106:騎士とお姫さま。⑨
本当は二日前に出そうと思ったのですが、思ったより文章が増えてしまいました。
数多の巨大モンスターの襲撃から始まり、敵陣への襲撃と超巨大モンスターの侵攻が終わって早一週間が経過した。一週間経過するのが早く感じた。それは俺が色々と仕事をしていたことが原因だろう。本当に一日中倒れていた人間にさせる仕事量じゃなかった。
そう、倒れたのだ。ステファニー殿下から国の事情を聴いて、フローラさまの元へと戻った瞬間に俺の記憶はそこで途切れた。後からフローラさまに事情をお聞きしたところ、俺は前のめりになりながら倒れ、フローラさまに支えられて顔面を強打することはなかったものの、周りはフローラさまを含めてひどい動揺が走ったようだ。
だけど、俺がただ気を失っているということが分かり一安心されたらしい。眠れないと思っていたが、まさか気を失うとは思ってもみなかった。そこから俺は丸一日眠っていたようで、その間周りの人たちに心配をかけてしまっていたようだ。それを聞いて俺は周りの人に心配をかけたことを謝罪して回った。前野妹たちも心配していたようだが、あいつらに関して言えば何も言うことはない。
俺が目覚めた時に一番最初に感じたことは、内から湧き上がってくる力が消えていたことだ。まぁ、目覚めても力が湧き上がっているようだったら、止める方法を考えないといけないところだったが、力が止まってくれて良かった。それに黒に混じっていた銀髪が、すっかりと黒に戻っていたから、これも安心した。
他に俺の身体に異常はなかったが、そこからが色々とさせられてしまった。もう一日くらいゆっくりとさせてくれと思ったが、今は無理をしてでも国民たちの前に姿を現して、国民たちに安心してもらわないといけないとのことだった。俺は国のために働く気なんてなかったのに。あれは言わされたことだったのに、なんて思いながらも、フローラさまからお願いされたからにはやらないわけにはいかない。
まずはフローラさまとステファニー殿下を俺が引き連れる形で国中を歩き回って国民に俺の元気な姿を見せて安心してもらった。国民は俺のことをよく知っているようで、俺が通っただけで俺は注目の的であった。騎士王決定戦があったから、俺のことをよく知っているのだろう。その前に、俺がフローラさまを引き連れるということが初めてだし、立場が逆だろうと思ったが、今は俺が主役だから俺が前と無理やり前を歩かされてしまった。
そして国中を歩き回った後、王都を支えることを立ち上がったギルドや冒険者パーティーに挨拶して回った。国の兵士たちがいなくなった今、戦力となるのは冒険者くらいしかいなくなったから、ありがたいことだ。俺がすべてをやるとなれば、俺がこの国の騎士となってしまう。何度も言うようだが、俺はシャロン家の騎士だ。
それから、俺は巨大モンスターたちによって破壊された建物を片づけを手伝わされた。これこそどうして俺がと思ったが、これも俺の印象をよくするためだとか。俺は一部の人から騎士王決定戦で良くない印象を持たれているから、それを少しでも払拭するために俺は手伝わされた。
幸いにも崩壊した建物を片付ける作業が多かったから、力作業で簡単にすることができたが、これは完全に俺を国が篭絡しようとしているだろう。そして、それをフローラさまが嬉々としてしていることに驚愕してしまった。・・・・・・よく考えれば、俺の地位が上がれば俺が仕えているシャロン家の名もあがるからなのだろうか。
そんなことで、挨拶やら片付けやらでこの一週間が早く過ぎていった。一週間経って、ようやく俺は休息を得られた。一週間前は戦い続きだったのに、この一週間で一層疲れが蓄積された。さすがの俺でも休息を要求するレベルだ。そんなことは言わなくてもフローラさまやバカ王女がご理解していただいて何よりだ。
そんな俺であるが、今は城があった場所の前で立っていた。今日一日だらだらとしていようと思ったのだが、今日の朝にあるお方から突然のデートのお誘いがあった。俺としては断る理由がなかったから、即答してここで待ち合わせとなった。今の俺は執事服ではなく私服を着ている。それがあるお方、というかルネさまのご要望だったからな。
「アユムくん!」
俺が空を見上げて待っていると、少し遠くから見たことがあるワンピースを着ておられるルネさまが俺に手を上げて俺の名前を呼びながら走ってこられるのが見えたから、俺もルネさまに手を振り返してルネさまが来るのを待った。
「ごめんね、待たせちゃったかな?」
「いえ、待っていませんから大丈夫です」
息を少し切らして俺に謝ってこられたルネさまは、息を整えられて俺の方を向かれた。そう言えば、デートのお誘いであったが、どこに行くとか言われてないな。お出かけしよう? とルネさまが仰られたから、すぐに返事をして内容を聞いていなかった。
「ルネさま、今日はどちらに向かわれるのですか?」
「今日はアユムくんも行ったことがある場所だけど、その前に、このお出かけ中は私に対して敬語は禁止だからね。敬語で話しかけても答えないから」
「・・・・・・また、ですか? この前したお出かけの続きですか?」
敬語なしについてルネさまにそう質問したが、ルネさまは俺から顔を背けて答えない姿勢を取られた。なるほど、今から敬語なしルールは始まっているのか。それなら仕方がない、前やった通りにやるしかないか。やったことがあるのだからできるに決まっている。
「またです・・・・・・、またか?」
そんなことはない。一回間違えたし、違和感ありまくり。あれから時間が経っているし、敬語で慣れているから違和感しかない。こんな状態で敬語なしを完遂することはできるのだろうか。
「うん、まただよ。今回は前回のやり直しをしようと思って、アユムくんを誘ったの」
「前回の? それならニコレットさんはいないので・・・・・・、いないのか?」
「うん、今回は私とアユムくんの二人きりで、お出かけをするんだよ」
前回と同じならニコレットさんもいると思ったが、それは違ったようだ。それにしても、ルネさまの態度が前回とは全く違うな。前回は動揺されているようだったが、今回は全くそれが感じられない。いつも通りのルネさまと言っても良いだろう。二回目だからそんなに緊張されていないのだろう。
「それじゃあ、早速行こうか」
「・・・・・・あぁ、分かった」
敬語を口にしようとしたが、何とか抑えて敬語なしで話すことができた。そしてルネさまが歩き出されたから、俺は遅れないようにルネさまの横について歩き出す。俺は少しためらったが、前回と同じようにルネさまの手をそれとなく取った。ルネさまは驚かれたようだが、俺の手を握り返された。ここで拒否されていたらどうしようと思った。
今回が前回と同じなら、お花畑に行くことになるのだろうが、お花畑は無事なのだろうか。街外れにあるとは言え、この国に巨大モンスターが暴れたのだから無事である可能性はないと思った。
だけど、ルネさまが向かっているということは無事だったのだろうか。あの場所は本当に美しい場所だったから、無事であるなら何よりだ。それに、前回は最後までルネさまと楽しめなかったから今回の機会があって良かった。俺からお誘いすればよかった。
「ねぇ、アユムくん」
「何だ、ルネ?」
俺が普通な感じでそう言うと、ルネさまが一瞬だけ固まってしまったが、すぐに元通りになって話を続けられた。本当に今回のルネさまは前回とは大違いだな。何があったのだろうか。
「今日はごめんね。アユムくんは疲れているはずなのに、こんなことにつき合わせちゃって」
「別に、構わない。これくらいでは大して疲れているとは言えないし、ルネが誘ってくれたんだから断るわけがない」
「そ、そう? そう言ってもらえると嬉しいな」
「それよりも、どうして今日は前回の続きをしようとしたんだ? 誘ってくれたことは嬉しいが、そこだけが疑問に感じる」
本当にどうして誘ってこられたのかが分からない。前回の続きをするにしては唐突で、突拍子もないことのように感じる。ルネさまが少し前から思っておられたことなら、それはそれで解決するのだが、仕切り直しの部分の謎を知りたいと思った。
「そこまで深くは考えていなかったんだよ? でも、前回はバカな私が逃げ出したせいでアユムくんにいい思い出を残せなかったから、その償いを兼ねて、やり直しをしようと思ったんだ」
そのようなことを気にされていたのか。ルネさまが逃げ出されたのは、俺の至らない点があったから、気にされなくていいのに。そんなことを言うと、絶対にお互いにお互いのせいにするから言わないようにしよう。・・・・・・そう言えば、前回はただのお出かけだったのだろうか。
前回のお出かけは何か目的があってお出かけをしたのではなかったのだろうか。前の日に何かコソコソと話していたのを聞いていたからそう思ったのだが。・・・・・・これは、聞いても良いのか、聞かない方が良いのか分からないが、聞いておかないとモヤモヤし続けるのは確かだ。これでただのお出かけだけなら恥ずかしいな。
「ルネ。何かこのお出かけに目的があるのか?」
俺がルネさまにそうお聞きすると、ルネさまは肩をビックとさせて止まられた。どうしたのかと思ってルネさまの方を見ると、ルネさまは顔を真っ赤にしておられた。えっ? 何かまずいことでも聞いたのか? どこで顔を赤くする要素があるのだろうか。
「る、ルネ? 何かまずいことでも聞いたか?」
「えっ⁉ う、ううん、何もまずいことは聞かれていないよ! うん、大丈夫!」
俺がお聞きした途端に、ルネさまが動揺され始めた。さっきまでのいつも通りはどこにやら、目を泳がせて顔を赤くされている姿は前回のルネさまの姿と重なる。これを聞いたことが間違いだったのかもしれない。こうなると分かっていればお聞きしなかった。
「目的が何もなくて、ただのお出かけならそれはそれで良いんだ。変なことを聞いて悪かった」
この話題はルネさまが聞かれたくないものだと判断して、早々にこの話題を切り上げて歩き出そうとするが、しかし、ルネさまは歩き始めようとされなかった。どうしたのかと思ってルネさまの方を見ると、ルネさまと目が合った。その目はさっきの動揺した目ではなく、何かを決意した目であった。
「ううん、アユムくんの言う通りだよ。私はお出かけをアユムくんとして、前回できなかった目的を果たすために、今回も前回と同じようにすることにしたの。・・・・・・でも、目的についてはもう少し待っててくれないかな? 絶対に今日で目的を果たすけど、まだ、心の準備がいるから」
「あぁ、待っておく。何なら今日じゃなくても良いぞ?」
「いや、今日絶対に話すよ。だから、それまで私とのお出かけを楽しんでて」
「ルネがそう言うなら、楽しむことだけを考えることにする」
俺がこの話題を出すのは良くないことだったな。今はルネさまとのお出かけなのだから、それを楽しまないことにはダメだろう。ルネさまに失礼だ。だから、今はこの瞬間を楽しもう。
俺とルネさまは、硬く手を握ってお花畑に向けて歩き始めた。歩いている間、俺とルネさまの間に会話はなかったが、ルネさまの手から暖かさが伝わってきたり、ルネさまが俺の方に肩がぶつかるくらいに近づいてこられて俺と密着したりと、幸せに包まれている感じがする。前の世界では考えられないくらいのリア充をしている気がする。
建物を元に戻すために人がせわしなく働いている街から離れ、お花畑に続く道中には人が全くいなくなっている。お花畑に続く道も荒らされている。こんな状況にお花畑に行こうとする人は、俺とルネさましかいないか。人がいないということは、俺とルネさまの貸し切りみたいで良い感じだ。
そして、前回と同じように花の香りが近くでなくても漂ってきた。お花畑に近づいていくと、腰くらいまである柵が見えてきたが、まるでこのお花畑だけが守られているようであった。柵の外側は荒らされているにもかかわらず、柵の内側は少しも荒らされていない。・・・・・・何か不思議な力に守られているのだろうか。
俺とルネさまで柵がないところを通ってお花畑に入ると、そこには前回と同じく、綺麗で美しい光景が広がっていた。二回目でも、この光景が幻想郷のように感じてしまうほどに、現実とはかけ離れていると思ってしまう。
「前回見た時と変わらないね。本当に綺麗な場所」
「そうだな、心が落ち着く。ここだけ何かに守られているのかもしれないな」
まぁ、そんな力は感じられないから、ただ運が良かっただけなのだろう。それにしても運が良すぎるだろう。お花畑の周りは荒らされているのだから、何者かが守ったと言ってくれた方が納得してしまう節がある。一体このお花畑はどうなっているんだろうか。
「アユムくん。私ね、ここに来た理由は前回のやり直しということもあるんだけど、ある話を聞いて別の理由ができたんだ」
「別の理由?」
二度目だが何度見ても飽きが来ないだろうと思いながら花を見ていると、ルネさまが歩きながら俺に話を切り出された。別の理由と言われても、俺には全く想像がつかない。実はこんな美しいお花を育てようと思っているんだ、くらいしかここに来て言う言葉が思いつかない。何だろうか。
「この場所は現国王の亡くなられた奥さまがお作りになられた、って言ったよね?」
「前回聞いたな。それがどうしたんだ?」
「このお花畑には、王妃さまの願いが込められているらしいの。前はこのお花畑のことをそれほど知らなかったんだけど、ステファニー殿下から聞いたんだ」
へぇ、あのバカ王女から。それにしても、このお花畑に王妃さまの願いが込められているのか? そんなこと考えもしなかったから言われても何も浮かんでこない。どんな願いを込めたのだろうか。
「王妃さまがこのお花畑に込めた願い。それは人々が平和で暮らしていけて、愛する人たちと一緒に過ごすことができる世界であるようにと願いを込められたらしいよ」
まぁ、何だか普通な願いが込められているな。願いと言うくらいだから想像できないものが来るかと思ったが、俺が考えすぎただけか。王妃さまらしい願いだと思う。だけどそれがどう別の理由と繋がることになるんだ?
「これだけ聞くと普通の願いだと思うでしょ? でもね、私がこの話に惹かれ始めたのはここから先なんだ」
「先? 願いに先なんかあるのか?」
「うん。でも先と言っても、このお花畑が作られた経緯だから前と言った方が良いのかなぁ。この話は一部の人しか知らないから、ここだけの秘密だよ?」
「分かった」
ルネさまが人差し指を口の前で立てられて可愛く内緒だという仕草をされた。うん、可愛い。すごく可愛い。だがルネさま、俺に話す相手はいませんよ。いるとすればフローラさまやブリジットたちくらいですよ。話すようなことはないのでご心配なく。
「王妃さまがこのお花畑をお作りになられたのは、元ユルティス大公との不貞で現国王さまを裏切った後らしいの」
・・・・・・それは、変だな。不貞をしておいてこんな美しいお花畑を作るとか、普通の人なら作ることができないぞ。それに、願いとも微妙なズレがあるだろう。平和で暮らすことや愛する人たちと一緒に過ごすことを自ら反しているのだから、これを作った意味が分からない。後者の場合、ユルティスと一緒になりたいという願いを込めたのなら、分からなくもないが、それは現国王はどうでもいいと言っているようなものだ。
「これだけ聞いたら、何か王妃さまって変な人だなって思ったよね?」
「あぁ、思った。不貞を働いた人間のすることではない」
「私も最初はそう思った。だけど、その不貞がご自身の意思に反する行動であれば、どう思う?」
・・・・・・あぁ、なるほど。そういうことか。そう考えれば別に筋は通っているし、俺が知っているユルティスがそういうことをすると納得できる。つまりこの場所は王妃の罪滅ぼしの場所なのか。
「その顔だと、アユムくんは分かったようだね。そう、王妃さまは何かしらの方法でご自身の意思を制御され、ご自身の意思とは関係なく元ユルティス大公と関係を持ってしまった。すべて覚えていた王妃さまはご自身がしたことを、意思とは関係なくしたこととは言え、現国王さまを裏切ったことには変わりないからすべての罪を打ち明けようとした。だけど、その時は戦争中で無駄な争いを生み出して戦争に支障をきたすといけないから、その時は打ち明けられなかった」
戦争か。関係のないことだが、いつの話なのだろうか。国同士では仲が良いわけではないから、戦争している時と言われても不思議ではないか。魔王がいると言うのに、人間は本当に訳の分からないことをするものだ。俺も人間だけど。
「そこで王妃さまがお考えになられたことが、ご自身のこれまでのすべてを注ぎ込んで、国が将来どうあってほしいかを示したこのお花畑なんだって。王妃さまは、このお花畑を一年かけてお一人でお作りになったらしいよ」
一年でこれを一人で作ったのか⁉ それは、すごいな。この広さのお花畑を一年で作り上げるとは、どれほどの労力をかけたのだろうか。それだけ、このお花畑にかけた思いが強かったのだろうか。それだけ、自分がしたことが許せなかったのだろうか。
「このお花畑には、さっき言った二つの願いが主に込められているんだけど、このお花畑の構造や花の位置の一つ一つに意味があるんだって。あっ、この花なんか分かりやすいよね」
ルネさまがとある花を見つけられてその花を指さされた。その花は前回見たことのある赤、緑、青、橙、白銀の五色の虹色の花だった。この花に意味があるのか?
「この花はアユムくんや他の勇者の色を体現して、勇者が一緒に戦うことを表しているんだよ。このお花畑の外側には五角形になるように赤、緑、青、橙、白銀のそれぞれの花が植えられていて、勇者がこの国の人々を守るという願いもあるんだよ」
おぉ、俺が前回予想した勇者の色は当たっていたのか。残念なことに、俺がその願いに沿ったことをしてしまっている。前回では考えられないことだ。俺がこの国の人々を守るなんて、思ってもみなかった。
「他にも、国を支えるための兵士を体現したお花とか、国王さまを陰からお守りするロード・パラディンのお花があるみたいだね」
今となっては国の兵士は国を裏切っていなくなったのだから、この花の願いは届かない。それにしても、どうやったらユルティスは大勢の兵士たちを篭絡することができたのだろうか。そんなにも国に不満がある兵士が多かったのか。もしかしたら、王妃のように何かしらの形で操られているのかもしれない。
「王妃さまはこれをお作りになられる際に、愛する人たちと一緒に過ごすことを願いとして込めたけど、それはご自身が願うことすら許されないことだと自覚されながらも、どうしてもその願いを込めたくて国王さまを見立てた花の陰に隠れてひっそりと咲くお花を植えたんだって」
願うことが許されなくても、その願いは込めたかった、か。王妃のことを知るわけがないが、どうやら真っすぐな人だったのだろう。だからこそ、ユルティスの悪行が目立ってしまう。
「このお花畑をお作りになられた王妃さまは、戦争が終わったと同時に、国王さまに自身がなされたことをすべて洗いざらいお話しされた。それを聞かれた国王さまは、王妃さまの性格を知っておられたから元ユルティス大公に話を聞かれたの。だけど、あろうことか自分は王妃さまから誘われた、断れば殺すと脅されていたなど、嘘だと分かり切ったことを並べたみたい」
「本当に姑息な真似が好きな男だな」
「うん、そうだね。それで、兵士たちから王妃さまが誘ったという証拠が次から次へと出てきて、王妃さまが悪いという結論が出されそうだった」
当時の兵士が、すでにユルティスの手に落ちていたのだろうか。・・・・・・あいつはどれだけの人間を不幸にすれば気が済むのだろうか。あいつはやはり城で会った時に消しておくべきだった。
「最後まで国王さまや王妃さまを知る人たちは王妃さまの無実を信じていたけど、王妃さまが国が分裂するくらいなら、ご自身がすべての罪を引き受けると仰り、王妃さまの死刑が確定された。この話は、王妃さまが投獄されている間に幼かったステファニー殿下がご本人からお聞きになったことで、一字一句間違えずに覚えているそうだよ。すごいよね」
母親の言葉なのだから、それは忘れるわけがないだろう。・・・・・・それにしても、バカ王女がどうしてあんな性格なのか、想像がついた気がする。母親は叔父に殺されて城にいる兵士からも見捨てられた。そんな状況で育ったのなら、あの面倒な性格になったのも納得がいく。
「最後に、王妃さまはステファニー殿下にこう仰られたそうなの。『相手を傷つけたくないから、相手を愛さないことは決してしてはいけないことよ。人は相手を愛することで初めて人を理解することができる。何も始めないことの方がよっぽど恥ずかしいことなの。だから、私のことがあっても、あなたをずっと愛してくれる人を見つけなさい。あなたがその人を愛していて、相手があなたのことを見向きもしないのなら、まず行動を起こしなさい。待っているだけでは何も始まらないわ』って言われたそうだよ」
よくもルネさまもこんな長い言葉を覚えていられるな。俺はこの手の話はあまり得意ではないから言われても覚えておく自信がない。っと、そんなことを思っているとルネさまが俺の方を向いて真っすぐと俺の目を見られた。だから俺もルネさまと目を合わせる。
「だから、私はまず始めて見ようと思うの。最初の一歩を踏み出すこともできないようじゃ、これから先何もできないんだからね。・・・・・・アユムくん、好きだよ、愛してる」
ルネさまの言葉と色気がある表情に、俺は心臓を鷲掴みにされたと思ってしまった。
あと一話で終わる予定です。