胸当てに流している魔力も安定していると思う。


 しばらく走り続けている内に、俺の≪完全把握≫の範囲に目的のAランク魔物の気配が入ってきた。このままサラさんを走り続けさせては、サラさんの目的の魔物と戦う時に支障がきたすかもしれない。一度休憩を取って調子を聞いた方が良いと思った。


「あっ」

「よっと」


 サラさんに声をかけようとした時、サラさんが石につまずいたようでそれなりの速度で転がりそうになったが、俺が一瞬で前に出てサラさんを俺の胴体で受け止めてこけるのを防いだ。


「大丈夫ですか?」

「は、はい、大丈夫です」


 俺の胸板に顔を突っ込んでいたサラさんは少し顔を赤くして俺から離れた。纏っていた魔力は、さっき石につまずいた拍子に消えるところを見た。何もなければ集中して魔力を纏っていられるようだが、集中力が切れる何かがあればすぐに消えるように見える。


 この状態では一人で戦闘はできないが、そこは今後慣れることで克服することができると思っている。それに今日は俺がいるため、サラさんが無茶をする戦い方をしても俺がフォローすることができる。


「少しだけ休憩を取りましょうか。さっきの感じでどれくらいできそうなのか聞くことも兼ねて」

「・・・・・・はい」


 サラさんはまだ行けるから不満な顔をしているが、反論はしなかった。俺は周りに魔物がいないことを再度確認して、サラさんと一緒に丁度いいところにある木の影に入った。


「ふぅ・・・・・・」


 サラさんを横目で見ると、あまり疲れている様子ではないが、少しの疲労は見て取れる。やはり魔力を使うとなれば疲れるものだと感じた。だが、俺はそうでもないため、これも慣れなのかとも思った。


「ここまで走ってきて、魔力の消費や身体の疲れはどうですか?」


 しばらく沈黙の中で二人で休憩したところで、俺はサラさんに話しかけた。


「この鎧のおかげで魔力の消費は全然ありません。それにいつもより身体の調子が良いです」

「それなら良かったです。いつもより調子が良いのは構いませんが、その影響で身体に違和感は生じていませんか? あるのなら戦闘では危険です」

「いえ、それは大丈夫です。身体も思い通りに動きます」


 身体の方にも異常がない様子であるため、これならティラノワームと戦いに向かっても問題なさそうだと判断した。それから、ティラノワームとどう戦うかを相互確認しておく。


「それじゃあ、休憩が終わり次第ティラノワーム討伐に向かいます」

「はい、いよいよですね」

「今回ティラノワームと戦う時は、サラさんは前衛で行きますか?」

「そのつもりです」

「それならサラさんは前衛、自分はサラさんのサポートに徹します。危なくなればすぐに助けに入りますから、安心して突っ込んでください」

「はい、お願いします!」

「ティラノワームは先ほど言った通り、振動を過敏に感じ取りゆっくりと突っ込んでくる巨大なミミズです。冷静に対処すれば討伐できる魔物なので、落ち着いて行ってください」

「分かりました」


 一通り言いたいことが終わり、見た感じサラさんも休憩を取れているようだ。もう行っていいと判断したため、俺はサラさんに声をかける。


「行きましょうか。ここから先は油断できない場所です、気を引き締めて行きましょう」

「アユムさんがいるからと言って、油断はしません」


 サラさんは気合が入っている様子であるが、気合が入り過ぎているようにも見える。空回りしそうな気はしなくもないが、そのために俺がいるため、俺は一層気を引き締めて、サラさんと一緒に先へと向かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サラさんは以前から応援している登場人物ですが、魔力で前衛のポジションになることが、 これまでのサラさんイメージと違い、ギャップがあって新鮮に感じています。 ポーションの種類や使用量など詳…
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