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薔薇騎士物語  作者: 雨音AKIRA
第1章 ラーデルス王国編 ~薔薇の姫君と男装の騎士~

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1章94話 妃選びの舞踏会9 甘美な宴

 王城の客間の一室では、すでに二人の男女が酒の力によって、大いに乱れていた。


「んっぅ……はぁ……」


 女の喉が艶めかしく上下するのを、男はとろけるような目つきで見ていた。


「……もっと、お願い」


 男は女の要求に対して体が熱くなるのを感じながら、焦れたように乱暴にシャツの前をはだけさせた。


 そして彼女の要求に応えてやる。


 女は美しい紫色の瞳を熱で潤ませながら、男が口元から零れた雫を、舌で舐めとる様子をじっと見ていた。


 男は女の熱い視線に満足を覚えると、欲望に満ちた目で彼女の肩を抱いた。


 二人の上気した肌がかすかに触れ合う。


 すでに女の白く美しい肌は、ほんのりと赤く色づいている。


 大きくえぐれた夜空のドレスから見えるデコルテのラインが、誘うような色を見せていた。


「まだこれからだ……ほら、もっと欲しいだろう?」


 男が燭台の明かりを背に、淫靡な笑みを浮かべる。


 女の顔に落とされた柔らかな影が、ゆっくりと蠢いた。




────────────────


 

(思っていたよりも強い……)


 ティアンナはエドワードをそう評価していた。


 すでにどれくらいの時が経ったであろう。彼らの周囲には、空になった酒瓶がいくつも転がっていた。


「嬉しいよ。貴女がこんなにも私と気が合うとは。王女の護衛などやめて、私の妃になるといい」


 酔ったエドワード王子はすっかり上機嫌である。


 そしてワインのボトルを手に持つと、ティアンナのグラスへ注ぎ始めた。


 濃い渋みのある赤色がグラスの中に波打った。その波が穏やかになるのを見守りながら、もう何杯目になるか分からない酒を口にする。


 ティアンナの喉がワインを飲む度に上下するのを見て、エドワードの笑みが濃くなっていった。


 二人は客室に来てからずっと、このように交互に酒を飲み交わしていた。


 王子の魂胆はわかっているつもりだが、もちろんティアンナはそんなことをする気は毛頭ない。彼が先に酒を勧めてきたので、これ幸いにと王子を酒で酔い潰すつもりであった。


 しかしティアンナの予想に反して、エドワードは酒に非常に強かった。


 二人はかなり強い酒を飲み続けていたが、どちらも潰れる気配はない。ティアンナ自身、酒にはかなり強かった。それは粗野な人間の多かった国境警備時代の名残である。その頃から酒に鍛えられたティアンナは、まだまだ余裕があった。


 しかし余裕があるのは王子も同じで、このままどちらが先に酔いつぶれるか、予想がつかないでいた。先にこちらが潰れてしまえば、エドワードの好きにされるしかない。


 王子のティアンナに対する執着は、それこそ本当に彼の妃にされかねないほどであった。


 急に恥ずかしさがこみあげてきたティアンナは、王子の視線から目を逸らすように横を向くと、頬が熱を持っていくのを感じた。


 エドワードは上気したティアンナの顔を嬉しそうに眺めると、愛を囁くような甘い声色で語り掛ける。


「貴女は本当に美しい……それを今まで、頑なに男の姿で隠していたのだ。もったいないことだが……誰の目にも触れていなかったと思うと────堪らないな」


 エドワードは、つと指で彼女の首筋に触れた。


 ビクリとしたティアンナの口元から、ワインの赤い雫が零れ、白い肌の上に流れた。


 王子はクスリと笑うと、顔をティアンナの首筋に近づける。


 抵抗する間もなく、ぬるりとしたエドワードの舌が、ティアンナの白い肌の上を這った。


 そして淫靡な笑みを浮かべた王子は、ティアンナをソファに押し倒す。


「あっ──」


 荒く熱い吐息が首筋にかかる。


 突然の事にティアンナは頭の中が真っ白となった。


 酒を飲んでいたとはいえ、判断を誤ってしまったようだ。


 飲みかけのワイングラスが床に落ち、絨毯に紅い染みを作った。


 性急にエドワードはティアンナのドレスに手をかけると、それを引きずり降ろそうとする。


「だっ……駄目!」


 慌てたティアンナが王子の肩を手で押し返そうとするが、のしかかってきた男の体重と力の強さに、儚い抵抗に終わった。


 そのティアンナの可愛らしい抵抗に王子は鮮やかに笑うと、服から手を外して、ティアンナの両腕を自らの手でソファに縫い留めた。


「怖がらなくていい、ティアンナ──ちゃんと優しくするから」


 エドワードは欲望に満ちた熱い目でティアンナを見下ろすと、彼女の顔に自らの顔を近づけた。


 二人の吐息が次第に重なっていく──── 









 ──ガンッ!──



 ────ドサリ




 ティアンナとエドワード王子の唇が触れ合うか、触れ合わないかというまさにその瞬間、王子の身体は傾き、床に落ちた。


「……来るのが遅いよ兄さま」


 ティアンナは乱れたドレスを整えながら、転がっているエドワードを見据えて、苦々しく呟いた。


「すまない。どうもタイミングがわからなくてな……」


 そういってバツが悪そうに頭をかいて現れたのは、兄のグリムネンだった。


 ティアンナに手を差し伸べて、彼女を立たせると、足で床の上に転がっているエドワードに一つ蹴りを入れる。


 うっと王子が呻いたような気がするが、すでに気絶しているのでまぁいいだろう。


「大丈夫かな、乱暴されたといってまた暴れないだろうか……」


「酒の席でのことだ……随分と飲んだようだから、これなら普通に寝てしまってもおかしくないだろう」


 そういうとエドワード王子の身体を担いで、ソファの上に寝かせた。


「……それにしてもアイツはとんでもない計画を立てるな。許せん」


 兄のグリムネンは、エドワード王子に対しての怒りより、計画の立案者である弟ジェデオンに対しての怒りの方が大きいようだ。激しい怒りが苦々しく歪めた顔の下にあるのがわかる。


「……まぁ、でもうまくいったからいいんじゃない?……多分」


 次男と三男の意見の相違はいつものことであるので、ティアンナは別段気にせずその言葉を言ったのだが、グリムネンにとってはそうではなかったようだ。


「お前ちゃんとわかっているのか!?未婚の娘が、軽々しく男と二人きりで酒など飲むものではないっ!」


 しまった、とティアンナが思ったときにはすでに遅かった。グリムネンの説教魂に火がついてしまったようで、次から次へとお小言が頭上から降ってくる。


 元々公爵家の令嬢が男装してまで騎士をすることに反対だったグリムネンは、堰を切ったようにティアンナへ、令嬢としての心構えを言ってきた。


 そんなもの5歳の時から騎士になるべく育てられ、国境警備隊にいた時など周りには男しかいなかったのだから、何を今更といった感じなのだが。


 そんな兄の言葉にティアンナは辟易しながらも、苦笑いで相槌をうちつつ、二人で部屋を後にした。


※念のためですが、94話冒頭部分は酒を飲み交わしている男女の表現です。あしからず。

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