表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薔薇騎士物語  作者: 雨音AKIRA
第1章 ラーデルス王国編 ~薔薇の姫君と男装の騎士~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/319

1章57話 少年の心5 白に舞う青

 それからしばらくして、母は亡くなった。


 家族に見守られながら、静かに彼女は逝った。

 

 降り続いた雨がようやく止み、茜色の空が雲間から見え、金色に輝く光の筋を地上にいる彼らの元へともたらした。


 せわしなく葬式の準備が進められ、母が亡くなった哀しみに浸る時間は与えられなかった。


 大人たちは忙しくしながらも、どこかほっとしたような様子で、養父である公爵と話している。一方の公爵も、妻が亡くなって哀しむよりも、安堵しているかのような表情をしていた。


 そんな大人たちを横目にしながら、ノルアードは母の眠る棺の側から離れないでいた。


 棺の中で美しい花に囲まれて眠る母ミーリア。綺麗に化粧がほどこされている彼女は、今にも目を覚ましそうなほど安らかな顔をしている。


 彼女を囲っているその花は、高貴な香りを放つ、白く大きな百合の花だった。その花はきっと、大人たちの手によってどこかから買われてきたものだろう。子供の自分には買うことすらできない。


 最期まで何もしてあげられなかったことを悔しく思いながら、眠る母を見つめた。


 と、そこへラスティグが息を切らして走ってきた。彼は腕に何かを抱えていて、棺の横まで来ると、腕を空に向かって差し出した。


 青く小さな花が無数に空から降り注ぐ。くるくるとまわりながらゆっくりと……


 母の眠る棺にその小さな青い花が舞い降りた。白一色で埋め尽くされた母を、美しい青が鮮やかに彩る。


 心なしか、母が笑ったように思えた。


「……摘んできた。この花のほうが、母様が好きだと思って」


 彼の葬式用にと用意された喪服が土でかすかに汚れている。あんなにたくさんの花を一人で集めるのは大変だったろう。そんなことはなんでもないことのように、ラスティグは汚れた服の裾で、流れ落ちそうになる涙を必死で拭っていた。


 ノルアードはラスティグの想いに胸を動かされた。この兄弟だけが、今自分と同じ気持ちなのだと思った。


 生まれてから長い間、お互いを知ることのなかった、半分だけ血をわけた兄弟。母を亡くして、たった独りになったという恐怖は、彼のおかげで感じることはなかった。


 同じように母の死を悲しむ兄弟に向けて、ノルアードは今まで一人で考えていたことをそっと話す。


「……俺……やりたいことがあるんだって言ったらどうする?」


 具体的な事は何も言わない。自分の中でだけの決意だ。


 だが、いま同じ気持ちでいる兄弟なら、この決意をわかってくれるかもしれない。そんな期待があったのだ。


 ノルアードの言葉に、不思議そうな顔をしたラスティグだったが、すぐに涙の滲む眼を優しく細めて言った。


「……もちろん協力するよ。ノルアードは大事な弟だ」


 何をとか、どうとか、余計なことは何も聞かず、彼は二つ返事で賛同してくれた。


 ラスティグはどこまでも家族というものに対して素直だ。以前はうっとうしかったその素直さも、それが自分に真摯に向けられているのだとわかると、次第に心の中が温かくなっていく。


 ノルアードはもはや大人達の前では見せなくなった、本当の笑顔を彼にだけ向けた。そして共に歩むと言ってくれた兄に言葉を返す。


「……頼むよ、ラスティグ……兄さん」


 初めて彼は兄の名を呼んだ。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i386123 i528335
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ