109:騎士と勇者。⑤
お待たせいたしました! 忙しくて書けなかったです!
俺とラフォンさんの二人で学園の中に入ったが、学園の中では少しだけ慌ただしさを感じた。そう言えばフローラさまたちが学園の中にいるが、一体何をしておられるのだろうか。全く思い当たる節がない。何をするのか仰られても良いと思うのだが。俺をないがしろにしているのか? 泣くぞ?
そんなことを思いながら、学園の中にある騎士育成場に向かう。ハァ、ラフォンさんの頼みだから良いものの、これから前野妹たちと会うと分かっていると、嫌な気持ちになっていく。あいつらとの関係は改善? したとは言えないし、悪くなったとは言えない状態だからな。
事情が分かったとしても、俺があいつらとどうするつもりはない。ルネさまと前野姉が仲良くなっているのは良いが、それでも俺から何かするつもりはない。だからここから会うのも気が進まないが、今更こんなこと言ってもしょうがない。
顔に出さずにラフォンさんと騎士育成場へと向かっていくと、一定範囲を感知するために常時発動させている≪完全把握≫で感知できていた前野妹たちの姿が見えた。今ではそこまで嫌悪感は示さないが、顔を見るのは、嫌だな。
「あっ、アユム! やっほー!」
そわそわとしていた前野妹が俺を見た瞬間に満面の笑みになって俺に手を振りながら俺の方に近づいてくる。やっほーって、山じゃないんだよ。バカそうな挨拶をしてくるんじゃねぇよ。あぁ、今からあいつらと関わってしまうのか。
そして、前野妹だけではなく前野姉と三木と佐伯も俺に近づいてきた。こっちに近づいてくるな。せめて二メートルは離れておけよ。じゃないと俺が距離を取るぞ。
「こんにちは、アユム。久しぶりね」
「・・・・・・あぁ、そうだな」
三木が俺に声をかけてきたから、無視するわけにもいかず俺はぶっきらぼうに返事をした。するとそれを聞いた三木は目を見開いて驚いた表情をしていた。えっ、どうしてそんな驚いた表情をしているんだよ。どこにそんな要素があった。俺が返事をすることがそんなに珍しいのか?
「ち、ちょっと、チナ。あ、アユムが、わ、私にも普通に返事をしてくれたわよ」
「・・・・・・驚き」
三木に話しかけられた佐伯も無表情ながらも驚いた顔をしているのが分かる。まぁ、今までは返事をしてなかったし、言うとすれば殺意の籠った言葉だったから、珍しいと言えば珍しいのか。それでも三木と俺が普通の関係になったわけではないから勘違いしてほしくない。
「り、リサも! こんにちは、アユム」
俺の言葉に前野姉も驚き、何をとち狂ったのか分からないが、笑みを浮かべて俺に挨拶してきた。こいつは何を言っているのだろうか。三木と同じように挨拶をしても良いが、何だかこいつだと挨拶したく無くなるな。無視するか。
「えっ? ねぇ、アユム? どうしてリサには答えてくれないの?」
「近い、離れろ」
俺が無視していると前野姉が俺にゼロ距離で近づいてきて怖い目をして俺に問いかけてきた。だから俺から離れて無視するのをやめた。この中で一番やばいのは佐伯だが、二番目にヤバいのは前野姉だな。今まででも十分に分かっていたから、再認識させられた。
「久しぶりの再会はそれくらいにして、早く用件に入りたいが、構わないか?」
「はい、私たちなら大丈夫です」
ラフォンさんがこの状況に収拾を付けてくれて、前野妹の言葉に全員が同意した。俺も早くどうしてここに来たか知りたかったところだ。こいつらと会うためとかだったら俺はすぐに帰るぞ。こんなことのために疲れるとかは嫌だからな。
「では、どうしてアユムをここに呼ぶことになったのかを説明しなければならないな。まず、国の復興が進んできて、住居以外にも目が向けられるようになった。それは国の兵士がいなくなった戦力の穴だ」
俺に事情を一から話し始めてくれたが、戦力の穴なら俺が埋めれるはずだ。そのために俺はこの国の人たちに良い印象を持つように働いてきた。
「それなら自分がいるので問題ないのでは?」
「そこが問題なんだ。アユム一人だけに国を守らせることがよろしくない。たった一人だけでは、何かあった時に対処できないかもしれない。そう考えた冒険者ギルドを筆頭とした数々のギルドが、戦闘力の底上げ及び冒険者間での連携の強化を実施することにした」
まぁ、考えることは分からなくもない。だが、そこまで俺の実力を信じてもらえないとはな。あれだけの超巨大モンスターを一人で倒したのに。確かに俺一人だけでは手が回らない時があるかもしれない。それでも本気を出せばここからシャロン家まで一瞬でたどり着ける自信がある。
「それで、具体的に何をしているのですか?」
「基本的には組んだことのない冒険者同士でモンスターたちの討伐を任せたり、冒険者同士で助言を与え合うなどしている。だが、ここで問題になってくるのがユズキたち神器持ちの人間だ」
「どうして問題になってくるのですか? 他の人より弱いからですか?」
「私たちは別に弱くないよ! アユムが異常に強いだけだよ」
俺の言葉に前野妹が突っ込んできたが、弱いは言い過ぎた。他の人と客観的に比べれば、こいつらは強い部類に入る方だろう。この世に十五個しかない強力な武器を持っているにもかかわらず、ラフォンさんの足元にも及ばないのが問題なのだがな。
「神器所有者に対して下手に助言を与えることはできず、本来ならジュワユーズ、クラウ・ソラス、キム・クイ、ガンバンテイン、ドラウプニルの神器五つで戦うものだ。ユズキたちを他の冒険者と組ませるのは良くない」
そういう物なのだろうか。俺は神器所有者と一緒に戦うことがなかったから、誰とでも組むことができる。組むとしてもラフォンさんやグロヴレさんなどの強い人たちだけど。じゃないと俺の本領は発揮できない。
「今のユズキたちができることは、今以上に連携を強化することか、固有スキルの強化することくらいしかない。アユムがいなければの話だが」
ようやく俺の話が出て来たか。ラフォンさんが言いたい話は分かったが、俺がいたところでどうにかできる話でもないだろう。神器所有者同士だからと言って、・・・・・・いや、ないとは言い切れないか。サンダさんと神器を無効化するモンスターを相手にした時にクラウ・ソラスがフラガラッハに力を貸していた? 現象が起こっていた。もしかしたら何かあるかもしれない。
「アユムはどうして神器所有者が一緒に行動するか知っているか?」
「いや、知りません。戦いやすいからとかですか?」
「それもあるが、一番は神器所有者同士が近くにいると、一人でいる時より強くなりやすいらしい。だからユズキたちをバラバラにすることはしない」
へぇ、そうだったのか。俺は一人だから全く分からなかった。・・・・・・だが、それだと俺とこいつらの差はおかしくないか? 前野妹たちが一緒に戦い、俺は一人で戦っていたが、前野妹たちが俺より強くなっているのは良い。しかし、現実は俺の方が強くなっている。こっちに来た時間は一緒なのに。
「ラフォンさん、それだと神器所有者で組んでいる前野妹たちは一人で戦っている自分より強くなっていないといけませんよね? それは間違いではないのですか?」
「本来ならそうなっていないといけないが、今回で言えばアユムの方がおかしいのだろう。歴代以上に神器を使いこなし、他の勇者とは一線を画す実力と騎士の勇者として正しくない戦い方を持っている。今までの勇者と比べることなどできない」
「そうですか? このクラウ・ソラスの≪順応≫を使えば誰でも強くなれると思ってました」
「そんなわけがない。文献や言い伝えにある≪順応≫は、一定以上の攻撃に順応は起動しないようになっている。騎士の勇者の一番の死亡要因は、順応できずに死んだ、というものが多いらしい。だが、アユムは今まで順応できなかった攻撃はないのではないか?」
「・・・・・・神器を無効化する敵は最初順応できませんでしたが、それ以外ならないですね。そもそも≪順応≫できない、なんて考えたこともないですから」
どうして≪順応≫できないという現象が起こるのだろうか。でもまぁ、クラウ・ソラスの≪順応≫の弱点は一撃で殺されることだ。順応する隙も与えられなければそれは誰だって死ぬ。だが、順応できないと順応が発動しないとでは訳が違う。後者を体験したことは、神器無効化を受けた時以外はない。
「その時点でアユムを神器所有者の枠に入れておくことは間違っていると私は思う」
「ハハッ、それは光栄なことですね」
神器所有者という枠に何の価値もないから、そこのところはどうでもいい。俺が神器所有者の中で異常だということが分かっただけだ。それは数多の超巨大モンスターを倒した時から分かり切っていることだろうから、再認識と言った方が良いか。
「だが、ユズキたちは違う。ユズキたちが一緒にいることで着実に普通よりも早く強くなっている」
「そこで、自分も入ることでいつも以上に効率的に強くなるということですか?」
「そういうことだ。この機会に他の神器所有者の実力を知っておくのも良いと思う」
・・・・・・俺にとってメリットがない。その一言に尽きる。ただ、ここまで来た以上ここで帰ることなんてできない。神器所有者なら俺以外にもいるだろうから、そこからやんわり断ることはできないかと無駄な抵抗をしてみるか。
「自分以外にも神器所有者はいるはずです。フラガラッハ所有者のサンダさんはどうなんですか?」
「彼女は冒険者として優秀だからな。いくつもの討伐クエストを受けて忙しいらしい」
そんなことだろうと思った。今は冒険者ギルドが忙しいと聞くから、サンダさんも忙しくなるだろう。そうなれば神器所有者は俺以外にいないな。早くも無駄な抵抗は終わった、わけではない。そう言えば稲田はどこにいるんだ? あいつが一緒でないとは珍しい。
「稲田はどこにいるんですか? あいつも神器所有者なら、一緒にいた方が良いのではないですか?」
「あぁ、まぁ、あいつは、何と説明すれば良いか・・・・・・」
何だ? ラフォンさんの歯切れが悪いな。そんな変なことを聞いたわけではない。こいつらとセットの稲田がいないことに質問しただけだ。まぁ、あいつがいたらいたで俺は引き受ける自信がないな。
「イナダの話なんて今は良いよ。アユムが引き受けてくれるかどうかを聞きたいな」
「えっ?」
いつもは明るい前野妹から、あり得ないくらいの冷たい声音を聞いて俺は驚いてそちらを見てしまった。俺と目が合った前野妹はニッコリとほほ笑んでくる。・・・・・・うん、何かあったようだけど、これ以上踏み込んだら巻き込まれると俺の本能が叫んでいる。これ以上は何も言うまい。
「本当のところを言えば、神器など関係なしに四人がアユムを指名してきたんだ。強くなるためならアユムの方が良い、と。神器の説明や効率的に強くなる方法は後から正当性を出すために付け足したものだ」
ラフォンさんの言葉にラフォンさんが困った顔をしていた点に納得した。俺以外にも修行を付ける奴はいるだろうが、そこに仲がよろしくない俺を指名してきたのだから困った顔もする。
「ねぇ、アユム。私からもお願いするわ。私たちは強くなりたいの。アユムと肩を並べられるくらいに強く。だから、私たちに協力してほしい」
三木が俺に向かって頭を下げながらお願いしてきた。何か三木にこうして頭を下げられてお願いされるのは不気味な感じがする。いつもは俺をからかおうとしてくるのに、こういう時に真面目に来るのは卑怯にすら感じる。
「私からも、お願い。・・・・・・私は、私たちがアユムを傷つけていたことに気が付かなかった。・・・・・・これから、アユムを傷つけずに一緒にいられるのか分からない。だけど、私はアユムと一緒にいたい、アユムと一緒に戦いたい。だから、手伝ってほしい」
佐伯も俺に頭を下げてくる。こっちもまた不気味な感じだ。佐伯は自分の考えを表に出すことが少なく、いつも本を読んだりして俺たちの傍にいるマイペースな奴だが、そんな奴が自分の考えをハッキリと言ってくる辺りに戦慄を覚える。
「リサからもお願い。このままじゃ、リサたちは前に進めないの」
「私はアユム以外と一緒に強くなるなんて考えられない。私は、アユムとしか前に進みたくない」
前野姉と前野妹も揃って頭を下げてくる。俺は四人の頭頂部を見ていることになるが、こんなに頭を下げられたことなんてないぞ。それも前野妹たちときた。・・・・・・ラフォンさんのお願いで、ここまでされて断るわけにもいかない。
「分かった、前野妹たちに協力する。だが、一日様子を見てから今後続けるかどうかを考える。これで良いな?」
「うん! それよりも次のことを考えてくれるんだッ。それだけで嬉しいな」
前野妹が満面の笑みを浮かべてくるから調子が狂う。ハァ、とりあえず最初はこいつらと四対一の摸擬戦を行うところから始めるか。こいつらの実力を把握していないから、それを把握するところから始めないといけない。
そんなわけで、俺は今現在前野妹たちと修行をする羽目になっているわけだ。俺からしてみればラフォンさんより弱いし、これを続けても傷一つ付けられない自信があるから弱いと言って良いだろう。だが、やはり他と比べると強いと言って良い。俺がスキルを使わないといけないからな。
それでも本気ではないものの、これで魔王討伐と言われても鼻で笑うレベルだ。俺も前野妹たちも身体が温まってきたころだと思うから、もうそろそろで全力を出して良いころ合いか。さて、勇者としてどれほどのものかお手並み拝見と行こうか。
「もう本気で来ても良いぞ。俺の≪魔力武装≫みたいに固有スキルがあるんだろう?」
剣をぶつけあっていた前野妹にそう言った。神器の固有スキルを見てみたいとは思っていた。他の神器所有者で見たことがあるのは、リモージュ王国の姫さまの漆黒の双剣だけか。あの剣王というものは固有スキルで間違いないだろう。詳しくは知らないけれど。
「本当に良いの? 怪我しちゃうかもしれないよ?」
「それは今の俺に怪我をさせてから、言え!」
俺は前野妹をクラウ・ソラスで吹き飛ばし、無理やり距離を取らせた。こいつらの神器の固有スキルは全く聞いていないからどんなものか来るのか見当もつかない。だが、俺の≪魔力武装≫みたいにその武器に合ったスキルだろうから、驚くことはないだろう。
「どうなっても知らないからね! ≪神立極地≫!」
「上等だ」
前野妹が自身の固有スキルを叫ぶと、両脚の膝下から足にかけてジュワユーズと同じ色の深紅の鎧が出現した。俺の白銀の鎧と似ているが、前野妹の鎧は厚さはなく、動きやすそうな軽さになっている。元々前野妹の戦い方が素早さを軸にいているから、俺の鎧だと動きにくいか。そう思っているうちに、俺の視界から前野妹が消えた。
「ッ!」
「なるほど、速いな」
俺の背後に前野妹がおり、俺に斬りかかろうとしていたが、俺は前野妹の方を見ずにクラウ・ソラスで受け止めた。早いのは早いが、それでも見えないほどではない。それに俺には≪完全把握≫があるからどこにいるのかすぐに判断することができる。
「その脚の鎧は速さを上げるのか?」
「うんッ、そうだよッ!」
前野妹はその速さで先ほどとは比べ物にならないくらいに色々な方向から打ち込んでくる。だが俺はその速さをものともせずにすべて受け止めていく。これくらいならあり得ないくらいに拍子抜けだ。これくらいの速さで固有スキルと言って良いのか? それとも、まだ何か隠しているのかもしれない。
「お前らも固有スキルを発動させろ。じゃないと前野妹はすぐに負けるぞ?」
俺は前野妹の攻撃をさばきながら、三人に攻撃して来いと言う。だが、一向に発動させる気配がなかった。どういうことだ? やる気がないのか? やめるか? まぁ、さっきの意気込みを聞いてそんなわけがないか。
「あいつらの固有スキルは、この状況では発動させることができないのか、それとも意味がない能力なのか?」
「うん、そうだよ。今のアユム相手に、お姉ちゃんとマヤちゃんの固有スキルは意味がないから使わないんだよ」
「じゃあ佐伯は?」
「それなら今準備しているから大丈夫」
次々と打ち込んできている前野妹と話していると、佐伯の方から魔力の放出を感じた。前野妹に気を向けながらも、俺は佐伯の方を見た。佐伯が持っている緑の弓から深緑の光と共に佐伯の魔力が上がっていく。固有スキルが発動するのか。
「≪極大武装≫」
佐伯がそう言うと、緑の弓は変化していき、身の丈に合った弓が倍以上もある弓へと変化した。あの状態でも魔力を漏らしているから、さぞ魔力の消費が激しそうだ。佐伯は魔力のコントロールが上手くなさそうだな。
そんな中、佐伯は巨大な弓を地面へと突き刺して弓の玄を引いた。すると引いた玄から極大の弓に見合った極大の弓矢が出現した。相も変わらず魔力が絶えず放出しているが、佐伯の魔力量とあの調子から考えると、一発が限界だろう。
「≪神殺しの矢≫」
佐伯の弓矢が放たれると同時に前野妹は俺の傍から離れた。なるほど、これがこいつらの価値のパターンということか。これに加えて前野姉や三木、稲田が加わればそこそこのパーティーになるのか。何だか、微妙だな。
「≪一閃≫」
俺は迫りくる矢を、クラウ・ソラスを構えずに一閃で吹き飛ばした。そこそこ強い一手だとしても、俺相手であることや、使い手の技量を考えるとこうなることは予想できる。・・・・・・神器所有者ということだけあって、レベルは高いだろう。だが、これで魔王討伐はないな。
「まだまだぁ!」
「いや、ここまでだ。これ以上しても無駄だろう」
まだまだ追撃してこようとする前野妹に待ったをかけて俺はクラウ・ソラスを収めた。本当にこれ以上しても無駄だろう。このままでなくても俺が勝つ以外に勝敗を見出すことができない。ここからは話を聞くことにしよう。
次は早く出せるようにしたいです!