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110:騎士と勇者。⑥

全然早く投稿できません。

 俺と前野妹たちは戦いがひと段落したところでクールダウンしていた。だが、前野妹たちは俺があの段階で修行をやめたことに納得していない様子だった。あれ以上しても問題点を理解していないことには続ける意味がないし、前野妹ならともかく、他の連中は俺と修行しても意味がないと思う。


「ねぇ、どうしてあそこでやめたの? 私たちはまだやれるよ?」


 やはり、納得いかない顔をしていた前野妹が俺に聞いてきた。まぁ、まだ前野妹は≪成長≫のスキルを持っているから、俺と戦っていると強くなっていくだろう。その点だけで言えば、俺の≪順応≫と前野妹の≪成長≫は相性が良いのだろう。勇者の前衛として納得のスキルだ。


 だが、他三名は違う。弓兵である佐伯は≪超感覚≫、賢者である三木は≪英知≫、司教である前野姉は≪寵愛≫と、中衛、後衛としてそれ相応のスキルを持っている。俺とは違った方向のスキルだから、俺と修行をしても効率が悪いと思う。・・・・・・それを考えても、神器所有者と一緒にいる方が効率が良いのだろう。そうじゃなければラフォンさんが俺に頼まない。


「最初はお前らの実力を確認しただけだ。それに、今後どうやって修行をしていくか話し合うことから始めないといけないだろう。考えもなしに戦ったとしても、それこそ非効率的だ」

「えっ! じゃあ私たちに付き合ってくれるの⁉」


 俺の言葉に前野妹は嬉しそうに驚いて声を上げた。あぁ、そうか。何も考えずに言葉を発してしまった。ここで俺が無理だと言えば、こいつらと関わらずに済んだものを。・・・・・・しかし、言ってしまったし、ここまでやった以上力を貸さないといけない。仕方がないか。


「ハァ、ラフォンさんの頼みだからな。仕方なくお前らに手を貸してやるよ」

「やったぁ! ラフォンさん、ありがとう!」

「アユムがそう言ってくれるとは驚きだ。本当に感謝する」


 前野妹はラフォンさんに抱き着いて感謝してラフォンさんは俺に感謝してきた。だが、俺はこいつらを強くする方法を全く知らないから、強くする保証はどこにもない。俺自身、死に物狂いで戦っていてこの強さを得たから、どうやって強くなるのかと聞かれたら、死ぬ気で頑張るとしか言えない脳みそ筋肉ぶりだぞ。


「でも、前野妹ならともかく、他の三人の修行はどうすることもできませんよ? 自分は騎士ですしスキルが違い過ぎますから」

「それでもアユムに頼む。ただ戦ってくれているだけでも良い。アユムの動きに目を慣れさせていく、格上にどう戦っていくか考える、多種多様の手を使う相手を前にどう戦うか考えるなど、戦うだけで得るものはある。そして、神器所有者同士が一緒に経験を積むことで、いつも以上に強くなれる」


 神器所有者が一緒にいることは、そこまでのものなのか。俺もそうなってくれればいいが、こいつらから得るものは何一つないから期待はしないでおこう。・・・・・・だが、やはり専門の人に聞いた方が良いということは変わらない。俺がこいつらと一緒に修行をしたくないとかを抜きにしても思ってしまう。


「ですが、他の三人には自分以外にその道の人に助言を頼んだ方が良いのではないですか? そちらの方が良い気がしますが・・・・・・」

「確かにそうだが、神器所有者に戦い方を教える必要はないんだ」


 ラフォンさんの言葉に俺は首を傾げた。神器所有者に戦い方を教える必要がないのなら、こいつらを見る必要もないだろう。どういうことだろうか?


「どういうことですか?」

「少し言い方を間違った。神器所有者は本来神器から戦い方を学ぶようになっている。だが、それでも他の同業者に助言や修行が無駄というわけではない。現に私とアユムは師弟関係にあるから、無駄になっていないことは分かるはずだ」

「そうですね。なら他の人ではダメなのですか?」

「誰かに教わる時間と、アユムと修行をする時間が同じだと考えると、考えるまでもなくアユムと修行をする時間が有効だと思うくらいに効率に差がある」

「そこまでですか?」

「そこまでらしい。今のユズキたちを見れば、その効果があるのだと実感している」


 まぁ、≪順応≫もなく三年間こっちで戦っていてこの強さなら効果があるのだろう。だが、そのペースで強くなられても待てない。もう少し早く強くなってもらわないと魔王討伐は夢のまた夢。そこを俺がしないといけないのか。・・・・・・面倒だな。


「分かりました。自分のできる限りのことをして見せます。ですが、自分はフローラさまが最優先ですので、そこは理解してください」

「そこは分かっている。暇がある時にユズキたちと手伝ってくれるだけで良い。それだけで彼女たちのやる気も上がるだろう」

「では、ラフォンさんが言った通りなやり方で明日から修行をしてみたいと思います。今日は前野妹たちの能力やこれからについて話すだけにしておきます」

「そうか、ありがとう。話し合いだけなら後は五人だけで十分だな。私は少し急ぎの用があるから、ここで失礼させてもらう」


 そう言ったラフォンさんはどこかに行ってしまった。・・・・・・これからはこいつらと一緒にいないといけないのか。ここに来て嫌だと言うつもりはないが、それでも嫌なのは嫌だ。だが話を進めないことにはここから離れられない。


「・・・・・・じゃあ、一先ず残り二人の固有スキルを聞いても良いか?」


 ラフォンさんが離れた後、誰も話を切り出さずに沈黙が流れたため、俺が話を切り出した。前野妹と佐伯の固有スキルは分かっているが、前野姉と三木の固有スキルは分かっていない。これからこいつらと向き合う必要があるのなら、知っておかないといけない。


「そうね、ここで黙っていても時間の無駄だわ。私のガンバンテインの固有スキルは、≪絶対領域≫。範囲に入れば、私が指定した者以外の魔法をすべて無効にすることができる能力よ」

「指定魔法無効化か。使えるな」


 使えるが、俺に対しては有効ではない。確かに俺と戦っていれば使っても意味がないスキルだったな。ただ、魔法を無効化にするとは極端な固有スキルだ。自身の魔法を強くする、自身の魔法を通すために相手に制限をかける、などの支援スキルではなく、自分以外の魔法を許さないという固有スキル。


 俺と前野妹と佐伯は自身を強化するスキルであったが、三木のスキルは他とは全く違ったスキル。使えるには使えるが、神器としては癖が強いな。まだ魔法を三倍とか、そういうスキルの方が良かったのかもしれないが、魔王の魔法を封じることができれば強い。


「残りは前野姉だな」

「・・・・・・ツーン、だ」

「・・・・・・は?」


 俺が前野姉に声をかけると、そっぽ向いて俺に答えないという姿勢を取ってきやがった。何でそんなことをしているのか分からないし、腹が立つな。これは俺に無視してほしいという意思表示なのか? そうに違いない。そうじゃなければどういう了見なのか教えてもらいたい。


「それじゃあ、これからについて話し合う。基本的に俺ができることは実戦に近い形で戦うことだけだ。それ以上のことはできない。辛うじて前野妹に助言を与えることができるくらいだ」


 俺は前野姉を無視してそのまま話を進め始める。そのことに前野姉は驚いた顔をして俺の方を見ており、前野妹たちも驚いた顔をしている。そんな顔をしなくても、俺とお前たちの仲だろ? 無視して当たり前だ。いい加減分かれよ。


「つ、ツーン!」

「今の段階ではクラウ・ソラスを使うだけで、≪魔力武装≫をするつもりはない。これからも使うことはないとは思うが、俺を想像を超えて来れば使うことがあるだろう。スキルについては多少使うつもりでいる」


 何やら前野姉が俺の少し近くに来てわざとらしく言っているが、それも無視して話し続ける。この場面を見れば、イジメのように見えてしまうが、これはこいつの自業自得だ。俺との距離を測り損ねた女の末路だ。


「・・・・・・ツーン」

「俺はフローラさまの護衛や身の回りのお世話をする必要があるが、今日みたいにフローラさまがご用事がある時や、フローラさまが学園に再び通い始めてフローラさまが学園におられる間には修行を行うことができる。他にもフローラさまの許可が下りれば、修行ができるかもしれないが、そこは期待しておかない方が良いだろう」


 前野姉の声が小さくなっているが、俺はそれでも話し続ける。いい加減にツーンと言うのはやめてほしいところではあるが、もうそろそろで何か言われそうだな、前野姉だから少しイジメても良いかな? 的な感じで思っていた。それで俺を嫌いになってくれても、俺は何ら問題ない。


「・・・・・・ふふっ、ふふふふふふっ」


 ついに前野姉が黙ったかと思ったら、急に笑い始めた。そして前野姉は俺の顔を何を企んでいるのか分からない目で見てきている。・・・・・・うん、何かやばいな。ヤバい奴がヤバい行動をしでかしそうな雰囲気だ。この状態なら、佐伯よりヤバさが跳ね上がるかもしれない。


「ねぇ、もう無視しない方が良いよ? お姉ちゃん、何かしでかしそうな雰囲気をしているよ?」

「そんなことは分かっている。だが、無視されるようなことをしたのは前野姉だ」


 俺の耳元で話しかけてきた前野妹がそう言ってくるが、俺にどうしろと言うんだ。今は距離が近いことは気にしないものの、やばい奴と関わりあいたくないのは確かだ。でも、やばい奴がヤバいことしでかすと考えたら、もう出会った時点で詰んでいるのではないのか?


「前にリサが、『ふふっ、アユムがリサのことを見てくれるためにはどうすれば良いかな? あの女を消す? ううん、それはリサが負けを認めている。だから、アユムをリサだけのものにするためにどこかに隠しちゃえば良いんだ』とか言っていたわね」

「・・・・・・私も、誰にも見つからない場所を、探しているところを見た」


 三木と佐伯も俺の近くに寄って前野姉のやばい言動を報告してきた。・・・・・・ヤバさを知っているから、聞いたすべてが本当だと理解できる。本当にこいつはどうすれば良いのだろうか。何かする前にやってしまうか? きっとラフォンさんなら納得してくれるはずだ、たぶん。


「今だけで良いから、少しだけお姉ちゃんに構ってあげて? これだと話が進まないよ」

「そんなことは前野妹がすれば良いだろう。お前が姉の話を聞いてやれ」


 前野妹が俺を説得してくるが、どうしてもそれをする気にはなれない。いや、俺が声をかければいい話なのだが、不必要に話したくないと言うか、近づきたくもないのだが、これだと本当に話が進まなさそうだ。仕方がないか、話しかけるか。


「ふぅ・・・・・・、おい、何か俺に言いたいことでもあるのか?」

「えっ⁉ 聞いてくれるの?」

「い・・・・・・、あ、あぁ、そ、そうだ、な」


 俺は何かしでかしそうな顔から満面の笑みに変わった前野妹に嫌だと言いそうになったが、何とか抑え込んで引きつった笑みでそう答えた。マジでこいつには今後関わらないでおこう。関わったら終わりだと思え。


「あのね、アユムってリサのことを前野姉って呼んでるよね?」

「あぁ、そうだな。前野は二人いるから姉と妹で呼んでいるな」


 俺が前野姉と前野妹と呼び始めたのはいつくらいからだったか。確か高校の時からだったか。前野姉妹に限らず、佐伯と三木もそう呼び始めた。俺とこいつらの仲を明確にするために苗字呼びにした。名前呼びするほど仲もよくないしな。


「そこをね、前野姉じゃなくてリサって呼んでくれない? ほら、前野姉とか前野妹とかだと呼びにくいでしょう? だからリサって呼んだ方が良いと思う。昔みたいに呼んでくれても良いんだよ?」


 うわ、俺が一番嫌なことを言ってきやがった。それにこいつは俺との仲が戻ったと勘違いしているのか? それは本当に勘違いだな。こうやって話しただけで元に戻ったと思われているのなら、勘違い女にも程がある。ハァ、これを面と向かって言いたいが、文句を言うことはお互いの理解を深めることになる。言わないでおこう。


「俺が前野姉のことを名前で呼ぶことはまずありえないから置いておくし、それに俺は前野妹とか前野姉とか呼びにくいと思ったことはないから問題ないだろう。これでこの話は終わりで良いな?」


 俺がそう言いながら前野姉の方を見ると、前野姉はふくれっ面をしていた。えっ? どうしてそんな顔をしているんだ? ついに頭がおかしくなって変なことをしだしたのか? よし、それなら討伐しても問題ないだろう。


「そう言うことじゃないの! リサがアユムからリサって呼んでほしいの!」

「だからそれを嫌だと言っているんだ。分かったか?」

「分からないよ! 前は呼んでくれていたじゃん」


 駄々をこねるかのように名前呼びについて文句を言ってくる前野姉だが、ふぅ、前の世界で苦行を経験していなかった俺でなければキレていたところだ。しかし、一度本当に言わないと分からないものなのだろうか。俺はお前が嫌いだからお前の名前で呼びたくないのだと。


 俺以外の人、ルネさまと話している時はこんな態度なはずはないのだが、どうして俺の時だけこんな態度を取ってくるのだろうか。嫌がらせか? まぁ、子供が駄々こねていると思っておけばいいか。子供なら仕方がないと思うからな。二十歳を過ぎた女を子供だと思わなければならない俺の身にもなってほしいが。


「前は前、今は今だ。それくらいのことで文句を言うな」

「だってぇ・・・・・・」

「だってもくそもない。話はこれで終わりだ。次に修行する時はラフォンさんを通して伝える」


 前野姉の雰囲気が元に戻ったことを確認して、俺はある方向へと歩き始めた。それはさっきから俺の方を見られていたフローラさまとルネさま、ニコレットさん、ブリジット、サラさんの方であった。≪完全把握≫で、前野妹たちとの戦いが終わってからおられたことに気が付いていた。


 本当に前野妹たちとこれ以上話すことはないから、俺のことを待ってくださっているフローラさまたちの元へと向かう。前野妹たちも俺の方を見るだけで何も言ってこないから、それについては何も文句はないのだろう。


 俺は速足でフローラさまの元へと向かって行くが、フローラさまのお顔を見ると無表情になっていた。しかし俺が見ていることに気が付かれると俺の方を見て微笑まれた。その笑みに俺はドキッとさせられるが、無表情に違和感を覚えてしまう。あんなお顔、初めて見た。俺が前野妹たちと過ごしていたことがお気に召さなかったのだろうか。


「申し訳ございません、お待たせしてしまいましたか?」

「そんなことないわ。私たちが勝手に待っていたのだから。それよりも、彼女たちは良いの?」

「はい、もう用件は済みました」

「そう。それじゃあ男手が必要な用事があるから、手伝いなさい。もう何もすることはないのでしょう?」

「はい、特に用事はありません」


 フローラさまは歩き始めて、俺たちもその後に続く。・・・・・・少しの会話だけだったが、いつも通りのフローラさまだ。だけど、俺の心のどこかに不安が残る。ただの無表情ではない。無表情ながらも何かを考えておられる顔だ。


 だが、考えても何も分からない。フローラさまに直接お聞きするのはちょっと気まずいから、ニコレットさん辺りにこっそりと聞こう。

次こそは、きっと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前話から継続して勇者の固有スキルが明らかになってきいるところです。 固有スキルを知ると、今後より手ごわい敵へチームで立ち向かえると 思うことと、アユム無双は切り札として、楽しそうなバトルの…
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