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117:騎士と書庫。⑦

またしても遅くなりました。

 歪な魔力をクラウ・ソラスで吸収しながら、一本道を進んで行く。この魔力のせいか、≪完全把握≫は健在だが、≪地形把握≫が上手く作用しない。≪完全把握≫で何となくどこまで何があって、この魔力の元がどこにあるのかは理解できる。その魔力の元に三人と一人がいることも把握できた。


 しかし、この魔力はどれだけ濃くなれば気が済むんだよ。クラウ・ソラスで浄化する能力は未だに衰えておらず、この魔力量でも物ともせずに吸収している。魔力源に向かったとしても、余裕で浄化の剣は機能するだろう。だが、その中で相手がいれば戦わなければならないということだ。とりあえず、すべての魔力を浄化することができれば問題はなくなるか。


『・・・・・・て。・・・・・・れ・・・・・・ない、から』


 ・・・・・・何だ? どこかから声みたいな、何かが聞こえてきた。だけど、周りには誰もいないことは俺のスキルで分かっている。だけど、ハッキリとではないか、確実に何か聞こえてきたことは確かだ。一体何が聞こえてきたんだ? ・・・・・・ダメだ、もう一切聞こえない。ふぅ、聞こえてきた声の原因で可能性が高いのは二つ。この魔力を浄化できずに俺自身がおかしくなってしまったのか、それともクラウ・ソラスからの声だったか。俺としては後者であってほしい。


 だが、後者だったら何かを伝えようとしていたことになる。世間話をするために出てきているのなら、今までも出てきていたはずだ。それなのに≪魔力解放≫をしたあの時から一切話しかけてきていない。この魔力が原因かもしれないが、このまま止まるわけにもいかない。


 なるべく早く終わらせる理由が増えたところで、深い魔力の中で一本道が終わり開けた場所が見えてきた。あの先にこの魔力の正体がある。俺は気を引き締めて開けた場所へと歩き始める。


 開けた場所に出ると、歪な魔力が濃縮されているため視界が魔力で奪われた状態になっている。でも、誰がどこにいるのかは理解できるが、この魔力が邪魔なことに変わりない。まずこの歪な魔力をどうにかするために、今まさに使っている≪浄化の剣≫を全開にして使うことにした。


「穢れを浄化せよ、クラウ・ソラス!」


 クラウ・ソラスを上に掲げてそう言うと、クラウ・ソラスは白銀の光を放ち始め、周りにある歪な魔力を先ほどとは比べ物にはならないくらいの吸引力で吸収し始めた。数秒後にはすでに視界が良好な状態になっている。


「ッ! ・・・・・・ふぅ」


 吸収し終えた時に、少しだけめまいがしたものの、微々たるものだから気にする必要はない。だけど、帰ったら身体の調子を確認しておかないといけない。この≪浄化の剣≫の原理は、不浄のものを吸収して浄化する。一応俺の身体の中には多少なりとも入ってきているが、残らず浄化しているはずだ。問題はないはずだ。


 気を取り直して、前に視線を集中する。あらかじめ分かっていた通りの光景が、俺の目の前に広がっていた。中央には人の腰の高さくらいまである書見台があり、そこに歪な魔力を放っている本がある。その近くに黒いローブを着ており、フードまでついていて身体つきが分からないから男か女か分からない謎の人物。それに俺たちの近くにさっきの魔力に当てられて倒れている女性騎士が三人いる。


 近くに倒れている女性騎士たちは今は無視していいだろう。外傷がないところから、この魔力に当てられたのは分かるが、こいつらに構っている暇はない。そもそもどういう状況なのかは分からないが、とりあえず書見台の近くにいる奴が敵という認識で合っているだろう。こちらに殺意を送ってきているのだから。


 早く敵を倒そうと一歩踏み出そうとした時に、相手が忍ばせていた短剣を取り出してこちらに襲い掛かってきた。だが、そんな短剣なんかでこのクラウ・ソラスが抑え込めるはずがなく、短剣とクラウ・ソラスがぶつかりあった瞬間、分かり切っていたことだが短剣が砕け散った。


 相手は心底驚いているのか、短剣が砕けた刹那に動こうとしなかった。俺はそれを好機と思い、深く相手の胴体を斬りつけた。斬りつけた感触で分かったが、こいつは男だ。男だからと言ってどうこう言うつもりはない、俺が深く斬りつけたから、血が盛大に噴き出しそうになったから、俺は一旦離れた。離れた次の瞬間には、相手の男は俺が斬りつけた傷口から血が大量に噴き出てた。


 真っ二つにするつもりはなかったものの、それなりに深く斬りつけたから内臓には絶対に達している。それにあれだけの血を流せば、相手はどうすることもできずに息絶えるだろうな。そんなことよりも、さっきよりも収まっているが未だに歪な魔力を放っている本をどうにかしよう。切り裂けば止まるだろうか。


 そう思い本の方に跳んで切り裂こうとした時に、歪な魔力を放っていた本が、歪な魔力を放出しなくなった。明らかに何かをしようとしている。あれだけ無造作に放っていた魔力が今更止まるはずがない。俺は何かされる前に本を処分しようとクラウ・ソラスを振り下ろそうとした。


「ッ⁉ 何だ、これは?」


 振り下ろしたクラウ・ソラスは本を真っ二つにすることはなく、禍々しい魔力が本からあふれ出しており、それが濃縮して魔力だけでクラウ・ソラスを受け止めている。いくらスキルを使っていなくて力をそこまで出していないとは言え、そこらのモンスターなら殺せるレベルだ。それなのに、この本は人の手を借りずに俺のクラウ・ソラスを止めている。この異質さは俺を戦慄させるには十分だった。


 すぐさま危険だと意識を切り替えて、スキルを使っていないが本気で本を斬りつけようとする。禍々しい魔力ではクラウ・ソラスを受け止め切れずに魔力は霧散して、今度こそついに本を斬りつけることができると思ったが、俺の近くで倒れていた死んだはずの男が俺に襲い掛かってきた。


 俺は無理やり腕の軌道を変更させて死んだはずの男の首を飛ばした。だが、首を飛ばしたのに身体だけで動いているから俺は一度離れて様子を見ることにした。だが、あの男は確かに死んだはずだ。俺の≪完全把握≫で確認済みだ。それにもかかわらず、確かに生き返った。不老か何かの能力を持っているのか? それとも操られている?


 俺は注意深く首をはねられた男の方を見ると、本の魔力が男に纏わりついていく。そして男の首は男の身体と禍々しい魔力によって接合している。接合し終えると、何事もなかったかのようにフードが取れた男は立ち上がって俺を笑ってみてくる。男の顔は笑っているが、最初会った時より短時間で痩せこけていて、髪の毛は抜け落ちて、片方の目玉はとび出て片方の目はどこを見ているのか分からない。どうしてこんなことになっているのかは、あの本が原因としか言いようがない。


 魔力によって生き返っているのだろうと予測して、明らかに魔力に身体が耐えられていないところを見ると、あと数度で生き返らずに身体が消滅するだろう。そう考えた俺がもう一度身体がボロボロの男をまた殺そうとしたが、後ろから声が聞こえてきた。


「ッぁ! ハァ・・・・・・、私、は」


 女性騎士三人のうちの一人、内側に髪がはねている金髪のショートヘアの女性が目を覚ました。女性は今の状況を起きたばかりで理解していないようだが、邪魔されないように話さないといけない。寝ていた方が良かった、なんて思うのはまっぴらごめんだ。


「目を覚ましましたか? それならそこでジッとしていてください。その方がこちらも戦いやすいですから」

「戦う? ・・・・・・ッ! あいつと戦っているのですか?」

「フードの男ですか? それならそうです。だから今は動かないでください。今すぐに終わらせますので」

「それは、ダメ。・・・・・・あの魔導書を、先に、片付けないと」


 未だに苦しそうにしている女性の騎士から忠告されたが、魔導書? それならば禍々しい魔力や異常性も理解することができる。だが、あれがショーソンさんから聞かされていた魔導書なのか。ということは、ショーソンさんが言っていた賊が狙ってきた魔導書があれか? もしかしたら違うかもしれないが、禁忌指定の魔導書が何冊もあったら困るどころの話ではない。そうだと仮定すれば、この男が賊ということか?


「しかし、もう少しで男の方を終わらせることができますので心配ありませんよ?」

「そうじゃ、ないの。あの魔導書からじゃないと、キリがない」


 どういうことだ? 明らかにあの男は身体が耐えきれていない。あれを倒すだけなら何も問題ないはずだ。それなのに魔導書からじゃないとダメとはどういうことなんだ。魔導書には他に何か能力があるというのか? もう少し詳しく言ってくれないと分からない。


「それはどういうこと――」


 俺が女性騎士さんに聞こうとするが、その前に満身創痍の男と歪な魔力が俺に襲い掛かってきた。俺は男を縦に真っ二つにした後に、歪な魔力を弾いて一閃で魔導書を斬ろうとするが、真っ二つにした男の半分が俺の一閃を身を挺して守った。その代わり、男の身体はさらに真っ二つになった。


 さすがに男は倒れて動かなくなったが、またしても魔導書が魔力を放出して男を生き返らせようとしている。だが、そこの女性騎士さんに言われた通りに生き返らせる前に魔導書を処分することにした。男がこちらに来ても来なくても、速さで魔導書にたどり着けば問題はない。


 俺は書見台ごと魔導書を切り裂いた。魔導書の魔力は死んでいる男の方に行っていたから、簡単に魔導書の方に向かうことができた。ふぅ、これで男が生き返ることはないだろう。ようやくフローラさんの方に向かえ――


「気を付けてください! まだ魔導書は機能している!」

「ッ!」


 女性騎士さんにそう言われて、俺に魔力を今まさに向かわせようとしている魔導書に気が付いた。俺は魔導書をもう一度破壊して、女性騎士さんの近くまで離れた。確かに魔導書の反応、というか≪完全把握≫で魔力源が消失したことは感知していた。


 だけど、魔導書は復活した。女性騎士さんに言われなくても少し反応が遅れて気が付いていたが、避けるのはできていただろう。だけど、何だ、この魔導書は? 本だからそういう概念がないのだろうか。だけど魔力源は消失していた。


「あれは、どういうことですか? 確かに魔導書は壊したはずです」

「確かに魔導書は破壊されました。だけど、魔導書の力はまだ機能しています」

「そもそもあの魔導書の力は何なんですか? 不死ですか?」


 倒れていた女性騎士さんは身体を起こして座りながら俺の質問に答えてくれる。まだ体力は戻っていないようだが、喋れるくらいには回復したようだ。そんなことを話している間にも、男は魔導書からの魔力によって元に戻ろうとしている。魔導書も浮きながら自己回復? している。


「不死ではありません。不死よりも使い勝手のいい能力です。あの魔導書の固有能力の名称は〝反転〟。物であろうと概念であろうとあの魔力によって反転させてしまいます」


 反転。そして概念でも反転させる。・・・・・・そういうことか。あの男は不死身になっているわけではなく、死を反転させて生の状態になっているのか。なるほど、これは不死よりも厄介だな。それに俺が考えていることが合っていれば、まだ男は戦える。


「ですから、あの男の身体が魔導書の魔力でボロボロに耐え切れなくなったとしても」


 髪が抜け落ちて痩せこけゾンビのような容姿の男は、身体が接合すると同時にみるみるうちに身体が回復している。そしてついには俺がここに来た時の戦闘力になっている。・・・・・・だが、良く考えれば、反転は使い勝手が良いが、不死のようにこの状態にするのに、元の状態とは真逆の状態にならないといけないのだろう。死の反対は生、全快の反対は満身創痍。


 おそらく、死が先に来ていれば死を反転させる。死を反転させて満身創痍でなければ、反転させても意味がないのだろう。そう考えれば、全快にするのが難しいと言える。だけど、所詮はそれだけだ。こいつがいくら生き返って傷が治ったとしても、俺に勝てるわけがない。だけど、この女性騎士さんたちにも勝てるはずがない。ただ歪な魔力にやられただけなのだろうか。


「あの魔導書に魔力の限界はあるのですか?」

「他の魔導書は限界がありますから、あるはずです。ですが、歴史上では反転の魔導書の魔力が尽きたことがないとのことです。魔力の膨大さと反転という異常さ、この二つから魔導書の中でも最高ランクのSランクに指定されている封印されていた魔導書です」


 そんな代物を賊に盗られたということか。それは少し厳しいのではないか? 相手は俺に勝てはしないが、いくら壊そうが殺そうが元に戻るのだから普通なら俺も勝てないことになる。何百回と殺せば、魔力が尽きるのか、それともクラウ・ソラスの≪順応≫にかけてみるか。


 いや、あの魔導書は封印されていたのか。どうやって封印されていたのかは分からないが、封印できていたのならもう一度封印することはできないのか? 破壊の力だけを持っていても、こういう時に役に立たないから、俺はどうしようもない。


 これと比べたら、五頭竜神の方がまだマシだと言える。ただ強いだけなら強さだけで相手取ることができる。もう少し封印できるスキルとか、手に入れたいものだ。そこは簡単に手に入れることができないから、クラウ・ソラスの弱みだ。


「あの魔導書をもう一度封印することはできますか?」

「・・・・・・それは、できないです」


 俺の問いに女性騎士さんは暗い顔をしながら否定した。封印は何か魔道具を触媒にしたわけではなく、魔法で封印されていたのなら、それはできないな。俺と彼女は誰がどう見ても騎士であるから、封印魔法なんて使えるはずがない。一応聞いておくか。


「どうしてできないのですか?」

「反転の魔導書は二つ前の六聖天が封印しました。それも高等魔法で、です。ここで魔導書を封印することはまず不可能です」

「・・・・・・つまり、魔導書を処分するしかないということですか?」

「そうなります。ですが、魔導書を処分するにも魔導書の魔力をゼロにしなければ魔導書の活動を停止させることができません」

「魔力をゼロにする以外に、短時間でできる方法はありますか?」

「・・・・・・二つほどあります。ですが、その二つは成功する可能性が低いですから、聞いてもあまり意味がないと思います」

「それでも構いません。お願いします」


 方法がないよりかはマシだ。それに迷っている暇はない。魔導書と男はもう完全に回復しかかっている。いつ襲ってきてもおかしくはない。だが、相手が来ようとも俺と男の戦力差は変わらない。


「一つ目は魔導書と契約している男の精神を破壊する。二つ目は魔導書との契約を破棄させることです。今の状況でこの二つくらいしか方法が思いつきません。しかし、一つ目はSランクの魔導書と契約している時点で相手はとてつもない精神力を持っていますから難しく、二つ目もSランク魔導書の呪い級の契約を簡単に破棄することはできません。つまり、この二つは可能性が限りなく低いです」


 なるほど、確かにそれは可能性が低いな。・・・・・・だけど、ここで封印できる人を待つのは時間がかかりすぎる。それまでに戦い続けることは問題ないが、サラさんや女性騎士さんたちがいるから、どちらか二つの方法でこの場を制したい。さて、どうする。

気が付けば1900を超えていました。あと少しで2000に行きそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 反転のスキルを持った魔導書はやっかいな相手ですね… これまでいなく、未知の場所や相手と、謎がありそうな戦いが続きますね。 可能性が低いが、そちらに賭けてみるアユムの進み方も良いですね! […
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