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107:騎士とお姫さま。⑩

ふぅ、ようやく第四章が完結しました! 長すぎだろ!

 俺はルネさまのお言葉に一瞬だけ止まってしまったが、すぐに我に返った。・・・・・・俺も、ルネさまのことは好きだし、愛している。それこそ、騎士の垣根を越えて守りたいと思うほどにだ。誰にも渡したくない、ルネさまのおそばには俺がいる。そんな傲慢を思うほどにだ。


 ・・・・・・ナイトメアロードの悪夢の中で、俺は一度ルネさまに告白しているんだ。これは喜ばしいことじゃないか。俺の告白にルネさまが答えてくれたということだ。何を動揺しているんだ。・・・・・・まぁ、そんなことは最初から分かっている。


 俺が複数の女性と関係を持つことについて、迷っている節があるのだろう。俺の本心は全員を誰にも渡したくないし、愛して愛されたい。それを心のどこかで倫理に反すると思っているのだろう。だから俺は踏み切れていない。好きなように生きて、好きなように複数の女性と愛し合って、それは彼女たちの幸せになるのかとも思ってしまう。


 俺はルネさまやフローラさまたちがお幸せになる道があるのなら、俺がルネさまたちと離れるとしても離れるつもりだ。それでも、俺がルネさまたちをお幸せにできるのなら、俺はその道に進みたい。・・・・・・ここで考えても答えが出るはずがない。今は、不安そうに俺の顔を見ておられるルネさまに聞くことが一番だろう。ここで言った方が、俺の考えを周りにお伝えできる。


「ルネさま、自分がナイトメアロードの悪夢の中で言った言葉に間違いはありません。ルネさまのことを愛しています、誰にも渡したくありません」

「・・・・・・敬語になってるよ?」


 俺がルネさまの目を真っすぐと見つめると、ルネさまは目をそらされて、そう仰られた。だけど、今は敬語でないといけない。俺の言葉をお伝えするためには、いつも通りじゃないとお伝えできない。だから俺はこのまま話を続ける。


「ですが、自分はどうしようもないくらいに傲慢です。ルネさまも、フローラさまも、ニコレットさんも、ブリジットも、他の誰にも渡したくありません。・・・・・・こんな我がままが許されるかどうかは分かりませんし、騎士としては許されないことだと思っています。ですが、自分は答えてくれたルネさまに正直に自分の気持ちをお伝えしなければならないと思い、こうしてお伝えしました」


 思い切ってルネさまにそうお伝えすると、ルネさまは一瞬だけ呆けた顔をなされた後に考えられている素振りをして俺の顔を見られた。・・・・・・何か俺の言い方に間違ったところがあったのだろうか。それならばもう一度お伝えしないといけない。


「・・・・・・アユムくんは、私のことを愛しているんだよね?」

「はい、愛しています」

「でも、アユムくんは多くの女性と関係を持つことが嫌ということ?」

「嫌、ということではありません。ただ、そうなった場合、ルネさまたちが幸せなのか、自分にはよくわかりませんし許されるかも分かりません」

「・・・・・・えっ? 今更そんなことを言っているの?」

「・・・・・・はい?」


 俺はルネさまの言葉に驚くしかなかった。もしかして俺はとんでもない勘違いをしているのか? 今更と言われても、俺はこのことを悩み続けていたのだが、それはルネさまやフローラさまにとってどうでもいい話なのか?


「私とか、フローラとか、ニコレットとかはアユムくんのことが好きだけど、誰もアユムくんを独り占めにして愛したいとか愛されたいとか思っていないよ? もちろん独り占めにはしたいと思うこともあるけど、みんながみんなでアユムくんと一緒にいることを望んでいるんだよ。これまでは、私たちは悪くないのに謂れもないことを言われて、心に深い傷を負わされていた。だけどこれからは、私たちが幸せになる番。誰にもこの幸せは邪魔させない、誰も私たちを不幸になんてさせない、誰もアユムくんとの愛を邪魔させない。だから、私たちはみんなで幸せになるの、アユムくんと一緒にね」


 ・・・・・・何だか、俺のいない間に話が纏まっていたようだ。一体、俺は何を悩んでいたのだろうか。フローラさまやルネさまたちが決めていたのなら、そう仰ってくれればいいものを。仰ってくれていれば、俺はこんなことで悩んでいなかったし、早く覚悟を決めていた。


「それにアユムくんが何と言おうとも、私たちが絶対に逃がさないから。アユムくんは私たちを恋に落としてくれたんだから、その責任を取ってもらうよ? アユムくんには私たちを幸せにする義務が発生したからね。・・・・・・覚悟はできてる?」


 俺がルネさまたちを幸せにできるのなら、義務でなかろうとお幸せにするつもりだ。仰られるまでもないことだ。それに、覚悟なら今決まった。フローラさまやルネさまなどをお幸せにするなど、俺には過ぎたことだが、それでもやるしかない。誰かと一緒に手をつないで笑っておられる姿など見た日には、嫉妬してしまうかもしれない。嫉妬するくらいなら俺が、ルネさまたちを幸せにして見せる。


 例え無理だと言われようとも、それが何だと言うんだ。無理なんて言葉を聞かされて、俺とは違う男と肩を並べるお姿を見させられるくらいなら、俺はその無理という言葉そのものを破壊して見せよう。そうだ、俺はようやく我がままを言えるんだ。これくらいは大目に見てくれるよな。


「覚悟はできています。元よりこの命は騎士になった瞬間からシャロン家に預けています。ルネさまやフローラさまを幸せにできないで、騎士などやっていられません」

「うん、やり直し」


 俺が意を決してお伝えした言葉を、ルネさまは笑顔でやり直しと仰られた。えっ、どういうことだか全く分からない。またどこかで間違えたのだろうか。かなり良く言えていたと思うのだが、・・・・・・これではダメだったか。


「覚悟はできています。この身はすでに自分のものではなく、フローラさまやルネさま、シャロン家のものです。どれだけの困難があろうとも、お守りして幸せにして見せます」

「うん、やり直し。さっきと変わってないよね?」


 またルネさまは笑顔でやり直しと仰られた。・・・・・・何がいけないのだろうか。ルネさまの求めている言葉は何だ? それが理解できないとループから抜け出せないぞ。


「私がどうしてやり直しって言っているのが、本当に分からないの?」


 俺が険しい顔をして悩んでいるとルネさまが笑顔ではなくなり呆れた顔をなされている。ふぅ、どうやら俺はここまでのようだ。こんなことも分からないようじゃ、私たちを幸せにするなんてできないね? とかルネさまに言われそうだ。そうなれば俺はおしまいだ。


「もう、そんな真剣に考えなくていいんだよ。私は、騎士としてのアユム・テンリュウジの言葉ではなくて、ただの人間としてのアユム・テンリュウジの本音が聞きたいの。私たちも幸せにしてもらうけれど、アユムくんも幸せにならないと意味がないでしょう? だから、本当のアユムくんの言葉を教えて? 騎士としてとかではなくて、ただ真っすぐに思いを伝えてきて?」


 ・・・・・・あぁ、そういうことか。俺は騎士としてルネさまたちを幸せにしようとしていたが、ルネさまはただのアユム・テンリュウジを愛そうとしておられるのか。それはやり直しを受けるわけだ。なら俺が言うことは決まっている。


「ルネを、俺が絶対に幸せにする。だから、俺と一緒に人生を歩んでくれ」

「うん、良いよ。ずっと一緒にいようね」


 ルネさまは満面の笑みで俺に答えてくださった。だが待て。よくよく考えてみれば、俺が言った言葉はプロポーズではないだろうか。お付き合いをすっ飛ばして結婚まで行こうってか。でも、俺はルネさまたちが幸せならそれでいい。それだけで俺は幸せになるし、十分だ。俺には勿体ないくらいだ。


「そ、それじゃあ、・・・・・・ち、誓いの、キスを、してくれない?」

「キス、ですか? ここでですか?」


 そわそわとされているルネさまが、顔を真っ赤にされてキスを要求された。・・・・・・本当にここでキスをしろと仰られるのか? こんな丸見えな場所で? いや、別に見られて恥ずかしくないから構わないが、それでもキスされるところを見られるのは抵抗がある。


「だ、ダメかな?」

「いえ、そんなことはありません。キス、しましょうか」


 ルネさまが悲しそうな顔をされたから、俺はキスすることを即答した。恥ずかしくないのなら、キスしても良いだろう。ルネさまにおねだりされたら断ることなんてできない。


「ん」


 俺の方に少しお顔を上げられて目をつぶられたルネさま。俺はルネさまに一歩近づいてキスができる距離にした。そして、俺も目と閉じてルネさまの唇と自身の唇を重ね合わせた。何とも柔らかい感触が唇に当たっており、フローラさまとはまた違った柔らかさだ。


 数秒唇を重ね合わせた後、俺は自身の唇をゆっくりとルネさまの唇から離した。するとルネさまは目を開いてどこか期待するような視線を送ってこられたが、さすがに二度目はここではなく家でさせてください。ルネさまが外でやられることを望まれるのなら、仕方ないが。


「誓いのキス、満足いただけましたか?」

「うん、満足したよ。ちゃんと、誓いを守ってね」

「当たり前です。誓いをする前から、自分はルネさまをお守りすることを、アユム・テンリュウジとして決めていますから」

「ありがとうっ、アユムくん!」


 ルネさまは俺に抱き着いてこられた。俺もルネさまを受け止めてお互いに身体を抱きしめている。これで、ルネさまとの仲は万事解決したってことで良いんだよな。あぁ、良かった。ルネさまと離れることなく過ごすことができる。・・・・・・それで、もう彼女らも抑えられない頃だと思うし、声をおかけした方が良いのだろうか。


 声をおかけしない場合は、どちらにしてもこちらに来られるであろうから、俺には選択肢はない。タイミングを見計らっておられるようであるから、こちらから声をおかけするか。


「フローラさま、ニコレットさん、ブリジット、サラさん。いるのは分かっています。もうこちらは解決しましたので、出てきたらどうですか?」

「さすがはアユムね。私たちのことを分かっていたなんて」


 少し離れた背の高いお花の陰から、フローラさまは勢いよく立ち上がられて嬉しそうな顔をされていた。それに続いてニコレットさんとブリジット、サラさんが立ち上がった。しかし、サラさんはどうしてか死んだ目をしているのはどうしてだろうか。ていうか、絶対に俺に気が付かれると分かっておられたのに、隠れておられたな。・・・・・・まぁ、一緒におられたら、こんなキスやプロポーズはできなかっただろう。


「一応聞いておくけれど、いつから私たちが付いていたことを気づいていたのかしら?」

「最初からですよ。ルネさまが自分との待ち合わせ場所に来られた時から、一緒にいることは気が付いていました」

「そうよ、その時から付いて行っていたわ。それよりも、どうだった? ルネお姉さまの唇の感触は」

「・・・・・・かなり、最高でした」

「・・・・・・うぅ、恥ずかしいよぉ」


 フローラさまから普通な感じで聞かれたが、その質問は普通な感じで聞くものではないと思う。だから俺は少しだけ溜めて本当のことを言った。抱きしめているルネさまからは、恥じらいの言葉を頂いた。これが普通なのだろう。


「ふぅん、じゃあ私とルネお姉さまの唇、どちらの感触が良かった?」


 少し機嫌を悪くされたフローラさまから、意地悪な質問をされた。うん、どちらが良いと言ってもどちらの機嫌を損ねるし、どちらも良いと言っても納得されないし、他の名前を出せばそれこそダメだ。この状況はどうしようもないだろう。


「冗談よ。こんな意地悪な質問をしてごめんなさいね。でも、それを言えば私の機嫌を損ねるくらいのことは分かってくれないと、あなたを刺しちゃうかもしれないわよ?」

「肝に銘じておきます!」


 冗談だと仰る割には、目が笑っていない笑顔は冗談で済まされない。フローラさまのことだから、本当に刺されちゃうかもしれない。それは最悪の事態で、そうなっていれば俺も覚悟しないといけない。俺はどれだけ覚悟すればいいんだよ。結婚ってそういうものなのか?


「私とルネお姉さま、ニコレットもかしら。この三人はアユムにお嫁さんとしてもらわれることは決まっているけれど、ブリジットとサラはどうする気なの? アユム」


 ブリジットとサラさん? どうすると言われても、本人たちにその気がなければ俺は束縛しない。まぁ、二人の中ではブリジットとは一緒にいたいと思う。もちろんサラさんとも一緒にいたいと、思うのか? 想像しろ、サラさんが他の男と並んで歩いていたり、キスしたり、抱き着いていたりしていたら、どう思う?


 考えるまでもない、嫌だな。サラさんとはフローラさまたちとは違いそこまで長い付き合いではないけれど、それでもサラさんとは友好な関係を築けている。・・・・・・うん? それなら別にサラさんが誰と付き合っても良いんじゃないのか? それなのに嫌なのか? 俺は知り合ったすべての女性を取られたくないとでも言っているのか? どこの稲田だよ。


「わ、私は別に、アユムのそばにいれるのならお嫁さんにしてもらわなくとも・・・・・・」


 いつもの無表情のブリジットはどこに行ったのやら、顔を俯かせて俺の方を上目遣いで見てくる。くそ、可愛いな。しかもそばにいれるだけで良いとか、大和撫子かよ。


「ブリジットさんは良いよね。私なんか、アユムさんとルネさんの会話の中で、名前すら出てこなかったんですから、私のことなんか眼中にないんですよ」

「さ、サラさん?」


 花の陰から出てきた時からサラさんが死んだ目になっているが、今はもっと死んだ目になって腐って落ちるんじゃないのか? いや、それよりも、サラさんの名前を出していなかったっけ? 本人が言っているのだからそうなのだろう。決してサラさんのことを何とも思っていないわけではない。


「あぁ、そう言えばあの勇者たちもいたわね。あの女勇者たちはどうするのよ?」

「あ、それはないですね。あんな奴らをお嫁に貰うとか、フローラさまたちで間に合っているので」


 フローラさまが前野妹たちのことを仰られたが、冗談もほどほどにしてほしい。あいつらを嫁に貰うなど死んでもごめんだ。そもそもあいつらには稲田がいるだろう。それだけでもう十分足りているだろう?


「私もきっと、いらないんですよ。どうせ没落貴族の自分なんかに価値なんてありませんし、差し出せるものとすれば私自身ですが、それでも他の女性には劣ってしまっています。それを自分が選ばれると思っていたことがおこがましいと思いますよ、えぇ。私をお嫁に貰えば、あのドブネズミのような男と縁を結ばなければならないことになります。それは嫌ですよ。私だってあんな男を父親と思いたくないのですから。こんなの私に勝ち目はないじゃないですか」

「さ、サラさん? だ、大丈夫ですか?」


 サラさんは目を大きく見開いて焦点を合っていない目をしながら、独り言を呟いている。独り言の範疇を超えているが、サラさんが闇を抱えているのは確かだ。今回に限っては、俺が悪い。サラさんのことを忘れたつもりはないが、サラさんの名前を出していなかったことが原因だ。そもそも俺はサラさんお彼氏役なのだから、俺の意識が足りなかった。よし、すぐに謝ろう。


「あの、サラさん。自分は――」

「もう、何も聞きたくありません!」


 そう言ったサラさんはどこかへと走っていく。俺は謝るために追いかける。正直この光景はデジャヴだぞ。また俺はやってしまったし、追いかけないといけないのかよ。本当に勘弁してくれ。

第四章が長かったせいで、第五章で何を書こうか悩みます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アユムとルネさまの距離も近くなったことと、 アユムとシャロン家ヒロインたちがうまくまとまった感じで 最後は、ほっこりしながら第4章を読み終えた感じです。 でも、サラさんだけどこかへ走って行…
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