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薔薇騎士物語  作者: 雨音AKIRA
第1章 ラーデルス王国編 ~薔薇の姫君と男装の騎士~
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1章51話 森の中の戦い2 アトレーユの助言

 ラスティグ達の部隊は、あたりに注意しながら、徐々に森の奥へと進んでいった。街道から離れた奥の森は、鬱蒼としており、普段から人が立ち入ることはない。


 しかし手に入れた情報では、その先にも盗賊の拠点があるようで、道なき道を彼らは進むしかなかった。


 先頭を進んでいた兵士の一人が、視線でラスティグに合図を送る。


 ラスティグは、手を軽く上へ上げ、部隊にそれ以上進まないように指示をだした。そして前方の少し森が開けた所を注視する。


 僅かだが人が手を加えているような形跡があった。素早く視線を森の奥に巡らせると、弓兵に向け身振りで指示を出す。


 弓兵はすっと弓を構えると、音もなく鋭い正確な矢を放った。


 ブツンと何かが切れるような音がしたかと思うと、途端に仕掛けてあった罠が姿を見せる。


 地面から飛び出した網が宙を舞うと同時に、茂みの奥から矢が次々と放たれた。トラヴィス軍の待ち伏せである。


 ラスティグ達は後方でその様子を伺って、敵兵の潜む場所を見定めると、敵の矢が途切れたと同時に反撃を開始した。


 自軍の弓兵が、茂みの奥に潜んでいる相手の弓兵を次々と倒す。


 弓の応酬が途切れた所へ、すでに回り込んでいた部隊が真横から襲い掛かる。混乱した敵は、統率のとれたラスティグの部隊によってすぐに壊滅した。


 慣れない森の中での戦闘であったが、ラスティグは感心したように、その様子を眺めていた。剣についた血を振り払い、一人呟く。


「アトレーユ殿の言った通りだな……」



****************



 かつて路地裏での乱闘の後、連れ立って王城への道のりを歩いた時の事だ。

 二人はお互いの騎士としての経験を話していた。


「国境の警備を7年も……、それはすごいな」


 ラスティグはアトレーユの経歴を聞いて驚いた。


「そんなことはないさ。まだ10歳を過ぎたばかりの子供だったから、私はいつも邪魔もの扱いだったよ」


 アトレーユはかつての自分を思い出して、大したことはないと笑い飛ばす。


「盗賊の相手をするのにはコツがあるんだ。奴らは森の中に潜んで獲物を狙うハンターだからね。特にアジトの近くには罠を多く張っているから注意が必要だ」


 ラスティグは騎士団の一員として盗賊の相手をしたことはあったが、森の奥深くでの戦闘は経験が少なかった。そのため国境の警備兵として、長年厳しい戦いを経験しているアトレーユの話は興味深かった。


「罠にはどう対処する?」


「先に罠に気付くことが肝要だ。それらは大概、森の木や蔓を使って森に紛れるように作られている。不自然に森が少し開けていたり、枝が刃物で切られた跡などが近くにあったらよく見ることだ。そこに罠があるはずだから」


 そういって様々な罠の種類を話してくれた。うっかり罠にはまって危機に陥ったこと、逆に罠を利用して盗賊を捕まえたことなど、その話をするアトレーユは得意げでどこか楽しそうにしていた。


「辛くはなかったのか?」


 ふとアトレーユにそんな問いかけをした。


 普通で考えたら、十代半ばにもいっていない歳の少年兵が、国境警備などという厳しい現場はつらく苦しいものであろう。


 しかしアトレーユはその言葉に首を横に振った。


「……いや、私はその任に着けたことを幸せにすら思っていたよ。これ以上ない修行の場だったから……強くなりたかったんだ」


 そういって少し遠い目をしたアトレーユを、ラスティグはじっと見つめた。


 強くなりたいと言ったアトレーユのその言葉の先にはきっと、キャルメ王女を守りぬくという強い決意があるのだろう。そう思った。


 紫色の瞳が強い意志をもって輝いている。その横顔はラスティグの目には殊更美しく映った。


 その感情は、自分でもなんと表現していいかわからないものだった。しかしこうしてお互いの話をしている時間が、とても貴重で素晴らしいものだとも感じていた。



****************


 

 ラスティグは回想から現実へと思考を戻すと、トラヴィス軍の拠点を目指して、先へと進む。


「さっさと片付けて、勝利の報告をしに戻るぞ!」


 彼は疲れの見え始めていた部隊に向けて発破をかけた。慣れない森の中での戦闘だが、皆よく戦っていた。


 団長の言葉に、彼らは自らを奮い立たせる。すでに彼らの疲労はひどかったが、それでもこの戦闘に負けるわけにはいかなかった。


 鋭く引き締まった彼らの表情をみて、ラスティグは満足げに頷いた。そして自身も気を引き締め直す。


 国の為という大義名分より、ただ一人の騎士の為に彼は戦おうとしていた。その想いによって突き動かされていることを、ラスティグはいまだ自覚してはいなかった。


 彼の心の中には、アトレーユへの名前のない感情が芽生えていた。


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