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薔薇騎士物語  作者: 雨音AKIRA
第2章 トラヴィス王国編 ~砂漠の王者とロヴァンスの花嫁~

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2章124話 生き残りを賭けた戦い2



 闘技場の中央付近へと足を踏み入れれば、手枷をしたままのラスティグはすぐに他の者達に目を付けられた。



「まだ囚人が残っていやがったか!」


「こいつ武器を持ってるぞ!」



 それまで闘っていた者同士が一転、ラスティグに狙いを定めてこちらへと向かってくる。



──ガッッギィィンッ!!──


「くっ──!」



 激しくぶつかる刃と刃。ラスティグは奪った曲刀で相手の強烈な一撃を受けた。


 敵の得物はこちらのよりも重く、何度も刃を合わせれば先に武器の方がダメになるかもしれない。



(まともに受けるのはまずいな──)



 そう判断するとすぐに相手の刃を弾き、後ろへと下がる。素早く視線を走らせれば、ラスティグの周囲には四人の敵が武器を構えて攻撃の機会を窺っていた。


 最初に仕掛けてきたのは、身体も武器も重量級の相手。腕に自信があるのか、余裕の顔で再び間合いを詰めようとしている。動きはそこまで素早くはなかったが、武器の間合いを考慮すると些か不利だ。



(それならば──)



──ヒュッ……!ガキィンッ!!!──


「なっ?!」



 ラスティグは正面の敵ではなく真横に大きく踏み込みんで、別の相手へと刃を振るった。まさか自分へ来るとは思っていなかったのか、急襲を受けた相手はあっさりと剣を弾かれ下に落とす。


 そのままラスティグは刃の軌道に乗って体を回転させ、強烈な回し蹴りを相手の頭部へと叩きこんだ。



──ガッ!!──


「うっ!」


(まずは一人──)



 ドサッと敵が倒れる音を背後に聞きながら体勢を立て直し、残りの敵へと鋭い視線を送る。


 その鮮やかな一連の動きに、他の者達は目を見開き呆気に取られているようだ。だがすぐにハッとして、敵の一人が飛び掛かって来た。



「おらぁぁっ!!」


「っ──!」



 素早い動きで振り下ろされる手斧。ラスティグは半身を翻して躱していくも、相手は両手にそれを構えている。反対の手から繰り出される追撃を曲刀の刃で受けたが──



──ギィンッッ!!──


「っ……もたなかったかっ!」


「はっ!呆気ないな!そんな柔な武器じゃ、相手にならないぜ!」



 手斧の刃をもろに受けた曲刀は、中央から真っ二つに割れてしまった。折角手に入れた武器だったがこれまでのようだ。


 敵はその様子を好機と見てとり、すぐさま追撃の一手を繰り出す。だがラスティグも素直にそれを食らってやるほど優しくはない。


 全身のばねを使い、敵が繰り出した攻撃の外側から飛び込んでいく。体を回転させ背後に回り込むような形で接近し、折れた曲刀の先端を思い切りその肩へと突き刺した。



「うぐわぁっ!!」



 歪に折れた刃先は鋭い。鮮血がパラパラと飛び散る中、肉を抉る激痛に敵の動きが俄かに鈍くなる。


 その隙にラスティグは素早く手枷の鎖の両端を掴むと、それを敵の首元へと巻き付けそして──



──グィッ!ズダンッ!!──



 そのまま敵を背負い地面へ叩き落とす。受け身を取れなかった敵は、白目を剥いて気絶した。



(二人目──……)



 相手に突き刺し得物を失ったラスティグは、血しぶきを浴びたその腕で敵が取り落とした手斧を拾うと、残りの敵を見定めるように視線をやる。その鋭い眼差しに、敵の中にもようやく恐怖心が生まれたようだ。



「く、くそっ!!なんだコイツ?!強いぞっ!」



 叫んだのは槍を装備した男。囚人だからさほど強くないはずだと判断し取り囲んだはずが、あっさりと二人がやられ、次は己の番ではないかと慄いている。



(槍か……)



 一方のラスティグは冷静に相手の得物に注目した。間合いの広い武器だ。こちらの攻撃が届かなくとも、相手からはいくらでも当てることができる。


 しかも最初に攻撃を仕掛けてきた身体の大きな男も、こちらへの攻撃の隙を窺っている状態だ。下手に連携を取られるとまずい。


 だがそんな懸念をよそに、二人の敵は互いに共闘することにしたのか、一方がラスティグの背後へと回り込んだ。



「くたばれっ!!」



 前方から振り下ろされる大ぶりの剣。それを躱そうと横への動きを見せると、すかさず背後から槍が突き出てきた。



「っ──!」



 ラスティグは咄嗟に体を回転させ横を向く。槍が背中側の服を切り裂き、大剣の刃が鼻先を掠める。


 寸でのところで二つの攻撃を躱すも、未だ不利な状況に変わりはない。大剣の男がさらに振りかぶろうとするのを見て、ラスティグは瞬時に動いた。



(させるかっ──!)



 背後に残ったままの槍を脇に挟むようにして掴み、それを支えにして前方へと強烈な蹴りを繰り出す。



「くっ……!!」



 狙ったのは長剣の刃──その腹の部分。横からの強い衝撃に、たまらず男の手が片方外れ体勢を崩しよろめく。


 長剣の敵が怯んだその隙に、ラスティグはすかさず脇で掴んだままの槍を握り直すと、それを思い切り引きよせる。



「なっ──!?」



 槍に引っ張られる形で敵が前のめりに傾くと同時に、その腹部へと後ろ蹴りを放つ。防具に阻まれ威力は殺されたが、驚いた相手の槍を掴む手が緩む。



(今だっ!)



──ヒュンッ!!──



 そのままラスティグは怯んだ敵へ向けて、反対側の手で手斧を放った。顔面へと向かってきたそれを防ごうとして敵は咄嗟に腕を出すが、それによって完全に槍を手放した形となる。



「ぐっ……!!」



 手斧は見事に敵の腕に命中し、鮮血が飛び散る。槍は完全に敵の手から離れ、今はラスティグの手の中だ。


 更には利き腕を潰したことで相手の戦意を喪失させたようで、どこか呆然と立ち尽くす相手に、ラスティグはすかさず追撃を入れる。奪った槍を持ち替えずにそのまま後ろへと突き出したのだ。



──ガッ!!──



「がはっ……!!」



 喉元に石突をめり込ませる強烈な一撃。敵はたまらず白目を剥いて崩れ落ちた。


 土埃が周囲を舞う。鮮やかなその技に、会場の視線も集中していたのか、まるで彼らの周囲だけ音が消えたような、そんな張り詰めた空気が漂う。



(……残り1人……)



 ラスティグは上下逆に構えていた槍をクルリと回転させ、ドンッと石突を地面へと突き立てた。対峙するのは自分を取り囲んでいた最後の一人、長剣を構えた大男。



(良い剣を使っているようだな……使い込まれてもいる……)



 普段から闘技を生業にしているのだろう。体格は戦いに特化したように大柄で、剣も質の良いものを装備している。先ほどまでとは違い、簡単に倒せる相手ではなさそうだ。


 だがラスティグとて伊達に騎士団長という地位にあるわけではない。若くしてその地位にまで上り詰めたのは、磨き抜かれた戦技によるものだ。



(……槍は久しぶりだな……面白い──)



 ラスティグの口元に俄かに笑みが浮かんだ。


 一通りの武器は使える。どんな状況でも戦うことができるように敵の武器を奪い、それを己が武器のように扱う術も骨の髄まで叩き込まれているのだ。彼の脳裏に負けという文字などあろうはずがない。寧ろこの状況を楽しんでさえいた。


 そんな不敵な笑みを浮かべるラスティグに、一方の敵の大男は苛立ちを募らせていた。


 相手が囚人だと馬鹿にしていたはずが、今や自分の方が劣勢であるように感じる。しかも会場の観客達も、どこかこの囚人による下克上を楽しんでいる節がある。底辺にいるはずの男に、馬鹿にされたような心地がした。



「くそっ!!お前、一体何なんだっ!!」



 焦燥のままに叫び出す男。だがそれは単純な疑問というよりも、得体の知れぬ相手への恐怖からくるものだった。


 ラスティグは男の言葉には返答することなく、槍を構え腰を落とす。元より問いへの答えを持ち合わせてはいない。相手が更に何かを言い募ろうとするよりも先に、足を前へ踏み出した。



──ダンッ!!──


「っ!!」



 踏み出す勢いがそのまま槍へと伝わり、素早い突きが繰り出される。驚いた敵は咄嗟に剣を上体に引き寄せ穂先の軌道を逸らすも、躱しきれずに上腕に血の赤が滲む。



「くそっ!!」



 カッと頭に血が上った男は、強引に腕の力だけで剣を振り回した。だがそれよりも先にラスティグは槍を引き戻していた為、相手の攻撃は意味をなさず空を切る。そのまま間合いに注意しながら次の攻撃に備えた。



──ヒュッ!ガッ!ガッ!──



 間合いを詰めつつ次々と攻撃を繰り出してくる男。だがラスティグはそれをことごとく槍ではたき落としていく。懐に入らせなければ何ということはない。相手も闘いを生業にしていたのだろうが、厳しい鍛錬に基づく技量の差は圧倒的だ。



「ちょこまかとっ……クソがっ!!」



 児戯のように弄ばれるだけの攻撃に、男の苛立ちは頂点に達していた。怒号と共に捨て身の攻撃を仕掛けようと踏み込んだのだが──



──ゴォォォンンッ!!──


「っっ!!??」


(…………なんだ?)



 突如として鳴り響いた銅鑼の音。これが闘技終了の合図ではないことは、舞台上に未だ多くの参加者達が残っていることが証明している。


 対峙していた相手さえも、先ほどの苦い経験が脳裏をかすめたのか攻撃の手を止め、間合いを取り周囲へと警戒を向けている。他の参加者達も同じようにして、土煙の向こうへと視線を注ぐ。


──いつの間にか闘技場の出入り口の一つが開いていた。



(……あれは……まさか──)



 そこに現れたのは、騎馬に跨る複数の兵士だった──



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