表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薔薇騎士物語  作者: 雨音AKIRA
第1章 ラーデルス王国編 ~薔薇の姫君と男装の騎士~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/319

1章38話 決裂

 両国の軍隊が睨み合ったまま無情にも時が経ち、ついに開戦の火ぶたが切って落とされた。グリムネン率いるロヴァンス軍は、街道をラーデルス王国の王城に向けて進軍を始めた。その様子を冷静に見守る、ストラウス公爵率いるラーデルス軍。


「予定通りだな……」


 ストラウス公爵は、そういって脇に控える黒甲冑の騎士に向けて呟いた。


 その黒甲冑の騎士は、他の騎士とは違う翠色の腕章をつけている。彼は声を発することなく、ストラウス公爵の言葉に頷いた。顔全体を覆うような黒い鉄仮面をつけているため、表情は判らない。


「先発部隊、前へ進め!キルテスの丘より先に、一歩も奴らを進めてはならん!」


 ストラウス公爵は声を張り上げて指示を飛ばすと、黒甲冑の騎士の一団は丘を馬で駆け下りた。


 50人ほどの騎馬部隊だ。一気に駆け下りると、そのまままっすぐにロヴァンスの一団にむかっていった。飛んでくる弓矢をその機動力でかいくぐり、ロヴァンス軍の隊列を乱そうと、四方八方から波状攻撃を仕掛けている。しかし対抗するロヴァンス軍の隊列はなかなか崩れない。両者の力は拮抗していた。

 

 その様子をアトレーユと、王女の護衛部隊は国境の森近くで見守っていた。


「うまくいきましたね」


 ガノンが安堵した表情で隊長に声をかける。アトレーユはそれに無言で頷き、傍らにいるローブをまとった人物に目線を移した。


 その人物は小柄で、フードを目深にかぶっている。口もとに笑みを浮かべ、戦いの様子を満足そうに眺めていた。


「これでロヴァンスとラーデルスが戦になったことが、トラヴィスにも伝わったでしょう」


 先ほど目立たないように、早馬が森を駆けていくのを彼らは目撃していた。それはトラヴィス王国に向けて情報を流すための早馬だろう。


 トラヴィスはロヴァンス王国、ラーデルス王国の南側に位置する国だ。非常に攻撃的な国で、ロヴァンス王国へ幾度も侵攻を繰り返していた。


「もうすぐ日が暮れる。そうすれば一時休戦だ。朝になるまでには決着がつくだろう。それまではラーデルスとは戦をしていてもらわないと困るからな」


 そういって腕を組み戦況を見守っていると、暗い森の奥から声が響いた。


「それはどういうことだ?」


 驚いて振り返ると、そこにはラーデルス王国騎士団長のラスティグがいた。気配を消して彼らの後ろへと回り込んでいたのだ。


「どうしてここへ?」


 ラスティグの登場に驚き、焦る護衛騎士達。アトレーユはローブの人物を背中に隠し、かばっている。


「やはり戦をさせるためにロヴァンスが画策していたんだな……」


 低く怒りをにじませた声で、じりじりとアトレーユ達に近づく。


「落ち着け、これには理由があるんだ」


「言い訳を聞く気はない。我が国を愚弄し、王子を傷つけた罪はきちんとあがなってもらおう」


 そして剣を鞘から抜くと、アトレーユにむけて突き付けた。


「──っ!?」


 凄まじい殺気がアトレーユを襲う。


「さぁ、剣を抜け。丸腰の相手は斬れないからな」


 そういって凄絶な笑みを浮かべた。


 アトレーユは目線のみでガノン達に指示を送る。彼らは頷くとローブの人物を守るように、その場を離れた。


 仲間が退避するのを横目にしてから、ラスティグに向き直ると、アトレーユはすかさず剣を抜いた。


 アトレーユが剣を抜くや否や、ラスティグが素早く重い一撃を繰り出す。


「くっ……!」


 辛うじてそれを受け止めたが、両手で剣を握っているにもかかわらず、腕がしびれてくるほどの威力だった。


 一瞬アトレーユの動きが鈍ったと同時に、ラスティグは相手の胴体に向けて思い切り蹴りをいれた。


 アトレーユはすんでの所で体をひねり正面からの直撃を躱したが、ラスティグの足は長く、わき腹を蹴りがかすめた。よろめき態勢を崩されたところに、追撃の一振りが振り下ろされる。


 アトレーユはしゃがんでそれを躱すと、すかさず土を掴んでラスティグの顔面にむけて投げつけた。


「なにをっ!」


 アトレーユの思わぬ攻撃に、ラスティグは驚いて一瞬ひるんだ。その間にアトレーユは態勢を立て直すと、剣を構えてラスティグに声をかけた。


「話を聞け!私は貴殿と戦うつもりはないんだ!」


 しかしラスティグの怒りは収まらない。土の入った目を無理やりこすって視界を取り戻すと、猛然と斬りかかってくる。


 激しい剣戟の音が森に響いた。


 アトレーユは攻撃する意思はなく、防戦一方だ。しかし体格差があるため、次第によけるのが困難になり、じりじりと押されていた。


 ラスティグの剣は容赦のないものであった。その一撃一撃が、鋭くとても重い。彼は本気でアトレーユに向かってきている。


 ついにラスティグの剣がアトレーユの剣をはじいた。


 遠くはじき飛ばされた剣は地面に突き刺さった。丸腰となったアトレーユにむけて切っ先が突き付けられる。


「ロヴァンスきっての騎士にしては手ごたえがないな」


 ラスティグはそういって暗い笑みを一瞬だけ浮かべ、凍り付くような冷たい表情になった。


 普段の穏やかさとは違った冷酷な表情に、アトレーユは息を飲んだ。剣を突き付けられているからか、凍てついた空気のせいか、アトレーユは言葉を発することができなかった。


「貴殿とこうして剣を交えることを楽しみにしていた。だがそれはこんな形ではなかったがな……」


 そういって切っ先を突き付けたまま、一歩、また一歩と近づく。


 ついに切っ先が喉元に触れるか触れないかの所まできた。


「覚悟はいいか?我が国を愚弄したことを後悔するがいい」


 そういってラスティグの瞳が怪しくきらめいた。天を仰いだアトレーユの白い顔に、ラスティグの振り上げた剣が影を作る。


 ざぁっと風が森を吹き抜けたと同時に、あたりを切り裂くような悲鳴が上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i386123 i528335
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ