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笑うサモエドと能面勇者  作者:
少年期
8/13

サモエド、森を抜ける

サモエド、森を抜ける


◯※◯※◯※◯※◯※◯※◯※◯※◯※◯※◯※◯※◯※◯※◯※◯※◯※◯※◯

 新マップ解放イベント時に情緒を求めるのは間違いなんでしょうか。


 どうも、森を抜けたと思ったらそこはまた森だったましろちゃんです。

 でも今までの森と雰囲気は全然違う。何より木の大きさが常識の範囲内になった。今までの森はこう、何千年単位で生きてるんです? ってなるような木ばっかりだったから。大きさだけならサバンナに生えてるらしい巨木よりでかかったかも知んない。少年が枝伝いに走れるレベルだもん、アニメか? ってなるよね。

 しかしアレだ、道を挟んだだけで森の様子がガラッと変わってる風景、端的に言って違和感がすごい。作画崩壊を疑うレベル。これは本当に現実……?


 しかしこれが現実。登り始めた朝日が眩しいね。

 ところで休憩とかしなくていいんです?


「奴隷紋、と言うか魔力印って仕組み自体は単純なんですよ」


 で、こっちはなんの断りもなくましろちゃんに革製のハーネスを装着させていくジーくん。おっきい鳥さん用のハーネスを、例の使い方を多大に間違ってる魔法で当たり前のように変形させながら淀みない手つきで装着させてくる。


 いやいいのよ? ましろちゃんあなたの飼い犬だからそれは別にいいのよ?? 荷車くらい喜んで引きますよ?? ましろちゃん力持ちだし余裕よ??

 でも今から何するのかの情報くらい欲しいかな!!! ましろちゃん目線だと森から出た途端にハーネスに繋がれる哀れなわんこになってるからね?!

 プリーズ説明!!!


「魔力の籠ったものでインクを作って、そのインクで術式を書いて、対象に付与する。魔力印って簡単に説明してしまえばそれだけのものなんです」


 そっちの説明はいらなかったかな!!

 まことに残念なことに、今のジーくんはダルさんの奴隷紋とやらを解除することに脳のリソースを全振りしちゃってる状態。ましろちゃんに説明する、なんて余裕はないのだ。わかってしまうからなんも言えん。

 されるがままのましろちゃん、控えめに言って飼い犬の鏡では? え? 目が死んでる?? はははソンナコトナイヨ。


「ほー。確かに聞いているだけだと単純な仕組みだな。だが奴隷紋を主人以外が外せるって話なんざ、見たことも聞いたこともないぞ」

「それは、奴隷紋の特性が原因ですね」


 なんか難しい話してる……。

 と言うかなんでダルさん当たり前のようにこっち居るの?? だら男のとこいなくていいの?? ましろちゃんが理解できてなかったとこで何があったの???


「奴隷紋とか言うからわかりづらいんですが、つまりは魔力印を用いた契約なんですね。で、その紋様が契約書の代わりなんです。一度書いた契約書を、第三者が後から改変することは難しいですよね?」

「……俺に難しいことはよく分からんが、つまりお前は改変できる、と」

「ええまあ。でも今回はそんな面倒なことしません」


 そう言って、ジーくんはましろちゃんのハーネスの装着具合を確認した後、スクッと立ち上がってダルさんと向き合った。ちなみに、草ときのこが入ってるカゴはジーくんが持ってるよ。ハーネスの邪魔になるからね。壊しちゃダメだよ。


 なんて言うかこう、ジーくんが素の状態で向き合うと、ダルさんとの体格差がすごいな。猪がないとよくわかる。ジーくんが手を伸ばしてやっとダルさんの肩に手が届くくらいかな。ダルさん、筋肉もすごいから余計に大きく見えるんだよね。


 なんで急にそんなこと言い出したかって?

 ジーくんが急にダルさんに飛びついて、身体をよじ登ったからだよ。


「おぁッ?!」


 急な行動に咄嗟に反応できないダルさん。ジーくんのこと振り落とさないだけで純粋にすごいと思う。突拍子もない事態に慣れてるんだなぁ。嫌な慣れだな……。

 ダルさんに飛びついたジーくんは、驚きに硬直した巨体を器用にスルスルと登って行き、肩車状態で一度落ち着いた。

 そして、ダルさんが驚きから復活する前に、首筋の奴隷紋に触れると。


「ふんぬっ!」

「あ゛つ゛ッ?!」


 気合の入った掛け声と共に、赤黒い紋様を引き千切って燃やした。


 もう一回言わせてね。

 ダルさんの首に巻きついてた赤黒い奴隷紋を、力任せにって感じで引き千切ったかと思うと、生き物みたいに暴れる奴隷紋を絶対零度の眼差しで見ながら跡形もなく燃やし尽くした。


 ……怖っ!!


「あっっっつ!! ジークお前、やるならやるって一言断ってからやれって、おじさんいつも言ってだだろうが!!!」

「おじちゃんぼく今から薄汚くて汚らわしい存在すら許されない紋様を最も術者に反動がいく方法で完膚無きまでに殲滅するからちょっと動かないでね、とか言ったってダルさん絶対ダメって言うでしょ」

「言うに決まってんだろバカか?」


 これには流石のダルさんも真顔である。

 真顔でジーくんを肩から持ち上げて、脇の下に手を入れて猫の子みたいにブラーンと持った。ひっくり返してジーくんの顔がダルさんの正面に来るように抱え直す徹底ぶり。そんで、ジーくんが両手を握ってるのを見て顔を顰めた。

 うん、今のは完全にジーくんが悪い。

 よってましろちゃんはダルさんの肩を持ちます。存分にやっちゃってください!


「ジーク、手ェ開いててのひらおじさんに見せなさい」

「やだ」

「やだってことは疚しい事があるってことだな?」

「ちが」

「違うならおじさんに見せられるな?」

「……」


 はいジーくんの負け。

 いやぁ、人間っていいね。言葉で相手を追い詰められる。手数が増えるのはいいことだ。ましろちゃんだったら無理矢理物理に訴えるしかなかったからね。


 ダルさんに指摘されて渋々開かれたてのひらは、紋様を掴んでいたほうが火傷したように真っ赤になっていた。すぐに処置しないと水膨れになって傷が残りそうなほどひどい。めちゃくちゃ痛そうなのに、ジーくんの表情はいたずらがバレた子供みたいで、全然痛そうにしている様子がないのが余計にタチ悪い。

 できる飼い犬は無言で冷たい水を生成してジーくんの手を包み込んだ。ダルさんがちょっと驚いた顔をしてたけど、今はそれどころじゃないのでましろちゃんの存在が追及されるのは後かな。


 ジーくん、平気そうな顔してたけどやっぱり痛かったらしく、冷たい水が触れたらあからさまにホッとしたような顔をしてた。一瞬だけですぐ元の表情に戻ったけど、ましろもダルさんも見逃すわけがないよね。


「ジーク」

「俺なんも悪いことしてないもん」


 もんって言った!! 今ジーくんがもんって言った!!!! ぶすくれた表情でもんって言った!!!! あの!! ジーくんが!!!! もんって!!!!!


 いや、今そんなこと考えてる場合じゃないのはわかってるんだ。でも、思わずテンション上がってしまったましろちゃんの気持ちもわかってほしい。あの、見た目のカラーリングからしてクール系の美少年が甘えた口調で「もん」とか言ったんだよ?? あの、野生児が、だ。理性保ってるだけ褒めてほしい。


 これはダルさんにも効いたらしい。一瞬言葉に詰まって天を仰いでた。ジーくんが無意識だったのも大きい。これが計算ならここまでダメージはなかった。むしろ怒りが増したと思う。

 でも今回のこれ完全に無意識。大人顔負けで一人で生きていけますみたいな顔してる子が不意に漏らした本音、しかもそれが自分への信頼と甘えから来てるときた。これでノックアウトされない保護者がいるだろうか、いやいまい。


「……なら、おじさんが怒ってる理由はわかるか?」


 ダルさんが絞り出した声からは既に怒気が消えていた。まぁそうなるよね。

 急に怒りが冷めたダルさんに不思議そうな顔をしつつも、また怒らせたらたまらないとでも思ったのか、ジーくんは少し考えてから口を開く。


「……俺が勝手なことしたから?」

「違わないが、少し違う。おじさんが怒ってるのは、お前がおじさんに嘘をついて、自分のことをないがしろにしたからだ」


 ダルさんの言葉に、ジーくんが不思議そうな顔をして首を傾げた。


「俺、嘘ついてないです」

「なら言葉を変えよう。ジーク、お前、誤魔化しただろう。怒ってるのに怒ってないフリをして、痛いのに痛くないように振る舞って、そんでおじさんに何も言わずに自分だけの問題にしようとした。違うか?」

「……」


 ダルさんに言われたことを咀嚼して、理解しようとして、でもやっぱり理解できなかったようで、ジーくんは困ったように首を傾げる。


「そうだとして、なんでダルさんが怒るの?」


 迷子の子供みたいな声だった。

 どれだけ考えても答えがわからなくて、癇癪を起こすのを通り越して泣いてるみたいな声だった。


 ダルさんは苦笑して、ぶら下げるように持っていたジークを片腕に抱え直す。完全に子供扱いしているけど、ジーくんがそれを嫌がってる様子はない。たぶん、疑問が脳内を支配しててそこまで頭が回ってないんだと思う。冷静になったら全力で嫌がるはずだ。ましろちゃんは飼い主の生態に詳しいんだ。


「それはな、おじさんがお前を心配してるからだ、ジーク」


 ダルさんがそう言うと、ジーくんはますます困惑した顔をする。ダルさんの苦笑が深くなった。


「……お前を、あの時、あの場に置いていったことを後悔したかと問われれば、答えは否だ。俺はあの時あれが最善だと思っていたし、お前に一人で生きていく力があることも知っていた」

「それは、わかります。俺だって、あの時の最善はあれだったと思ってます」


 おおっと、なにやら興味深い過去の話が出てきたぞ。詳しく聞きたいけど今それどころじゃないし、ましろちゃん犬だから訊けないんだよね……。いつかわかるかなぁ。わかったらいいな、くらいに思っとこ。


「でもな、ジーク。だからって、心配しなかったわけじゃない」

「……おれ、ひとりでも大丈夫でしたよ?」

「お前が大丈夫かどうかは問題じゃないんだ。あー……なんて説明したもんかな。俺ぁこういうのは苦手なんだが」


 そう言って、ダルさんは無骨な手でジーくんの頭を撫でた。幼い子供にするような、優しい手つきだった。

 あとダルさん、言えませんけどその子嘘ついてますよ。めっちゃ一人でいるの寂しがってましたよ。いや確かに「生きていける」って意味では大丈夫でしたけどもね、「生活する」って意味では全然全く大丈夫じゃなかったですから。伝えらんないのがもどかしいなぁ!!


「ちゃんとうまいもん食ってるか、とか。夜はあったかくして寝てるだろうか、とか。怪我してないか、寂しがってないか、面倒くさがらず人間らしい生活してるだろうか、ってな、心配は尽きなかった」


 すごいなダルさん、その心配、だいたい正解だよ。ジーくん、そういう意味での生活力皆無だもん。でも伝えらんない。ましろちゃん犬だから。そう犬だから仕方ないね。あとでなんかの拍子にバレてお説教されることを願ってるね。


「なんでだって言いたそうな顔してんな。なら教えてやる。それはな、俺が、お前のことが好きで、大切だからだ」


 今すごいこと言ったなこの人。見た目に反して語彙力豊かだな。

 ジーくん、突然の告白にポカンとしてる。気持ちはわかるよ。でもねジーくん、ましろだって、言葉で伝えらんないだけで、おんなじようなこと思ってるんだよ。


 ダルさんの言葉にポカンとしていたジーくんは、だんだんその意味を理解していって、そうしてくしゃりと顔を歪めて泣きそうになっていた。


「……だるさんなんでまだどくしんなの……」

「言うに事欠いてソレかお前」


 まぁ相手がジーくんなんで……シリアスはそう続きませんて……。

 情緒爆散したけど、ジーくんがしゃくりあげて泣いてるからプラマイゼロかな。ダルさんすごい複雑そうな顔してるけど。気持ちはよくわかる。


 前方で出発準備をしていた人たちが急に騒がしくなったけどましろちゃんは何も気付かなかったので、ジーくんが泣き止むまで自主休憩してるね。

 異論は認めぬ。文句があるならましろちゃんがお相手してしんぜよう。今宵の我が牙は鋭いぜぇ?


 あれ? ダルさんがジーくんの持ってるカゴの中身見て目ぇ剥いたんだけど。

 どったのー?

*2019/06/07 改稿*

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