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薔薇騎士物語  作者: 雨音AKIRA
第1章 ラーデルス王国編 ~薔薇の姫君と男装の騎士~

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1章39話 戦場での急襲

「ダメよ!斬ってはダメ!お願い!」


 ローブの人物が、ガノン達を振り払い駆けてきた。かぶっていたフードがめくれ上がり、黄金の波打つ金髪がその下から現れた。


 彼の人物は失踪していたキャルメ王女その人であった。


 キャルメ王女の登場により、剣を振り下ろす手を止めたラスティグであったが、驚きとともに目を見開いたのち、その顔は確信めいた表情となった。


「王女とともにいたということは、やはり失踪は自作自演だったのだな?」


 いまだ剣を突き付けたままのラスティグに対して、キャルメ王女が声をかける。


「剣を収めて!あなた方と争うつもりはないの!」


 王女の必死な様子に、ラスティグは顔をしかめて視線を向けるが、剣を下すことはなかった。アトレーユはキャルメ王女をかばうように両手を広げ、ラスティグを睨みつけた。


 その時ラスティグの肩越しに、キラリと森の奥で何かが光るのが見えた。


「危ないっ!!」


 ビュッと鋭い風切り音と同時にアトレーユの声が森に響く。


 アトレーユはキャルメ王女をかばうように飛び込むと、王女を抱えこみ地面を転がった。


「アトレーユッ!」


 王女を抱きかかえたアトレーユの腕に紅い染みが広がる。矢が腕をかすめ、近くの木に深く突き刺さっていた。


 皆がハッとして矢の放たれたほうを注視すると、茂みの奥から次々と矢が放たれてきた。


 振り返ったラスティグが素早く反応し、矢をたたき落とす。いつの間にか彼らの周りには、武装した者たちが取り囲んでいた。


「何者だ!」


 ラスティグの怒声が響き渡る。


 彼らは答えることなく、なおも矢を放ち続けた。


 アトレーユは傷を負った腕を抑え、王女に支えられながら立ち上がると、忌々し気にラスティグに告げた。


「あれはトラヴィスの奴らだ」


「隊長!」


 アトスから代わりの剣を受け取り、敵の攻撃を防ぐ。しかし敵の攻撃も緩むことがない。


 すると戦場の方から騎馬がやってきた。翠の腕章をつけ、ラーデルス軍とともにいた黒甲冑の騎士である。


 その騎士は馬に跨ったまま敵の弓兵に向かって斬り込んでいく。しかし更にその奥から次々と敵兵が現れた。どうやら彼らの狙いは王女のようだ。


「ここよりも王女を頼む!」


 敵の攻撃を防ぎつつ、アトレーユは黒甲冑の騎士に向かって叫んだ。


 敵をまた一人斬り伏せた黒甲冑の騎士は、すぐに馬首を返すと、嫌がるキャルメ王女を抱えて馬上に乗せた。そのままその場を走り去る。


「だめよ!アトレーユ!アトレーユ!」


 黒甲冑の騎士に抱えられながら、必死にアトレーユを呼ぶキャルメ王女。段々と小さくなっていく王女の声を背中で聞きながら、アトレーユは剣を握りなおした。


 ラスティグは敵を斬り伏せながら、アトレーユの行動に驚いていた。先ほどの騎士はラーデルス軍にいた人物だ。その騎士に大事な王女をこのアトレーユが預けるということがどういうことなのか。


「あとできちんと話してもらうからな!」


 アトレーユに向かいそう鋭く告げると、ラスティグは鬼神のごとく次々と敵をなぎ倒していった。


 アトレーユは苦笑を浮かべながらも、ラスティグとともに敵を斬り散らす。


「これは……キリがないなっ!」


 あまりの敵の多さに流石のラスティグも疲れが見えているようだ。


「ぐっ……!」


「アトス!」


 敵の攻撃をかわしきれなかったアトスの足に矢が突き刺さっていた。


 とどめを刺そうとする敵を、すぐに気づいたアトレーユが斬り捨てた。


「隊長すみません……自分のことは見捨ててください」


 痛みに顔を歪めて情けなく笑うと、よろめいて地面に剣をついた。


「馬鹿を言うな!ロヴァンスの騎士として、そんなことでどうする!戻ったらみっちりとしごくからな」


 そういってアトスに不敵に笑うと、背中にかばうようにして戦った。


 剣を持つアトレーユの腕には、先ほどの矢傷が真っ赤な染みを作っていた。傷が痛むのか剣を持つ手に力がうまく入らない。


「くそっ……!これくらいのことで!」


 思うようにならない自分の身体に対して苛立ちを覚えながらも、気力を振り絞って立ち続ける。


 次々と現れる敵を一人でも多く始末しようと、皆、満身創痍で立ち向かっていた。それでも敵の別部隊は逃げた王女を追うように森を抜け、黒甲冑の騎士が走り去ったほうへと向かっていた。


 すぐにでも王女の元へと駆け付けたい衝動に駆られながらも、傷ついた部下を見捨てることはできない。またそこまでの体力も自分には残っていないこともわかっていた。


「ラスティグ殿……こんなこと言えた義理ではないが、私に何かあったら皆を頼む。この中で貴殿が一番強い」


 静かにそう告げたアトレーユの瞳に、死をも覚悟した強い意志がそこにあるのをラスティグは見てとった。


「何を馬鹿なことを……貴殿に何かあっては困るのは私だ。まだ先ほどの決着がついてはいない。貴殿は本気ではなかったからあれは無効だ」


 すがるような目を向けたアトレーユに少し動揺し、目を逸らすとわざとぶっきらぼうな言い方をした。


「生きて……戻るぞ!」


 そう強く自分に言い聞かせるように叫ぶと、地響きのような唸り声をあげて、敵に突進した。


 そのラスティグの勢いに気圧されて、敵が怯むとその機会を逃すことなく、一人、また一人と斬っていく。その太刀筋は猛々しくも正確で、一撃でみな倒れていった。


 そんなラスティグの男気溢れる様子に、自然と口もとを緩ませると、アトレーユは弱気になった自分を叱咤し、気持ちを切り替えた。


「セレス!アトスを頼む!攻撃を防ぎつつ、兄上たちの所まで下がるぞ!」


「はいっ!」


 指示通りセレスはアトスをかばいながら、徐々に後退していった。全員がロヴァンス軍のところまで退却しようと、敵の攻撃を防ぎつつ後退していく。


 ラスティグは彼らと共に後退するが、殿で敵を片付けていった。自然と彼は敵から囲まれるような形になってしまっている。


 そんなラスティグを遠くから敵兵が弓で狙ってきた。すかさず反応し、放たれた矢を斬り落とす。しかしそれで隙ができたのを見逃さず、他の敵兵が次々とラスティグに襲い掛かる。流石のラスティグも処理しきれずに、じわじわと追い詰められていった。


 何とか眼前の敵を倒したが、後ろに回り込んだ敵への対処が遅れてしまった。


 まさに背中からラスティグを斬りつけようと、敵が剣をふりかざした。

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