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103:騎士と侵攻。⑤

また、遅れてしまった。

 超巨大モンスターを倒してフローラさまたちをお守りすべく、俺はアンジェ王国の外へと出ていた。その身には白銀の鎧を纏っており、戦闘準備は整っている。フローラさまたちはラフォンさんとグロヴレさんの結界の中にいるから、一応は安心だ。そればかりはラフォンさんたちに任せるしかない。


 戦っている最中に、たぶん俺はフローラさまたちに気を割けない。だからこそ、この戦いは俺一人ではリスクがありすぎる。この戦いに乗じてフローラさまたちが傷つけられないようにしないといけない。もし国の中でそんなことをする奴がいるのなら、俺はそいつを殺さないといけないな。


 とりあえず、最初はこの白銀の鎧で様子を見るところから始めるか。一対一だと勝てるが、実際のところ戦ってみないことには何も分からない。こんなに大きいモンスターは初めて相手をするから、要領がつかみにくいだろうが、問題ないか。


『やぁ、アユム・テンリュウジくん。僕の元に来ることにしたのかな?』

「バカを言うな。俺がそんなことをするように見えるのか?」


 空からボサボサ頭の男の声が聞こえてきた。先ほどみたいに姿がないから声だけか。こいつは俺に話しかけてくるくらいだから暇なのだろうか。いや、暇と言うよりかは余裕と言った方が良いのだろうか。随分と俺を下に見てくれる。足元をすくってやろう。


『この戦力差を見ても、君がそう思っているとは思わなかったんだよ。あの時のテラペウテースとは訳が違うよ。ここでこれらに勝てる生物はどこにもいないと自負している』


 テラペウテースと言えば、神と同等の力を持っていたというあの女性たちか。あれは俺が簡単に倒せただろうが。それなのにそいつらと比べられても分からないし困る。超巨大モンスターとテラペウテースを比べたら、テラペウテースの方が強いだろうな。


「俺の実力を、お前が知っているとでも言うのか?」

『僕は研究者だからね、研究対象のことを知り尽くさないと気が済まない質だ。これまでの君の戦闘情報や魔力、神器の波長など、君のすべてを調べ尽くした。神器の波長を調べる過程で、神器所有者を無効化する力を発見してしまったことは予想外であったけど、ここまで役に立つとは思わなかったよ』


 まさか、神器無効化の力は俺を知る過程で発見したのか。他の勇者たちやサンダさんはそのとばっちりを受けてしまったと言うわけか。勇者たちはどうでも良いが、他の神器所有者には悪いことをした。まぁ、それは俺が強いからだから、仕方がない。


「それで俺のすべてを知ったつもりか?」

『知ったつもりだよ。君の実力は確かに脅威的なものだ。その余りある魔力で生成される白銀の鎧や強力なスキル、どんな状況でも順応してしまう力、どれも純粋に強力だからこそ脅威的だ。だが、僕はそれらを遥かに上回るモンスターを作り出した。本当なら人型に収めておきたかったのだが、それを作り出すには時間が足りなかった。それでも、これらのモンスターが君を上回っていることに変わりはない』

「その自信、大したものだ」


 こいつの言う通り、これらのモンスターを倒すとなればかなり苦戦は強いられるだろう。それに、俺には守るべき人たちがいる。いざとなれば、彼女らに危害が加わるかもしれない。そう考えれば、俺に勝ち目はないのかもしれない。だが、こいつは一つ考慮していないことがある。


「お前がどれほどの戦力を用意しようとも、俺はこの戦いに負けるつもりはない。なぜなら、俺が背負っているのは俺の命よりも大切な人たちなのだから。・・・・・・今こそ、主を守るために命を賭ける、騎士の真の力を発揮しよう」


 騎士の覚悟、それはこの命を尽きたとしても敵を倒すという強い気持ちを持った覚悟なのだ。まぁ、そんなことを俺が勝手に名付けているだけだが、今もその覚悟のおかげで身体の奥底から力が湧いてくるのが分かる。フローラさまを、ルネさまを、ニコレットさんを、ブリジットを、サラさんを、そしてステファニー殿下をお守りするために、俺はこの場に立っている。これに力が湧かないはずがない。


 どれだけ敵を倒すためだけに特化していようとも、一人では孤独が支配するだけ。誰かを守る力を手に入れれば、無限に力を与えてくれる。誰かを守るという純粋な思いは、力をより純粋にしてくれる。今も白銀の鎧は黒い模様が一つもなく、白銀が一層引き立っている。今なら何となく銀髪の女性が教えてくれた力を上手く引き出せそうだ。


『そうか、ならその騎士の真の力というものを見せてもらおうか。せいぜい僕を楽しませておくれよ?』


 そう言ったボサボサ頭の男の気配が消えた。そして次の瞬間、停止していた超巨大モンスターたちが動き始めた。お前を楽しませるために、俺は戦っているわけじゃないんだよ。まぁ、今は良いか。こいつの度肝を抜きたいという気持ちは少しくらいならある。


 俺は≪剛力無双≫と≪神速無双≫、≪強靭無双≫を限界まで引き出して一体の超巨大モンスターの元へと走り始めた。アンジェ王国を囲んで、さらに距離も離れているからすべてを倒すとなると移動にも少し時間がかかる。時間がかかると言っても、一分くらいの誤差だから問題ないと思うが、時間が進むにつれてアンジェ王国の危険は上がってくる。


 それでも俺のやることは変わらない。フローラさまたちをお守りするために、超巨大モンスターをすべて殺し尽くす。ただそれだけだ。それだけを今考えておけば、他はいらない。こいつらの他に別のモンスターがいるのではないかとか、何も考える必要はない。


「ただ、殺す」


 たてがみが青い炎になっている馬の超巨大モンスターの元にすぐにたどり着いた俺は、雲まであるように見える超巨大な馬の顔の高さまで一瞬で飛び上がった。それに気が付いた超巨大馬は俺に向かって何かを吐き出そうとしてきたが、俺はそれを吐き出される前に馬のモンスターを真っ二つにするために縦にクラウ・ソラスを振るった。


 馬は悲鳴を上げながら血を噴き出しているが、真っ二つにすることができなかった。今の一撃は攻撃スキルを使っていなかったとは言え、≪剛力無双≫を使っていた。だから普通のモンスターなら真っ二つにできるはずだ。これは、相当な硬さと言えるな。


 攻撃を終えた俺が落下していると、俺に斬られた馬がその頭を俺にぶつけてこようとする。さすがに空中では身動きが取れないから、白銀の盾で馬の頭を防ぐ。俺が考えていた通り、その巨体で攻撃してきたから何もしていなくても結構な威力があり、俺はそれなりに飛ばされてしまったが、所詮はそれだけだ。


 だが、周りにいた超巨大モンスターが俺に気が付いたようで、そいつらはアンジェ王国ではなく俺に目標を変えて攻撃しようとしてくる。これだけの超巨大モンスターに囲まれると圧があるな。でも、脅威だとは感じない。勝てないとも思えない。


「がぁあっ!」

「ぎゃぁぁっ!」

「シャァァァ!」


 超巨大ドラゴンが炎を吐き出し、超巨大ゴリラが拳を振り上げ、そして超巨大蛇がその長い胴体で突進してきた。俺はそれらの攻撃を避けながらクラウ・ソラスで斬っているが、やはりさっきの馬と同じように気持ちよく斬れない。こんな数体にちんたらしている暇はないんだよ。


「≪覇王瞬撃≫ッ!」


 早く終わらせるべく、この状態で放てる最高の技を、ドラゴンの方を向いて放った。さすがにこれは効くようで、超巨大ドラゴンは真っ二つに切り裂いた。だが、真っ二つに斬ったドラゴンが斬られた断面から無数の手が伸びてきて、左右でくっつこうとしている。この状態でも再生するのかよ。


「シャァァァッ!」

「くそッ、デカいな」


 俺に考える暇を与えないように超巨大蛇が俺に巻き付こうと身体を俺の周りに配置させている。そして締め付けようとするが、もう一度≪覇王瞬撃≫を放って蛇を分断した。分断したのは良いが、こいつも再生能力を持っている。もう一度蛇に攻撃しようとしたが、今度は超巨大ゴリラに阻まれた。


 ・・・・・・こいつら、微妙に連携してくるから厄介だ。それに一気に全開でやっているから、俺の制限時間が迫ってきている。限界まで三つの身体能力を上げるスキルを使って、コントロールが段々ときかなくなってきている。今の状態なら普通にこいつらを真っ二つに斬れる自信があるが、長くは持たない。


 こいつらが単体ならまだ良いが、複数で行動しているから、脅威レベルは深紅のドラゴン、ギータ以上と言えるだろう。・・・・・・今思えば、俺はあいつをどうしてあそこまで圧倒できていたのか理解できない。どうしてそう思っているのかは分からないが。


『ついに、使うの?』

「・・・・・・あぁ、使おう」


 少しの焦りはあるものの不安は感じなかった俺に、後ろから抱き着いて耳元で囁いてきた人が出現した。そう、銀髪の女性だ。銀髪の女性は俺の身体をべたべたと触りながら俺のにおいを嗅いでいる。これは本当に俺に見せている幻覚なのか? 本当にいるようにしか思えない。


『≪魔力解放≫を使えば、こんな畜生どもを簡単に倒せるわ』

「それを言うためだけに出てきたのか?」

『何か悪い?』

「こんな時に出てこないだろう。俺は今忙しいんだ」

『ふぅん、そんなことを言うんだ。ふぅん。じゃあ、私が許可しないと≪魔力解放≫を使えないって言ったら、どうするつもりなの?』

「ごめんなさい。許してください。これで満足か?」


 俺はモンスターたちの攻撃を避けながら、心がこもっていない状態で謝った。こんな敵に囲まれている時に構ってちゃんはやめてほしいものだ。出てくるタイミングが一々こいつは面倒くさいんだよ。出てきても面倒くさいと言うのに。


『心にもないことで、私は傷つきました。あーぁ、せっかく≪魔力解放≫を使う時の注意点を言いに来たのに、それじゃあ言いたくなくなったわ』

「・・・・・・うぜぇ」


 早く注意点を言ってくれればいいのに、そうやって構ってちゃんを発動してくるんだ? まぁでも、強いて言えば今はこうやって会話したからいつも通りの心持ちになった気がする。むしろいつも以上に冷静に相手を見ることもできる。


『ようやく私がしたかったことを分かったようね』

「それは嘘だと分かるぞ」

『もう少しおだててくれても良いんじゃないの?』

「あとでいくらでもしてやるから、今は注意点をやってくれ。こいつらを倒していかないとアンジェ王国にモンスターたちが迫っている」

『・・・・・・そうね。私のせいで彼女たちに死なれたら、私の立場がなくなるわ』


 彼女たち? 立場? 何を言っているんだ? そもそも銀髪の彼女のことを俺は何も知らないから、分かるはずもないか。いつかは説明してほしいものだが、こいつに説明する気があるのかは分からない。問い詰められたら逃げそうだから、問い詰めるのはナシだな。


『さて、早速≪魔力解放≫の注意点を話しておくわ。まず≪魔力解放≫は魔力を解放する技じゃない。魔力で解放する技。魔力解放は第一段階目を解き放つための技と思ってくれて構わないわよ』

「じゃあ、俺のしたことがある≪魔力解放≫は何だったんだ?」

『あれこそ、魔力を解放する技だわ。ただ魔力を不安定にさせて力を上げているだけ。少しずつ解放はしているけれど、完全に解放することはできない』


 この技にそんな極意があったのか? 全く知らなかった。俺はスキル一覧に突如として出現した魔力解放を使った結果、こうなっただけだ。教えてくれないと使いこなせなかったということか。でも、言葉を知らなくても不安定にさせずに使えるようになりつつあったがな。


『それはあなたが規格外だっただけ。あんな状態を安定させることは不可能なのに、それを安定させようとした時は目を疑ったわよ。それだけの労力があるのなら、他のことをすればいいくらいだわ』


 銀髪の女性が引きながら俺の心を読んでくるが、そんなに規格外だったのだろうか。ただできるまで何度も繰り返しただけの話だ。まぁ、結構辛かったのは否めない。


『ここで今一番言いたいことは、魔力で解放する前に、畜生どもを倒しなさい』

「魔力で解放するための技なのに、どうして解放する前に倒さないといけないんだ?」

『それは、まだクラウ・ソラスがあなたの身体が馴染んでいないから。その状態で解放すれば、最悪の場合はあなたは自我を保てず、力の制御ができないまま身体が消失する』


 そんなに恐ろしい技なのか⁉ それを俺にすすめてくるとは、恐ろしい女だな。俺はまだ死にたくないのだから、≪魔力解放≫をしない方が良いのか? 別の方法を探すか? それにクラウ・ソラスを三年ほど所持しているのに、それでも馴染んでいないのかよ。


『あなたはクラウ・ソラスの本当の力を引き出していなかった。だからまだ身体が馴染んでいないのよ。だけど、もう少しすれば馴染むはずよ』

「それまでは解放するまでに抑えろということか?」

『そう言うことよ。でも、解放するまででも、私の力はあなたに流れ込んでいく。それだけでも今のあなたより何百倍の力を引き出すことができるわ』

「解放するまでの時間制限は?」

『少なく見積もって、十分。それ以降は解放する可能性が高くなるわよ』


 十分か、上等だ。≪魔力武装≫よりも強くなれるのなら、十分は多いと言える。本当のところはどれくらいの力かは分からないが、俺が使っていた≪魔力解放≫以上の出力を苦労せずに安定して引き出せるのなら、十分は余裕だと言える。魔力を解放は本当にコントロールが難しく、他のスキルが使えなくなる面があったが、安定しているのなら、もしかしたら俺はもっと強くなるかもしれない。


『さぁ、敵は待ってくれないわよ。早く私を讃えなさい!』


 讃えるって、確かによくよく解放の言葉を考えると、そういう言葉だから否定できないが、讃える気持ちはこれっぽっちもない。こいつの今までの言動を見てきて、どうやって讃えろと言うんだ。だが、今はそんなことを言っている暇はない。そう思い、俺はモンスターたちの攻撃を避けながら、言葉を口にし始めた。


「・・・・・・刮目せよ、燦爛(さんらん)たる魂をもって、闇を打ち払う白銀の光を!」


 俺がその言葉を口にすると、白銀の鎧は一層光を放ち始め、辺りは白銀の光で埋め尽くされた。その白銀の光はただの光ではなく、どうやら邪に関する相手に効果があるようで、モンスターたちが苦しみ始めたが、俺は言葉を続ける。


「その白銀はすべてを癒し、その白銀はすべてを浄化し、その白銀はすべてを我が物とする」


 言葉を口にしていくと、どんどんと白銀の鎧は形を変えていく。今まではごつい鎧と言った感じであったが、今は鎧が最低限まで圧縮されてその分、鎧の質が上がっている。


「ゆえに、我は何人も寄せ付けず、ただ民を守る光となる」


 身体の底から湧き上がってくる力が、無駄を許さずすべて鎧の形成に持っていかれている。だが、それでも湧き上がってくる力は溢れ出ている。クラウ・ソラスも変化を始め、収縮を始めているが魔力の質が上がっている。


「生と死を超越する我に恐れよ、偉大なる父と畏怖なる母を持つ我に従え。我が道を阻めど、我が覇道の前には無力と化す」


 鎧の変化だけではなく、感覚も鋭くなっていく。遠くにいるフローラさまやルネさまの心音が聞こえてくるし、超巨大モンスターの一挙一動が遅く感じる。すべての感覚が超越している。


「我は超越の彼方に至り、天と地を統べる王位を簒奪しよう!」


 言葉を言い終えると同時に、白銀の光は収まった。しかし、空は昼間なのに暗く、夜のようになっている。これも≪魔力解放≫のせいなのか。・・・・・・何だか、今は気分がとてもいい。今なら、すぐにでもこいつらを倒せそうだ。

長くなりそうだったので一度切ります。今度は十六時に投稿できるように頑張ります! そして、誤字を指摘してくださってありがとうございます! どしどしあらを探してくださるとありがたいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 過去に国境で闘った相手はテラペウテースは、 これまでのアユムの闘いの中では一番強かった相手と感じています。 超巨大モンスター相手にアユムが再び騎士として頼もしいですよね。 超巨大モンスタ…
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