-序幕-「魔王の師」
①初登場人物
壱
織田信長
(幼名-吉法師
破天荒で思考が読めない所が多く、それを魅力に感じる者、恐れ嫌う者とで、敵味方がハッキリ分かれる人物。
その時々にて、別人かと思われる程の感情の振れ幅や、思考の柔軟性から-三面の阿修羅
人の本質を知り得た言動、寛容性、残忍性から-第六天魔王などと呼ばれる)
弐
他化自在天
(またの呼び名を第六天魔王
人の欲を己の喜びとする神であり
幼少期の信長と出逢って以来、度あるごとに信長に合力する。信長の師)
★③本文★
世は広い
我等人が下天の内知れる事など
さも小さき事である。
天上界は広い
我等が知るすべなき理が
そこにはあるといふ。
その天上界の一つ
六欲天をご存知だろうか?
天でありながら、欲界と揶揄される事もある聖地である
第一天は四大王衆天(しだいおうしゅてん
第二天は忉利天(とうりてん
第三夜摩天(やまてん
第四兜率天(とそつてん
第五化楽天(けらくてん
そして、第六天には
人に施す事で微笑む神、、、
他化自在天(たけじざいてん
が住まうといふ
時は戦国
霧深い闇夜の刻
完成したばかりの安土城天守の上にその神は舞い降りた。
神はそこからある少年が歩いている様子を眺めた。
その少年は
誰より聡明であった
しかし、故に人は彼を恐れた
己の醜さを見透かされるため
また
その少年は誰より純粋であった
故に、人は彼を気味悪がった
気の向くまま切り替わる豊かな表情により、彼の裏が読めなかったため
その少年の名は吉法師
戦国の魔王と称される織田信長幼少期の姿である。
霧の中を目的なく歩く
少年の表情には不思議と不安の他に期待のような感情が見えた。
そして、程なくして歩く前方にゆらりとした総髪の大人の影が見えると、少年の顔は一気にゆるみ、光を帯びた
信-「おっ師さん!やっぱり!」
他「あ-はは、久しぶりじゃのぅ」
二人はしばし見つめ合い
吉法師が恥ずかしいともなんとも言えぬ表情から口を開く
信-「、、、、、どうじゃ? 」
神はその問いに儚げで哀しげななんとも言えぬ表情になった後口を開いた
他「あ-間違うてはおらぬ、、、間違うてはおらんよ、何一つな。」
そして、神は
その表情を払い去るように口を走らせる
他「あ-それにしても、なんじゃこの城は」
その言葉と同時に霧が晴れ
二人の次元が歪み、ふたりの周りを安土城とその完成を民とともに祝う信長(49歳)の映像が包む
しばし間をおいて神は大きなため息をつきながらこう口を
開いた
他「守りを欠いた大馬鹿の城としかいいようがない、
ワシなら人格化した状態でもお主の首まで三刻かからぬだろうの」
少年はにんまり笑った
信-「だろうな!」
その一言で少年の気持ちが全て理解できたのか
2人の間にしばし優しげな沈黙の時が流れ、神が優しく口を開く
神「欲が深いのぅ」
信「そりゃそうじゃ!
なんせワシは-第六天魔王-の一番弟子じゃからな」
神-「ふふふっ、そうか」
その時
空に舞う鷹が低くく鳴き、神の肩に止まる
神「時間じゃ」
そういうと神は踵を返し少年に背を向ける
吉法師は短い時間を惜しむ手を必死に握り締め
去る神の背を無言で見つめた
次第にその姿が虚ぐ中、神の声が吉法師の頭に響く
神「祝儀じゃ、お主が引き入れた渡来人が献上した鎧に不破の力を込めておいた。
お主は人の身
ゆめゆめ自愛を忘るるな」
その声の響きが遠く薄くなっていき消えたとき
ある男の目が開いた
夢か現かを迷うこと無く
彼はそのまま、まだ闇夜に包まれた庭に出ると
天を無言で見上げ、そこで蒼く光る満月をしばしの間見つめた。
男の名は織田信長(49歳)
戦国の世にて魔王と呼ばれた漢の真実が今明かされる。