第九話~第十話
第八話 救い
股間から血が流れ落ちる。黒く黒く黒い血の塊。
夢とは思いたくても、決して逃れることのできない現実。
流産。
三度目だ。
なぜ私がこんな目に遭わなければならないの?
悲しみが心を締め付け、悔しさが涙腺を刺激する。
優しい夫は背中を撫でさすってくれるが、それは感情を逆なでし、体の奥底から湧き出す怒りを夫に叩き付けさせる。
夫は黙って私の打つ手を体で受け止める。私は気のすむまで夫を打つ。私が受けた心の痛み、体の痛み、それが癒えるまで打ち続ける。
夫は何も言わない。何か言って欲しいのに何も言わない。
それは夫にとっては優しさのつもりなのかもしれないけれど、私にとっては苦痛でしかない。優しいだけの態度なんかいらない。
悲しみを苦しみを和らげる言葉が欲しい、怒りをしっかりと受け止めて欲しい。男の力強さ、男の匂い、男の中の獣性、そういうもので繰るんで欲しい。激しく犯して快楽の中に苦しみを埋めて欲しい。
そうしてくれれば私はきっと癒される。子供は救われなくても、私はきっと救われる。
第九話 欲望
子供子供子供、赤ちゃん赤ちゃん赤ちゃん。
欲しい、欲しい、欲しい。
でも生まれない。
なぜ私だけ。
なぜ私だけがこんな目に遭わなければならないの?どうしてこんな不幸な目に遭わなければならないの?
目を開けば苦しい現実が現れ、目を閉じても希望は見えず、夢の中にも赤子の姿は現れない。
荒れた心の夜を何度かすごし、心は少し落ち着いた。夫を打つ手が和らぎ、悲しい色を浮かべていた優しい顔の夫は元の優しさを取り戻し、優しく女の髪の毛を撫であげた。
「ありがとう」
優しさをうれしく感じられるまでに回復していた。
「仕事やめるかい?きっと仕事が忙しいせいさ」
優しい夫はやさしく女を抱きしめた。
優しさにほだされ、そして女は仕事をやめた。