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薔薇騎士物語  作者: 雨音AKIRA
第1章 ラーデルス王国編 ~薔薇の姫君と男装の騎士~

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1章87話 妃選びの舞踏会2 父たちの想い

 豪華なシャンデリアが頭上に煌めく会場では、すでに多くの人々がその下で談笑していた。


 娘を持つ貴族達はもちろんの事、国中の貴族たちが集まっていた。彼らが口にするのは戦の勝利についてと、誰の娘が妃に選ばれるかということだ。


 トラヴィス王国との間で戦となり、ラーデルス王国が勝利したということは、すでに人々の耳に入っていた。しかしながら凄惨な離宮の惨状は語られず、トラヴィス王国がどのように画策していたかも知られていない。


 それはある程度、裏で情報が操作されていたためであった。跡継ぎ問題を抱えている王家にとって、少しでもその惨状が露呈するのを遅らせるための時間稼ぎである。


 また今回の件に関して何名かの貴族は、あろうことかラーデルス王国を裏切って、気づかないうちにトラヴィス王国の駒となっていた。戦を見越して利を貪ろうとしていた貴族たちには、財産没収の命が下され、酷いものには家名断絶の咎めが待っていた。


 しかし表向きは戦の為の課税ということであった為、関わっていない者たちには、一切知らされることはなかった。


 結局サイラス王子の死の真相については闇に包まれたまま、その知らせが人々の噂話に興じられることはいまだなかった。彼らはまだその死を知らずにいたのだ。


 広間に集まる人々の様子を、玉座の奥にあるカーテン越しに覗いてた国王は、大きくため息をついた。人々の目には入らないその物陰で、国王ともう一人の男が話していた。


「浮かない顔ですね。それではまるで我が国が負けたようではないですか」


 すぐ隣で国王を揶揄うのは、ハーディン・イルモンド・ストラウス公爵であった。


 彼はこの舞踏会に出席するつもりはないのか、上品な貴族の服に身を包んではいるが、いつもとたいして変わらない恰好だ。


「そうはいってもだな……」


 対してホルストは、ハーディンの揶揄いに反論する気力も起きないようだ。


「……愚息のことですか……」


「……」


 もはや国王は押し黙るしかなかった。ラスティグはホルストの血を引く子供であったが、実際に実子として面倒をみてきたのはハーディンだった。


 彼らの間に親子としての血のつながりがなくとも、ハーディンにとってラスティグは異母妹の息子である。しかも大切なストラウス公爵家の跡取りであった。


 そのラスティグが罪人として断罪されるのを、ホルストはなんとか食い止めたかった。


 息子であるサイラスが亡くなったのは、勿論ホルストにとって悲しい出来事だ。だがその死は自分のせいであると彼は感じていた。


 自分のせいでもう一人の大事な息子を死に至らせるという事実が、歯がゆくてとても恐ろしかった。


「国王というのは全てを持っているようで、全てを失うのだな……」


 ふとホルストが呟いた言葉が、カーテンの奥に消えていった。


 ハーディンはその言葉を聞きながら、国王の胸中と、息子ラスティグのことを考えた。


 ラスティグは、自身が王子であることを公表することを拒んだようだ。


 ──断罪を免れる気はないと。


 ハーディンはストラウス公爵家の跡取りとして、国の為にラスティグが立派に育つことだけに専心していた。時には父親として非情な態度であったかもしれない。


 だが王子として決して日の目を見ることのないラスティグを想うと、そうせずにはいられなかったのだ。


 彼が国を想い、国を愛し、その為に生きてくれるならば、本当の親子としての対面は叶わなくとも、国王と忠臣として、確かな絆がそこに生まれるのではないかと考えたからだ。


 今思えばそれは間違っていたのかもしれない。


 国王や自分の想いは息子には届かず、彼は国の為に死のうとしている。


 今はまだハーディンの部下たちのおかげもあって、サイラス王子の死についてはそこまで広まってはいなかった。


 すでに彼の母方の家族や、一部の者達だけで葬儀が行われ、ひっそりとサイラス王子は送られていった。だがその事実をもはや隠すことは出来ない。


 トラヴィス王国の魔手が、ここまでラーデルス王国の内部を蝕んでいた今、跡継ぎとその妃の問題は最重要事項である。


 そしてそのための舞踏会を開くとなると、必然的にサイラス王子の不在について言及しなければならなくなる。


 ハーディンも難しい顔を一つ国王に見せた。普段はあまり表情の変えない男だ。


「陛下……それでも貴方様はこの国の国王陛下だ。全てを失っても、それだけは失うことのできない事実です」


 それは非情な言葉であったが、忠臣としての諫言でもあった。


 ただ一人の普通の男として、幸せを掴もうとしてはならない。


 それがどんな結果を生むのか、すでに我々は見てきたではないか。


 ミーリアやラスティグ、ノルアードのことが二人の間に鉛のような沈黙をもたらした。


「……わかっている。この身が国の為に捧げられていることなど、承知の上だ」


 暫しの沈黙の後に国王は吐き出すように言葉をもらすと、不機嫌な顔のまま、カーテンの奥の煌びやかな世界へと足を踏み出そうとした。


 しかし一旦カーテンをめくる手を止めると、ハーディンに背中を向けたまま低く言葉を告げた。


「……それでも私が後悔しない日はない。私一人が……その重荷を背負うべきであった。お前も、お前の息子たちも、私にとっては守るべき民であった……」


 その言葉を残して、国王はカーテンの奥へと消えていった。


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