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薔薇騎士物語  作者: 雨音AKIRA
第1章 ラーデルス王国編 ~薔薇の姫君と男装の騎士~

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1章74話 真紅の夜9 赤と黒の悪夢

「──殺せ!」


 女は不気味な笑顔をすっと消し去ると、仲間に低く鋭い声で命じた。


 その言葉を受け、黒い闇を纏った男たちがエドワード王子に襲い掛かろうとしたまさにその時──


「おい!何をしている!!」


 突如、闇を切り裂くような鋭い恫喝が響き渡った。


 兵士に連れられやってきたラスティグだ。


「あら──もう連れてきちゃったの?思ったよりも手こずったわね」


 女はつまらなそうにラスティグを一瞥すると、くいと自分の後ろを見やった。


 すると暗い木々の間から燃え盛る炎に照らされ、ぬっと一人の男が出てきた。


 その男は背が高く、他の敵と同じように黒い装束に身を包んでおり、顔は覆面によって隠されている。


 しかし彼が持っている剣は、他の者と違い普通の長剣だ。


「ほら、貴方の相手はこっちよ?」


 女は顎でその男に命令すると、再びナイル達に向けて攻撃を再開した。


「やめろっ!!」


 ラスティグは慌ててエドワード王子と敵との間に体を滑り込ませる。


 ナイルも再び態勢を立て直すと、襲い掛かる敵を斬り伏せていった。


「助かるよ団長殿!誰かを守るのってすごく苦手なんだよね~」


 護衛隊の騎士とは思えないようなセリフである。しかしナイルの余裕の言葉にラスティグは笑みを浮かべると、一層攻撃の手を強めた。


 そこへ長身の黒装束の男が斬りかかってきた。


 その剣技は他の敵と違っているようだ。長身の男を援護するかのように、他の敵も一斉に攻撃を仕掛けてきた。


「──っ!?貴様はっ!……スパイか!?国を裏切るなど……!」


 男の剣を受け止めながら、ラスティグは苦々しく呟いた。剣を交えながら見て取れる男の剣とその技は、どうやらラーデルス王国のもので間違いないようだ。


「ちゃんと相手をしてあげてね?その人、貴方の事が嫌いなのよ。ふふふ」


 男の後ろから女の声が聞こえてくる。言っている内容は理解しがたかったが、男は確かにラスティグに対して、強烈な殺意を抱いているように思えた。


 しかし剣の腕はさほど強くない。騎士団長にかかればあっという間に勝負を決することができる。


 ラスティグは素早く相手の動きを見切り、攻撃する箇所に目星を一瞬でつけて剣を走らせた。


「待って!ダメだ!その人は……!」


 ナイルが何かに気が付いて、慌てて声を上げる。


 しかしラスティグの鍛え抜かれた剣は、その声よりも早く男の体を正確に貫いていた。


「──ぐっ……!」


 男から低いうめき声が聞こえる。ラスティグの剣は、装束の下にある胸当てを綺麗に外してその下の肋骨部分を貫いていた。


 前のめりになった男の被っていた覆面がずれ、そこから髪の毛が零れ落ちる。


 暗闇の中、燃える炎によって照らし出されたのは灰色がかった髪。


 男は剣をその身に受けながらラスティグの手に縋り、そして顔を上げた。


 自ら覆面を外し、苦痛に歪んだ顔をまるで見せつけるかのように紅蓮の炎の下に晒す。


「あっ──貴方はっ……!?」


 驚きに言葉を詰まらせたラスティグを嘲笑うかのように見上げたのは──


「サイラス様──っ!……どうしてっ!!」


 崩れ落ちるように倒れるサイラス王子を、ラスティグは両手で支えた。その手はみるみるうちに王子の鮮血で赤く染まっていく。


「あはははは!素晴らしい出来よ?褒めてあげるわ、サイラス!あなたの願いがこれで叶うわね!」


 女はおぞましい笑い声を闇夜に高らかに奏でると、遠くから走ってくるラーデルス王国の兵士たちの存在に気が付いた。そして配下の者たちに後退を命じる。


 女の命令を受け、それまで次から次へと攻撃を仕掛けていた敵は、あっという間に闇の中へと消えていった。


「これで最後のピースが揃ったわ。エドワードを始末出来ないのは残念だったけれどね。それでも十分よ……」


 謎の言葉と三日月のような凍える笑みを残し、女は漆黒の闇の中へと消えた。


「団長っ!!」


 ここでようやくラスティグ直属の部下たちが駆け付けてきた。そしてこの惨状を見て目を飛び出さんばかりに驚いている。


 しかしラスティグ自身も何が起こっているのかわからず、やってきた部下に指示を出すことも忘れ、ただ自らの腕に崩れ落ちたサイラス王子を見つめていた。


 王子は戸惑い瞠目するラスティグに向かって、冷めた嘲笑を口もとに浮かべると静かに語り始めた。


「……お前たちは何も知らない……知らな過ぎたんだ。自分たちがどんなに罪深いかということを……」


 口からはすでに大量の血を吐いている。ごぽっという血が逆流するような音と、途切れ途切れの言葉を紡ぎながら、サイラスは自分自身をも嘲笑うかのような、痛々しい笑みを浮かべていた。


「お前は私をその手で殺すのだ……きっと断罪されるだろう……だが……お前はすでにそれ以上の罪を犯しているということを忘れるな……」


 虚空を見つめ、最期に絞り出すようにその言葉を紡ぎ出すと、サイラス王子は目を閉じることなく力尽きた。


「──殿下っ!?サイラス殿下っ!!」


 ラスティグの叫びが虚しく闇に響く中、命の灯を失ったサイラスの瞳が最期に映し出したのは、残酷な赤と黒の悪夢だった──


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