100:騎士と侵攻。②
百話達成しました! 無事に予定通り投稿できて良かったです。
俺が四人を乗せて走っていると、天井から振動で小さな石が落ちてきていることから、洞窟の中が崩れそうになっているのに気が付いた。さすがに近くまで来れば地下にある洞窟は影響を受けてしまうか。早くここから出ないと生き埋めになってしまう。
俺が全力で走り抜ければ、おそらくフローラさまとルネさまのお身体に負担をかけてしまう。だから負担をかけないくらいで走っているが、それでも出口に間に合うかどうか分からないほどだ。危なくなればお二人のお身体に負担をかけるのにためらいはないが、なるべくしたくはない。
走っている中で、突然俺の背後に大きな岩が天井から降ってきた。揺れのせいで大きな岩が崩れて落ちてきたんだ。そうなれば、なし崩し的に他の天井も崩れやすくなってきていると思うから、本格的に急がないといけないわけだ。
「だ、大丈夫なの、アユム⁉」
「俺が付いているから大丈夫だ。今は舌をかまないように口を閉じていろ」
大きな岩を見て前野妹が大丈夫かどうかを聞いてくるが、大丈夫としか言いようがないだろう。大丈夫でなければ、すぐにでも洞窟から出る。俺はそう思いながら全力で走り始めた。洞窟が崩れるとか勘弁してほしいから早く逃げよう。余裕をかましている場合ではない。
いざとなれば≪魔力武装≫を使うことも厭わないが、出口が見えてきたから問題なかった。しかし、後方から何かが落ちてくる音が聞こえてきた。見なくても分かるが、これは洞窟が崩れている音だ。
「すぐそこの天井が崩れてきているよ!」
「分かっている!」
さっきから前野妹がうるさいことこの上ない。こいつは本当に勇者なのか? もう少しどっしりと構えていたらどうなんだ? フローラさまやルネさま、前野姉は何も言わないし焦っている感じがしない。一方でそれはそれで大丈夫かとは思う。
天井が落ちてくる大きな音と砂埃を後ろから受けながらも、何とか出口から洞窟を脱出した。それと同時に洞窟の出口は完全に閉じてしまった。本当に危機一髪だったな。それに、ここで止まっている場合はない。後ろを振り向かないでも状況は分かっているから、俺は王都に向かって走り始めた。
「・・・・・・あれって、何? 足?」
前野妹がそんなことを言うから、全員が後方を向いた。本当に大きな建物みたいな毛だらけな生き物の足であることが理解できた。その足の主を確認するために見上げると、雲までいっているんじゃないかと思うくらいの全長があるライオンがそこにいた。・・・・・・実物で見ると本当にでかいな。俺が相手にしていた巨大モンスターとは訳が違う。デカすぎだろ。それに、超巨大ライオンと一緒に歩みを進めている超巨大な生き物が横に並んでどこまでも続いているように見える。
そして超巨大ライオンが一歩進めると、俺たちのすぐそばに足が来て吹き飛ぶくらいの風圧と振動が俺たちに襲い掛かってきた。俺はそれに乗るように王都の方に飛ぶとかなり飛ばされた。だけどこうしていてもすぐに超巨大ライオンには追い付かれてしまう。それだけの一歩を持っている。こうしてみるとアリの気持ちになるな。アリはこんな風に人間を見ているのか? 人間が恐ろしく思えるぞ。
「この速度でも追いつかれるわよ?」
フローラさまが超巨大モンスターたちとその一歩と俺の速度を見てそう仰られた。確かにこのままだと俺の走る速度より相手の方が早いから追いつかれるだろう。俺たちに気が付いているのか、俺たちを攻撃する気があるのかは分からないが、どちらにしても王都に行かなければニコレットさんたちが危ない。
「・・・・・・≪魔力武装≫を使います。ですから、少しの間辛抱して、自分につかまっていてください」
「分かったわ、しっかりとつかまっておくわ。ルネお姉さまもアユムの首に腕を回してください。万が一にも吹き飛ばされることなんてないと思いますから、抱き着いておく口実ができましたよ」
「う、うん、分かった」
フローラさまは俺の言葉に了承され、前野姉妹が腕を回している俺の首に腕を回された。そしてルネさまにも腕を回すように促された。俺が後ろの二人を吹き飛ばす可能性があっても、前のお二人を吹き飛ばす可能性は欠片もない。だけど、もしものことがあったらいけないから、そうお伝えした。
ルネさまが俺の首に腕を回されたことで、俺の首には四人の腕が回っている状態になる。もはや首は見えていないだろうし、多方向から引っ張られているから変な感じがする。苦しくはないし、柔らかい感触が俺に伝わってくるから、早く王都に戻ろう。
「≪魔力武装≫ッ!」
辺りを強い白銀の光が照らし、俺は四人を抱えた状態で光り輝き続けている白銀の鎧を纏った。こんな状態で鎧を纏ったことはなかったが、しっかりと四人は俺の首に腕を回した状態になっている。しかし、こんなにも白銀の鎧が輝いていることは今までなかった。
「アユム、この光はどうにかならないの? 少しまぶしいよ?」
「我がままを言うな。そもそもどうしてこんな状態になっているのか分からないのに、俺がどうにかできるわけがないだろう」
前野妹が文句を言ってくるが、分かるわけがない。俺はただ魔力武装をしただけだ。・・・・・・もし、これが肉片を吸収したせいならば、この白銀の発光は良い変化なのだろうか。それとも悪い変化なのだろうか。分からないことがありすぎてモヤモヤするが、
「今は逃げるか」
俺たちの真上に影ができ、上を見るとライオンの足裏が見えた。こいつから発せられている殺気から、間違いなくこいつは俺を殺しに来ていると確信した。だが、図体だけがデカくても俺を殺すことはできない。その大きさで速度があれば、脅威であるが、それはできないだろう。歩く速度から分かる。
俺は超巨大ライオンの足から逃れるために、さっきよりも速く走り始めた。その速度にはどんどんと超巨大ライオンが遠ざかっているのが見える。やはり動きは遅いようで何よりだ。しかし、俺がこの速度に平気でも、俺が抱えている四人はそうはいかない。
「おぉっ、はやーい!」
「・・・・・・なんで、ユズキはそんなに平気でいられるの?」
「き、気持ち悪い・・・・・・」
「私も、気持ち、悪いよぉ」
前野妹は違って平気なようだが、前野姉とフローラさまとルネさまは限界が近いようであった。ここで実戦経験や戦闘スタイルが垣間見えるが、このままだとフローラさまとルネさまの威厳が失われてしまう。俺は別にそうなったとしても気にならないが、お二人は気にするだろう。
俺は十分に超巨大モンスターから離れたのを確認して一度止まり、お二人を俺の腕から解放した。するとお二人は気持ち悪さで膝をついて苦しそうにしておられる。前野姉妹も俺から腕を放して、前野姉はお二人と同じように顔色を悪くしている。俺は魔力武装を解いてフローラさまとルネさまのお背中をさする。
「申し訳ございません、フローラさま、ルネさま。ご気分は大丈夫ですか?」
「私は、平気。・・・・・・少し休めば回復する」
「・・・・・・私も、少し休ませてくれると、ありがたいかなぁ。ちょっと、今は全然大丈夫じゃないかな」
フローラさまの方はそれなりに体調を戻されているようだが、ルネさまの方は全然ダメなようであった。それが普通なのだろう。俺が普通の人間をやっていて、ジェットコースターより速い速度で運ばれれば、吐きそうになる。
「おい、お前たちは平気だな?」
「私は平気だけど・・・・・・」
決めつけるように前野姉妹に問いかけると、前野妹は平気そうな顔をしているが相当気分を悪くしている前野姉の背中をさすって困った顔をしている。・・・・・・どうして、戦闘経験が浅いフローラさまよりそんなに気分悪そうにしているんだよ。本当にこいつは身体を動かさないのか?
「・・・・・・少し、待ってぇ。気持ち、悪い、よぉ」
「・・・・・・大丈夫か?」
ルネさま以上に気持ち悪そうにしている前野姉に、逆に心配になってきた。そう言えば、前野姉は遊園地に行った時には絶対に絶叫系は乗らなかったな。苦手だから、という部分もあるのか? まぁ、どうでも良い話だけど。とりあえず、今はルネさまと前野姉の回復を待っている間に、超巨大モンスターの方を見ておくことにした。
超巨大モンスターから離れて全長を見上げずに見ることができるが、それでも視界には超巨大モンスターが横に並んでこちらに進んできている光景を目にしている。超巨大モンスターを倒すことになったとすれば、俺は倒せるのだろうか。あいつらがデカくて、能力が大したことがなくて、一体だけなら、魔力武装のみで倒すことができるだろう。
だけど、そうではなく超巨大モンスターは軽く百は超えている。これは王都を取り囲みながら進んでいると思っても良いだろう。一体どこから飛び出してきたんだと思うが、これらを一度に相手にするとなると、どうなるかが分からない。戦ってみないことには分からないが、戦闘能力だけで見ると、一筋縄ではいかないだろう。深紅のドラゴンより厄介だ。
「アユム、あいつらには勝てそうなのかしら?」
「フローラさま。もうお身体は大丈夫ですか?」
「えぇ、平気よ。それよりも、アユムはあいつらに勝てるの?」
回復なされたフローラさまが俺の元までこられて、そうお聞きになった。勝てるかどうかを聞かれれば、勝つしかないと答えるしかない。いつも俺はその答えしか出していない。だけど、超巨大モンスターを一度に相手にするとなると、魔力武装だけでは足りない。有効範囲が足りなさすぎる。
今の俺とラフォンさんとグロヴレさん、神器無効化が超巨大モンスターになければ勇者たちと冒険者のサンダさん、そして国の兵士たちが一致団結したとしても、超巨大モンスターには到底及ばないだろう。大きすぎるし数が多い。束になったところでどうにかなる相手ではない。
・・・・・・今思うと、銀髪の女性が言っていたことはこういうことだったのか。この超巨大モンスターが分かっていたから、俺に≪魔力解放≫をするための言葉を教えてくれたのか。≪魔力解放≫の力を安定して引き出せれるのなら、勝てる見込みは格段に引き上がる。
「フローラさまが勝ちを望まれるのであれば、自分はどんなに困難であろうと勝って見せます」
「・・・・・・あいつらは、誰を狙っているの?」
「今のところ定かではありませんが、自分たちを狙っているとは思いますが、他のモンスターは王都に向かっていますから、王都が狙いなのではないかと思われます」
俺の言葉を無視されて他のことをお聞きになられたが、俺はフローラさまの問いに今わかる範囲で真面目に答えた。俺の言葉を聞いたフローラさまは、神妙な顔持ちになられた。一体どうなされたのだろうか? 何か不安なことでもあるのだろうか?
「ねぇ、アユム。もしもあいつらに勝てないのなら、ニコレットとブリジット、サラを連れてシャロン家に逃げましょう」
不安な顔をされたフローラさまがそんなことを言われた。まぁ、こんな超巨大モンスターが迫り来ているのに、逃げないと言う方がおかしい。俺もそう考えているから、その意見には賛成だ。だけど、こいつらが俺たちを狙っていたら、次いつ俺たちに襲い掛かってくるのか分からない。
「フローラさまがそれで良いのなら、自分は構いません。しかし、こいつらを倒せるのは自分しかいません。それにこいつらを逃せば、シャロン家がこの危機に晒されるかもしれません。ですから、自分はこいつらを倒したいと思っています」
「・・・・・・そう。死ぬ気はないのよね?」
「まさか。自分はフローラさまやルネさま、シャロン家の方々を置いて死ぬわけにはいきませんから」
それをお聞きになったフローラさまは、薄っすらと笑みを浮かべられた。どうやらフローラさまの不安をそれなりに解消できたようだ。ここは逃げた方が良いのかもしれないが、超巨大モンスターを操っている人物を殺しておかないと、後々大変なことになるのは明らかだ。対応できる今のうちにしておかなければならない。
超巨大モンスターがゆっくりと、でも確実に迫り来ているのを見て、俺はルネさまと前野姉の方を見る。ルネさまの方は幾分か落ち着いており、前野姉は自身を回復させて気分を治しているようであった。もう二人とも行けそうな感じに見える。
「ルネさま、もう行けそうですか? それと前野姉も」
「うん、もういけるよ。少しだけ気持ち悪いのは残っているけれど、大丈夫だよ」
「ついではひどくなぁい? でも、リサも、もう行けそうだよ」
二人の大丈夫だという言葉を聞いて、俺は再び≪魔力武装≫で白銀の鎧を纏った。今回は白銀に発光し続けていないから、どういう時に白銀に光り続けるのか謎だ。あの状態でも特段調子が良かったわけではないから。この状態でも十分に良い。
「では、急いで王都に戻りましょう。ここからは止まらずに王都に向かいます。心の準備はよろしいですか?」
「私はいつでも大丈夫だよ!」
「止まらずに? ・・・・・・リサは耐えれるかな?」
「私も大丈夫よ」
「・・・・・・うんっ、私も、もう大丈夫」
前野姉妹は大丈夫なようだ。肝心のお二人も、俺の前に来られて心の準備ができているようであった。そして王都に向かうために俺はお二人を抱きかかえた。前野姉妹はさっきと同じように俺の背後に抱き着いてきて俺の首に腕を回した。フローラさまとルネさまも俺の首に腕を回してこられたから、準備万端だ。
「行きます」
その言葉とともに、俺は走り始めた。下方を見ると、フローラさまは王都の方向を見据えておられ、ルネさまは目をぎゅっと閉じておられる。・・・・・・このお二人とニコレットさんとブリジットとサラさん、そしてシャロン家の人々は必ず守らないといけない。こんなところで死なせるわけにはいかないからな。
走り続けること数分で王都の城壁が見えてきた。相変わらずここまで来ても超巨大モンスターの姿は確認できるが・・・・・・、ここまで来て超巨大モンスターの姿が確認できているのなら、王都でも確認できるのではないのか? そうなれば、王都は混乱している可能性がある。
巨大モンスターが暴れたせいでほとんどの家が崩壊しているのに、さらに追い打ちで超巨大モンスターが現れたとなれば、国中が阿鼻叫喚で包まれても不思議ではない。あの三人は大丈夫だろうか。いや、確認すればいいのか。ここまで来れば俺は国の中を感知範囲に入れることができる。
ニコレットさんとブリジットとサラさんは、何とか無事なようだ。ラフォンさんとシーカーの双子の二人と一緒にいるようだから安心した。感知して分かったが、王都はひどいありさまになっているようだった。感知しているだけだからそこまでは分からないが、何やら人が無秩序に騒がしく動き回っている。これだけを感じ取れば、何があるのか想像に難くない。
「フローラさま、ここからでも超巨大モンスターが見えていますので、おそらく国の中では混乱が起こっています」
「・・・・・・ブリジットたちは無事なの?」
「無事です。しかし、その混乱に巻き込まれるかもしれません。それは国に戻った自分たちにも言えることなので、お二人は十分に気を付けてください」
「分かったわ。だけど、アユムがいるから平気でしょう? アユムは私とルネお姉さまのことを守ってくれないのかしら?」
「そんなわけがありません。念のためにお伝えしたまでです」
俺はそう言いながら、国のすぐそばまでたどり着いた。そこからは、俺の想像していた通りの声が俺たちの耳に響いていた。この国はもう少しで亡びるんじゃないのか?
敵陣から国に戻るまでで、一話消費するって、全然話が進みません。