表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/134

12:騎士と許可。

連日投稿十二日目! もはや頭が回らなくなることが多々ありました!

 ラフォンさんとの特訓が、騎士になるために過酷になってきて一週間が経ち、今日も今日とてラフォンさんとの過酷な特訓が終わった。過酷になったからか、動きが激しい分ラフォンさんとの事故が多発している。例えば、戦いに夢中になってキスしかけそうになったり、服が破れても気にせずに特訓をするラフォンさんであるから、あと少しで乳房が見えるなどがあった。どんな漫画だよと思った。


 そんな過酷な特訓を終え、フローラさまの部屋へと向かう。今日は朝から夕方までみっちりしていたから、直帰する。ルネさまとニコレットさんのイジメは、最近行われていないようだと聞いたから良かったと思っているが、油断はできない。いつ牙をむき出しにしてくるか分からないからな。


 フローラさまの部屋の前にたどり着き、誰もいないだろうからと思い部屋に入ろうとしたが部屋の中にフローラさまとスアレム、それにサラさんの気配を感じた。俺は入るのを途中で中止して、動きやすい恰好であるが身だしなみを整えてノックをした。


「テンリュウジです。フローラさま、入ってもよろしいでしょうか?」


 俺がノックの後にそう言うと、扉が開いた。扉を開けるのはただ一人しかおらず、スアレムが扉から顔を出しきた。その顔は、何かで疲れているように見える。まぁ、十中八九フローラさまだろうな。


「早く入ってきてください、アユム。私ではどうにもできません」

「あぁ、分かった」


 生まれた時からフローラさまのお世話を任されたスアレムがここまで言うとは、フローラさまがかなり荒れていると見た。いや、十数年も一緒にいる仲でどうにもできないのなら、二年くらいの仲でどうにかできるわけがないだろう。そう思いながら、フローラさまがいる奥に足を進めた。


 足を進めた先には、フローラさまがお気に入りの紅茶の飲んでいるが、その雰囲気が尋常じゃないほどであった。機嫌が悪いを通り越して、完全に怒っているのだ。いや〝怒っている〟で済ませられないほどの雰囲気である。俺に怒り狂っている時が十だとするならば、今の状態は五十くらいに当たるだろう。俺に怒っている時が可愛く思えるくらいだ。


 そばではサラさんが一生懸命何かを言っているのが見えた。フローラさまの機嫌を直そうとしているのだろうけれど、フローラさまは一切サラさんの言葉を聞いていなかった。フローラさまへ言っているのだから、聞いて差し上げればいいのに。


「フローラさま、ただいまラフォンさんとの特訓が終わり戻ってまいりました」


 俺はフローラさまのそばで頭を下げて自身が返ってきたことを報告した。だが、フローラさまから返事はなく、ただ紅茶を黙って飲んでいるだけであった。この状態がずっと続いているのだろうなと思い、俺はサラさんの方を向いた。


「一体何があったのですか? これほどまでに荒れているフローラさまは初めて見ました」

「実は、今日の昼に私たち三人で昼食をとっていると、ユルティス大公の一人娘さんに会いました」


 ・・・・・・また、その大公の一人娘か。そいつとはとことん縁があるようで迷惑な話だ。


「そいつに何かされたのですか?」

「いえ、何もされていません。直接的には、ですけど」

「・・・・・・何かを言われたのですか?」

「はい、言われました。でも、それも直接言われたのではなく、一人娘さんが周りの方々に話している会話内容を偶然聞いてしまったことで・・・・・・、フローラさんが、こうなってしまって」


 フローラさまと大公の一人娘とは接点がないはずだ。ならば、もしやルネさまのことがフローラさまにばれたのか⁉ いや、それはないか。それだとフローラさまがこんなところにいない。フローラさまはルネさまのことを毛嫌いしているかのように振舞うが、心の中ではお姉さまを大事にしている方だ。


「何を言っていたのですか?」

「それが・・・・・・、シャロン家が貴族の面汚しだと」


 サラさんは俺の耳元まで来てフローラさまの耳に届かないような配慮をして、俺に伝えてきた。あぁ、なるほど、これはフローラさまも切れるわけだ。俺も切れる。何より、シャロン家を大切に思い、誇りに思っているフローラさまが耳にすれば不快になることは間違いない。しかも、相手がクソ野郎の大公の一人娘だと来た。何も文句が言えないのもフローラさまが切れている要因の一つだろうな。


「伝えてくださり、ありがとうございます。ここからは自分がやりますので、大丈夫です」

「そうしてください。私じゃ、フローラさんのこの雰囲気に耐えることはできません」


 そう言いながら、サラさんは少し遠くにあるソファーに座り一息ついていた。そこにスアレムが紅茶を出して労わっている。ここからは俺がフローラさまを引き継ぐ番だ。俺はフローラさまのそばで跪いてフローラさまを見上げるようにした。


「フローラさま、少しお時間をよろしいでしょうか?」


 俺の問いかけにも、フローラさまは何も答えてくれない。たぶん、言葉に発してしまえば何から何まで制御が効かずに言ってしまうから口を閉ざしているのだろう。フローラさまは言いたいことを何でも言う人だが、親しい人が傷つく言葉を発することはしない。だから、今口を開けば今までにため込んでいた言いたいことを言ってしまうのだろう。


 それでも、溜め込んでおくのは良くない。ここで俺の騎士としての務めを果たすとともに、効率よく言い出せていないことを言い出せるチャンスだ。


「そのままでお聞きください。・・・・・・今回の件で、フローラさまがお怒りになることは理解できます。そして、相手が大公であるから手を出せなくて腹が立っているのもよく理解できます。自分も大公家には怒りしか存在しておりません。ですので、あれもこれもすべては自分一人が解決すればいい話でございます」


 その言葉を聞いたフローラさまは、驚いて俺の顔を見てきた。そしてその顔からは違う形の怒りの表情が現れた。本当に怒っているのではなく、悲しみを込めた怒りの表情である。


「自分がシャロン家を離れ、大公を潰すのもよし。それでもシャロン家に迷惑をかけることになるのなら、自分がやったかどうかを分からないようにして、大公家を差し違える覚悟で潰すのも考えております」

「そんなことはダメよっ!」


 フローラさまは声を荒げながら立ち上がり、俺の目の前に立ってきた。


「あなただけが犠牲になって、私たちが救われるなんて良い訳がないでしょうがっ! あなたは私の騎士なのだから、最後まで責任を全うして死になさいよ! それまでに自分勝手に死ぬことは許されないわ! 今後一切そんなくだらないことを言わないで! 言ったら私の夫にして永遠に逃れられないようにしてあげるんだから」


 最後の最後で重要なことを言っていたが、今は放置しておこう。そこを突っ込むつもりはない、そもそも突っ込む雰囲気ではない。突っ込んだらそのまま引きずり込まれていきそうだ。


「申し訳ございません、お許しください。ですが、シャロン家を馬鹿にしている大公の一人娘に絡まれることがございましょう。その時は、フローラさまの騎士として全力でお守りしなければなりません。今のままでは何もできず、ただ受けることしかできません」

「・・・・・・じゃあ、どうすればいいのよ。相手は大公だから怒りを無理やり収めているわ。でも、これがもし悪口だけではなく、私や身内に被害が及んでいるのなら、見ているだけでは収まらない。私の貴族としてのプライドが許さない。例え、それで死刑になるとしても、プライドを貫き通せるのだから本望だわ」


 フローラさまはそれほどの覚悟を持って貴族をやっているのだろうが、それも俺が許すつもりはない。押しつけかもしれないが、気高く、そのプライドに恥じない立ち振る舞いでこそのフローラさまだろう。だからこそ、ルネさまやニコレットさんのためではなく、フローラさまのためにも、なさねばならないことがある。


「フローラさま、自分がそのようなことをさせるつもりはございません」

「やるならアユムがするとか言い出さないでしょうね?」

「いいえ、違います。自分が提案することは、フローラさまが納得することができる方法でございます」

「言ってみなさい」

「はい、では言わせていただきます。・・・・・・自分が王国で認められている正式な騎士になることでございます」

「騎士? ・・・・・・あぁ、市民が貴族と同じ権力を持つことができる階級のことね。でも、大公と同じかそれ以上の階級なんて、存在していたかしら?」

「あります。〝グランド・パラディン〟と〝マジェスティ・ロードパラディン〟の二つの階級が大公以上の権力を持っています」

「ふぅん、それでアユムがその二つの階級のどちらかにになるまで大公の行いを我慢して、アユムがどちらかになって手を出させないようにするの?」

「そうではありません。絶対に〝マジェスティ・ロードパラディン〟となり、一人娘共々大公を失脚させるので、今は我慢してくださいと、そう言っているのです」


 俺が〝マジェスティ・ロードパラディン〟になった暁には、あの一人娘がやってきたすべてを味合わせてやる。そして、反旗を翻せないほどに再起不能にしてやる。それが、俺の復讐だ。ルネさまとニコレットさんのみならず、シャロン家を馬鹿にしたことを生涯後悔させてやる。


「ダメよ、それを許すことができないわ」


 許してくれると思っていたから、思わずフローラさまの方を見上げた。そこには悲しそうな顔をしているフローラさまがいた。どうしてそんな顔をしているのだろうか、俺は理解できなかった。


「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

「理由? そんなのは簡単よ。騎士になることが簡単ではないからよ。アユムは簡単に言うけれども、何も権力を持たない人間が、権力を持つようになることは簡単なことではないわ。一番下のナイトになってから、その上のホーリー・ナイトの階級に上がるためには、普通の人は一年くらいかかるのよ。アユムの強さは知っているけれども、過去に一人しか受けたことのない〝マジェスティ・ロードパラディン〟になるためにはどれほどの時間がかかると思っているの。そして、それができる可能性を秘めているとしても、私の騎士をしていてなれるものではない。だからダメなのよ」


 ・・・・・・あぁ、なるほど、そういうことか。俺はフローラさまの騎士なのだから、それを放り投げてまでして、〝マジェスティ・ロードパラディン〟になることは許さないわけだ。だが、フローラさまは知らないけれど、ルネさまとニコレットさんが被害を受けている。ここで引き下がるわけにはいかない。


「フローラさま、自分は絶対に〝マジェスティ・ロードパラディン〟にならなければならないのです」

「何度も言わせないで、ダメよ。それとも、私が知らない別の理由があるというの?」

「はい、ございます。ですが、それをお話しすることはできません、お許しください」

「・・・・・・理由を言わなければダメよ。分からなければ判断できない」

「言えません。ですが、フローラさまの納得する形で騎士になって見せます」

「納得する? どうする気なの? まさか私の騎士と高位の騎士になるための特訓を両立させる気でいるの?」

「はい、その通りでございます。二つを両立させて見せますので、自分が騎士の資格を得る許しを自分に下さい」

「馬鹿にしているの? できないと言っているのに、できるわけがないでしょう。あなたは騎士という地位をなめているの。だからそんな軽々と両立できると言っているのよ。できないものはできない、これでこの話は終わり」


 どうしてもフローラさまは許してくれないらしい。そこまで俺の実力を疑っていられるとは、心外だな。俺はできることしか言わない。


「フローラさま、自分はどんなことがあろうとフローラさまの騎士です」

「・・・・・・そんなことは言われなくても分かっているわよ」

「たとえ、フローラさまが世界中を敵に回したとしても、自分はフローラさまの味方です」

「そんな当たり前のことを言わないで。私の騎士なのだから当たり前でしょう?」

「はい。ですが、フローラさまはどうですか? 自分が世界の敵となったとき、自分を切り離しますか? それともそれでも騎士として自分を隣にいることを許してくれますか?」

「あなたは私の騎士なのだから、どうなっても変わらないと言っているはずよ」

「もちろん、そうならないためにするのが良いのでしょう。ですが、今回の大公の件、何も動かなければそうなる未来が訪れるかもしれません。だからこそ、自分は騎士になる必要があるのです。どうか、自分に騎士になることをお許しください。フローラさまの騎士を疎かにしないことを誓いますので」


 俺がそう言うと、フローラさまは大きくため息をはいてソファーへと座った。そして紅茶を一口飲んで落ち着いているようであった。


「・・・・・・良いわ、アユムが騎士になることを許すわ。あなたは重要な場面で一度こうと決めたことは絶対に変えなかったわね」

「ありがとうございます」

「ただし、絶対に私の騎士として疎かにしてはいけないわ。疎かにした瞬間に騎士になることをあきらめてもらう、良いわね?」

「はい、承知いたしました」


 よし、フローラさまの了承を得た。これで正式な騎士になるための準備が整った。フローラさまの了承を得ないことには騎士になることができなかったからな。騎士になる数ある条件の一つに、貴族の騎士を務めたことがあるというものがあった。俺にピッタリの項目であった。だが、その条件をクリアするには主の許可が必要であったため、フローラさまにいう必要があった。それがこんな形でクリアするとは思わなかった。


「フローラさま、必ず〝マジェスティ・ロードパラディン〟になってみせます。自分がフローラさまの騎士であることを誇りに思える日を待ち望んでいてください」

「・・・・・・えぇ、待っているわ」

最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。

評価・感想はいつでも待ってます。よければお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ