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薔薇騎士物語  作者: 雨音AKIRA
第1章 ラーデルス王国編 ~薔薇の姫君と男装の騎士~

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1章79話 天幕での話し合い2 王女の決意

「私が行きましょう」


 そういって笑顔で告げたのは、キャルメ王女だった。


 その場にいる皆が驚き、王女に注目する。


「ロヴァンス王国とラーデルス王国の縁組を実現してしまえばよいのです」


 キャルメ王女は微笑を湛えながらも、強い眼差しでそう断言した。


「キャルメ!ですがそれはっ……」


 アトレーユが驚いて王女に詰め寄る。しかし王女の意志は強く、優雅な笑みを騎士に返すと穏やかに告げた。


「初めからそのつもりでこの国へとやってきたのです。今更何を恐れることがありますか?私自身、この身が危険にさらされることは、百も承知の上です」


 王女のその強い決意の言葉に誰もが動けないでいた。


 王女が纏う空気は、ロヴァンス王家特有の威厳に満ちていた。その毅然とした様子に、もはやその場にいる誰もが、王女の意志に逆らうことはできないと感じた。


 彼らがロヴァンスの一族に従うのは、彼らが王族だからという理由ではない。その途方もない器の大きさに、自然と身も心もひれ伏してしまうからだ。


「……覚悟がおありなのですね?」


 グリムネンはその美しい琥珀色の瞳に冷徹な光を湛え、王女に問うた。


「ええ。とうに覚悟はできています」


 キャルメ王女は淀むことなくその意を告げた。


「わかりました。兄上もそれでよろしいか?」


 ジェデオンはいまだ納得のできていないような兄グリムネンにむけて、尊大な態度で賛同の意を求める。


 普段はのらりくらりとした掴みどころのないジェデオンだが、仕事に関しては非常に厳しく、自分の意を通すためなら年長者に対しても言葉を選ばない。


「……わかった。お前の言う通りだ。従うよ」


 渋い顔で了承の返事を返したグリムネンは再びため息をついて、胃のあたりを手で押さえた。


「……ふふ。グリムネンお義兄様も気苦労が絶えませんわね。申し訳なく思います」


 そんなグリムネンをみて、王女が笑みをこぼした。


「……あ、いや……そういうわけでは……」


 王女に笑われて気まずそうなグリムネンは胃を抑えながらも、苦笑いを王女に向けた。


「お姉さまには手紙を書きますから、心配しないでください。私のことは私の責任ですから。あんまり旦那様を責めないでくださいねって」


 そういってグリムネンに向けて、王女は可愛らしくウィンクをする。


「いや……勿体ないお言葉、痛み入ります。まぁ妻にどやされるのはいつものことですので……」


 はは……と乾いた笑いを一つすると、大きな体を小さく前かがみにして胃を痛そうに抑えている。


「兄上も大変だなぁ。奥方の大切な妹君をしっかりと守ってくださいよ。第一師団長殿」


 ジェデオンは真面目な表情から一気にからかうような顔で、身体を縮こまらせているグリムネンをつついた。


 キャルメ王女の姉、第2王女はグリムネンに嫁いでいる。どうやらグリムネンは妻の尻にしかれているようだ。


 ジェデオンはここぞとばかりに兄をからかって、王女たちを笑わせようとしている。そのやり取りに、重かった場の空気が一気に和らいだ。護衛の者たちもどこかほっとした表情で笑みを浮かべている。


 ひとしきり兄をからかった後、ジェデオンは再び表情を引き締めて王女に告げた。


「すでにいくつか手は打ってあります。だがそれだけでは不十分ですので、皆の協力が必要です」


 ジェデオンはそう告げると、アトレーユの方へと顔を向けた。


「ティアンナ。まだ傷が塞がっていないお前には悪いが、動いてもらうぞ」


 兄のその言葉にアトレーユは強い眼差しで頷いた。



────────────────



 街道を栗毛の馬が、ラーデルスの王城へ向けてひた走る。


 馬を駆り、鳩羽色の外套を風になびかせているのは、ナイルであった。


「まったくいやんなっちゃうね……裏目に出ることばかりだ」


 そう愚痴るのはエドワード王子のことだ。


 ナイルは離宮でキャルメ王女達を逃がしたのち、王女の命によって逃げ遅れた人々の救助と、敵の残党を狩るために奔走しいていた。


 そこで再び敵に狙われていたエドワード王子を見つけたのである。


「やっぱりあんな奴、助けるんじゃなかったな」


 ラーデルス王国の状況を一層悪くしているのは、エドワード王子自身である。無論最大の原因を作ったのは、今は亡きサイラス王子であるが。


 ラーデルス王国が倒れれば、それがロヴァンス王国に及ぼす影響は計り知れない。


「……まったく裏目に出ることばかりだ……」


 自嘲しながら再び同じセリフを口に出す。


 更に馬の速度を上げ、髪が風でぐちゃぐちゃになるのも気に留めず、心の中に思い浮かべたのはある人物。ナイルにとってはただの調査相手でしかなかったが、それでも心を開きすぎていたかも知れないと反省する。


「あの子……泣くかな……」


 燃えるような赤い髪の可愛らしいその人がこぼす涙を想像して、ナイルは一人胸を痛めた────


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