111:騎士と書庫。
Vtuberって良いですよね。最近ハマってます。
俺はフローラさまに並んで歩き、学園の中へと入っていく。学園は街の建物や王城ほど壊れてはいないが、ここで勉強するのであれば、少し不安が残る程度だ。それを踏まえて学園を修復しているのだろうけれど、この一か月の間でそれほど修復されていないように見える。他のところに人手を回していたのか、それとも直す暇がなかったのか。
「ねぇ、アユムくん。さっきはリサさんたちと何をしていたの?」
「そうね、あれは何をしていたのかしら?」
俺の横に並ばれたルネさまが俺にそうお聞きになられた。その言葉に反対側におられるフローラさまも疑問に思われたらしい。今日突然決まったことだから、ルネさまたちが知る由もない。今後こういうことがあるかもしれないから、今ここでお伝えしていた方が良いな。
「それはですね――」
俺は今日街でフラフラしているところをラフォンさんと会って、そこからラフォンさんに頼まれて前野妹たちの修行を見ることになってと、今日あったことをすべてお話しした。
「へぇ、そうだったんだ。でもそうだよね、神器所有者じゃなくてもこの国の中で一番強いのはアユムくんで、そのアユムくんが神器所有者となれば、リサさんたちの修行を頼むのはアユムくんしかいないね」
「それでも、同じ神器所有者にもかかわらず、アユムに修行を頼むなんてどうかと思うわ。彼女たちが強くなろうとしていなかったのではないの?」
ルネさまとフローラさまが前野妹たちについて意見を仰っている。お二人の言い分はどちらも正しい。だが、俺は全面的にフローラさまの言葉を推していきたい。あぁ、それとこれから暇な時があればあいつらの修行に付き合うこともお伝えしておかなければならない。
「それと、これから暇があれば前野妹たちの修行の手助けをしないといけないのですが、よろしいですか?」
ラフォンさんと前野妹たちにすると言ってしまったのだから、フローラさまにお伝えしないといけない。俺の時間をあいつらに費やすのは少々抵抗はあるが、これもこれから俺に頼らなくていいようにと思えば良いか。
「・・・・・・それは、大事なことなの?」
「えっ、いや、そんなに大事というわけでは・・・・・・」
フローラさまの冷たい声音と鋭い視線に俺は驚いた。そして同時に質問の意図が分からなかったが、俺は素直に答えた。それを聞いたフローラさまは悲しそうな顔をされたが、すぐに元の表情に戻られて前を歩き始めた。・・・・・・どういうことだ? 何が起こっているのか全く分からない。
「ルネさま、自分が何かしましたか?」
「うーん、していないはずだけど・・・・・・、最近二人だけでどこかに行ったとか、何かしたとかあった?」
「いえ、最近は復興が忙しくてそういうことはなかったです。いつもここにいる全員で行動していました」
「そうだよねぇ、私もそう思っているから、あの表情は本当に分からないなぁ」
ルネさまにすぐに確認したものの、ルネさまもお分かりにならない。それなら俺が分かるはずがない。そして俺がフローラさまと一緒に何かしたこともないから、手掛かりは一切なし。もしかして、何もしなかったから怒っていらっしゃっているのか? そもそも怒っておられるのか? そこから分からない。
「やはり、自分が原因でしょうか?」
「うーん・・・・・・、うん、そうだと思う」
ルネさまは少し悩んだ後、断定された。やっぱりそうだよなぁ。俺が原因なら早めに原因を見つけないと俺はこの状況に耐えられなくなる。それにこんなことが頻発したら、俺の胃に穴が開くぞ。そしてそれがすぐに回復して、また胃に穴が開いてを続けると、死にかけるぞ。
「今すぐにフローラさまにお聞きした方が良いでしょうか?」
「・・・・・・ううん、今は少し様子を見た方が良いかもしれないよ。何だか、今のフローラの様子は姉の目から見ても、様子がおかしいかな」
「なら、なおさら早めに行った方が良いのでは」
「何も分からないまま行っちゃうと、かえって逆効果になるかもしれないよ?」
「確かに、そうですね」
「さっきアユムくんとリサさんたちを見ていた時に初めて気が付いたから、たぶんニコレットもブリジットも気が付いていないと思う。だからしばらく様子を見て、そこから何が原因か考えようね」
「はい、分かりました」
俺はルネさまの言葉に納得して頷いた。ルネさまと俺しか気が付いていないフローラさまの異変。一体どうなされたのだろうか、フローラさまは。そう思い、フローラさまの方を見るとフローラさまもこちらを振り返って見ておられて目が合った。
フローラさまは俺を見られた後に、ルネさまの方を見られて無表情になられた。しかし、それは一瞬ですぐに前を向かれた。ルネさまもさっきのフローラさまに気が付いてない。全く、本当にどうなされたのだろうか。
俺がフローラさまのことで頭がいっぱいになりながらも、目的の場所にたどり着いたようだった。そこは国の中で一番の情報量を誇る図書館の前だ。俺は一度も来たことはないが、ここにフローラさまやルネさまが調べ物をされる際によく利用される場所らしい。
この図書館の特徴は、何と言っても本の多さにある。アンジェ王国の中で一番の本の多さであり、分からないことがないと言われているくらいの情報の多さらしい。これ目当てでここに来る貴族も一定数いるらしいが、俺は特に何も調べ物はない、と思っていた。だが、神器のことで知りたいことなら少しあったな。時間があってフローラさまがここに向かわれるのならお供することにしよう。
「ここですか、男手がいる場所は?」
「えぇ、そうよ。私たちはさっきまでここのお手伝いをしていたんだけど、重い本が結構あってアユムに手伝ってもらうことにしたの」
さっきのフローラさまの異変はどこにやら、いつものフローラさまがそこにおられた。これは予想以上に厄介そうだな。様子を見るで正解だった。それよりも、重い本? 分厚いとかそういう本なのだろうか? 良く分からない。
「そんなことならお安い御用です。早く片付けましょう」
「そうね。でも、まずはコゼットさんにアユムを紹介しないといけないわ」
俺が図書館の扉を開け放ちフローラさまたちが中へと入られていく。そして俺は最後に中へと入ると、そこには背丈以上あるたくさんの本棚が並んでおり、本棚にはぎっしりと本が並べられている。それに図書館の奥が見えないほどに奥行きがある。こんなにも広い場所だったか? いや、これは魔法か結界があるのか。それで現実と部屋では地形が違っている。俺の≪地形把握≫で理解することができた。
「こっちよ。こっちにこの図書館の司書がいるわ。私たちはその人にこの仕事を頼まれたの」
「司書、ですか」
フローラさまを先頭に俺たちはフローラさまについて行くが、この図書館の司書ってどんな人なのだろうか。やはり本のことを知り尽くしている人だから、お年を召している方なのだろうか。しかも凄腕魔法使いだったりして。
そんなくだらない想像をしながら図書館の中を進んでいく。俺は図書館の中を見ているが、入り口付近は綺麗に整っていたが、奥に進むつれて本が落ちていたり本棚が壊れていたりしている。これも先のモンスター襲来の影響なのあろうか。これを片付けておられたのだろうが、どうやって本棚を直しているのだろうか。入り口付近の本棚は新品みたいに綺麗だったぞ。
「あの人がここの司書で、コゼットさんよ」
フローラさまに言われた方を見ると、そこには本を本棚に戻してる眼鏡をかけて、おさげをしているいかにも図書委員みたいな若い女性がそこにいた。て言うか、若いな。俺の予想は大きく外れてしまったようだ。若くて司書になったということは、とても優秀な人なのだろう。
「コゼットさん、アユムを連れてきました」
「あら、お帰りなさい。随分と早かったわね」
「はい、騎士育成場にいましたから」
「騎士育成場? そう、それは都合が良かったわね」
フローラさまがコゼットさんという方に声をかけられた。するとコゼットさんはこちらを向いてフローラさまと話し始めたが、ふいに俺の顔を見て、じっと凝視してきた。何か俺の顔についているかと思ったが、ついていればフローラさまが何か仰ってくれるはずだ。ならどうしてだ?
「そこにいる彼がアユムくんね?」
「はい、そうです。私の自慢の騎士です。アユム、挨拶しなさい」
フローラさまにそう仰られて、俺はコゼットさんの近くに向かった。どこの誰かは分からないが、フローラさまに恥をかかせないようにしないことは当たり前として、これからは騎士として恥じないような対応を心掛けないといけないよなぁ。この一ヶ月でここまでお膳立てをされたのだから、無駄にするわけにはいかない。
「はじめまして。自分はシャロン家に仕える神器所有者のアユム・テンリュウジと申します。どうかお見知りおきを」
「これはどうも、はじめまして。私はアンジェ王国書庫保存管理責任者兼六聖天が一人、コゼット・ショーソンよ。よろしくね」
ショーソンさんに手を出されたので、俺は大人しく手を出して握手をした。だが、さっきから俺の目をずっと見てきている。何なのだろうか。俺が何をしたというんだ? そこまで見られるようなことをしてないと思うぞ、たぶん。
「・・・・・・あの、いつまで握っているのですか?」
「あぁ、ごめんなさい」
いつまでも手を離そうとしないショーソンさんに声をかけて手を離してもらったが、それでもショーソンさんは俺の目を見てきている。何か、目をそらすのもあれかなっと思ってずっと俺とショーソンさんが目を合わせている絵になっている。六聖天とか分からない単語が出てきたのに、聞けずにいるこの状況を誰か何とかしてくれぇ! ショーソンみたいな美人な女性に見られることにまだ慣れていないんだよぉ!
「コゼットさん? いつまでアユムのことを見ているおつもりですか? 格好いいのは分かりますが、おやめください」
「これまたごめんなさい。そうね、こんなに見つめていては彼も嫌だったわね」
フローラさま? 俺のことを格好いいと言わないでください。格好いいとか自慢するかのように仰られる俺はその言葉に慣れていないんですから。それよりも、ショーソンさんから目を離してもらうことに成功した。さすがはフローラさまだ。
「それよりも、彼は・・・・・・」
ショーソンさんがまた俺の方を見て何かを言いかけたが、言葉が止まってまた俺を見つめている。えっ、またこの状況が続くのか? 俺はこの人の行動を理解することができない。もしかしなくても変な人なのだろうか?
「あぁ、ごめんなさい、また見つめてしまったわね。・・・・・・才能がないわけではない。むしろ才能があると言っても良い。でも、どこかで何か歯車が合っていないから、使えないのかしら? それにしては得体の知れない何かが、私ですら感じ取れない・・・・・・」
ショーソンさんは俺たちを放っておいて独り言をぶつぶつとつぶやき始めた。えっ? 本当にこの人大丈夫なのか? 何の話をしているのか全く分からない。この人と会って、今のところこの人の変なところしか見ていないぞ。
「ごめんね、アユムくん。コゼットさんはすごい人だけど、一人の世界に入ることが多い人なの。すぐに帰ってくるから今はそっとしておいて」
ルネさまが俺の耳元でそう仰られたが、その口ぶりは既知の間柄のような話しぶりだ。この人が現実に帰ってくるまでどれだけ時間がかかるか分からないが、一応お聞きしておくか。
「ショーソンさまとはお知り合いなのですか?」
「うん、知り合いだよ。小さい頃に私とフローラの遊び相手になってくれていたんだ」
遊び相手? そんなに年は離れていないように見えるが、お姉ちゃんみたいな感じだったのだろうか。少しだけ言葉に違和感を覚えたが、それは良いだろう。それよりも、お聞きしたいことがあるんだ。今のうちに聞いておこう。
「それと、〝六聖天〟とはどんなものですか? 初めて聞きました」
「あら、七聖剣は知っていても六聖天は知らないのね。でも、それもそうね。七聖剣は魔王軍と対抗するために作られた存在に対して、六聖天は魔王軍とは関係のないところで作られた称号」
俺がルネさまにお聞きしたところ、俺の近くに来られたフローラさまがルネさまの代わりにお答えになられた。七聖剣はシャロン家でも話題になるくらいだから知っていた。だが、六聖天については全く知らない。それに、七聖剣は剣を使うのだと分かるが、六聖天は何をする人なのか分からない。
「六聖天とは、七聖剣と同じく世界中から強い魔法使いを選抜して称号を与えられた者のことを言うの。ただ、さっきも言った通り魔王軍とは関係なく作られた称号で、それほど有名な称号ではないけれど、六聖天を抱えている国にとっては重要な役割を担っている称号に当たるわ」
なるほど、六聖天は魔法使いか。それよりも、・・・・・・有名ではないのに、国にとっては重要な役割。そんな役割あるのか? 国を豊かにする、国の結界を張る、国王の守護をするとか、それくらいのことしか思いつかない。それにそれは俺の万能な魔法使いという想像からなる前提があるからで、そんな魔法使いがいないことはもう知っている。
「どんな役割なのですか?」
「六聖天は、国同士が争わないように抑止力として作られた称号。六聖天は国一つを一人で壊すことができる力を持っていることの者を言い、他の国が六聖天がいる国に攻め込んで来れば、仕返しをできるという抑止力の象徴であるの。でも、今は六聖天が国に所属することが無くなってきているから、その抑止力としての象徴も、称号も意味がなくなっているわ。抑止力であることは変わらないから、国が六聖天を欲しがることは変わらない」
へぇ、六聖天がそんな意味の称号なのか。ということはここにいるショーソンさんも国一つを破壊することができる大魔法使いということなのか。ということは、七聖剣の人たちも国一つを破壊することができる力を持っているということなのか? ラフォンさんならその力を持っているはずだ。国を破壊できる人が、七と六の合わせて十三いるのか。いや、そこに俺が合わさって十四。
「そう言えば、リサさんが言っていたけれど、神器ガンバンテインを持っているマヤさんっているよね?」
「あぁ、三木のことですか。三木がどうかしましたか?」
「そのマヤさんって人も、六聖天の一人らしいよ」
・・・・・・ふむ。・・・・・・うん? あの三木が、六聖天? 国一つを破壊することができる六聖天に、三木が? ・・・・・・どう考えても間違いだろ。あの実力で六聖天と言われても違和感しかないし、疑うのは当然だ。まぁ、確かに六聖天としての実力はあるかもしれないが、国一つを破壊するだけの力があるか?
ラフォンさんと比べれば大した実力ではないが、もしラフォンさんが他の七聖剣や六聖天より飛びぬけた実力を持っていて、他の六聖天が三木くらいの実力ならありえなくはないが、それでもあいつが六聖天とか言う称号を持っているのは、ないわぁとしか言いようがないな。
「ッ! あっ、また考え事をしていたわ。ごめんね、手伝いに来ているのにあなたたちをほったらかしにしておいて」
「いえ、自分は気にしないので大丈夫です」
ようやくショーソンさんが自分の世界から戻ってくることができた。それにしても何を考えていたのだろうか。タイミング的にも俺に、ついてだよな? これで俺についてではなかったら自意識過剰過ぎて死ねるな。
「それじゃあ、アユムくんにはこれから力仕事を任せても良いかな?」
「はい、そのために呼ばれたのでお任せください」
「うん、良い返事でよろしい」
何だかショーソンさんの喋り方と雰囲気が、若い人の喋り方ではない気がする。何だか、年を食っている人が年下と会話している時の絵を彷彿とさせる。まぁ、今は良いか。
ふぅ、一週間以内に書けるように努力します。