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112:騎士と書庫。②

この章も、何だかんだ長くなりそうな気がします。

 俺はフローラさまたちと別れ、ショーソンさんに付いて行っている。フローラさまたちはそれぞれに仕事が割り振られており、俺を呼びに来たのは休憩のついでだったらしい。できることなら俺がすべて片付けても良いのだが、フローラさまたちのお仕事は本を元の位置に戻すこと。こればかりは戦闘とは訳が違う。


 まぁ、フローラさまたちがお疲れになってまだ仕事が残っていると仰られるのなら、俺のスキルを駆使してすべての仕事を終わらせて見せる。素早く動き、素早く理解し、素早く片付ける。今の俺にはそれができるはずだ。問題なのはそれにこの図書館が耐え切れるかどうかの話だ。今の俺なら静かに動けそうではある。


「アユムくんも、異世界から召喚された勇者だったわね」

「勇者、とは違います。神器所有者なだけです。自分は勇者ではなくシャロン家に仕える騎士です」


 図書館を移動しながら、ショーソンさんが俺にそんなくだらないことを質問してきた。俺は誰もを救う勇者にはなれない。俺はただ、守りたい人たちを守る騎士だけで十分だ。それも今では国を救った英雄なんか言われているから、困ったものだ。


「・・・・・・そうね。あなたはフローラとルネ、ランディを守ってくれる騎士。あなたがシャロン家を守ってくれるのなら、私は安心していられる」


 その声音からは優しさがにじみ出ており、その声音が小さい頃から見てきて心配で仕方がなかったおばさんみたいな感じがする。本当におばさんみたいな気がしてきた。本当にこの人は何者なのだろうか。


「勇者としては資格なしだけど、騎士としては一流。それに才能も強さもあると来た。フロリーヌがあなたのことを弟子にした話も頷けるわ。本当にあなたがこの世界に来てくれて良かった」

「は、はぁ、それはどうも」


 急に俺のことをべた褒めされたから、俺はどう反応していいのか分からなかった。ふと、俺がこの世界に来た理由について考えてしまった。そもそも、そんなことを考えもしなかった。この世界に呼ばれて、神器クラウ・ソラスを持たされてシャロン家に仕えてきた。


 今までは生きるために必死に生きてきた。異世界転移者を勇者とするのなら、俺はこの神器で魔王を討ち滅ぼすべく呼ばれたということになるが、俺はその押しつけを無視して生きている。フローラさまたちがご安心して生活できるように剣を振るった。それで俺は満足しているのだから、何ら迷う必要はない。


 だけど、心のどこかで何かが引っかかる感じがする。誰かが、俺に何かをしろと叫んでいる気がする。銀髪の女性しか思いつかないし、今のところ銀髪の女性から何も音沙汰はない。だが、銀髪の女性ではない気がする。何か、俺にとって大切で、忘れている何か、それは――


「大丈夫?」

「ッ! あ、はい、大丈夫です。少し考え事をしていただけです。ショーソンさまはラフォンさんとお知り合いなのですか?」


 酷く深く、何かに吸い込まれそうになった思考がショーソンさんの声で現実に戻ってくることができた。そしてそのことをひた隠すために俺はさっきまで考えていたショーソンさんとラフォンさんの関係について咄嗟に聞いた。


「大丈夫なら良いけど、この一か月間毎日復興の手伝いをしているのだから、無理はダメよ」

「いえ、一か月間の復興なら何ら問題ないです。これくらいなら一年間続けても平気なくらいです」


 これは本当の話だ。通常状態でも俺の身体はそれほどに強化されつつある。最近では疲れを知らない身体になっている気がする。やはり≪魔力解放≫の影響なのだろうか。≪魔力解放≫をする前より、身体が頑丈になっている。騎士としては良いことなのだろうが、どんどんと身体が人間離れしている気がする。


「その話が本当なら、頼もしいわね。・・・・・・身体を見た限り、本当みたいだから末恐ろしい騎士さまだこと」


 ショーソンさんは俺の足から頭まで隈なくじっくりと見てきてそう言ってきた。本当に俺の身体の調子を見たのだろうが、最初に会った時も見透かされていたのだろう。本当にこの人誰だよ? 得体の知れない人だということが一番合う。


「それよりも、私とフロリーヌが知り合いかどうかだったわね。お察しの通り、フロリーヌは私の弟子だからそれなりに深い関係ね。フロリーヌは真面目過ぎるから、私から剣以外を学ぼうとはしなかったことが却って心配だわ」

「そのようなご関係だったのですね。魔法だけではなく剣でも戦うことができるのですか?」

「えぇ、そうよ。私って、多くの敵には強力な魔法を放ち、多くの敵に囲まれれば剣で敵を薙ぎ払う姿から、『轟音の魔法剣士』って呼ばれるくらいに強いわよ?」


 ショーソンさんは自慢げにそう教えてくれる。そんな人が師匠ならラフォンさんが強いのも頷けるな。俺もそんな二つ名が付かないのだろうか。・・・・・・うん? ラフォンさんの師匠? うん? ううん? ラフォンさんは俺より少し年が上だ。


 そのラフォンさんの師匠? 小さい頃からその頭角を現していて、ラフォンさんの師匠になったのか? それにしては本当に物言いが年齢と合わない。本当にどういうことなんだよ⁉ 誰か教えてくれ! 頭が混乱してきた!


 俺が頭を悩ませている中、入口から誰かが図書館の奥に向かって走っていることに気が付いた。図書館で走るんじゃねぇよと思い、俺が見える場所に走ってくることは気が付いていたからそちらを見た。そこには武装した女の騎士さんが奥へと向かっている。


 その後ろから数人の騎士さんが続けて奥へと向かった。奥に何があるのかと≪地形把握≫と≪完全把握≫で探りを入れてみた。この空間は空間を捻じ曲げているから、現実世界とは違う構造になっており、図書館よりも向こうに空間がある。そこがどこなのかは分からないが。


「さぁ、ついたわよ。ここがアユムくんに手伝ってもらいたい場所よ」

「・・・・・・確かに散らかっていますね」


 ショーソンさんに連れられてたどり着いた場所は、入口とは離れた位置にあり奥の入り口に近い場所だった。そこには本棚から落ちた本が散らばっているが、そこまで重いものではないと思う。たかだか本だから、そこまで重くはないだろう。


「これらの本を片付ければ良いのですか?」

「えぇ、そうよ。どこに戻すかは本の背を確認すれば分かるわ。ここについては一定の実力者じゃないと任せられない本ばかりだから、私もここを担当するわ。二人で頑張りましょう」

「はい」


 ショーソンさんは俺にウインクをして散らばっている本を片付け始めた。俺も不思議に思いながらも本を片付けることにした。ショーソンさんの言っていることに疑問を感じながらも、俺はそこら辺にある本を持とうとした。


「ッ⁉ これは・・・・・・」

「気づいた? 最深部の入り口に近い場所にある本は、すべて魔法をかけられているから普通の人では危険すぎて任せられないのよ」


 俺が手に取った本は、本とは思えないくらいの重さであった。百キロくらいあるのではないだろうか。俺からすれば重さに大差はないが、これだけの重さにしておけば簡単にとろうとは思わないだろう。だが、どうしてこんな魔法をかけているかだ。考えられるのは、とらせないようにするためか?


「どうしてこんな魔法をかけているのですか?」

「この近くにある本は、少し特殊なのよね。国の秘密が書かれている本や、危険な魔法を扱う方法が書かれている本がたくさんあるの。だからこうして魔法をかけてむやみやたらに触れられないようにしている」

「どうしてこんなところに置いてあるのですか? そんな本なら別の場所で保管していればいいのではないでしょうか」

「こんな惨状になっていなかったら、この場所は結構守りが万全の場所だったんだよ? でも、ちょぉっと、野暮な男が現れたせいでここの守りは崩れたの。しかもこの本の魔法を解くための鍵も一緒になくなったから、この状態で本を元に戻さないといけないのよ。迷惑ったらありゃしないわ」


 あぁ、なるほど。そういうことか。さっきこの学園が少し騒がしかったのは賊が入ってきたから騒がしかったのか。だが、それだと今しがた騎士の人たちが奥に行ったのは何だったのだろうか。まだ賊がいるわけではないだろう。そうだった場合、こんな悠長に本を片付けていない。


 警備? それとも事後処理? 何かは分からないが、ようやく落ち着いてきたと思ったら、また事件が起きるとかここは俺を落ち着かせてくれないようだ。俺が心配していることは、また俺に事件を解決しろとか言われることだ。俺の他にもロードパラディンのラフォンさんとグロヴレさんとか、ここにいる六聖天のショーソンさんがいるのだから、俺じゃなくても良いだろ。


「他の本も、重さ以外に魔力を吸われるとか痺れるとかあるかもしれないから、気を付けてね。何なら白銀の鎧を着ても良いわよ?」

「そこまでする必要はありません。この状態で十分です」


 これくらいのことで≪魔力武装≫をするわけがない。ショーソンさんは本に魔法がかかっているとは思えないくらいの速さでたくさんの本を持って本棚に片付けている。俺がいらないのではないかと思う速さだが、ここを任された以上、フローラさまのお顔に泥を塗らないように頑張らないといけない。


 そう思い俺はすぐさま百キロある本の背を見て元の場所に戻し、片っ端から本を持って片付け始める。重たい本は他にもあったが、言われた通り魔力を吸われる本や腕が痺れる本もあった。それに、光を放ち続ける本や触れた瞬間に静電気以上の電気を放つ本など様々なものがあった。確かにこれは普通の人では到底片付けることはできない。


 だが、この場で俺が必要だったのかと聞かれれば、首を傾げるしかない。図書館には多くの本があり、それなりに本が落ちているが、それに比べればここにはそんなに本は落ちていない。俺があちらに行った方が効率化良いのではないかと思うくらいだ。


 それなのにどうして俺はこちらにいるのだろうか。何か思惑があるのか、それとも俺の考え過ぎか。ここを一気に片付けて危険をなくすのかもしれないから、この疑問自体馬鹿げているのかもしれない。とりあえずここの本を片付けるか。


「ねぇ、アユムくん。フローラやルネのことは好き?」


 ショーソンさんがそんなことを言いだしてきたから、俺は不意に手を止めてショーソンさんの方を向いた。好きかと聞かれれば好きに決まっている。好きでない相手を命をかけてお守りすることなんてできない。俺は命を賭けれるほどに俺の周りにいる人たちが好きだ。


「はい、好きです。それがどうかしましたか?」

「即答ね。良いわね、そういう男らしい言動は好きよ」


 俺が即答すると、ショーソンさんがウィンクをしてきた。俺はその行動にどう反応していいか分からずにショーソンさんから目をそらした。だが、それを見逃してくれずにショーソンさんが目をそらした先に移動してきた。


「あれ? 照れちゃってるの? やだぁ、初心で可愛いわねぇ」


 俺の頬をツンツンとして面白いものを見つけたあくどい笑みを浮かべているショーソンさん。あれ? 俺はこの人が三十路の女の人にしか見えてこなくなったぞ。二十代ではないだろう、この人。言葉の端々から経験による言葉の重みも伝わってくる。でもどうしてこんな若い姿をしているのだろうか。何かの魔法か何かか。それとも本当に外見相応の年なのだろうか。


「このままで聞いてね」

「ッ! ・・・・・・ははっ、やめてくださいよ」


 ショーソンさんの表情はそのままなのだが、急に声音だけ冷静なものとなって声も小さくなった。俺は瞬時に何かを伝えようとしているのかと思ってショーソンさんに合わせて、さっきの話の流れで話し続けた。こんなところで何を伝えようとしているんだよ。


「実はね、この図書館には少し前に賊が入ってきたの。それもこの図書館のさらに奥に厳重に警備されている場所にある、禁忌指定されている魔導書を狙ってね」


 野暮な男とは賊のことだったのか。それに騎士さんたちが向かっていたのは魔導書がある場所か。魔導書は触れたこともないし見たこともないのだが、その存在自体は知っている。魔導書は便利な魔法から禁忌指定の魔法まで様々な魔法が込められている本だ。禁忌指定の魔導書は、強大な力を得られ、間違った使い方をすれば簡単に何もかも破壊できるものらしい。


「少し前の時は、何も取られずに賊を逃がしてしまったの。それから数回賊が入ってこようとする度に、すべて私が撃退したけど、賊を捕まえるには至っていない」


 それはしつこい賊だな。六聖天の一人がいるんだからいい加減諦めたらいいのに。それほどまでに、この先にある禁忌の魔導書が魅力的なのだろうか。気になりはするが、俺は魔法が全く使えないから使おうとは思わない。


「そこで、アユムくんの出番というわけ」

「ちょっと、恥ずかしいですから」


 俺はショーソンさんの言葉を聞きながら、めっちゃ近くにいるショーソンさんに周りに聞こえる声で言葉を発した。これくらいしておいた方が良いだろう。この周りに人はいないが、もしもという時があるかもしれない。


「この国の英雄でありあのモンスターたちを一人で倒したアユムくんがいれば、抑止力という面で警戒してこないかもしれない。またはそれでも来るのなら戦闘面で賊を捕まえてくれるかもしれない。そう考えたの。だけど、絶対に賊は今日来るわ。だから誰にもこのことを言わずにわざわざフローラとルネにここの手伝いに来てもらったの」


 絶対に? それはどういうことだ? 何でそんなことが言い切れるんだ? 言い切るのだからそれなりのものがあるはずだ。それは一体なんだ? どこぞの怪盗みたいに予告状でも出してきたのか?


「六聖天の一人、『予言の魔法使い』が二つの予言を私に出した。そのうちの一つが今日賊が来るという予言だったの。だから、この国で一番強いアユムくんに手伝ってもらうことにしたのよ。少し頼む時は遅れたけど、お願い、力を貸して。この奥にある魔導書は人間が手にしてはいけない代物なの」


 そんな六聖天の人がいるのか。断言して言うということは、ここまで外れたことがないんだろう。だからショーソンさんもそれが絶対に来るという前提で話を進めている。だが、そこまで賊が手強いものなのか? ラフォンさんの師匠で六聖天のショーソンさんが俺に手を貸してもらうことを頼むくらいに。


「・・・・・・分かりました、お手伝いします。あなたはフローラさまやルネさまと親密な関係なようなので、手伝わないわけにはいきません」

「ありがとう。フローラやルネを使っていることは否めないけど、・・・・・・こうでもしないとあの子たちを守れない」


 ショーソンさんも、ショーソンなりに誰かのことを思って動いている。そもそも、この学園で何か起こるということはフローラさまたちの平穏を崩されることになるということに他ならない。ならば、俺はショーソンさんを手伝うしかない。それにいつもお世話になっているラフォンさんの師匠のお願いを断ることなんてできない。


「それで、自分は何を――」


 俺がショーソンさんに何をすればいいのかと聞こうとした瞬間、図書館が揺れ始めた。俺は瞬時に戦闘用に≪完全把握≫を張り巡らせて、いつでも動けるように戦闘態勢に入った。


「来るわ! すぐにみんなのところに!」

「はい!」


 ショーソンさんにそう指示されて、俺はすぐにフローラさまたちの元へと向かった。一体この揺れは何なんだよ。

次も早く書き上げるように頑張りたいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても謎が多い図書館ですね。 また、ショーソンさんは魔法と剣が使えてラフォンランの師匠と… さらにミステリアスな人物になりました。 いろいろと謎が出てきて楽しくなってきました。 [気になる…
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