表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薔薇騎士物語  作者: 雨音AKIRA
第1章 ラーデルス王国編 ~薔薇の姫君と男装の騎士~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/319

1章75話 夜明けの色と面影と

 ラーデルス王国の王城では人々が慌ただしく行きかっていた。昼夜問わず様々な情報が飛び交っている。


 そんな彼らを、少し前から王城に滞在しているリアドーネは、落ち着かない様子で見ていた。


 ナイル達ロヴァンス王国の騎士団に乞われて、自分が攫われた経緯やサイラスの屋敷の侍従がどのように関わっていたかなど、国王陛下に進言する為に城へとやってきた。だがそれももう幾日も前の話だ。


 一緒に馬車に乗っていた商人風の男は、リアドーネの紹介によって登城し、共に国王と謁見した。


 ジェデオンと名乗ったその男は、ロヴァンス王国の中枢と繋がっている騎士であり、トラヴィス王国が何を仕掛けようとしているかをラーデルス国王に告げた。


 泥沼化した王位争いと、ロヴァンス王国第三王女との縁組に関わる貴族たちの不満につけこんで、トラヴィス王国は両国の間に戦を起こさせ、疲弊した所を攻め込むつもりでいたようだ。それを知った国王が、一連の仕掛けをロヴァンス騎士団とともに仕組んだのである。


 ジェデオンという騎士は、ラーデルス騎士団の一員として共に進軍し、今は姿が見えない。


 一方のリアドーネは、再びその身に危険が及ぶとも限らないため、安全を考慮して王城に留まっていた。


「……サイラス……」


 一人王城に与えられた居室で、幼馴染の名を呟く。しかしその名を呼ばれて返事をするものはここにはいない。


 王城という最も安全な場所にいても、リアドーネの心には不安と恐怖が忍び寄ってくる。


 いつの頃からだろう……? サイラスと心が通じ合わなくなったように感じ始めたのは。


 幼い頃はいつも一緒に遊んでいた。リアドーネよりも年上で、まるで本当の兄のように優しくしてくれた。


 彼と過ごした時間は、兄弟のいないリアドーネにとって、とても幸せな時間だった。だが二人が共に成長するにつれて、その関係は彼らの周囲の人間達によって変えられてしまった。


 いつも王位を継ぐことを求められていたサイラス。


 彼の母方の人間達はことあるごとに、サイラスに対して大きなプレッシャーを与えていた。特に彼の母親が亡くなってからは、更にひどくなっていったように思う。


 リアドーネはどうにもならない過去の出来事を、ただ繰り返し思い出していた。


 今更どうすることもできない。彼が後戻りのできないところまで行ってしまったように、私もまた彼と決別する道を選んだのだ。


 ふと窓の外を見る────そろそろ夜が明けそうだ。


 真っ暗な闇夜が次第に灰色がかり、光を帯び始めてきていた。まるでサイラスの髪の色のような美しいグレイに、リアドーネの心は震えた。


「どうして……トラヴィスなんかと手を組んでしまったの……?」


 リアドーネがサイラスに関して、聞いた内容はとても信じがたい内容であった。


 サイラスはトラヴィスと通じていた。


 ロヴァンスとラーデルスが戦となるよう仕向けていた。


 茶会でリアドーネをかどわかしたのも彼の計略だ。リアドーネの性格をよく知っている彼ならば、茶会の席でリアドーネが一人になることもわかっていたはずだ。


 そしてロヴァンスの王女に罪を着せ、両国を戦へと導く。


 自分はそのための捨て駒──


 兄と慕っていた幼馴染に、戦の道具として扱われたことに、リアドーネは怒りの感情よりも、悲しみの感情の方が大きかった。


「……サイラス……」


 ──再びその名を呼んだ。


 灰色の空は夜明けとともにその色を次第に変えていき、もはやそこにサイラスの姿を思い起こさせるものはなくなった────


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i386123 i528335
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ